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【降臨日24目】 所持金5735万0000円 「オマエみたいな奴がいるから戦争がなくならないんだよ!」
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朝、飯田が焚火を楽しんでいたので、皆で集まって昨日の鰻話に花を咲かせる。
途中、水岡から連絡が入り俺の指名手配解除が知らされる。
すぐ後に倉沢からも確認メールが入った。
これにより、ますます明るい雰囲気になる。
「つ、次はマグロ行きましょう!
マグロ!」
余程、昨夜に満足したのか安宅が興奮気味にマグロを推すので、皆でワチャワチャと名店検索。
焼津市内の水産卸会社の直営飲食店が開催している《大トロ三昧フェア》を発見。
完全に安宅の脳が焼かれてしまう、焼津だけに。
更には隣町の清水には《まぐろ館》なる施設があることも判明し、ボルテージは極限まで上がる。
『へえ、ここから車で1時間ですか。』
「ね!?
ちょっと遠出のランチorディナーということで。
また皆でどうでしょう!?」
『ええ、狩猟を優先して頂けるなら私は大丈夫です。』
「絶対にトイチ先生の邪魔は致しませんので!」
遜ってくれているが、安宅は高額出資者である。
こちらとて無下には出来ないし、俺もこの男には最大限報いたいと考えている。
『是非行きましょう。』
と回答する。
無論、この男も大人なので、「いつ?」とは尋ねない。
回答を掘り下げないことが、互いに優先順位を理解している証左なのだ。
俺は経験値稼ぎ以上に仲間のケアを優先する。
安宅は利殖や美食以上に俺の構想を優先する。
絆こそが俺の力の源泉である。
子供じみた提案に見えても、仲間の要望はしっかりと汲み取っていく所存だ。
仲間を大切にしない奴は男じゃねえ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『は? 身元保証人?』
「ですから、ルナには身寄りがおりませんから。」
『ああ。アイツ施設から学校通ってたんだっけ?
知らんけど。』
「児童養護施設です!
何も聞いていなかったのですか?」
『いや、お互いの身の上話はしたことがないな。』
「…貴方という人は。」
『何かゴメン。』
「私は地球の法律には疎いのですが…
保釈申請は起訴後にしか出来ません。
従って勾留延長を防いで在宅起訴に持って行く方向で動くべきでしょう。」
疎くてそれかよ。
『…随分、鷹見の肩を持つんだな。』
「貴方の側室でしょう!」
『…それは理解しているよ。
面倒は見てやるつもりだ。
ただな?
身内である事が罪を軽減する条件になるとは思わない。』
「リンが天下を平定し終わった後であれば
御自身の哲学で家中を統制されるべきです。
ですが、如何に先代魔王職であったとしても、この地球では未だ私人でありましょう。
私人としての筋を通して下さい。」
『わからんな。
王国がそうであったように、我が国も法治国家だ。
私人としての筋とは、公の法に従うことではないのか?』
「…妻妾を守るつもりはないと?」
『俺が身内を庇うのは汚職だろう?』
「リンはまだ公職には就かれておりません!」
『オマエが一番分かっているんだろう?
そんなのは時間の問題だ。』
「…奥にも目を向けて下さい。
リンの立場が強くなればなるほど
機能としての奥も必要になって来るのです。」
『あのなあ。
ヒルダは何もわかってないんだ。
オマエらが封建制で社会を運営していたから
俺なりに向こうの考え方に合わせていた。
だがな?
ここは地球だ。
《コリンズ家のリン》ではなく《遠市厘》として動くと決めている。』
「わかっておられないのはリンの方です!
地球では多くの国家が、貧民には個人である事を強要しつつ
支配層は家門単位で血統の利益を保全しているではありませんか!」
『…その見解に対しては全面的に賛成かな。』
「そしてリンは遠くない未来、必ずやそちら側に入ります。」
『だろうな。
最低でも4か月後には何者かにはなっているだろう。』
「その時に備える意味でも
現段階で側室を迎えるのは反対でした。
ましてや氏素性の卑しい者など。
ただ、迎えたからには
殿方として最低限の庇護義務を果たして欲しいと申しております。」
『女は充分に守られている。
余計な事をしなければ、社会が守るし男が食わせる。
それ以上を望むのは罪悪だ。』
「何も無法をせよと申している訳ではありません。
国法の範疇において、ルナの味方で居てやって下さいとお願いしているのです。
貴方は王である前に人間でしょう!」
『王に人間性などあってはならない。』
「どれほど厳格な王とて心はあって然るべきです。」
『オマエ達は紛い物しか見た事がないから、そう思うのだ。』
「…そうですね。
向こうでは、本物にお仕えする栄誉を賜りました。」
『なら、そういう事だ。
俺は地球でも俺である事を変えない。』
「…。」
『…たまたま、昨日弁護士を拾った。
その者が使えるのか鷹見達で試してみるよ。
それでいいか?』
「ありがとうございます。」
『…なあヒルダ。』
「はい。」
『オマエの願いだから聞き入れているだけだぞ?』
「…ルナには厳しく言って聞かせます。」
それ以上この女と話す事も無かったので、倉沢弁護士に電話して鷹見の世話を依頼する。
「遠市さん…
お2人の身元引受人に?」
『公的機関に認められるかは分かりませんよ?
俺も今朝指名手配を解除されたばかりですので。』
「確かに。」
『俺は平原猛人の世話をしてやってます。
二日酔いの面倒を見てやったり、あのオッサンのパンツまで洗濯してやったんですよ?』
「いやあ、何と申し上げて良いか。」
『鷹見も平原社長と同じ浜松西警察署に居るんでしょ?
ついでにお願いしますよ。』
「ええ、まあ物理的には…
十分可能なのですが。」
『とりあえず、手付に200万振り込みます。
口座教えて下さいよ。』
「え? いや、委任契約の着手金は50万もあれば。」
『口座、教えて下さい。
あ、言い忘れてましたが、鷹見は俺の側室になりました。
母の承認も取ってます。』
「え? え? 側し…
愛人契約か何か?」
『平原社長の件も、ちゃんと動きます。
それでいいでしょ?』
結局、ゴリ押した。
向こうの気が変わらないうちに、安宅経由で振り込む。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
4669万5219円
↓
4469万5219円
※安宅一冬に倉沢弁護士事務所への報酬200万円の振込を依頼。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
念の為、皆の意見を聞く。
《鷹見は痛い目に遭うべき》、というのは俺も含めたメンバーの共通認識であったが。
同時に《愛人の尻ぬぐいは男の義務》とも指摘される。
…匙加減が難しいんだよな。
と言う訳で。
関羽の運転で、ヒルダと共に浜松西警察署に向かっている。
てっきり面会かと思ったが、違うらしい。
「「いえ、起訴前は面会出来ませんから。」」
異口同音に指摘される。
…オマエら仲良いよな。
不思議そうな顔で言われると、自分が非常識人のように思えるが、俺は帰還前までは警察の世話になんかなった事がなかったのだから仕方あるまい?
何か食べ物でも持っていってやろうと思ったのだが、食品は差し入れ禁止らしいので、途中のコンビニで雑誌を買ってやる。
あの2人が好きそうな雑誌を2冊ずつ買ってやる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
4469万5219円
↓
4469万1739円
※差入として雑誌3480円を購入。
ヤングチャンピオン烈 540円×2
ヤングキング 530円×2
実話BUNKAタブー 670円×2
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
浜松西署に入った瞬間、空気が凍り付く。
警官達が目を剥いて俺を凝視する。
『あの、今お時間宜しいでしょうか?』
受付の様なカウンターに座っていた中年のお巡りさんに声を掛けた。
相手は数秒息を飲んでから
「はい。」
とだけ短く答える。
『留置場への差し入れをお願いしたいのですが、受付はここで宜しいでしょうか。』
異様な空気。
俺の周囲をお巡りさん達がジリジリと包囲する。
「あ、あの!」
受付のお巡りさんが意を決したように叫ぶ。
『はい?』
「遠市厘さんでしょうか?」
『ええ、私が遠市です。』
「…いつも、楽しく動画を拝見させております!」
一瞬、相手の意図が読めずに困惑する。
え?
楽しく?
オマエ、勤務中だよな今?
「いやあ、こんな田舎に有名人が来て下さるなんて
一生の想い出ですよ。」
満面の笑みで受付は言った。
『…失礼ですが、貴方は今勤務中でしょう!
面会者の知名度に一喜一憂するのは公人として不謹慎ではないですか!』
「おお!
動画の通りの言動!」
その後も、警官達がニコニコしながら近づいて来て俺に雑談を持ち掛けて来る。
適当に打ち切って、鷹見と平原猛人への差し入れ手続きをした。
誰が俺の応対を担当するかで軽い口論が発生していたので、遠州人というのは好奇心の強い生き物なのかも知れない。
ただ、差し入れ手続きは結構懇切にナビしてくれたし、色々と便宜も図ってくれた。
おかげで、駆け付けて来た倉沢への引き継ぎは円滑に進んだ。
差し入れを渡し終えて、署を出ようとすると何人かの刑事がにこやかに取り囲んで来る。
逮捕かと思って身構えるも、どの刑事も異世界の話を聞きたがって来た。
「ご、ゴブリンと戦ったりしたんですか!?」
『いや、ゴブリンだからって無条件に戦ったりしませんよ。
ちゃんと話は通じる相手なので。
勤勉で気高い連中ですよ。
後、漁労文化なので日本人とは仲良くなれるかもです。』
「「「おおおおおお!!!!」」
年配の刑事さん達が少年のように目を輝かせて拳を握り締める。
「オークは?
オークは実在しますか?」
「僕も異世界に行きたいんです!」
「やっぱり、なろうとか読みます?」
「冒険者ギルドとかありました?」
何人かの刑事さんにLINE交換をお願いされるが、スマホを持ってない旨を伝え、名刺だけ受け取っておいた。
どうやら俺が異世界帰りである事は、日本国民の間では概ね共通認識らしい。
そして、日頃虐げられている人々ほど期待と羨望の感情から連絡先交換を懇願して来る。
辛い日常から精神を守る為には、異世界は必要不可欠なのだ。
俺に話し掛けて来る警官達の表情が一様に悲壮なのは、そういう理由からであろう。
『…やっぱり、警察業務は大変ですか?』
ある程度打ち解けてから俺が尋ねると、警察官達は一様に泣き笑いしながら頷いて来る。
1人の老警官が「だって上司も部下も警官なんだよ?」と諦めた様に言ったのが妙に心に残った。
結局、出された名刺は全て受け取った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
浜松西署の駐車場。
車に乗り込もうとした際、関羽が前方を見たまま喋り出す。
「七時の方向に監視者です。
黒のレクサス、地元レンタカーナンバー。
前方座席に男女一組のみ。
挙動からして警察関係者ではありません。」
『監視というと?』
「遠市先生が署内に入られて5分後に入車してきました。」
俺がサイドミラーで見ると…
途端に目が合う。
『荒木か…。』
「お知り合いでしたか?」
『ええ。
あまり良くは思われておりませんが。』
ミラー越しに目が合った荒木は車を降りてゆっくりとこちらに接近して来る。
荒木の癖にジャケット?
相変わらず良い服を着ている。
「よお。」
『やあ。』
荒木が俺に近づこうとした瞬間だった。
奴が怯えた表情で大きく後ろに飛ぶ。
「リン!
下がって!」
突如、どこからか湧いたヒルダが俺と荒木の間に割って入る。
…何かオマエ、全身が発光してないか?
「ッ!?」
後ろに飛んだ荒木が左手を真上にかざし…
空中に鉄骨!?
2人を中心に突風が起こり、獣のような咆哮が交わる。
「おおおおおおおおッ!!!!」
「あああああああああッ!!!」
え!?
ちょっと、待って。
何でいきなり能力バトルが始まってるの?
『あー、ちょっと待って!
ヒルダ! 待てッ!』
「相手は竜殺しですッ!!!!」
『荒木ッ!
こっちも引かせるから!
鉄骨を浮かべるな!!』
「トイチ!!
キサマ、異世界人を引き入れたのか!!
…そこまでして」
オイオイオイ。
ここ静岡県警の敷地だぞ?
戦闘系スキル使うか?
オマエら脳味噌なろうかよ?
『おまわりさーーーーん!!!!
あ!!!
遠藤巡査ぁッ!!!
ちょっと来て下さい!!!
早く!!!
ダッシュ!!!
他の人も呼んで!!!』
仕方ないので、さっき仲良くなった遠藤巡査(退職代行を使おうか悩み中)を呼びつける。
「え? 遠市君?」
『さっき能力バトルがやってみたいって言ってたでしょ!!!
ほら、コイツらがスキル使ってるから早く止めて!!!』
「え?
仲裁?
僕、スキルを防ぐスキルなんてまだ貰ってないよ?」
『ノンスキルでコイツら止めて下さい!
