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【転移29日目】 所持金150億7300万ウェン 「何人かが絶叫して命乞いしたが怖かったので殺した。」
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目を覚ますと昼間だった。
かなり日が高い。
咎めるような表情をしてしまっていたのだろうか。
「かなりお疲れの模様でしたので。」
とヒルダが補足する。
馬車は淡々と進み続けており、母娘の報告からも俺の体調以外に問題が無い事が理解出来た。
護衛が幌越しに様子を尋ねて来ると
「主人の体調は戻りました。」
とコレットが短く応えていた。
===========================
小休止の際、周囲を見渡していると風景が変わっていた。
あれだけ林立していた宗教施設の尖塔が見当たらない。
「この辺は天領だからねえ。
のんびりした景色でしょう。」
カインは暗に《教団自治区の実態はああも醜悪なので、当てられて体調を崩したのはおかしい事ではない》と言ってくれている。
『昨日は申し訳ありませんでした。
配当をお渡しする前に倒れてしまっていたようで。』
「いやいや!
あれは貴方の落ち度ではない。
寧ろ免罪符を買わされる時に助けられなかった事を悔やんでおりました。
あんな脅迫まがいの口上で売りつけてくるとは思いも寄らず…」
そりゃあ、治安機関との親密さを誇示されながら、意味ありげな口調で家族や仲間の名を読み上げられてしまったらな…
例え10億ウェンでも買わざるを得ないじゃないか。
ボッタクリでも涙を呑んで従うしかないじゃないか。
『まずはお2人の配当を支払わせて下さい。』
==========================
【所持金】
134億5500万ウェン
↓
130億8300万ウェン
※カイン・R・グランツに4400万ウェンの2日分利息を支払。
※ドナルド・キーンに3億2800万ウェンの2日分利息を支払。
==========================
俺は延滞金の支払いを申し出たが「その条件は契約に無い」と拒絶されてしまった。
まあ確かにそうだ。
額が額である。
例え善意であっても、契約外のアクションを取ってしまっては、却って相手に不安感を与えてしまうな。
俺は浅慮を詫び、2人に対して健康管理の徹底を約束した。
そのままキーン・カインは俺の馬車でコレットが用意した軽食を取る。
母娘は次の小休止までカインの馬車で彼の家族と歓談して貰うことになった。
何から何まで男の都合で申し訳ない。
==========================
馬車に揺られながら、商売の話で盛り上がる。
やはり男同士で居るのが一番楽しいな。
昨日のこともあったせいか、2人は明るい話題を意識してチョイスしてくれた。
声を抑えるのに少し苦労するw
それにしても…
施設農業・手工業・錬金術の特区だと聞いていたから、近代的な街並みを想像していたのだが…
まるで荒野じゃないか。
走行ルートが中心地を避けているのだろうか?
「特区と言っても、帝国に負けたり教団に接収されたりして土地を追われた業者を放り込んだだけだからね。
ココ、元は荒野だから。
移住してきた連中は、まずは開墾から始めさせられる。」
『なるほど。
先日の教団自治区とは人口密度が全然違いますね。』
「ここはカネがないエリアだから、
行政サービスも最低だしね。
酷いものだよ。
入植してきた業者は悪くないんだけどね。
王国もそこまで手が回らないんだ。」
わかる。
教団自治区を走っていた時は丁寧に道路標識が整備されていたのでマッピングの必要が全く無かったのだ。
自分が自治区内のどの辺を走っているのか、すぐに理解出来た。
だが、ここは…
単なる原っぱにしか見えない。
==========================
「今、宜しいですか?」
不意にグリーブが幌越しに声を掛けて来た。
やや口調が厳しい。
『はい!
