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チートで存在を疑われる
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俺の寝室を重い沈黙が支配する。
現在、バランギル工房はベスおばが隠し持っていた異世界版携帯電話(女が化粧に使うコンパクトの形状)によって共和議会議長のブランタジネット大公と何故か繋がっている。
(やっぱり上級国民のコネは凄いね。)
現時点で俺が知った事実は以下の通り!
・ベスおばの友人(?)のポーシャ嬢の父マティアス議長がグランバルド帝国の最高権力者
・レザノフはマティアス議長と直で話す事が出来る間柄
・そもそも前線都市は帝国領かどうかも怪しい
・俺の名前は帝都の偉いさんに認識されていた。
《イセカイ…?
チート・イセカイがそこに居るのか!!???》
突然、マティアス議長なる最高権力者に名を呼ばれてビクっとする。
レザノフが顎を横柄に顎をしゃくって俺が返答する事を促した。
脇差から手を離して頂けませんかね?
『はじめまして。
伊勢海地人と申します。』
俺が声を発した瞬間。
コンパクトの向こうでどよめきが走る。
《チート・イセカイ!!!》
今度はベスおばの父親(ヴィルヘルム公爵)が叫んだ。
『は、はい。』
コンパクトの向こうでしばらく絶句するような気配があり、やがて…
《まさか実在の人物だったとは…》
と苦悶するような声が漏れてくる。
《君は最近、エリザベスと論文を共同執筆しているイセカイ博士なのだな!?
言語学者の!?》
『あ、いえ。
博士号とか持ってないんで…』
《てっきり、イマジナリー共同執筆者かとばかり…》
イマジナリー共同執筆者って何だよ!
頭大丈夫か?
《いや、この前みたいにエリザベスの腹話術である可能性がある!
イセカイ博士! 君が実在するならエリザベスと同時に喋ってみてくれ!》
何だ?
この展開は?
ってかベスおば、オマエ。
腹話術で親を騙した前科があるのか?
『この前』って何だよ。
マジで最低だな、コイツ。
「お父様~ 愛する娘をそこまで疑いますか?
ワタクシのお父様への愛は不変ですのに。」
『あーあー、こちら伊勢海です。
現在、娘さんの発言に被せて発声しております。』
《エリザベス…
また腹話術の腕を上げたな…》
《いや、公爵。
私の耳には複数名の発言に聞こえたが…
今回のイセカイ博士は実在するのでは?》
《議長、騙されてはなりません。
あの女はこれまでもスキルや魔道具を駆使して親を欺いて来ました!》
《うーん、まあ確かに色々悪い噂は耳に入って来ているが…
今は状況が状況だ。
イセカイ博士は実在する、という前提で話を進めよう。》
《畏まりました…
あーあー、イセカイ博士失礼した。
貴方が実在するという前提で話を進めさせて貰う。
エリザベス! 謝るなら今のうちだぞ?》
「あはははw
やーねーお父様ったらww
ワタクシ、生まれてこの方自分の非を認めた事なんて一度もありませんわ
だって非の打ちどころがないのですからww」
《…公爵。
娘さんの方はどうやら本物のようだね。》
《ええ、偽物があそこまで的確にアレの言動を再現できるとは思えません。》
《では公爵、すまないが私が話を進めさせて貰うよ?》
《はい、議長閣下。》
コンパクトの向こうに誰かがどっしりと座った気配がした。
《お父様ばっかりずるーい》という台詞が遠くから聞こえたので、恐らくはマティアス議長が通信機の正面を確保したのだろう。
《まずはイセカイ博士。
この連日の素晴らしい研究発表に礼を申し上げます。
古代エリクサー製法の再現、スライムを用いた廃棄物処理、その他諸々の古文書の解析。
どれも帝国の国益に多大に貢献するものでした。
査読が完了次第、関連各省に実証実験を指示する流れとなっております。》
『恐縮です。
あの、博士号とか持ってないんで、博士と呼ばれるのは…』
《いえ、貴方の実在が確認され次第、帝国アカデミーに博士号を授与させますので。》
『…恐縮です。』
《さて、本題に入りましょう。
リザードと… 交易されておられる?
と伺いましたが… これは…
比喩ではなく?》
『商業ギルド経由で報告書を提出しているのですが…
レザノフ卿。』
「マティアス閣下、レザノフです。」
《おお! レザノフ君! 腹話術では無いんだね?》
「は!、イワン・レナートヴィチ・レザノフであります!」
《君のお父様の所属と最終階級は?》
「は! 父は軍務省に奉職しておりました!
所属は西部第一騎士団所属。
最終階級は大佐であります。」
《君と私が運河都市で待ち合せに使っていたカフェの店名は?》
「は! 喫茶チャコールであります!」
《私が学生時代から秘かに没頭し続けている趣味は?》
「は! 似顔絵彫刻! それも風刺画を好まれておられます!」
《君の現在の所属は?》
「は! 大蔵省査閲局監察課所属
現在商業ギルドに出向中であります!」
《ふふふw
君が最南端に赴任する、と言うから
てっきり南境商都に居るのかと勘違いしておったよ。》
「申し訳御座いません!」
《まあいい。
君に関しては腹話術では無いと確信したよ。
ところで私の定番ランチは何だったか?》
「は! 閣下はよくスネーク料理を御馳走して下さりました!