拳銃の使用を許可します!!!』
「えーー。
拳銃なんて、それは署長判断じゃなきゃ無理だよぉ。
ってか、何でこんな所に鉄骨落ちてるの!?」
『犯人はコイツらです。
早く逮捕して下さい。』
「いやいやいや、罪状は?」
『《県警の敷地内で能力バトルした罪》
とか色々あるでしょ!』
「えー?
それ、多分不起訴になるよ?
僕、滅茶苦茶怒られるよ。」
荒木とヒルダはとっくにスキルの使用体制を解除して、十分な距離を取っている。
目は切ってないが、ここでどうこうする気は失せたようだ。
『荒木~。
オマエ、この鉄骨責任もって何とかしろよ?』
「…。」
『遠藤巡査、この鉄骨アイツの所為ですからね?』
「えー、駐車場を塞がれるのは困るよ。
ほら、この位置だと刑事課の車両が出せない。」
荒木はゆっくり溜息を吐くと、指をパチンと鳴らした。
県警駐車場に無造作に転がっていた2本の鉄骨が消える。
『遠藤さん!
見ました?
ね? コイツの仕業でしょ?
妙なスキル使ってるでしょ?
ほら、逮捕。
早く。』
「え~。
遠市君。
君が思ってるほど、逮捕って簡単じゃないんだよ?
大体、罪状は何なのさ?」
『いや!
今、見ましたよね?
仮にも警察署の敷地内で鉄骨を転がしたじゃないですか!
重罪ですよ!
公権力に対する挑戦でしょ!?
あ!!
見て見て!!!
ここのアスファルト!!
ちょっと凹んでますよ!!!
ほら、逮捕!』
「確かに凹んでるけどさ。
うーーーん、これ立証出来なくない?
仮に… 荒木君だったけ?
彼の自供があったとしても、多分検察は起訴しないと思うよ?」
『卑怯だぞ、荒木!』
「いや、ヒルダ・コリンズを嗾けて来たのはオマエだろ?
そりゃビビるよ。」
『嗾けてない!
コイツが勝手に飛び出して来ただけだ!
ヒルダ、車の中に入っておけ!』
「…。」
『ヒルダ!』
ヒルダは俺を無視して荒木と俺の間に留まる。
殺気こそ消えているが、警戒態勢を解く気はないようだ。
『遠藤巡査ぁ。
コイツら異世界パワーで能力バトルしようとしてるので止めて下さい。』
「いや、止めろと言われれば止めるけどさぁ。
じゃあ、僕にも何かチートスキルを支給してよ。」
『スミマセン。
俺はスキルを授ける係ではないので。』
「いつかハーレム製造スキルを見つけたら僕にくれよ。
その条件なら民事介入してみる。」
『わかりました。
ハーレム製造スキルを確保次第、遠藤巡査に贈呈します。』
「やったぜ!」
遠藤は満面の笑みでヒルダと荒木に距離を取らせる。
さっきまで全然やる気が無かったのに、公務執行妨害やら器物破損を持ち出してネチネチと2人を牽制した。
ホルスターにもちゃんと手を掛けてくれている。
荒木は無言で両手を上げる。
唇を噛みながらヒルダは車内に戻る。
「遠市君、約束忘れちゃヤダよ♪
今の説得、最低でも君の心証1ポイントは貰えるよね?」
『わかってますって。
遠藤さんには《遠の字》仲間としてスペシャルサービスで500ポイントをあげます。』
「っしゃああ!!!」
『森さん!
ヒルダに伝えて下さい!
コイツとは話し合いをするだけだと!』
関羽とヒルダが車内で俺を睨みながらヒソヒソと囁き合う。
荒木と話している間、遠藤巡査にはヒルダ達を監視して貰う。
「他にも異世界から兵隊を呼んでるのか?」
『誤解だ!
来ていたとしてもヒルダ1人だよ。』
「連れて来ていい奴と駄目な奴の区別くらい付けろよ!
最強のカードを手元に隠し持っておいて
誤解も何もないだろう?」
『信じられないかも知れないが。
誓って俺が呼んだ訳じゃない!』
「この状況で信用出来る訳ないだろう!」
『考えてもみろ。
俺はカネを腐る程持っている。
そして年頃だ。
色々な女とセックスしたいし出来る状況だ!
なのに、束縛型の女をわざわざ呼ぶ訳ないだろ!
俺に何のメリットもないじゃないか!』
「…確かに。
信じるに足る論理的整合性があるな。」
少し考え込んでから、荒木は一段階だけ警戒レベルを下げた。
無論、重心を落として奇襲への備えは怠っていない。
『…誤解は解けたようだな。』
「印象は兎も角だがな。」
…どう思われても仕方ない。
我が国でも危険な外来生物を持ち込むことは厳しく禁じられている。
「相変わらず御活躍のようだな。
鷹見のチャンネル、バズってるぞ。」
荒木は溜息を吐きながら語り掛けて来る。
話題を変えたのはクールダウンの意味もあるのだろう。
『らしいな。
で?
何の用?』
「アイツの逮捕が全国ニュースになってるからな。
ここで張っていれば、オマエが来ると思ったのさ。」
『答えになってないな。
わざわざ俺の顔を見る為に、こんな所まで来たのか?』
「そうだよ。
不思議か?」
『…荒木、オマエ異常だよ。
俺なんかに粘着して何のメリットがある?』
「観察出来れば、オマエの戦力を分析出来る。
手の内が解からなければ、対策出来ないだろう。」
『手の内も何も。
俺はのんびりキャンプ遊びしてただけだぜ?
見て何が分かる?』
「実際、ここに来てなきゃヒルダ・コリンズの存在に気付けなかった。
これを収穫と言わずして何と言うんだ?」
…返す言葉もない。
「収穫はそれだけじゃないぞ?
他には運転席の女。
序列で言えばオマエの部下だろう?
にも関わらず全く男女の関係にある気配がない。
むしろ周囲からそう見られる事を極度に忌避しているような距離感だ。
きっと別々のパートナーが居るからだろう。
オマエ、そういう所が潔癖だから。
それを踏まえれば。
既に組織っぽいものを作り上げたと推測出来る。
間違いなく数名規模のグループを確立してるんだよ、オマエは。」
『…いい歳して探偵ごっこか?』
「生憎、オマエと違ってこっちは無力でね。
打てる手を全て打たねばならない。」
『じゃあ。
ここで俺を殺せばハッピーエンドじゃない?』
「だから、それすらも難しいんだって。
ヒルダ・コリンズ。
車内で狙撃体勢に入ってる。
あの巡査ごと俺を撃つつもりだ。」
『ヒルダ!!!
コイツは兎も角、遠藤さんに傷一つ付けるなよ!!』
確かに、微かな光が関羽の頬を照らしているのが一瞬見えた。
あのエフェクトは戦闘系スキルの特徴だ。
それもケネス・グリーブの様に身体を強化する性質の能力ではなく、カインやアランの様にエネルギーを外部に射出する時のエフェクト。
俺がしばらく見ていると、ヒルダが無表情のまま光を消した。
あの女なら躊躇わずに撃つだろうな。
「なあ、遠市。
俺は何もオマエと戦いたい訳じゃないんだ。
どうせ勝ち目はないしな。
今からでも考え直してくれないか?
経済テロさえやめてくれればいいんだ。」
『俺はただ世の中を良くしたいだけだよ。』
「…。
なあ、遠市。
わかるだろ、今の情勢。
コ□ナもまだ収まらない、ロシアが黒海の封鎖を宣言した。
何よりイスラエル関連が本当にマズいんだ、いつ中東戦争が再開されてもおかしくない。
恐らく年内にはパレスチナ側との大々的な衝突が起こる。」
『らしいな。』
「これだけ円安が続いている状況で…
オマエ、今の資産は日本円で持ってるんだろ?
異世界の時みたいに無限に刷られたら、日本の購買力が喪失してしまう。
特に原油、このペースで行けば1バレル140ドル台に突入する恐れがある。
デッドラインだ。
産業が総崩れになるぞ…」
『もうオマエは経済コメンテーターにでもなれよ。』
「危機感だけは、奴ら以上に持っている。」
『なあ、荒木。
俺より危険な存在なんて幾らでも居るぞ?』
「居るわけねーだろ!」
…うん、居ないな。
まあ、どう考えても俺が一番危険だよな。
『でも安心してくれよ。
俺、とっくに封殺されてるから。
たった一人のバケモンに目を付けられたばかりに
全く身動きが取れてない。』
「鷹見か…
なあ、アイツと付き合うのだけはやめとけ。」
『スマン。
色々あって鷹見は俺の側室になった。』
「オマエなー。」
『だからゴメンって。』
「異世界でもそうだっただろ?
少しは懲りろよ。」
『一言弁解させてくれ。』
「…どうぞ。」
『金銭面に限れば、この宇宙で俺が最も価値がある。
だから、よりパワーのある女が俺の隣に立つ権利を獲得してしまう。
ヒルダとか鷹見とか、アイツら力づくで押し入って来るんだよ。
拒否権ない訳。
言っておくけど俺、普通にアイツらにボコられてるからな?
この前なんて配信中に刺されたし。』
「あのシーン凄かったな。
特撮?」
『いや、アレはマジ!
血がピューピュー出とったわ!!』
「ま、オマエにはいいお灸だ。
あれに懲りたら、少しは配慮というものを覚えるんだな。」
『うん、なので最近は女に細やかに気を遣ってる。
土産に蜜柑をくれてやったりな。』
「へえ。
オマエも意外に考えてるんだな。」
荒木如きに指摘されるまでもない。
俺だっていつまでも昨日までの俺じゃない。
『なあ!
代案聞かせろよ?』
「?」
『俺が皆にカネを配るのが反対ってなら。
オマエは何をするんだよ?』
「さあ、カネでも配るんじゃないか?」
『何だよそれ。』
「無限のオマエが配るのと、有限の俺が配るのでは全然違うだろ?」
『…まあ、な。
否定はしないさ。
今の荒木って結構儲けてそうだし、そこそこは配れるんだとは思う。
良かったじゃねえか、いつも鉄道グッズ欲しがってたもんな。』
「グッズは全て処分した。
もう手元には鉄道株しか残ってない。」
『そっか、可哀想にな。
俺の所為でそうなってるのなら一言詫びておくよ。』
「その詫びは素直に取っておく。
じゃあな。」
『帰るのかよ?』
「俺も色々忙しいんだよ。
遠市の手の内を見れた。
来た価値あったよ。」
『おい。』
「ん?」
『オマエの手の内も見せろよ。
毎回毎回コソコソ見張りやがって。』
「…前に1個見せたじゃないか?」
『?
俺、オマエのことなんか何も知らないぞ。』
荒木は溜息を吐いてから、どこかに電話を掛ける。
背後のレクサスの扉が開く。
「じゃーーーーん♪
遠市クン、おっひさしぶりーーー♪
恩師参上♥
君が仰いで尊ぶべき恩師ちゃんの奈々ちゃんで~す♪」
『…マジかよ。』
「オマエに勝てそうなカードを探してたらな?
結局、この女に行きついた。
本当はサプライズ的にオマエを襲撃させるつもりで
ここに持って来たんだがな。 」
『…そこまでして俺を止めたいか。』
「怪物に立ち向かう為には、自分も怪物になる必要があるんだよ。」
「遠市クン♪
君もおカネ持ちになったんだって?
この間はごめんねー、遠市クンがそこまでのおカネ持ちって知らなかったの!
にゃんにゃん♥ ごろにゃんにゃーん♥
ねえ、先生最近ちょっとピンチなんだ♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
4469万1739円
↓
4468万1739円
※乞食に1万円贈与
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やったぜ!
いやー、おねだりしてみるものねー♪
遠市クン♪
先生はいつだって君の味方だからね♪」
『いや、どちらかと言えば敵かと…
荒木、オマエここまでやるか?
一応知らない仲じゃないんだから
もう少し手心とか、そういうものをだな!』
「オイオイ、守勢に回った瞬間被害者ヅラか?
じゃあオマエも地球に少しは手心加えろよ。」
「そーだそーだ♪
話の流れ全然理解出来てないけど、やっちゃえやっちゃえ!
ふっふっふ、遠市くーん♪
奈々ちゃんのテツ君にあんまり生意気な態度取らない方がいいよ~?
テツ君ってただのキモ鉄だと思ってたけど
すっごく喧嘩強いし、何より大金持ちなんだからね!」
「奈々。オマエはまだ理解出来てないと思うが
俺なんか足元にも及ばない超富豪だぞソイツ。」
「え!?
うっそぉ♡
そこまでっすか♥????
にゃにゃにゃ!!!
奈々ちゃんニャニャちゃんモードになっちゃうよ!?