何かありましたか?』
「数分前から怪しい集団が並走しております。
目算で20騎。
この車両からは死角ですが、9時の方向です。」
『と、盗賊か何かでしょうか?』
「装備がかなり本格的ですね。
ただ軍隊経験がない所為でしょうか、隊列が滅茶苦茶です。」
『あまり強くない盗賊?』
「いえ、ああいうのが一番タチが悪いのです。
相手が弱いと判断すれば、後先考えずに襲撃して来ますので。」
『で、では襲われますか?』
「こちらの練度をかなり警戒しているようですね。
遠巻きに観察されています。
ダグラス組の牽制が上手く行ってます。
ああいう統率の取れた手練れが車列に張り付かれたら、接近するのも一苦労ですよ。
あー、あの感じはこちらが小休止するタイミングを伺ってますね。
かなり嫌らしい動きをしてます。
向こうなりに威嚇しているつもりなのでしょうか…」
『炸裂弾に凍結弾、使って頂いて構いませんので。』
「助かります。
ただ、こちらはアウェイなので戦闘になるとしても
極力静かに済ませます。」
なるほど。
素人意見を出してしまって気恥ずかしい。
そりゃあそうだよ。
こんな土地勘のない場所で轟音を伴う戦闘をしてしまったら
どんなイレギュラーを引き起こすか予測も出来ない。
==========================
更に1時間強を走行。
盗賊団は距離を取った状態でぴったり並走してくる。
「一旦、停車します。
この先は起伏があって奇襲に対応しにくいので
和戦いずれに発展するにせよ、ここで応対させて下さい!」
戦闘に関するポジショニングはグリーブに任せてあるので、皆がそれに従う。
いつでも再出発出来る位置取りで車列が停まった。
護衛組はいずれも轡を爪先で掴んだままである。
誰も武器を離さない。
俺達は女を1カ所に集めて隠した。
娼婦が何か言い出したそうだったが、ヒルダが黙らせる。
数分ほど、そのまま睨み合っていただろうか?
向こうから2騎が旗を上げて接近してくる。
30メートルほどの距離で停止。
「どうもー。
俺達は地元で警備サービスをやってまーすw」
馴れ馴れしい笑顔を作って、その男は言う。
隣の男はその兄貴分なのだろうか、腕を組んだままニヤニヤ笑っている。
「この先は物騒でしてね?
盗賊とかでちゃいますからww
俺達を雇うと何故か安全に通行できるって訳だww
安くしておきますよーーww」
こんなにわかり易いヤクザムーブは却って清々しい。
直訳すると、《ここでカネを渡さなければ襲撃する》ということだ。
「今なら大特価!
1人頭2000万ウェンで用心棒になってあげます!
俺達は強いですよーーww
ここらで俺達に逆らう馬鹿はいませんからww」
背後の本体がじりじり散開して全周包囲を狙い始める。
だが、それを見たダグラス組が迎撃シフトを組み替えると、戦力の分散を恐れたのか隊列を戻した。
結構な神経戦である。
==========================
結局、1人頭2000万ウェンを言い値で払う事になった。
当初、全34騎を申告していた彼らだが、こちらの馬車の行き届いた整備状態を見て欲が出たのか
「後方にも50騎ほど待機してるんですよwww」
と大雑把に増額を要求してきた。
なるほど、まさしく盗賊だな。
当然、50騎待機は嘘だ。
そんな戦力があるのなら、並走していた時に投入していた筈だからな。
==========================
【所持金】
130億8300万ウェン
↓
114億0300万ウェン
※地元青年会(自称)に警備サービス料として16億8000万ウェン支払
==========================
戦闘を避けて大金を入手。
盗賊団にとって理想の展開となった。
前方の22人は爆笑しながら騒いでいる。
「50騎は盛り過ぎーーーwwww」
とか内情を漏らす粗忽者までいる始末。
まあ、気持ちは解るよ。
俺だって無傷でそんな大金をせしめれたら嬉しいに決まってるもの。
コレットが怯えた様子で
「これからお願いします」
と酒食を届けると、盗賊団は狂喜してそれを貪り始める。
「オジサンに任せておきなさいwww」
「うっひょおお、女も頂いちまおうぜw」
「だからこの稼業はやめらんねーーーww」
そんな歓声が上がってから10分くらい経っただろうか。
最初の1人に毒が回ったことを確認した瞬間、乾杯の盃を交わし共に酒を呑んでいるフリをしていた護衛団が一斉に抜刀して盗賊団に斬りかかった。
素人目に見ても、勝負は初撃で決まった。
・コレットを抱き寄せて酌をさせていた盗賊団のリーダーっぽい男