テツ君よりおカネ持ってるって凄いことだよ!?」
乞食が擦り寄って来る。
「うぇひひひひ
と、遠市クン♪
先生ね? 貴方なら絶対成功すると信じてたわ♪
恩師としてとても誇らしいにゃん♥
ウェヒッ♪
お、おカネそんなに持ってるの?
うひひ、何かボロいシノギでも見つけたんスか?
奈々ちゃんにもオコボレ恵んで下さいよぉ♡」
『いえ、ぼちぼちです。』
「にゃーーーーん!!
儲けてるオトコノヒト特有の塩対応!!!
ねえ、先生ね?先生ね?
君を担任してた頃から、ずっと惹かれてたんだ♪
勿論、性的な意味で♥
抱いて下しゃい、にゃんにゃんにゃーん♪
本当はね?
すぐにでも告りたかったんだけど。
奈々ちゃんってばキミの恩師じゃない?
だからねぇ♡
秘めたる想いを噛み締めてたの♥
あ、おっぱい揉む?」
『荒木ぃーーー!
幾らなんでも許されないやり方ってあるぞ!!!
恥を知れ、この糞野郎が!!!』
「死にたいくらい恥じてるさ!!!
苦渋の決断だ!
俺だって忸怩たる思いでやってるんだよ!
仕方ないだろ!?
遠市を牽制出来るカードなんてそうそうないんだから!」
『オマエみたいな奴がいるから戦争がなくならないんだよ!』
荒木鉄男。
前々から我の強さは知っていたが…
こんな奴とは思わなかった。
見損なったよ、そこまでして勝ちたいか?
オマエ、戦争で毒ガス使うタイプだろ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、数時間。
荒木を見送ってから浜松西署の駐車場で待機。
遠藤巡査が総務課長を連れて来て、荒木の鉄骨痕を検分する。
「ああ、確かに…
衝撃の跡だねえ。
放置は難しいかな…
あー、でもこれ予算降りるかなあ。」
『あのー、課長。
幾らか私から出させて頂けませんか?』
「いやー。
寄付行為は違法ではないんだけどね?
法律的には警察署へも寄付は可能なんだけど。
警察への寄付は世論の誤解を招きかねないから…
不文律上のルールが結構色々あるのね?
まあ、この場合は本部長に判断を仰いで、OKが出てからだよね。
受け取るのは。
ただ、遠市さんは色々あった訳じゃない?
鷹見夜色の件とか…
だから、結局受取の許可は出ないんじゃないかな?
私が本部長なら、君からの寄付は…
ちょっと…」
『ですよね。
スミマセン。
諦めます。』
「うん。
まあ、気持ちは嬉しいから。
感謝もしてる。
お気遣いありがとうね。」
その後、交通課の白バイ隊員達がやって来て。
「これ、タイヤへの損耗キツイですよ?」
と鉄骨痕に眉をひそめる。
偉い人が何人か出て来たので、再度事情を説明して謝罪。
副署長さんから警察敷地内事故に関する軽いレクを受けた。
幸い、向こうはそこまで怒っていないらしく
《今後、陥没が著しく悪化するようなら連絡するかも知れない》
とのコメントで収まった。
友好的な雰囲気になり掛けるも、駐車場でウンコ座りして漫画を読んでる鷹見と平原猛人の下品な笑い声で、その都度ぶち壊しになる。
『おい! 警察署の敷地内で唾を吐くな!!!』
「えー?
ウ↑チ↓そんな下品なことしないッスよww
かーっ、ぺッ♪
ペペぺのぺっ♪」
「リンの差し入れ、チョイスいいよな。
昔バイク乗ってったから、この《ばくおん!!》って漫画
すっげぇ刺さるわ。
ぺっぺっぺ。」
屑共はバイク談義で盛り上がっている。
先日までの遺恨はリセットされたらしい。
『皆さん、申し訳ありません。
すぐにアレを回収しますので。』
「あーいやいや。
遠市クンが謝ることじゃないよ。
色々気を遣ってくれてありがとう。
静岡で困った事があったら、西署に連絡してきてくれていいから。」
『お気遣い、深く感謝致します。』
車に戻る平原猛人に『煽り運転しちゃ駄目ですよ?』と念を押すもヘラヘラしてたので、無言でトレイルカメラを助手席のシートに突き刺してやった。
どういう訳か嬉しそうに大笑して、「わかったわかったw」と言いながら先に帰路につく。
あのオッサン絶対に懲りてないな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いや、それはいいんスけどね?
ダーリン様、徐々にハーレム肥大化してません?」
『鷹見、穿った見方はやめろ。
森さんは清磨さんのフィアンセだ。
結婚式に出席する約束もしている。』
「でも、ウ↑チ↓とヒルBAAはメス穴確定な訳じゃないッスか?」
『オマエラに対しても節度はちゃんと守るぞ?
基本、男所帯なんだから。』
「えーーー、つまんなーーい!!
ブーブー。」
『俺は元々、あのメンバーと浜名湖に来たんだよ。
言っとくけど、仕事だからな?』
「とか何とか言ってー。
着々とメスオナホ増やしてる癖に!
大体、コイツは何でこんな所に居るんスかーーー!!!」
「やっはろー♪
超絶ハイパー恩師の奈々ちゃんでーす♪
可愛くってゴメン♥」
「アンタ、教師クビになったって聞いたけど?」
「クビじゃないよぉ♡
リフレッシュ期間だよぉ♪」
「ねえ、ダーリン様。
大正義ヒロインのウ↑チ↓が居るんですよ?
大BBAと小BBAを増やすのヤメてくれます?」
「あー、恩師に向かってBBAって何事よ!
あったまきた!!
奈々ちゃん自らを中BBAに格上げして、アンタなんか小BBA送りだよ!!」
「はぁーーー!!?
ウ↑チ↓若いし!
縁起でもない名前つけんなし!
このAV女優!!」
「ちょっと!!
その話やめろって言ってるでしょ!!
奈々ちゃん3本しか出てないからね!!」
「あははは!
ダーリン様聞きましたぁ?
コイツ、糞ビッチですよww
3本!? AVに3本!!!
うっわー引くわーww」
「はぁ!?
ルナちゃんだって出てるでしょーーー!!」
「はああ!?
ダーリン様の前で余計なこと言うんじゃねーよ、殺すぞ!!」
ドコッ!
「うにゃぴッ!?
痛ったーい。
やめてよねー!
奈々ちゃんってば、恩師力を駆使して
生徒の個人情報をいつでも週刊文春に売れるように
永久保存してるんだからね!」
「キショ! キショ! キショ!
ダーリン様!
こんな女の戯言を真に受けちゃ駄目ですよ!
ウ↑チ↓2本しか出てませんから!
こんな3本も出るような糞ビッチとは違いますからね!!」
…亞聖よ、地球は随分平和になりました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
荒木の戦法は極めてシンプルだ。
《足を引っ張るタイプのゴミを俺に押し付ける》
考えれば考える程、スマートな手口だと思う。
俺が知る限りダントツで最低の屑を擦り付けて来やがった。
ただでさえ鷹見と平原猛人に相当なリソースを奪われているので、かなり苦しい。
『ヒルダ、少しいいか。』
「…はい。」
『あの松村奈々教諭。
俺が通っていた学校の教師だ。
まあ、見ての通り色々問題がある人物なんだが。
アレの管理もオマエに任せていいか?』
「別に側室にする予定はないのですよね?
では私の範疇ではないような気もしますが?」
『だから頼んでいる。』
「ルナに殺させますか?」
『駄目だ。
例の侮辱動画に松村も登場してる。
すぐに世論が俺の指示だと悟る。』
「松村に何か使い道は?」
『デバフ。
存在するだけで組織が弱体化する。』
「リンに敵対する組織がないかリストアップしておきます。」
『俺に敵なんて存在しない。』
「では始末しても差支えのないタイミングを考えておきます。」
『そこら辺は全部ヒルダに任せるよ。』
「…結局、荒木鉄男は何を企んでるのですか?
あの者の行動原理が未だに理解出来ないのですが。」
『アイツは単なる穏健派。
穏健派だから俺の急進性を穏健でない手段を使ってでも抑止しようと考えている。』
ヒルダの荒木への警戒心は強い。
実際、向こうでも俺と口論している場面を目撃している訳だし
何より、奴は単独での竜殺しに成功している。
『俺、今まであんまり意識してなかったけど。
竜を討伐するって…
やっぱり凄いことなの?』
「竜退治は建国神話で記述されるような偉業です。
それを単独で成し遂げたのですよ?
本来なら全世界が荒木鉄男に熱狂している筈でした。」
そう。
ソドムタウンに単身やって来た荒木は竜の死骸を運搬業者に曳かせていた。
自分が偉大過ぎて見落としていたが、奴こそが猛者なのだ。
『だよな?
あんまり周りが騒いでないから
俺も感覚がマヒしていた。』
「リンという現人神が奇跡を起こしている最中でしたから。
大抵の重大事は流されてしまっておりました。
帝国皇帝の死、教団の壊滅、王国の崩壊。」
『え? やったのは全部オマ…「兎に角。 荒木鉄男は危険です。」
あ、遮りやがった。
「もっと警戒心を持って下さい。
こちらの世界の事も軽率に話しているようですし。」
『いや、召喚の件に関しては本来のセオリーなら隠すべきだよ。
流石に俺も解ってるって。
ただ、俺が異世界帰りだって全員知ってる訳じゃない?
オマエのウクライナ偽装が、程よくブラインドになってるとは言え、さ。』
「申し訳ありません。
こちらも何の予備知識もないまま…
消去法で掴んだ立ち位置ですので。」
『ヒルダを責めている訳じゃないさ。
ただ、異世界待望は最も大きな民意だ。
それを利用しない手はないじゃないか。
荒木や鷹見にもせいぜい踊って貰うさ。』
「私は?」
『一番大切な人を道具扱いは出来ないなあ。』
「…ハア(溜息)
せいぜい邪魔にならない場所で踊っておきます。」
『それは助かる。』
…ヒルダ、鷹見、荒木、恩師(笑)。
どうやら地球は俺を楽に勝たせてくれないらしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ヒロノリさん、申し訳ありません。
皆にも謝っておいて下さい。』
「担任の先生なんでしょ?
じゃあ、無下に出来ないのも仕方ないよ。」
『在学中から、かなり悪質なトラブルメーカーだったので。
カネに汚い上に権利意識だけは非常に高いです。
人の為には絶対にリソースを注がない癖に、自己保身には形振り構いません。
約束は全て平然と破って悪びれることがありません。』
「何かいいトコはあるの?」
『いやあ、私や級友も美点は探してみてはいたのですが。
未だ見つからず。』
「ふむ。
じゃあ、鷹見さんと牽制させ合うしかないね。」
…みな考える事は一緒だな。
『アイツら一緒に置いておくのは怖いんですよ。
結託された時の害悪度が洒落にならない。
でも、鷹見なら松村を押さえてくれそうな気もするんですよね。』
「ふふふ。」
『?』
「今のトイチ君。
結構楽しんでるっぽいw」
『もー、勘弁して下さいよww』
「もう舐めプは無理?」
『ここから先は形振り構わずですね。
カネを集めるスピード・狩猟頭数・政治的発言
全てが激増すると思います。』
「僕に出来る事はある?」
『幹部っぽい役割をお願いする場面が増えると思います。』
「幹部ってw
僕なんか器じゃないよw」
寺之庄は鷹揚に笑うが、その姿が既に大器である。
残念ながら、俺ではビジュアル的に世論を説得できない。
矮小過ぎるのだ。
だが、寺之庄や後藤のような体格の良い美男子が代わりに発言してくれれば、大衆は耳を傾けてくれる。
異世界でも、四天王フェルナンにスポークスマンを任せた瞬間に世論が一気に俺に好意的になった。
あの成功体験から俺は真摯に学ばねばならない。
世の中など結局は《何を言うか?》ではなく《誰が言うか?》なのだ。
そして残念ながら、俺は《誰》ではない。
これからもそれを弁え続ける事でのみ、俺にも勝ち筋が見えて来る。
「報告するね?
今日の出資は2億5000万円。
僕や飯田夫妻は銀行預金をほぼ吐き出したけど
安宅さんはもっと積むつもりって言ってた。
今持ってる不動産を全部処分すれば最低でも7億を越えるキャッシュを見込めるんだって。」
俺が日利を引き上げる努力をしているように、出資者の彼らも資産の現金化・引き出しに奔走してくれている。
そう。
これが資本の本質なのだろう。
より高い金利を設定出来る者に皆がカネを託すのだ。
要は増やす能力のある者にカネが集まり…
その才覚の無い者のは集まらない。
父さん、ゴメンな。
俺はもう世の中の仕組みから目を逸らさないことにするよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
4468万1739円
↓
2億9468万1739円
※出資金2億5000万円を預かり
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この3億弱という数字は世界を動かすにはあまりに僅かな額だが、【複利】を持つ俺が動かせる元手としては悪くない。
後は速度だ。
今日は時間を奪われたが、明日からイノシシを殺し続ける。
『じゃあ、今日の配当は500万円の計算になるのですが。
…あの、分配足りてます?』
「いやいや!
足りてるなんてもんじゃないよ。
500万なんて大金だよ?
…だって、奇跡だから確定申告のしようも無い訳でしょ?」
『まあ、神様の思し召しですから。』
「しかも、配当額をいきなり倍にしてくれた訳じゃない?
今日はみんなで話あってたんだ。
増やしてくれた分、僕らも貢献しなくちゃいけないって。」
『いえいえ。
増額は、それだけ皆さんに助けられたから出来ることですよ。』
しばらく互いに「いえいえ」往還を交わしているうちに17時が来る。
《1768万1000円の配当が支払われました。》
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
2億9468万1739円
↓
3億1236万2739円
※配当1768万1000円を取得
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
1億円の重量は約10キロ。
つまり総額が30キロを超えた寸法になる。
アスリートの後藤や江本にとっては大した重量ではないが、俺の細腕ではそろそろ取り回しが苦しい。
これは俺達のやっている事が、個人レベルの火遊びで無くなって来た事の証拠である。
寺之庄も真剣な表情で考え込んでいる。
キャンピングカーでウロチョロしている現在のやり方。
楽しいのは確かだが、いつまでも続けられないと知っているのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
3億1236万2739円
↓
3億0736万2739円
↓
5736万2739円
※配当金500万円を出資者に支払い
※出資金2億5000万円を別に保管
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「今、僕と真姫は2000万円出資してるのね?」
『ええ、ありがとうございます。』
「昨日から分配額が40万に上がったんだ。
これって、もうベテランサラリーマンの月給な訳じゃない?」
『ええ。
私は会社勤めの経験がないので、よくわからないのですけど。』
「金銭感覚が壊れちゃったよw」
『わかります。
私も、多分この先勤め人にはなれないと諦めてますw』
談笑した後に寺之庄は外から安宅を呼び、自分は車外のバーベキュー台に向かう。
金額が膨れている事には安宅も怯えており、「不動産を提供するので定住してみないか?」と提案される。
移動にはリスクが大きい。
まず事件・事故に巻き込まれる確率が格段に上昇する。
鷹見と恩師(笑)がこの先も付いて来るのであれば、トラブルの発生確率は数万倍に高まるだろう。
現に俺、普通に刺されたしな。
更に出資者たる安宅としては、自分以上の出資者が現れる恐怖とも戦わなくてはならない。
旅を続ければ、嫌でも知己は増えるからだ。
その中には富豪だって当然居るだろう。
幾ら安宅が金持ちとは言え、所詮は一代で資産を形成したばかりのトレード成金である。
何百億をポンと出せてしまう大富豪が出てくれば、今の出資者がパージされる可能性だってあるのだ。
例えば1000憶円を預けっぱなしにしてくれる大金持ちが現れた場合。
俺もその者の元での定住を真剣に考えるかも知れない。
現時点の日利でも、毎日60億円ずつ上積みされていくのだから。
安宅はその事態を極度に恐れている。
『その場合も安宅さんを通しますよ。
先日も申し上げた通り、1%を中抜きして下さって構いませんので。』
「…いや、それではトイチ先生にメリットがありません。」
『そうでしょうか?
中間的な存在が居てくれれば、こっちは自由を確保出来る可能性が高まります。』
「ふむ。
伝書鳩としてなら、お役に立てる自信はありますが。
それだけでは。」
『じゃあ、もしもの話なのですが
安宅さんには不動産関連をお願いさせて貰えませんか?』
「お!
それならお役に立てるかもです!
不動産投資は歴が長いので!」
『あ、すみません。
あまり土地で儲ける気はないんです。
寧ろ、貴方にお願いしたいのは拠点の確保ですね。
例えば、このまま静岡県に縁が出来て首都圏との往復が必要になった場合。
東京・静岡に安全な拠点が必要になって来る訳ですよね?』
「なるほど!
セーフハウス確保ですね!
はい、貢献出来ます!」
『じゃあ、各地に拠点が必要になれば
安宅さんに色々お願いさせて下さい。』
「世界漫遊が始まるのですか?」
『せいぜい国内漫遊が限界でしょう。』
ヒルダの国籍が曖昧だからな。
アイツ、地球に転移した初期にロシア人を自称したりウクライナ人を自称したりで設定をコロコロ変えていたらしい。
それがここに来てボディブローのように効き始めている。
ウクライナ難民からはSVR(ロシア対外情報庁)と思われてるし、ロシア難民からはCIA(米国中央情報局)だと疑われてる。
…何せこの女はガタイがいい上に、眼光が鋭い。
情報将校か何かに見えるのは当然だろう。
実際、異世界で謀略戦の指揮を執っていた訳だしな、それっぽくて当然だろう。
そんな怪しい存在なので、とてもじゃないがヒルダ・コリンズは国外に出れる状態ではない。
少なくとも西側圏と東側圏には行かない方が無難だろう。
その息子である俺が海外に行くのは…
ちょっと冒険というか。
普通に空港で拘束されて防諜機関に直送されそう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
安宅との打ち合わせを終えて俺が外に出ると恩師(笑)が擦り寄って来る。
「うっふっふ、遠市ク~ン♥」
『何でしょうか?』
「なんだかいい匂いがしたので
やって参りましたにゃ♪」
『匂い?
ああ、これから肉を焼きますので松村先生もどうぞ。』
「あははー♥
相変わらず嘘が下手だねww
私の教育が行き届かなかったかな?
恩師反省♪」
『…仰る意味がわかりません。』
「うふふー。
女はねー、オトコノコの100倍は鼻が利くのだ♪
遠市クーン♥
君、先生に何か隠し事してないかにゃ?」
『隠す?
さあ、何のことやら。』
「知ってたぁ?
女はねえ?
匂いでオトコノコの価値を判別する能力があるのだよ♪」
『へえ、凄いですね。
じゃ、私は別件ありますのでこれで。』
「まあまあ♪
もっと恩師と話をしようよー♪
大人の課外授業、しよ?
あー、すっかりオスの匂いになったよねえ
童貞捨てた?
多分、相手は年下だねぇ?
君みたいな弱者チー牛ってロリメス相手にイキって大人ぶるよね♪
だから大人っぽくなったのかにゃ?
くんくんくん♪
うふふ、匂う。
匂いますにゃー♥」
『…。』
「遠市クンから、奈々ちゃんの大好きなおカネの匂いがプンプンする♥」
『何が仰りたいのですか?』
「うふふー♥
褒めてあげてるの、恩師として♥
だってそうでしょ?
オトコノコの仕事は、女の為により大きな獲物を狩ること♥
つ・ま・り♥ おカネだよね?
それが出来ちゃういい子ちゃんにはぁ♡
奈々ちゃんってばニャニャちゃんモードになっちゃうにゃん♪
いい子いい子ニャでニャで♥」
『それはありがとうございます。
それでは、私はこれで。』
「あ、待って!
奈々ちゃんお腹ペコペコにゃーん♪
狩りに成功した強いオトコノコ様にお情けを恵んで欲しいにゃ♥
にゃんにゃんにゃんにゃん、靴を舐めますぺろぺろぺろ♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
5736万2739円
↓
5735万0000円
※乞食に1万2739円を贈与
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やったぜ!」
『この靴、友人からの貰い物なんです。
次から汚さないで下さいね。』
「はいっしゅ♥」
荒木よ。
オマエ、凄いな。
改めて見直したよ。
ここまで見事にしてやられると、殺意を上回る敬意が湧いてしまう。
結局、恩師(笑)は鷹見との2人部屋に居座ることになった。
…2人はギャーギャー罵り合いながらもどこか楽しそうだ。
敵キャラがどんどん増える上に、そいつら同士が結託していくという悪夢のような展開である。
「バカヤロウ、リンには俺が居るじゃねーか。」
『あ、いえ。
社会にとっても俺の人生にとっても平原さんが一番害悪度高いというか。』
「えーーーー!?
うっそお!?
俺、オマエの味方だぞ?
運転も改善したし!」
『いや、貴方以外の大抵の人間は最初から
道路交通法に沿った運転をするんですけどね。』
結局、平原猛人も居座るつもりらしい。
『…いつ帰るんですか?』
「そりゃオマエ。
リンが帰るまでさ。
明日、釣りを教えてやるよ。」
『釣りとか興味ないですし。』
「面白いぞ?
隼人は結構ハマってたし。」
『…まあ、時間が余れば付き合います。』
今日は本当に疲れたので早々にベッドに寝転がる。
留置場で1泊した平原猛人も疲労があるらしく、酒瓶には手を伸ばさなかった。
「官弁って相変わらずマズいよな。」
『捕まり慣れてる人でもそう思いますか?』
「あちこちでパクられたからな。」
『留置場の食事なんて、どこも変わらない気がしますけど。』
「暴行で入った釜石はマズかったな。
篠山は旨いし量もあって天国だったけど。
うん、次に捕まるなら絶対兵庫の篠山がいいよ。」
『貴方みたいな人が定着するのを防ぐ為に官弁はマズいのでしょう。』
平原猛人は愉快そうに笑う。
息子が消えてから、誰も叱ってくれなくなった事が寂しかったのかも知れない。
「なあ。」
『はい?』
「オマエ、死ぬなよ。」
『人間なんだからいつかは死ぬでしょ。』
「俺より後に死ね。」
『平原さん、無駄に長生きするタイプじゃないですか。
流石に付き合いきれないっす。』
「じゃあ、最低でも今年いっぱいは生きろ。」
『…うーーーん、1年かぁ。
ちょっと先の約束は出来兼ねますね。』
「なあ、リン。
オマエって何と戦ってる訳?」
『世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築きたいだけです。』
「あー、それ100億人くらい死人が出るパターンだな。」
『死にますかね?』
「人類が5人くらいにまで減れば
揃って笑うタイミングもあるんじゃね?」
『誰も死なずに笑う方法ってないのでしょうか?』
「人間って他人に迷惑掛けてる時が
一番テンション上がる様に出来てる生き物だからな。」
『平原さん以外もそうなんですか?』
「…オマエ、一番人に迷惑を掛けた時っていつ?」
『カネを配った時ですかね。
周りにすごく怒られました。』
「楽しかったか?」
『最高でしたよ。』
「オマエみたいな奴がいるから戦争がなくならないんだ。」
2人で笑い合っているうちに瞼は落ちていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【名前】
遠市 †まぢ闇† 厘
【職業】
東横キッズ
詐欺師
自称コンサルタント
祈り手
【称号】
GIRLS und PUNCHER
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 6
《HP》 細腕
《MP》 担任は選べない
《力》 女と小動物なら殴れる
《速度》 小走り不可
《器用》 使えない先輩
《魔力》 ?
《知性》 悪魔
《精神》 女しか殴れない屑
《幸運》 的盧
《経験》 332
本日取得 0
本日利息 19
次のレベルまでの必要経験値298
※レベル7到達まで合計630ポイント必要
※キョンの経験値を1と断定
※イノシシの経験値を40と断定
※経験値計算は全て仮説
【スキル】
「複利」
※日利6%
下2桁切り上げ
【所持金】
5735万0000円
【所持品】
jet病みパーカー
エモやんシャツ
エモやんデニム
エモやんシューズ
エモやんリュック
エモやんアンダーシャツ
寺之庄コインケース
奇跡箱
コンサル看板
【約束】
古屋正興 「異世界に飛ばして欲しい。」
飯田清麿 「結婚式へ出席して欲しい。」
〇 「同年代の友達を作って欲しい。」
「100倍デーの開催!」
「一般回線で異世界の話をするな。」
〇後藤響 「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
江本昴流 「後藤響を護って下さい。」
×弓長真姫 「二度と女性を殴らないこと!」
× 「女性を大切にして!」
〇寺之庄煕規 「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香 「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介 「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
「今度、焼肉でも行こうぜ!」
藤田勇作 「日当3万円。」
〇堀田源 「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘 「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
「お土産を郵送してくれ。」
楢崎龍虎 「いつかまた、上で会おう!」
警視庁有志一同 「オマエだけは絶対に逃さん!」
×国連人権委員会 「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬 「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
水岡一郎 「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
×平原猛人 「殺す。」
「鹿児島旅行に一緒に行く。」
車坂聖夜Mk-II 「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」
今井透 「原油価格の引き下げ。」
荒木鉄男 「伊藤教諭の墓参りに行く。」
鈴木翔 「配信に出演して。」
遠藤恭平 「ハーレム製造装置を下さい。」
木下樹理奈 「一緒に住ませて」
松村奈々 「二度と靴は舐めないにゃ♥」
〇鷹見夜色 「ウ↑チ↓を護って。」
〇 「カノジョさんに挨拶させて。」
〇 「責任をもって養ってくれるんスよね?」
×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」
「王国の酒…。」
「表参道のスイーツ…。」
途中、水岡から連絡が入り俺の指名手配解除が知らされる。
すぐ後に倉沢からも確認メールが入った。
これにより、ますます明るい雰囲気になる。
「つ、次はマグロ行きましょう!