・副将らしき一番腕の立ちそうな長剣の男
・最も体格が良い大男
・ヒルダに抱き着いていた男
この4名が即座に切り伏せられる。
毒の苦しみに耐えながら盗賊団は逃亡を図ろうとするが、起ち上がるので精一杯のようだった。
後は殺戮劇である。
少数の護衛団が多数の盗賊団を一方的に包囲制圧した。
いつの間にか集団の退路に回り込んでいたカインが同時に2人を斬り捨てて、戦闘は無事に終了した。
==========================
要するに騙し討ちである。
酒宴に誘って毒を盛る。
どこにでもある話だ。
まさか毒見もせずに全員がガブガブ酒を飲むことまでは想定外だったが。
(おかげで、2杯目から毒を混ぜるというヒルダの策がやや裏目に出てしまった。)
俺ならカネを奪った相手から提供された食事なんて怖くて、到底口に出来ない。
コレットが酌を志願してくれたことで、作戦の成功率は100%に上がった。
まさか年端の行かぬ少女が、乱戦で殺される事を前提で毒を勧めてくるなど思いもしないだろう。
結果。
盗賊団22名が、半死半生で後ろ手に縛られ苦しんでいる。
判断を少しでも誤れば、きっと立場は逆だったのだろう。
戦果を横目で確認しながらダグラスがこちらに話し掛けてくる。
「…ボス。
ボス。
…オマエだ、コリンズ。」
『あ、はい!』
「見事な判断だった。
毒を最初から準備してくれていた事もそうだが。
あの短時間で作戦を決めてくれて助かった。」
武器屋で買った駆除用毒団子がこんな所で活きるとは…
我ながら驚きしかない。
『すみません。
なんか汚い戦い方をさせてしまって。』
「綺麗も汚いもない。
これが俺達の仕事だ。
それよりオマエだ。
…自分の嫁を囮に使ってまで勝率を高めてくれる指揮官なんて初めて見たよ。
こちらこそ力不足を詫びさせてくれ。」
『いえいえ。
力不足なんてとんでもないです。
皆さんの手際に思わず見惚れていました。
せめて後で臨時ボーナスを支払わせて下さい。』
「警備サービス料ほどは要らんからな。」
見渡せば、護衛団が出発の準備を整えてくれている。
例の娼婦が馬車から首だけを出してギャーギャー騒いでいるが、ヒルダに一喝されておとなしくなった。
「さて、本題だ。
以前の約束を果たす時が来た。」
『や、約束ですか?』
「トドメを譲れって言ったのはオマエだろ?」
『え? もしかして。』
「急げ、コイツら殆どが虫の息だ。
俺の短剣を貸してやる。
殺れ。」
どれがまだ生きていて、どれが既に死んでいるか見分けがつかなかったので
全員の首を強く斬り裂いた。
22名中息があったのは13名。
その全員にトドメを刺した。
何人かが絶叫して命乞いしたが怖かったので殺した。
死んだフリをしていた者もいたが驚いて殺した。
ダグラスが足で相手の肩を抑えてくれたので、俺のような素人でもあっさり人を殺せてしまった。
===========================
【対盗賊団戦】
※合計殺害数13
※総取得経験値84万ポイント
内訳
《240000》×1
《80000》×2
《50000》×7
《30000》×3
【ステータス】
《LV》 17
《HP》 (4/4)
《MP》 (2/2)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 3
《精神》 3
《幸運》 1
《経験》 1018723
次のレベルまで残り189613ポイント。
【スキル】
「複利」
※日利17%
下7桁切上
===========================
『経験値多すぎじゃないですか?』
「そうか?」
『ジャイアントタートルの100倍ありましたよ。』
「…それは不思議だな。
人間も亀も命は命なのにな?」
『…すみません。
軽率なコメントでした。』
「いや、オマエはちゃんと道理を弁えている。
ただな。
対人戦は終わってからが本番だ。
相手の仲間や遺族からも恨まれる。
レベルを見れば殺人経験の有無が何となくわかってしまうから
その後、結婚や就職で苦労する者もいる。
消去法的にヤクザになる奴も少なくはないくらいだ。
そういう世の中の仕組みはちゃんと覚えておけよ。」
『…。』
「人を殺したのは初めてか?」
『はい。』
「誇らしく思うか?」
『…思わないです。
いや、そういう発想が出て来ませんでした。
なんかモヤモヤするというか…』
「だったら、そのモヤモヤが今日オマエが得た経験だ。
死んだ奴らはここで終わりだが…
オマエの旅にはまだ先がある筈だ。
この経験から学べ。
成長しろ。
オマエはそれが出来るタイプのリーダーだ。」