マグロ!」
余程、昨夜に満足したのか安宅が興奮気味にマグロを推すので、皆でワチャワチャと名店検索。
焼津市内の水産卸会社の直営飲食店が開催している《大トロ三昧フェア》を発見。
完全に安宅の脳が焼かれてしまう、焼津だけに。
更には隣町の清水には《まぐろ館》なる施設があることも判明し、ボルテージは極限まで上がる。
『へえ、ここから車で1時間ですか。』
「ね!?
ちょっと遠出のランチorディナーということで。
また皆でどうでしょう!?」
『ええ、狩猟を優先して頂けるなら私は大丈夫です。』
「絶対にトイチ先生の邪魔は致しませんので!」
遜ってくれているが、安宅は高額出資者である。
こちらとて無下には出来ないし、俺もこの男には最大限報いたいと考えている。
『是非行きましょう。』
と回答する。
無論、この男も大人なので、「いつ?」とは尋ねない。
回答を掘り下げないことが、互いに優先順位を理解している証左なのだ。
俺は経験値稼ぎ以上に仲間のケアを優先する。
安宅は利殖や美食以上に俺の構想を優先する。
絆こそが俺の力の源泉である。
子供じみた提案に見えても、仲間の要望はしっかりと汲み取っていく所存だ。
仲間を大切にしない奴は男じゃねえ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『は? 身元保証人?』
「ですから、ルナには身寄りがおりませんから。」
『ああ。アイツ施設から学校通ってたんだっけ?
知らんけど。』
「児童養護施設です!
何も聞いていなかったのですか?」
『いや、お互いの身の上話はしたことがないな。』
「…貴方という人は。」
『何かゴメン。』
「私は地球の法律には疎いのですが…
保釈申請は起訴後にしか出来ません。
従って勾留延長を防いで在宅起訴に持って行く方向で動くべきでしょう。」
疎くてそれかよ。
『…随分、鷹見の肩を持つんだな。』
「貴方の側室でしょう!」
『…それは理解しているよ。
面倒は見てやるつもりだ。
ただな?
身内である事が罪を軽減する条件になるとは思わない。』
「リンが天下を平定し終わった後であれば
御自身の哲学で家中を統制されるべきです。
ですが、如何に先代魔王職であったとしても、この地球では未だ私人でありましょう。
私人としての筋を通して下さい。」
『わからんな。
王国がそうであったように、我が国も法治国家だ。
私人としての筋とは、公の法に従うことではないのか?』
「…妻妾を守るつもりはないと?」
『俺が身内を庇うのは汚職だろう?』
「リンはまだ公職には就かれておりません!」
『オマエが一番分かっているんだろう?
そんなのは時間の問題だ。』
「…奥にも目を向けて下さい。
リンの立場が強くなればなるほど
機能としての奥も必要になって来るのです。」
『あのなあ。
ヒルダは何もわかってないんだ。
オマエらが封建制で社会を運営していたから
俺なりに向こうの考え方に合わせていた。
だがな?
ここは地球だ。
《コリンズ家のリン》ではなく《遠市厘》として動くと決めている。』
「わかっておられないのはリンの方です!
地球では多くの国家が、貧民には個人である事を強要しつつ
支配層は家門単位で血統の利益を保全しているではありませんか!」
『…その見解に対しては全面的に賛成かな。』
「そしてリンは遠くない未来、必ずやそちら側に入ります。」
『だろうな。
最低でも4か月後には何者かにはなっているだろう。』
「その時に備える意味でも
現段階で側室を迎えるのは反対でした。
ましてや氏素性の卑しい者など。
ただ、迎えたからには
殿方として最低限の庇護義務を果たして欲しいと申しております。」
『女は充分に守られている。
余計な事をしなければ、社会が守るし男が食わせる。
それ以上を望むのは罪悪だ。』
「何も無法をせよと申している訳ではありません。
国法の範疇において、ルナの味方で居てやって下さいとお願いしているのです。
貴方は王である前に人間でしょう!」
『王に人間性などあってはならない。』
「どれほど厳格な王とて心はあって然るべきです。」
『オマエ達は紛い物しか見た事がないから、そう思うのだ。』
「…そうですね。
向こうでは、本物にお仕えする栄誉を賜りました。」
『なら、そういう事だ。
俺は地球でも俺である事を変えない。』
「…。」
『…たまたま、昨日弁護士を拾った。
その者が使えるのか鷹見達で試してみるよ。
それでいいか?』
「ありがとうございます。」
『…なあヒルダ。』
「はい。」
『オマエの願いだから聞き入れているだけだぞ?』
「…ルナには厳しく言って聞かせます。」
それ以上この女と話す事も無かったので、倉沢弁護士に電話して鷹見の世話を依頼する。
「遠市さん…
お2人の身元引受人に?」
『公的機関に認められるかは分かりませんよ?
俺も今朝指名手配を解除されたばかりですので。』
「確かに。」
『俺は平原猛人の世話をしてやってます。
二日酔いの面倒を見てやったり、あのオッサンのパンツまで洗濯してやったんですよ?』
「いやあ、何と申し上げて良いか。」
『鷹見も平原社長と同じ浜松西警察署に居るんでしょ?
ついでにお願いしますよ。』
「ええ、まあ物理的には…
十分可能なのですが。」
『とりあえず、手付に200万振り込みます。
口座教えて下さいよ。』
「え? いや、委任契約の着手金は50万もあれば。」
『口座、教えて下さい。
あ、言い忘れてましたが、鷹見は俺の側室になりました。
母の承認も取ってます。』
「え? え? 側し…
愛人契約か何か?」
『平原社長の件も、ちゃんと動きます。
それでいいでしょ?』
結局、ゴリ押した。
向こうの気が変わらないうちに、安宅経由で振り込む。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
4669万5219円
↓
4469万5219円
※安宅一冬に倉沢弁護士事務所への報酬200万円の振込を依頼。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
念の為、皆の意見を聞く。
《鷹見は痛い目に遭うべき》、というのは俺も含めたメンバーの共通認識であったが。
同時に《愛人の尻ぬぐいは男の義務》とも指摘される。
…匙加減が難しいんだよな。
と言う訳で。
関羽の運転で、ヒルダと共に浜松西警察署に向かっている。
てっきり面会かと思ったが、違うらしい。
「「いえ、起訴前は面会出来ませんから。」」
異口同音に指摘される。
…オマエら仲良いよな。
不思議そうな顔で言われると、自分が非常識人のように思えるが、俺は帰還前までは警察の世話になんかなった事がなかったのだから仕方あるまい?
何か食べ物でも持っていってやろうと思ったのだが、食品は差し入れ禁止らしいので、途中のコンビニで雑誌を買ってやる。
あの2人が好きそうな雑誌を2冊ずつ買ってやる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
4469万5219円
↓
4469万1739円
※差入として雑誌3480円を購入。
ヤングチャンピオン烈 540円×2
ヤングキング 530円×2
実話BUNKAタブー 670円×2
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
浜松西署に入った瞬間、空気が凍り付く。
警官達が目を剥いて俺を凝視する。
『あの、今お時間宜しいでしょうか?』
受付の様なカウンターに座っていた中年のお巡りさんに声を掛けた。
相手は数秒息を飲んでから
「はい。」
とだけ短く答える。
『留置場への差し入れをお願いしたいのですが、受付はここで宜しいでしょうか。』
異様な空気。
俺の周囲をお巡りさん達がジリジリと包囲する。
「あ、あの!」
受付のお巡りさんが意を決したように叫ぶ。
『はい?』
「遠市厘さんでしょうか?」
『ええ、私が遠市です。』
「…いつも、楽しく動画を拝見させております!」
一瞬、相手の意図が読めずに困惑する。
え?
楽しく?
オマエ、勤務中だよな今?
「いやあ、こんな田舎に有名人が来て下さるなんて
一生の想い出ですよ。」
満面の笑みで受付は言った。
『…失礼ですが、貴方は今勤務中でしょう!
面会者の知名度に一喜一憂するのは公人として不謹慎ではないですか!』
「おお!
動画の通りの言動!」
その後も、警官達がニコニコしながら近づいて来て俺に雑談を持ち掛けて来る。
適当に打ち切って、鷹見と平原猛人への差し入れ手続きをした。
誰が俺の応対を担当するかで軽い口論が発生していたので、遠州人というのは好奇心の強い生き物なのかも知れない。
ただ、差し入れ手続きは結構懇切にナビしてくれたし、色々と便宜も図ってくれた。
おかげで、駆け付けて来た倉沢への引き継ぎは円滑に進んだ。
差し入れを渡し終えて、署を出ようとすると何人かの刑事がにこやかに取り囲んで来る。
逮捕かと思って身構えるも、どの刑事も異世界の話を聞きたがって来た。
「ご、ゴブリンと戦ったりしたんですか!?」
『いや、ゴブリンだからって無条件に戦ったりしませんよ。
ちゃんと話は通じる相手なので。
勤勉で気高い連中ですよ。
後、漁労文化なので日本人とは仲良くなれるかもです。』
「「「おおおおおお!!!!」」
年配の刑事さん達が少年のように目を輝かせて拳を握り締める。
「オークは?
オークは実在しますか?」
「僕も異世界に行きたいんです!」
「やっぱり、なろうとか読みます?」
「冒険者ギルドとかありました?」
何人かの刑事さんにLINE交換をお願いされるが、スマホを持ってない旨を伝え、名刺だけ受け取っておいた。
どうやら俺が異世界帰りである事は、日本国民の間では概ね共通認識らしい。
そして、日頃虐げられている人々ほど期待と羨望の感情から連絡先交換を懇願して来る。
辛い日常から精神を守る為には、異世界は必要不可欠なのだ。
俺に話し掛けて来る警官達の表情が一様に悲壮なのは、そういう理由からであろう。
『…やっぱり、警察業務は大変ですか?』
ある程度打ち解けてから俺が尋ねると、警察官達は一様に泣き笑いしながら頷いて来る。
1人の老警官が「だって上司も部下も警官なんだよ?」と諦めた様に言ったのが妙に心に残った。
結局、出された名刺は全て受け取った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
浜松西署の駐車場。
車に乗り込もうとした際、関羽が前方を見たまま喋り出す。
「七時の方向に監視者です。
黒のレクサス、地元レンタカーナンバー。
前方座席に男女一組のみ。
挙動からして警察関係者ではありません。」
『監視というと?』
「遠市先生が署内に入られて5分後に入車してきました。」
俺がサイドミラーで見ると…
途端に目が合う。
『荒木か…。』
「お知り合いでしたか?」
『ええ。
あまり良くは思われておりませんが。』
ミラー越しに目が合った荒木は車を降りてゆっくりとこちらに接近して来る。
荒木の癖にジャケット?
相変わらず良い服を着ている。
「よお。」
『やあ。』
荒木が俺に近づこうとした瞬間だった。
奴が怯えた表情で大きく後ろに飛ぶ。
「リン!
下がって!」
突如、どこからか湧いたヒルダが俺と荒木の間に割って入る。
…何かオマエ、全身が発光してないか?
「ッ!?」
後ろに飛んだ荒木が左手を真上にかざし…
空中に鉄骨!?
2人を中心に突風が起こり、獣のような咆哮が交わる。
「おおおおおおおおッ!!!!」
「あああああああああッ!!!」
え!?
ちょっと、待って。
何でいきなり能力バトルが始まってるの?
『あー、ちょっと待って!
ヒルダ! 待てッ!』
「相手は竜殺しですッ!!!!」
『荒木ッ!
こっちも引かせるから!
鉄骨を浮かべるな!!』
「トイチ!!
キサマ、異世界人を引き入れたのか!!
…そこまでして」
オイオイオイ。
ここ静岡県警の敷地だぞ?
戦闘系スキル使うか?
オマエら脳味噌なろうかよ?
『おまわりさーーーーん!!!!
あ!!!
遠藤巡査ぁッ!!!
ちょっと来て下さい!!!
早く!!!
ダッシュ!!!
他の人も呼んで!!!』
仕方ないので、さっき仲良くなった遠藤巡査(退職代行を使おうか悩み中)を呼びつける。
「え? 遠市君?」
『さっき能力バトルがやってみたいって言ってたでしょ!!!
ほら、コイツらがスキル使ってるから早く止めて!!!』
「え?
仲裁?
僕、スキルを防ぐスキルなんてまだ貰ってないよ?」
『ノンスキルでコイツら止めて下さい!
拳銃の使用を許可します!!!』
「えーー。
拳銃なんて、それは署長判断じゃなきゃ無理だよぉ。
ってか、何でこんな所に鉄骨落ちてるの!?」
『犯人はコイツらです。
早く逮捕して下さい。』
「いやいやいや、罪状は?」
『《県警の敷地内で能力バトルした罪》
とか色々あるでしょ!』
「えー?
それ、多分不起訴になるよ?
僕、滅茶苦茶怒られるよ。」
荒木とヒルダはとっくにスキルの使用体制を解除して、十分な距離を取っている。
目は切ってないが、ここでどうこうする気は失せたようだ。
『荒木~。
オマエ、この鉄骨責任もって何とかしろよ?』
「…。」
『遠藤巡査、この鉄骨アイツの所為ですからね?』
「えー、駐車場を塞がれるのは困るよ。
ほら、この位置だと刑事課の車両が出せない。」
荒木はゆっくり溜息を吐くと、指をパチンと鳴らした。
県警駐車場に無造作に転がっていた2本の鉄骨が消える。
『遠藤さん!
見ました?
ね? コイツの仕業でしょ?
妙なスキル使ってるでしょ?
ほら、逮捕。
早く。』
「え~。
遠市君。
君が思ってるほど、逮捕って簡単じゃないんだよ?
大体、罪状は何なのさ?」
『いや!
今、見ましたよね?
仮にも警察署の敷地内で鉄骨を転がしたじゃないですか!
重罪ですよ!
公権力に対する挑戦でしょ!?
あ!!
見て見て!!!
ここのアスファルト!!
ちょっと凹んでますよ!!!
ほら、逮捕!』
「確かに凹んでるけどさ。
うーーーん、これ立証出来なくない?
仮に… 荒木君だったけ?
彼の自供があったとしても、多分検察は起訴しないと思うよ?」
『卑怯だぞ、荒木!』
「いや、ヒルダ・コリンズを嗾けて来たのはオマエだろ?
そりゃビビるよ。」
『嗾けてない!
コイツが勝手に飛び出して来ただけだ!
ヒルダ、車の中に入っておけ!』
「…。」
『ヒルダ!』
ヒルダは俺を無視して荒木と俺の間に留まる。
殺気こそ消えているが、警戒態勢を解く気はないようだ。
『遠藤巡査ぁ。
コイツら異世界パワーで能力バトルしようとしてるので止めて下さい。』
「いや、止めろと言われれば止めるけどさぁ。
じゃあ、僕にも何かチートスキルを支給してよ。」
『スミマセン。
俺はスキルを授ける係ではないので。』
「いつかハーレム製造スキルを見つけたら僕にくれよ。
その条件なら民事介入してみる。」
『わかりました。
ハーレム製造スキルを確保次第、遠藤巡査に贈呈します。』
「やったぜ!」
遠藤は満面の笑みでヒルダと荒木に距離を取らせる。
さっきまで全然やる気が無かったのに、公務執行妨害やら器物破損を持ち出してネチネチと2人を牽制した。
ホルスターにもちゃんと手を掛けてくれている。
荒木は無言で両手を上げる。
唇を噛みながらヒルダは車内に戻る。
「遠市君、約束忘れちゃヤダよ♪
今の説得、最低でも君の心証1ポイントは貰えるよね?」
『わかってますって。
遠藤さんには《遠の字》仲間としてスペシャルサービスで500ポイントをあげます。』
「っしゃああ!!!」
『森さん!
ヒルダに伝えて下さい!
コイツとは話し合いをするだけだと!』
関羽とヒルダが車内で俺を睨みながらヒソヒソと囁き合う。
荒木と話している間、遠藤巡査にはヒルダ達を監視して貰う。
「他にも異世界から兵隊を呼んでるのか?」
『誤解だ!
来ていたとしてもヒルダ1人だよ。』
「連れて来ていい奴と駄目な奴の区別くらい付けろよ!
最強のカードを手元に隠し持っておいて
誤解も何もないだろう?」
『信じられないかも知れないが。
誓って俺が呼んだ訳じゃない!』
「この状況で信用出来る訳ないだろう!」
『考えてもみろ。
俺はカネを腐る程持っている。
そして年頃だ。
色々な女とセックスしたいし出来る状況だ!
なのに、束縛型の女をわざわざ呼ぶ訳ないだろ!
俺に何のメリットもないじゃないか!』
「…確かに。
信じるに足る論理的整合性があるな。」
少し考え込んでから、荒木は一段階だけ警戒レベルを下げた。
無論、重心を落として奇襲への備えは怠っていない。
『…誤解は解けたようだな。』
「印象は兎も角だがな。」
…どう思われても仕方ない。
我が国でも危険な外来生物を持ち込むことは厳しく禁じられている。
「相変わらず御活躍のようだな。
鷹見のチャンネル、バズってるぞ。」
荒木は溜息を吐きながら語り掛けて来る。
話題を変えたのはクールダウンの意味もあるのだろう。
『らしいな。
で?
何の用?』
「アイツの逮捕が全国ニュースになってるからな。
ここで張っていれば、オマエが来ると思ったのさ。」
『答えになってないな。
わざわざ俺の顔を見る為に、こんな所まで来たのか?』
「そうだよ。
不思議か?」
『…荒木、オマエ異常だよ。
俺なんかに粘着して何のメリットがある?』
「観察出来れば、オマエの戦力を分析出来る。
手の内が解からなければ、対策出来ないだろう。」
『手の内も何も。
俺はのんびりキャンプ遊びしてただけだぜ?
見て何が分かる?』
「実際、ここに来てなきゃヒルダ・コリンズの存在に気付けなかった。
これを収穫と言わずして何と言うんだ?」
…返す言葉もない。
「収穫はそれだけじゃないぞ?
他には運転席の女。
序列で言えばオマエの部下だろう?
にも関わらず全く男女の関係にある気配がない。
むしろ周囲からそう見られる事を極度に忌避しているような距離感だ。
きっと別々のパートナーが居るからだろう。
オマエ、そういう所が潔癖だから。
それを踏まえれば。
既に組織っぽいものを作り上げたと推測出来る。
間違いなく数名規模のグループを確立してるんだよ、オマエは。」
『…いい歳して探偵ごっこか?』
「生憎、オマエと違ってこっちは無力でね。
打てる手を全て打たねばならない。」
『じゃあ。
ここで俺を殺せばハッピーエンドじゃない?』
「だから、それすらも難しいんだって。
ヒルダ・コリンズ。
車内で狙撃体勢に入ってる。
あの巡査ごと俺を撃つつもりだ。」
『ヒルダ!!!
コイツは兎も角、遠藤さんに傷一つ付けるなよ!!』
確かに、微かな光が関羽の頬を照らしているのが一瞬見えた。
あのエフェクトは戦闘系スキルの特徴だ。
それもケネス・グリーブの様に身体を強化する性質の能力ではなく、カインやアランの様にエネルギーを外部に射出する時のエフェクト。
俺がしばらく見ていると、ヒルダが無表情のまま光を消した。
あの女なら躊躇わずに撃つだろうな。
「なあ、遠市。
俺は何もオマエと戦いたい訳じゃないんだ。
どうせ勝ち目はないしな。
今からでも考え直してくれないか?
経済テロさえやめてくれればいいんだ。」
『俺はただ世の中を良くしたいだけだよ。』
「…。
なあ、遠市。
わかるだろ、今の情勢。
コ□ナもまだ収まらない、ロシアが黒海の封鎖を宣言した。
何よりイスラエル関連が本当にマズいんだ、いつ中東戦争が再開されてもおかしくない。
恐らく年内にはパレスチナ側との大々的な衝突が起こる。」
『らしいな。』
「これだけ円安が続いている状況で…
オマエ、今の資産は日本円で持ってるんだろ?
異世界の時みたいに無限に刷られたら、日本の購買力が喪失してしまう。
特に原油、このペースで行けば1バレル140ドル台に突入する恐れがある。
デッドラインだ。
産業が総崩れになるぞ…」
『もうオマエは経済コメンテーターにでもなれよ。』
「危機感だけは、奴ら以上に持っている。」
『なあ、荒木。
俺より危険な存在なんて幾らでも居るぞ?』
「居るわけねーだろ!」
…うん、居ないな。
まあ、どう考えても俺が一番危険だよな。
『でも安心してくれよ。
俺、とっくに封殺されてるから。
たった一人のバケモンに目を付けられたばかりに
全く身動きが取れてない。』
「鷹見か…
なあ、アイツと付き合うのだけはやめとけ。」
『スマン。
色々あって鷹見は俺の側室になった。』
「オマエなー。」
『だからゴメンって。』
「異世界でもそうだっただろ?
少しは懲りろよ。」
『一言弁解させてくれ。』
「…どうぞ。」
『金銭面に限れば、この宇宙で俺が最も価値がある。
だから、よりパワーのある女が俺の隣に立つ権利を獲得してしまう。
ヒルダとか鷹見とか、アイツら力づくで押し入って来るんだよ。
拒否権ない訳。
言っておくけど俺、普通にアイツらにボコられてるからな?
この前なんて配信中に刺されたし。』
「あのシーン凄かったな。
特撮?」
『いや、アレはマジ!
血がピューピュー出とったわ!!』
「ま、オマエにはいいお灸だ。
あれに懲りたら、少しは配慮というものを覚えるんだな。」
『うん、なので最近は女に細やかに気を遣ってる。
土産に蜜柑をくれてやったりな。』
「へえ。
オマエも意外に考えてるんだな。」
荒木如きに指摘されるまでもない。
俺だっていつまでも昨日までの俺じゃない。
『なあ!
代案聞かせろよ?』
「?」
『俺が皆にカネを配るのが反対ってなら。
オマエは何をするんだよ?』
「さあ、カネでも配るんじゃないか?」
『何だよそれ。』
「無限のオマエが配るのと、有限の俺が配るのでは全然違うだろ?」
『…まあ、な。
否定はしないさ。
今の荒木って結構儲けてそうだし、そこそこは配れるんだとは思う。
良かったじゃねえか、いつも鉄道グッズ欲しがってたもんな。』
「グッズは全て処分した。
もう手元には鉄道株しか残ってない。」
『そっか、可哀想にな。
俺の所為でそうなってるのなら一言詫びておくよ。』
「その詫びは素直に取っておく。
じゃあな。」
『帰るのかよ?』
「俺も色々忙しいんだよ。
遠市の手の内を見れた。
来た価値あったよ。」
『おい。』
「ん?」
『オマエの手の内も見せろよ。
毎回毎回コソコソ見張りやがって。』
「…前に1個見せたじゃないか?」
『?
俺、オマエのことなんか何も知らないぞ。』
荒木は溜息を吐いてから、どこかに電話を掛ける。
背後のレクサスの扉が開く。
「じゃーーーーん♪
遠市クン、おっひさしぶりーーー♪
恩師参上♥
君が仰いで尊ぶべき恩師ちゃんの奈々ちゃんで~す♪」
『…マジかよ。』
「オマエに勝てそうなカードを探してたらな?
結局、この女に行きついた。
本当はサプライズ的にオマエを襲撃させるつもりで
ここに持って来たんだがな。 」
『…そこまでして俺を止めたいか。』
「怪物に立ち向かう為には、自分も怪物になる必要があるんだよ。」
「遠市クン♪
君もおカネ持ちになったんだって?
この間はごめんねー、遠市クンがそこまでのおカネ持ちって知らなかったの!
にゃんにゃん♥ ごろにゃんにゃーん♥
ねえ、先生最近ちょっとピンチなんだ♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
4469万1739円
↓
4468万1739円
※乞食に1万円贈与
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やったぜ!
いやー、おねだりしてみるものねー♪
遠市クン♪
先生はいつだって君の味方だからね♪」
『いや、どちらかと言えば敵かと…
荒木、オマエここまでやるか?
一応知らない仲じゃないんだから
もう少し手心とか、そういうものをだな!』
「オイオイ、守勢に回った瞬間被害者ヅラか?
じゃあオマエも地球に少しは手心加えろよ。」
「そーだそーだ♪
話の流れ全然理解出来てないけど、やっちゃえやっちゃえ!
ふっふっふ、遠市くーん♪
奈々ちゃんのテツ君にあんまり生意気な態度取らない方がいいよ~?
テツ君ってただのキモ鉄だと思ってたけど
すっごく喧嘩強いし、何より大金持ちなんだからね!」
「奈々。オマエはまだ理解出来てないと思うが
俺なんか足元にも及ばない超富豪だぞソイツ。」
「え!?
うっそぉ♡
そこまでっすか♥????
にゃにゃにゃ!!!
奈々ちゃんニャニャちゃんモードになっちゃうよ!?
テツ君よりおカネ持ってるって凄いことだよ!?」
乞食が擦り寄って来る。
「うぇひひひひ
と、遠市クン♪
先生ね? 貴方なら絶対成功すると信じてたわ♪
恩師としてとても誇らしいにゃん♥
ウェヒッ♪
お、おカネそんなに持ってるの?