『…。』
「後はやっておく。
馬車の中で奥方を労ってやれ。
よく頑張ったな、ボス。」
==========================
【所持金】
114億0300万ウェン
↓
130億8300万ウェン
↓
128億8300万ウェン
※地元青年会(自称)から16億8000万ウェンを奪還
※ダグラス組・グリーブ傭兵団に臨時警備サービス料として各1億ウェンを支払
==========================
俺は馬車内でヒルダとコレットに、危ない役目を押し付けた事、屈辱的な想いをさせてしまった事を詫びた。
コレットは気丈に振舞ってくれていたが、逆にそれが申し訳無さを俺に感じさせた。
「リン、私は大丈夫だよ。
そこが宿でも旅でも、嫌な日があるのは当たり前。
でも、こうやってずっと一緒に居れるのは少し嬉しいかなw」
『さっき、コレットが盗賊団に抱き着かれた時…
本当に情けなくて、惨めで、申し訳なくて…
もう2度とこんな想いはしたくない。』
それが俺の偽らざる本音だった。
なあ、そうだろう。
どこの世界に自分の妻が賊の腕に抱かれて悔しく無い者が居る?
年端の行かぬ少女に危ない橋を渡らせて申し訳なく思わない者が居る?
平気で居られる訳がないじゃないか。
===============================
進む馬車はアップダウンを始める。
ここまでの全行程で3本の指に入る起伏の激しさかも知れない。
もしも、ここで襲撃されていたら…
さしもの手練れ達も苦戦したかも知れない。
改めて、自分が無茶をしている事を再認識させられた。
《21億9000万ウェンの配当が支払われました。》
アナウンスが聞こえた。
もうこんな時間なのか。
俺は母娘と抱き合い、ひたすら起伏の衝撃に耐え続けた。
==========================
【所持金】
128億8300万ウェン
↓
150億7300万ウェン
※21億9000万ウェンの配当を受け取り。
==========================
深夜。
街に到着する。
割り振られた宿に入り、キーン家・グランツ家と無事を喜び合う。
ロビーにダグラスとグリーブがやって来て、コレットを危険に遭わせた事を頭を下げて詫びた。
『私は大丈夫です。
皆さんの御武勇に感謝しております、と伝えて下さい。』
そのまま伝えて母娘を部屋に下がらせる。
また臨時報酬への感謝も述べられ、護衛団2人は戻って行った。
======================
【コリンズキャラバン移動計画】
「6日目」
中継都市ヒルズタウン (宿が込んでた。)
↓
侯爵城下町 (風光明媚な土地だったらしい)
↓
大草原 (遊牧民を買収した。)
↓
教団自治区 (10億ウェンカツアゲされた)
↓
王国天領 ←今ココ。
↓
伯爵城下町 (この80年ほど絶賛家督紛争中)
↓
諸貴族領混在地 (戦時にも関わらず内戦を起す馬鹿がいっぱいいる。)
↓
王国軍都 (軍部が独自に警察権を保有している)
↓
王国側国境検問所 (賄賂が横行。 逆に言えば全てカネで解決可能)
↓
非武装中立地帯(建前上、軍隊の展開が禁止されている平野。)
↓
連邦or首長国検問所 (例の娼婦に付き纏われているか否かで分岐)
↓
自由都市(連邦領経由なら7日、首長国経由なら5日の計算)
==========================
寝る前に、キーンと2人でカインの部屋を訪れた。
そして家族の前で彼の勇戦を称える。
「やめてくれよおww
この歳になってする話じゃないだろww」
と冗談めかして照れていたが、息子さんが憧れの目でカインを見ていたので、日頃の友情には報いられたような気がする。
かなり日が高い。
咎めるような表情をしてしまっていたのだろうか。
「かなりお疲れの模様でしたので。」
とヒルダが補足する。
馬車は淡々と進み続けており、母娘の報告からも俺の体調以外に問題が無い事が理解出来た。
護衛が幌越しに様子を尋ねて来ると
「主人の体調は戻りました。」
とコレットが短く応えていた。
===========================
小休止の際、周囲を見渡していると風景が変わっていた。
あれだけ林立していた宗教施設の尖塔が見当たらない。
「この辺は天領だからねえ。
のんびりした景色でしょう。」
カインは暗に《教団自治区の実態はああも醜悪なので、当てられて体調を崩したのはおかしい事ではない》と言ってくれている。
『昨日は申し訳ありませんでした。
配当をお渡しする前に倒れてしまっていたようで。』
「いやいや!