うひひ、何かボロいシノギでも見つけたんスか?
奈々ちゃんにもオコボレ恵んで下さいよぉ♡」
『いえ、ぼちぼちです。』
「にゃーーーーん!!
儲けてるオトコノヒト特有の塩対応!!!
ねえ、先生ね?先生ね?
君を担任してた頃から、ずっと惹かれてたんだ♪
勿論、性的な意味で♥
抱いて下しゃい、にゃんにゃんにゃーん♪
本当はね?
すぐにでも告りたかったんだけど。
奈々ちゃんってばキミの恩師じゃない?
だからねぇ♡
秘めたる想いを噛み締めてたの♥
あ、おっぱい揉む?」
『荒木ぃーーー!
幾らなんでも許されないやり方ってあるぞ!!!
恥を知れ、この糞野郎が!!!』
「死にたいくらい恥じてるさ!!!
苦渋の決断だ!
俺だって忸怩たる思いでやってるんだよ!
仕方ないだろ!?
遠市を牽制出来るカードなんてそうそうないんだから!」
『オマエみたいな奴がいるから戦争がなくならないんだよ!』
荒木鉄男。
前々から我の強さは知っていたが…
こんな奴とは思わなかった。
見損なったよ、そこまでして勝ちたいか?
オマエ、戦争で毒ガス使うタイプだろ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、数時間。
荒木を見送ってから浜松西署の駐車場で待機。
遠藤巡査が総務課長を連れて来て、荒木の鉄骨痕を検分する。
「ああ、確かに…
衝撃の跡だねえ。
放置は難しいかな…
あー、でもこれ予算降りるかなあ。」
『あのー、課長。
幾らか私から出させて頂けませんか?』
「いやー。
寄付行為は違法ではないんだけどね?
法律的には警察署へも寄付は可能なんだけど。
警察への寄付は世論の誤解を招きかねないから…
不文律上のルールが結構色々あるのね?
まあ、この場合は本部長に判断を仰いで、OKが出てからだよね。
受け取るのは。
ただ、遠市さんは色々あった訳じゃない?
鷹見夜色の件とか…
だから、結局受取の許可は出ないんじゃないかな?
私が本部長なら、君からの寄付は…
ちょっと…」
『ですよね。
スミマセン。
諦めます。』
「うん。
まあ、気持ちは嬉しいから。
感謝もしてる。
お気遣いありがとうね。」
その後、交通課の白バイ隊員達がやって来て。
「これ、タイヤへの損耗キツイですよ?」
と鉄骨痕に眉をひそめる。
偉い人が何人か出て来たので、再度事情を説明して謝罪。
副署長さんから警察敷地内事故に関する軽いレクを受けた。
幸い、向こうはそこまで怒っていないらしく
《今後、陥没が著しく悪化するようなら連絡するかも知れない》
とのコメントで収まった。
友好的な雰囲気になり掛けるも、駐車場でウンコ座りして漫画を読んでる鷹見と平原猛人の下品な笑い声で、その都度ぶち壊しになる。
『おい! 警察署の敷地内で唾を吐くな!!!』
「えー?
ウ↑チ↓そんな下品なことしないッスよww
かーっ、ぺッ♪
ペペぺのぺっ♪」
「リンの差し入れ、チョイスいいよな。
昔バイク乗ってったから、この《ばくおん!!》って漫画
すっげぇ刺さるわ。
ぺっぺっぺ。」
屑共はバイク談義で盛り上がっている。
先日までの遺恨はリセットされたらしい。
『皆さん、申し訳ありません。
すぐにアレを回収しますので。』
「あーいやいや。
遠市クンが謝ることじゃないよ。
色々気を遣ってくれてありがとう。
静岡で困った事があったら、西署に連絡してきてくれていいから。」
『お気遣い、深く感謝致します。』
車に戻る平原猛人に『煽り運転しちゃ駄目ですよ?』と念を押すもヘラヘラしてたので、無言でトレイルカメラを助手席のシートに突き刺してやった。
どういう訳か嬉しそうに大笑して、「わかったわかったw」と言いながら先に帰路につく。
あのオッサン絶対に懲りてないな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いや、それはいいんスけどね?
ダーリン様、徐々にハーレム肥大化してません?」
『鷹見、穿った見方はやめろ。
森さんは清磨さんのフィアンセだ。
結婚式に出席する約束もしている。』
「でも、ウ↑チ↓とヒルBAAはメス穴確定な訳じゃないッスか?」
『オマエラに対しても節度はちゃんと守るぞ?
基本、男所帯なんだから。』
「えーーー、つまんなーーい!!
ブーブー。」
『俺は元々、あのメンバーと浜名湖に来たんだよ。
言っとくけど、仕事だからな?』
「とか何とか言ってー。
着々とメスオナホ増やしてる癖に!
大体、コイツは何でこんな所に居るんスかーーー!!!」
「やっはろー♪
超絶ハイパー恩師の奈々ちゃんでーす♪
可愛くってゴメン♥」
「アンタ、教師クビになったって聞いたけど?」
「クビじゃないよぉ♡
リフレッシュ期間だよぉ♪」
「ねえ、ダーリン様。
大正義ヒロインのウ↑チ↓が居るんですよ?
大BBAと小BBAを増やすのヤメてくれます?」
「あー、恩師に向かってBBAって何事よ!
あったまきた!!
奈々ちゃん自らを中BBAに格上げして、アンタなんか小BBA送りだよ!!」
「はぁーーー!!?
ウ↑チ↓若いし!
縁起でもない名前つけんなし!
このAV女優!!」
「ちょっと!!
その話やめろって言ってるでしょ!!
奈々ちゃん3本しか出てないからね!!」
「あははは!
ダーリン様聞きましたぁ?
コイツ、糞ビッチですよww
3本!? AVに3本!!!
うっわー引くわーww」
「はぁ!?
ルナちゃんだって出てるでしょーーー!!」
「はああ!?
ダーリン様の前で余計なこと言うんじゃねーよ、殺すぞ!!」
ドコッ!
「うにゃぴッ!?
痛ったーい。
やめてよねー!
奈々ちゃんってば、恩師力を駆使して
生徒の個人情報をいつでも週刊文春に売れるように
永久保存してるんだからね!」
「キショ! キショ! キショ!
ダーリン様!
こんな女の戯言を真に受けちゃ駄目ですよ!
ウ↑チ↓2本しか出てませんから!
こんな3本も出るような糞ビッチとは違いますからね!!」
…亞聖よ、地球は随分平和になりました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
荒木の戦法は極めてシンプルだ。
《足を引っ張るタイプのゴミを俺に押し付ける》
考えれば考える程、スマートな手口だと思う。
俺が知る限りダントツで最低の屑を擦り付けて来やがった。
ただでさえ鷹見と平原猛人に相当なリソースを奪われているので、かなり苦しい。
『ヒルダ、少しいいか。』
「…はい。」
『あの松村奈々教諭。
俺が通っていた学校の教師だ。
まあ、見ての通り色々問題がある人物なんだが。
アレの管理もオマエに任せていいか?』
「別に側室にする予定はないのですよね?
では私の範疇ではないような気もしますが?」
『だから頼んでいる。』
「ルナに殺させますか?」
『駄目だ。
例の侮辱動画に松村も登場してる。
すぐに世論が俺の指示だと悟る。』
「松村に何か使い道は?」
『デバフ。
存在するだけで組織が弱体化する。』
「リンに敵対する組織がないかリストアップしておきます。」
『俺に敵なんて存在しない。』
「では始末しても差支えのないタイミングを考えておきます。」
『そこら辺は全部ヒルダに任せるよ。』
「…結局、荒木鉄男は何を企んでるのですか?
あの者の行動原理が未だに理解出来ないのですが。」
『アイツは単なる穏健派。
穏健派だから俺の急進性を穏健でない手段を使ってでも抑止しようと考えている。』
ヒルダの荒木への警戒心は強い。
実際、向こうでも俺と口論している場面を目撃している訳だし
何より、奴は単独での竜殺しに成功している。
『俺、今まであんまり意識してなかったけど。
竜を討伐するって…
やっぱり凄いことなの?』
「竜退治は建国神話で記述されるような偉業です。
それを単独で成し遂げたのですよ?
本来なら全世界が荒木鉄男に熱狂している筈でした。」
そう。
ソドムタウンに単身やって来た荒木は竜の死骸を運搬業者に曳かせていた。
自分が偉大過ぎて見落としていたが、奴こそが猛者なのだ。
『だよな?
あんまり周りが騒いでないから
俺も感覚がマヒしていた。』
「リンという現人神が奇跡を起こしている最中でしたから。
大抵の重大事は流されてしまっておりました。
帝国皇帝の死、教団の壊滅、王国の崩壊。」
『え? やったのは全部オマ…「兎に角。 荒木鉄男は危険です。」
あ、遮りやがった。
「もっと警戒心を持って下さい。
こちらの世界の事も軽率に話しているようですし。」
『いや、召喚の件に関しては本来のセオリーなら隠すべきだよ。
流石に俺も解ってるって。
ただ、俺が異世界帰りだって全員知ってる訳じゃない?
オマエのウクライナ偽装が、程よくブラインドになってるとは言え、さ。』
「申し訳ありません。
こちらも何の予備知識もないまま…
消去法で掴んだ立ち位置ですので。」
『ヒルダを責めている訳じゃないさ。
ただ、異世界待望は最も大きな民意だ。
それを利用しない手はないじゃないか。
荒木や鷹見にもせいぜい踊って貰うさ。』
「私は?」
『一番大切な人を道具扱いは出来ないなあ。』
「…ハア(溜息)
せいぜい邪魔にならない場所で踊っておきます。」
『それは助かる。』
…ヒルダ、鷹見、荒木、恩師(笑)。
どうやら地球は俺を楽に勝たせてくれないらしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ヒロノリさん、申し訳ありません。
皆にも謝っておいて下さい。』
「担任の先生なんでしょ?
じゃあ、無下に出来ないのも仕方ないよ。」
『在学中から、かなり悪質なトラブルメーカーだったので。
カネに汚い上に権利意識だけは非常に高いです。
人の為には絶対にリソースを注がない癖に、自己保身には形振り構いません。
約束は全て平然と破って悪びれることがありません。』
「何かいいトコはあるの?」
『いやあ、私や級友も美点は探してみてはいたのですが。
未だ見つからず。』
「ふむ。
じゃあ、鷹見さんと牽制させ合うしかないね。」
…みな考える事は一緒だな。
『アイツら一緒に置いておくのは怖いんですよ。
結託された時の害悪度が洒落にならない。
でも、鷹見なら松村を押さえてくれそうな気もするんですよね。』
「ふふふ。」
『?』
「今のトイチ君。
結構楽しんでるっぽいw」
『もー、勘弁して下さいよww』
「もう舐めプは無理?」
『ここから先は形振り構わずですね。
カネを集めるスピード・狩猟頭数・政治的発言
全てが激増すると思います。』
「僕に出来る事はある?」
『幹部っぽい役割をお願いする場面が増えると思います。』
「幹部ってw
僕なんか器じゃないよw」
寺之庄は鷹揚に笑うが、その姿が既に大器である。
残念ながら、俺ではビジュアル的に世論を説得できない。
矮小過ぎるのだ。
だが、寺之庄や後藤のような体格の良い美男子が代わりに発言してくれれば、大衆は耳を傾けてくれる。
異世界でも、四天王フェルナンにスポークスマンを任せた瞬間に世論が一気に俺に好意的になった。
あの成功体験から俺は真摯に学ばねばならない。
世の中など結局は《何を言うか?》ではなく《誰が言うか?》なのだ。
そして残念ながら、俺は《誰》ではない。
これからもそれを弁え続ける事でのみ、俺にも勝ち筋が見えて来る。
「報告するね?
今日の出資は2億5000万円。
僕や飯田夫妻は銀行預金をほぼ吐き出したけど
安宅さんはもっと積むつもりって言ってた。
今持ってる不動産を全部処分すれば最低でも7億を越えるキャッシュを見込めるんだって。」
俺が日利を引き上げる努力をしているように、出資者の彼らも資産の現金化・引き出しに奔走してくれている。
そう。
これが資本の本質なのだろう。
より高い金利を設定出来る者に皆がカネを託すのだ。
要は増やす能力のある者にカネが集まり…
その才覚の無い者のは集まらない。
父さん、ゴメンな。
俺はもう世の中の仕組みから目を逸らさないことにするよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
4468万1739円
↓
2億9468万1739円
※出資金2億5000万円を預かり
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この3億弱という数字は世界を動かすにはあまりに僅かな額だが、【複利】を持つ俺が動かせる元手としては悪くない。
後は速度だ。
今日は時間を奪われたが、明日からイノシシを殺し続ける。
『じゃあ、今日の配当は500万円の計算になるのですが。
…あの、分配足りてます?』
「いやいや!