あれは貴方の落ち度ではない。
寧ろ免罪符を買わされる時に助けられなかった事を悔やんでおりました。
あんな脅迫まがいの口上で売りつけてくるとは思いも寄らず…」
そりゃあ、治安機関との親密さを誇示されながら、意味ありげな口調で家族や仲間の名を読み上げられてしまったらな…
例え10億ウェンでも買わざるを得ないじゃないか。
ボッタクリでも涙を呑んで従うしかないじゃないか。
『まずはお2人の配当を支払わせて下さい。』
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【所持金】
134億5500万ウェン
↓
130億8300万ウェン
※カイン・R・グランツに4400万ウェンの2日分利息を支払。
※ドナルド・キーンに3億2800万ウェンの2日分利息を支払。
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俺は延滞金の支払いを申し出たが「その条件は契約に無い」と拒絶されてしまった。
まあ確かにそうだ。
額が額である。
例え善意であっても、契約外のアクションを取ってしまっては、却って相手に不安感を与えてしまうな。
俺は浅慮を詫び、2人に対して健康管理の徹底を約束した。
そのままキーン・カインは俺の馬車でコレットが用意した軽食を取る。
母娘は次の小休止までカインの馬車で彼の家族と歓談して貰うことになった。
何から何まで男の都合で申し訳ない。
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馬車に揺られながら、商売の話で盛り上がる。
やはり男同士で居るのが一番楽しいな。
昨日のこともあったせいか、2人は明るい話題を意識してチョイスしてくれた。
声を抑えるのに少し苦労するw
それにしても…
施設農業・手工業・錬金術の特区だと聞いていたから、近代的な街並みを想像していたのだが…
まるで荒野じゃないか。
走行ルートが中心地を避けているのだろうか?
「特区と言っても、帝国に負けたり教団に接収されたりして土地を追われた業者を放り込んだだけだからね。
ココ、元は荒野だから。
移住してきた連中は、まずは開墾から始めさせられる。」
『なるほど。
先日の教団自治区とは人口密度が全然違いますね。』
「ここはカネがないエリアだから、
行政サービスも最低だしね。
酷いものだよ。
入植してきた業者は悪くないんだけどね。
王国もそこまで手が回らないんだ。」
わかる。
教団自治区を走っていた時は丁寧に道路標識が整備されていたのでマッピングの必要が全く無かったのだ。
自分が自治区内のどの辺を走っているのか、すぐに理解出来た。
だが、ここは…
単なる原っぱにしか見えない。
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「今、宜しいですか?」
不意にグリーブが幌越しに声を掛けて来た。
やや口調が厳しい。
『はい!
何かありましたか?』
「数分前から怪しい集団が並走しております。
目算で20騎。
この車両からは死角ですが、9時の方向です。」
『と、盗賊か何かでしょうか?』
「装備がかなり本格的ですね。
ただ軍隊経験がない所為でしょうか、隊列が滅茶苦茶です。」
『あまり強くない盗賊?』
「いえ、ああいうのが一番タチが悪いのです。
相手が弱いと判断すれば、後先考えずに襲撃して来ますので。」
『で、では襲われますか?』
「こちらの練度をかなり警戒しているようですね。
遠巻きに観察されています。
ダグラス組の牽制が上手く行ってます。
ああいう統率の取れた手練れが車列に張り付かれたら、接近するのも一苦労ですよ。
あー、あの感じはこちらが小休止するタイミングを伺ってますね。
かなり嫌らしい動きをしてます。
向こうなりに威嚇しているつもりなのでしょうか…」
『炸裂弾に凍結弾、使って頂いて構いませんので。』
「助かります。
ただ、こちらはアウェイなので戦闘になるとしても
極力静かに済ませます。」
なるほど。
素人意見を出してしまって気恥ずかしい。
そりゃあそうだよ。
こんな土地勘のない場所で轟音を伴う戦闘をしてしまったら
どんなイレギュラーを引き起こすか予測も出来ない。
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更に1時間強を走行。
盗賊団は距離を取った状態でぴったり並走してくる。
「一旦、停車します。
この先は起伏があって奇襲に対応しにくいので
和戦いずれに発展するにせよ、ここで応対させて下さい!」
戦闘に関するポジショニングはグリーブに任せてあるので、皆がそれに従う。
いつでも再出発出来る位置取りで車列が停まった。
護衛組はいずれも轡を爪先で掴んだままである。
誰も武器を離さない。
俺達は女を1カ所に集めて隠した。
娼婦が何か言い出したそうだったが、ヒルダが黙らせる。
数分ほど、そのまま睨み合っていただろうか?
向こうから2騎が旗を上げて接近してくる。
30メートルほどの距離で停止。
「どうもー。
俺達は地元で警備サービスをやってまーすw」
馴れ馴れしい笑顔を作って、その男は言う。
隣の男はその兄貴分なのだろうか、腕を組んだままニヤニヤ笑っている。
「この先は物騒でしてね?
盗賊とかでちゃいますからww
俺達を雇うと何故か安全に通行できるって訳だww
安くしておきますよーーww」
こんなにわかり易いヤクザムーブは却って清々しい。
直訳すると、《ここでカネを渡さなければ襲撃する》ということだ。
「今なら大特価!
1人頭2000万ウェンで用心棒になってあげます!
俺達は強いですよーーww
ここらで俺達に逆らう馬鹿はいませんからww」
背後の本体がじりじり散開して全周包囲を狙い始める。
だが、それを見たダグラス組が迎撃シフトを組み替えると、戦力の分散を恐れたのか隊列を戻した。
結構な神経戦である。
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結局、1人頭2000万ウェンを言い値で払う事になった。
当初、全34騎を申告していた彼らだが、こちらの馬車の行き届いた整備状態を見て欲が出たのか
「後方にも50騎ほど待機してるんですよwww」
と大雑把に増額を要求してきた。
なるほど、まさしく盗賊だな。
当然、50騎待機は嘘だ。
そんな戦力があるのなら、並走していた時に投入していた筈だからな。
==========================
【所持金】
130億8300万ウェン
↓
114億0300万ウェン
※地元青年会(自称)に警備サービス料として16億8000万ウェン支払
==========================
戦闘を避けて大金を入手。
盗賊団にとって理想の展開となった。
前方の22人は爆笑しながら騒いでいる。
「50騎は盛り過ぎーーーwwww」
とか内情を漏らす粗忽者までいる始末。
まあ、気持ちは解るよ。
俺だって無傷でそんな大金をせしめれたら嬉しいに決まってるもの。
コレットが怯えた様子で
「これからお願いします」
と酒食を届けると、盗賊団は狂喜してそれを貪り始める。
「オジサンに任せておきなさいwww」
「うっひょおお、女も頂いちまおうぜw」
「だからこの稼業はやめらんねーーーww」
そんな歓声が上がってから10分くらい経っただろうか。