足りてるなんてもんじゃないよ。
500万なんて大金だよ?
…だって、奇跡だから確定申告のしようも無い訳でしょ?」
『まあ、神様の思し召しですから。』
「しかも、配当額をいきなり倍にしてくれた訳じゃない?
今日はみんなで話あってたんだ。
増やしてくれた分、僕らも貢献しなくちゃいけないって。」
『いえいえ。
増額は、それだけ皆さんに助けられたから出来ることですよ。』
しばらく互いに「いえいえ」往還を交わしているうちに17時が来る。
《1768万1000円の配当が支払われました。》
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
2億9468万1739円
↓
3億1236万2739円
※配当1768万1000円を取得
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
1億円の重量は約10キロ。
つまり総額が30キロを超えた寸法になる。
アスリートの後藤や江本にとっては大した重量ではないが、俺の細腕ではそろそろ取り回しが苦しい。
これは俺達のやっている事が、個人レベルの火遊びで無くなって来た事の証拠である。
寺之庄も真剣な表情で考え込んでいる。
キャンピングカーでウロチョロしている現在のやり方。
楽しいのは確かだが、いつまでも続けられないと知っているのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
3億1236万2739円
↓
3億0736万2739円
↓
5736万2739円
※配当金500万円を出資者に支払い
※出資金2億5000万円を別に保管
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「今、僕と真姫は2000万円出資してるのね?」
『ええ、ありがとうございます。』
「昨日から分配額が40万に上がったんだ。
これって、もうベテランサラリーマンの月給な訳じゃない?」
『ええ。
私は会社勤めの経験がないので、よくわからないのですけど。』
「金銭感覚が壊れちゃったよw」
『わかります。
私も、多分この先勤め人にはなれないと諦めてますw』
談笑した後に寺之庄は外から安宅を呼び、自分は車外のバーベキュー台に向かう。
金額が膨れている事には安宅も怯えており、「不動産を提供するので定住してみないか?」と提案される。
移動にはリスクが大きい。
まず事件・事故に巻き込まれる確率が格段に上昇する。
鷹見と恩師(笑)がこの先も付いて来るのであれば、トラブルの発生確率は数万倍に高まるだろう。
現に俺、普通に刺されたしな。
更に出資者たる安宅としては、自分以上の出資者が現れる恐怖とも戦わなくてはならない。
旅を続ければ、嫌でも知己は増えるからだ。
その中には富豪だって当然居るだろう。
幾ら安宅が金持ちとは言え、所詮は一代で資産を形成したばかりのトレード成金である。
何百億をポンと出せてしまう大富豪が出てくれば、今の出資者がパージされる可能性だってあるのだ。
例えば1000憶円を預けっぱなしにしてくれる大金持ちが現れた場合。
俺もその者の元での定住を真剣に考えるかも知れない。
現時点の日利でも、毎日60億円ずつ上積みされていくのだから。
安宅はその事態を極度に恐れている。
『その場合も安宅さんを通しますよ。
先日も申し上げた通り、1%を中抜きして下さって構いませんので。』
「…いや、それではトイチ先生にメリットがありません。」
『そうでしょうか?
中間的な存在が居てくれれば、こっちは自由を確保出来る可能性が高まります。』
「ふむ。
伝書鳩としてなら、お役に立てる自信はありますが。
それだけでは。」
『じゃあ、もしもの話なのですが
安宅さんには不動産関連をお願いさせて貰えませんか?』
「お!
それならお役に立てるかもです!
不動産投資は歴が長いので!」
『あ、すみません。
あまり土地で儲ける気はないんです。
寧ろ、貴方にお願いしたいのは拠点の確保ですね。
例えば、このまま静岡県に縁が出来て首都圏との往復が必要になった場合。
東京・静岡に安全な拠点が必要になって来る訳ですよね?』
「なるほど!
セーフハウス確保ですね!
はい、貢献出来ます!」
『じゃあ、各地に拠点が必要になれば
安宅さんに色々お願いさせて下さい。』
「世界漫遊が始まるのですか?」
『せいぜい国内漫遊が限界でしょう。』
ヒルダの国籍が曖昧だからな。
アイツ、地球に転移した初期にロシア人を自称したりウクライナ人を自称したりで設定をコロコロ変えていたらしい。
それがここに来てボディブローのように効き始めている。
ウクライナ難民からはSVR(ロシア対外情報庁)と思われてるし、ロシア難民からはCIA(米国中央情報局)だと疑われてる。
…何せこの女はガタイがいい上に、眼光が鋭い。
情報将校か何かに見えるのは当然だろう。
実際、異世界で謀略戦の指揮を執っていた訳だしな、それっぽくて当然だろう。
そんな怪しい存在なので、とてもじゃないがヒルダ・コリンズは国外に出れる状態ではない。
少なくとも西側圏と東側圏には行かない方が無難だろう。
その息子である俺が海外に行くのは…
ちょっと冒険というか。
普通に空港で拘束されて防諜機関に直送されそう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
安宅との打ち合わせを終えて俺が外に出ると恩師(笑)が擦り寄って来る。
「うっふっふ、遠市ク~ン♥」
『何でしょうか?』
「なんだかいい匂いがしたので
やって参りましたにゃ♪」
『匂い?
ああ、これから肉を焼きますので松村先生もどうぞ。』
「あははー♥
相変わらず嘘が下手だねww
私の教育が行き届かなかったかな?
恩師反省♪」
『…仰る意味がわかりません。』
「うふふー。
女はねー、オトコノコの100倍は鼻が利くのだ♪
遠市クーン♥
君、先生に何か隠し事してないかにゃ?」
『隠す?
さあ、何のことやら。』
「知ってたぁ?
女はねえ?
匂いでオトコノコの価値を判別する能力があるのだよ♪」
『へえ、凄いですね。
じゃ、私は別件ありますのでこれで。』
「まあまあ♪
もっと恩師と話をしようよー♪
大人の課外授業、しよ?
あー、すっかりオスの匂いになったよねえ
童貞捨てた?
多分、相手は年下だねぇ?
君みたいな弱者チー牛ってロリメス相手にイキって大人ぶるよね♪
だから大人っぽくなったのかにゃ?
くんくんくん♪
うふふ、匂う。
匂いますにゃー♥」
『…。』
「遠市クンから、奈々ちゃんの大好きなおカネの匂いがプンプンする♥」
『何が仰りたいのですか?』
「うふふー♥
褒めてあげてるの、恩師として♥
だってそうでしょ?
オトコノコの仕事は、女の為により大きな獲物を狩ること♥
つ・ま・り♥ おカネだよね?
それが出来ちゃういい子ちゃんにはぁ♡
奈々ちゃんってばニャニャちゃんモードになっちゃうにゃん♪
いい子いい子ニャでニャで♥」
『それはありがとうございます。
それでは、私はこれで。』
「あ、待って!
奈々ちゃんお腹ペコペコにゃーん♪
狩りに成功した強いオトコノコ様にお情けを恵んで欲しいにゃ♥
にゃんにゃんにゃんにゃん、靴を舐めますぺろぺろぺろ♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
5736万2739円
↓
5735万0000円
※乞食に1万2739円を贈与
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やったぜ!」
『この靴、友人からの貰い物なんです。
次から汚さないで下さいね。』
「はいっしゅ♥」
荒木よ。
オマエ、凄いな。
改めて見直したよ。
ここまで見事にしてやられると、殺意を上回る敬意が湧いてしまう。
結局、恩師(笑)は鷹見との2人部屋に居座ることになった。
…2人はギャーギャー罵り合いながらもどこか楽しそうだ。
敵キャラがどんどん増える上に、そいつら同士が結託していくという悪夢のような展開である。
「バカヤロウ、リンには俺が居るじゃねーか。」
『あ、いえ。
社会にとっても俺の人生にとっても平原さんが一番害悪度高いというか。』
「えーーーー!?
うっそお!?
俺、オマエの味方だぞ?
運転も改善したし!」
『いや、貴方以外の大抵の人間は最初から
道路交通法に沿った運転をするんですけどね。』
結局、平原猛人も居座るつもりらしい。
『…いつ帰るんですか?』
「そりゃオマエ。
リンが帰るまでさ。
明日、釣りを教えてやるよ。」
『釣りとか興味ないですし。』
「面白いぞ?
隼人は結構ハマってたし。」
『…まあ、時間が余れば付き合います。』
今日は本当に疲れたので早々にベッドに寝転がる。
留置場で1泊した平原猛人も疲労があるらしく、酒瓶には手を伸ばさなかった。
「官弁って相変わらずマズいよな。」
『捕まり慣れてる人でもそう思いますか?』
「あちこちでパクられたからな。」
『留置場の食事なんて、どこも変わらない気がしますけど。』
「暴行で入った釜石はマズかったな。
篠山は旨いし量もあって天国だったけど。
うん、次に捕まるなら絶対兵庫の篠山がいいよ。」
『貴方みたいな人が定着するのを防ぐ為に官弁はマズいのでしょう。』
平原猛人は愉快そうに笑う。
息子が消えてから、誰も叱ってくれなくなった事が寂しかったのかも知れない。
「なあ。」
『はい?』
「オマエ、死ぬなよ。」
『人間なんだからいつかは死ぬでしょ。』
「俺より後に死ね。」
『平原さん、無駄に長生きするタイプじゃないですか。
流石に付き合いきれないっす。』
「じゃあ、最低でも今年いっぱいは生きろ。」
『…うーーーん、1年かぁ。
ちょっと先の約束は出来兼ねますね。』
「なあ、リン。
オマエって何と戦ってる訳?」
『世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築きたいだけです。』
「あー、それ100億人くらい死人が出るパターンだな。」
『死にますかね?』
「人類が5人くらいにまで減れば
揃って笑うタイミングもあるんじゃね?」
『誰も死なずに笑う方法ってないのでしょうか?』
「人間って他人に迷惑掛けてる時が
一番テンション上がる様に出来てる生き物だからな。」
『平原さん以外もそうなんですか?』
「…オマエ、一番人に迷惑を掛けた時っていつ?」
『カネを配った時ですかね。
周りにすごく怒られました。』
「楽しかったか?」
『最高でしたよ。』
「オマエみたいな奴がいるから戦争がなくならないんだ。」
2人で笑い合っているうちに瞼は落ちていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【名前】
遠市 †まぢ闇† 厘
【職業】
東横キッズ
詐欺師
自称コンサルタント
祈り手
【称号】
GIRLS und PUNCHER
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 6
《HP》 細腕
《MP》 担任は選べない
《力》 女と小動物なら殴れる
《速度》 小走り不可
《器用》 使えない先輩
《魔力》 ?
《知性》 悪魔
《精神》 女しか殴れない屑
《幸運》 的盧
《経験》 332
本日取得 0
本日利息 19
次のレベルまでの必要経験値298
※レベル7到達まで合計630ポイント必要
※キョンの経験値を1と断定
※イノシシの経験値を40と断定
※経験値計算は全て仮説
【スキル】
「複利」
※日利6%
下2桁切り上げ
【所持金】
5735万0000円
【所持品】
jet病みパーカー
エモやんシャツ
エモやんデニム
エモやんシューズ
エモやんリュック
エモやんアンダーシャツ
寺之庄コインケース
奇跡箱
コンサル看板
【約束】
古屋正興 「異世界に飛ばして欲しい。」
飯田清麿 「結婚式へ出席して欲しい。」
〇 「同年代の友達を作って欲しい。」
「100倍デーの開催!」
「一般回線で異世界の話をするな。」
〇後藤響 「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
江本昴流 「後藤響を護って下さい。」
×弓長真姫 「二度と女性を殴らないこと!」
× 「女性を大切にして!」
〇寺之庄煕規 「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香 「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介 「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
「今度、焼肉でも行こうぜ!」
藤田勇作 「日当3万円。」
〇堀田源 「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘 「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
「お土産を郵送してくれ。」
楢崎龍虎 「いつかまた、上で会おう!」
警視庁有志一同 「オマエだけは絶対に逃さん!」
×国連人権委員会 「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬 「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
水岡一郎 「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
×平原猛人 「殺す。」
「鹿児島旅行に一緒に行く。」
車坂聖夜Mk-II 「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」
今井透 「原油価格の引き下げ。」
荒木鉄男 「伊藤教諭の墓参りに行く。」
鈴木翔 「配信に出演して。」
遠藤恭平 「ハーレム製造装置を下さい。」
木下樹理奈 「一緒に住ませて」
松村奈々 「二度と靴は舐めないにゃ♥」
〇鷹見夜色 「ウ↑チ↓を護って。」
〇 「カノジョさんに挨拶させて。」
〇 「責任をもって養ってくれるんスよね?」
×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」
「王国の酒…。」
「表参道のスイーツ…。」
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四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
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【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
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