最初の1人に毒が回ったことを確認した瞬間、乾杯の盃を交わし共に酒を呑んでいるフリをしていた護衛団が一斉に抜刀して盗賊団に斬りかかった。
素人目に見ても、勝負は初撃で決まった。
・コレットを抱き寄せて酌をさせていた盗賊団のリーダーっぽい男
・副将らしき一番腕の立ちそうな長剣の男
・最も体格が良い大男
・ヒルダに抱き着いていた男
この4名が即座に切り伏せられる。
毒の苦しみに耐えながら盗賊団は逃亡を図ろうとするが、起ち上がるので精一杯のようだった。
後は殺戮劇である。
少数の護衛団が多数の盗賊団を一方的に包囲制圧した。
いつの間にか集団の退路に回り込んでいたカインが同時に2人を斬り捨てて、戦闘は無事に終了した。
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要するに騙し討ちである。
酒宴に誘って毒を盛る。
どこにでもある話だ。
まさか毒見もせずに全員がガブガブ酒を飲むことまでは想定外だったが。
(おかげで、2杯目から毒を混ぜるというヒルダの策がやや裏目に出てしまった。)
俺ならカネを奪った相手から提供された食事なんて怖くて、到底口に出来ない。
コレットが酌を志願してくれたことで、作戦の成功率は100%に上がった。
まさか年端の行かぬ少女が、乱戦で殺される事を前提で毒を勧めてくるなど思いもしないだろう。
結果。
盗賊団22名が、半死半生で後ろ手に縛られ苦しんでいる。
判断を少しでも誤れば、きっと立場は逆だったのだろう。
戦果を横目で確認しながらダグラスがこちらに話し掛けてくる。
「…ボス。
ボス。
…オマエだ、コリンズ。」
『あ、はい!』
「見事な判断だった。
毒を最初から準備してくれていた事もそうだが。
あの短時間で作戦を決めてくれて助かった。」
武器屋で買った駆除用毒団子がこんな所で活きるとは…
我ながら驚きしかない。
『すみません。
なんか汚い戦い方をさせてしまって。』
「綺麗も汚いもない。
これが俺達の仕事だ。
それよりオマエだ。
…自分の嫁を囮に使ってまで勝率を高めてくれる指揮官なんて初めて見たよ。
こちらこそ力不足を詫びさせてくれ。」
『いえいえ。
力不足なんてとんでもないです。
皆さんの手際に思わず見惚れていました。
せめて後で臨時ボーナスを支払わせて下さい。』
「警備サービス料ほどは要らんからな。」
見渡せば、護衛団が出発の準備を整えてくれている。
例の娼婦が馬車から首だけを出してギャーギャー騒いでいるが、ヒルダに一喝されておとなしくなった。
「さて、本題だ。
以前の約束を果たす時が来た。」
『や、約束ですか?』
「トドメを譲れって言ったのはオマエだろ?」
『え? もしかして。』
「急げ、コイツら殆どが虫の息だ。
俺の短剣を貸してやる。
殺れ。」
どれがまだ生きていて、どれが既に死んでいるか見分けがつかなかったので
全員の首を強く斬り裂いた。
22名中息があったのは13名。
その全員にトドメを刺した。
何人かが絶叫して命乞いしたが怖かったので殺した。
死んだフリをしていた者もいたが驚いて殺した。
ダグラスが足で相手の肩を抑えてくれたので、俺のような素人でもあっさり人を殺せてしまった。
===========================
【対盗賊団戦】
※合計殺害数13
※総取得経験値84万ポイント
内訳
《240000》×1
《80000》×2
《50000》×7
《30000》×3
【ステータス】
《LV》 17
《HP》 (4/4)
《MP》 (2/2)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 3
《精神》 3
《幸運》 1
《経験》 1018723
次のレベルまで残り189613ポイント。
【スキル】
「複利」
※日利17%
下7桁切上
===========================
『経験値多すぎじゃないですか?』
「そうか?」
『ジャイアントタートルの100倍ありましたよ。』
「…それは不思議だな。
人間も亀も命は命なのにな?」
『…すみません。
軽率なコメントでした。』
「いや、オマエはちゃんと道理を弁えている。
ただな。
対人戦は終わってからが本番だ。
相手の仲間や遺族からも恨まれる。
レベルを見れば殺人経験の有無が何となくわかってしまうから
その後、結婚や就職で苦労する者もいる。
消去法的にヤクザになる奴も少なくはないくらいだ。
そういう世の中の仕組みはちゃんと覚えておけよ。」
『…。』
「人を殺したのは初めてか?」
『はい。』
「誇らしく思うか?」
『…思わないです。
いや、そういう発想が出て来ませんでした。
なんかモヤモヤするというか…』
「だったら、そのモヤモヤが今日オマエが得た経験だ。
死んだ奴らはここで終わりだが…
オマエの旅にはまだ先がある筈だ。
この経験から学べ。
成長しろ。
オマエはそれが出来るタイプのリーダーだ。」
『…。』
「後はやっておく。
馬車の中で奥方を労ってやれ。
よく頑張ったな、ボス。」
==========================
【所持金】
114億0300万ウェン
↓
130億8300万ウェン
↓
128億8300万ウェン
※地元青年会(自称)から16億8000万ウェンを奪還
※ダグラス組・グリーブ傭兵団に臨時警備サービス料として各1億ウェンを支払
==========================
俺は馬車内でヒルダとコレットに、危ない役目を押し付けた事、屈辱的な想いをさせてしまった事を詫びた。
コレットは気丈に振舞ってくれていたが、逆にそれが申し訳無さを俺に感じさせた。
「リン、私は大丈夫だよ。
そこが宿でも旅でも、嫌な日があるのは当たり前。
でも、こうやってずっと一緒に居れるのは少し嬉しいかなw」
『さっき、コレットが盗賊団に抱き着かれた時…
本当に情けなくて、惨めで、申し訳なくて…
もう2度とこんな想いはしたくない。』
それが俺の偽らざる本音だった。
なあ、そうだろう。
どこの世界に自分の妻が賊の腕に抱かれて悔しく無い者が居る?
年端の行かぬ少女に危ない橋を渡らせて申し訳なく思わない者が居る?
平気で居られる訳がないじゃないか。
===============================
進む馬車はアップダウンを始める。
ここまでの全行程で3本の指に入る起伏の激しさかも知れない。
もしも、ここで襲撃されていたら…
さしもの手練れ達も苦戦したかも知れない。
改めて、自分が無茶をしている事を再認識させられた。
《21億9000万ウェンの配当が支払われました。》
アナウンスが聞こえた。
もうこんな時間なのか。
俺は母娘と抱き合い、ひたすら起伏の衝撃に耐え続けた。
==========================
【所持金】
128億8300万ウェン
↓
150億7300万ウェン
※21億9000万ウェンの配当を受け取り。
==========================
深夜。
街に到着する。
割り振られた宿に入り、キーン家・グランツ家と無事を喜び合う。
ロビーにダグラスとグリーブがやって来て、コレットを危険に遭わせた事を頭を下げて詫びた。
『私は大丈夫です。
皆さんの御武勇に感謝しております、と伝えて下さい。』
そのまま伝えて母娘を部屋に下がらせる。
また臨時報酬への感謝も述べられ、護衛団2人は戻って行った。
======================
【コリンズキャラバン移動計画】
「6日目」
中継都市ヒルズタウン (宿が込んでた。)
↓
侯爵城下町 (風光明媚な土地だったらしい)
↓
大草原 (遊牧民を買収した。)
↓
教団自治区 (10億ウェンカツアゲされた)
↓
王国天領 ←今ココ。
↓
伯爵城下町 (この80年ほど絶賛家督紛争中)
↓
諸貴族領混在地 (戦時にも関わらず内戦を起す馬鹿がいっぱいいる。)
↓
王国軍都 (軍部が独自に警察権を保有している)
↓
王国側国境検問所 (賄賂が横行。 逆に言えば全てカネで解決可能)
↓
非武装中立地帯(建前上、軍隊の展開が禁止されている平野。)
↓
連邦or首長国検問所 (例の娼婦に付き纏われているか否かで分岐)
↓
自由都市(連邦領経由なら7日、首長国経由なら5日の計算)
==========================
寝る前に、キーンと2人でカインの部屋を訪れた。
そして家族の前で彼の勇戦を称える。
「やめてくれよおww
この歳になってする話じゃないだろww」
と冗談めかして照れていたが、息子さんが憧れの目でカインを見ていたので、日頃の友情には報いられたような気がする。
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