ブランタジネット家の戦勝祈願食に御相伴頂けた事、非常に栄誉に感じております!」
《これで腹話術だったら、エリザベスを褒めるしかないなw
なあ、イワン。
イセカイ博士は実在するのか?
そこにちゃんと実物が居るの?》
「は! 年の頃10代後半。
体格は…小柄で。
…気品のある顔立ちをされておられます。
付け加えますと、閣下。
昔の様にレナートと呼びつけて頂けると光栄です。」
レザノフ君よ、【貧相なヒョロチビ】を上手くオブラートに包むのやめろよ。
《そうだな。
君をレナートと呼ぶのも久しぶりだ。
帝都に戻ったらまた遊びに来たまえ。》
「ありがとうございます!」
《で、リザードの報告書だが、私の手元にはまだ届いていない。
宛先は大蔵省宛で出したの?
それとも議会本部かな?》
「現在、南境商都付近で大規模な道路破損が起こっております。
原因は魔物の活性化。
その為、連絡に遅れが出ていると考えられます。」
《君のような優秀な人間には個人用通信機を貸与すべきだと思うのだがね…
まあいい。
こちらでも再度確認してみよう。
レナート、口頭報告を許可する。
リザード絡みの情勢を教えてくれ。》
「は! そもそもは、これなるイセカイ市長が!」
《あ、ごめん。
先に市長云々から聞かせて。》
しばらくレザノフの報告が続く。
ベスおばは飽きたのか、どこかに行ってしまった。
メリッサとノエルは話についていけないながらも端座して傾聴している。
・他の上級市民が街を退去してしまった為、残留していたイセカイが市長職に就任
・イセカイはリザードの言語を解せると主張しており、何度か交易を成功させている
・リザードの言語を纏めた簡易辞書を帝都に郵送中。
・先日、イセカイ市長が告発され処刑されかかった。
・翌日、ブランタジネット家の当主馬印をリザードから託されたと報告
・同日、祝福線が発動しデ・フランコ司祭の認定を受けている
案の定、コンパクトの向こうで不信感が増していく。
《レナート、君。
報告が支離滅裂だぞ!?
本当にレナートヴィチ・レザノフか?
君の実在は証明出来るか?
私の中で腹話術の可能性が高まったぞ!
エリザベス! 今ちょっと喋ってみて!》
「閣下、エリザベス様は席を外してしまわれて…」
《君ねえ!!
…いやあの娘ならそちらの方があり得るか。》
「申し訳御座いません!
…イセカイ市長。 エリザベス様の居場所はわかる?」
『あー、この方角は屋台街ですね。
小刻みに手を動かしているので、皮を剥く系のフルーツを食べている気が…
あっ! 種を地面に吐いてます! 多分、マスカット!
ジョージ・フルーツパーラーです!』
ラルフ君が気を利かせて、連れ戻しに行ってくれる。
なんかグダグダだな。
30分位経ってベスおばが悪びれもせずに戻り、無遠慮に俺の布団に寝転がる。
その間、プランタジネット議長もヴィルヘルム公爵も待たされた訳だが、勿論一言も詫びも無い。
公爵が叱責するもヘラヘラ笑って「あー、お父様ったら本当にうっさいですわねw」と悪態をつく。
コンパクトの向こうで公爵が議長に平謝りしているので酷い話である。
(ちなみにラルフ君の顔には殴打されたような痕跡が見える)
「ポーシャ、居るぅー!?」
《はいお姉様! ポーシャはここに!》
「アンタの家の旗、論文と一緒に送るわ。
梱包材が見当たらなくて困っていたのよ。」
《それなら!
お姉様の私物を何か下さいませ!
毎晩お姉様だと思って抱きしめて眠りますわ!》
「はー? キッモ。
そうねー。 ワタクシがいつも使ってる枕を同梱しとくわー。」
《お姉様の枕!?》
『ちょっと待て!
これは俺のだよ!』
「あら? そうだった?
どうせ共有しているようなものだし、別にいいじゃない。
あの女しつこいのよ。」
《お姉様! 枕を共有とはどういうことですか!?
褥を共にするのは私だけと仰って下さったではありませんか!!
その人はただの共著者なんですよね!?》
「はぁ? キッモ。 言ってねーし。
あのねー。 いつまでも学生気分で粘着してくるのやめてくれるぅ~?
もうワタクシ人妻だからw アンタなんかに構ってらんないののよねーw」
《人妻!? お姉様! それはどういうことですか!?》
《エリザベス!! え? 結婚!? どういうことだ! 説明しろ!》
「お父様言ってませんでした?
ワタクシ、ここに居る伊勢海地人の第一夫人になりましたのw」
「チートの第一夫人は私ッ!!!」
「ちっ、るせーですわね。
ああ、失礼。
第二夫人。
ワタクシ、伊勢海地…」
「チートさんの第二夫人は私です!!」
「ちっ、めんどいですわね。
じゃあ第三夫人!
伊勢海クン、ワタクシ第三で妥協してあげるわ。
埋め合わせ、ちゃんとしてよね。」
『いや、俺は娶るとは一言も。』
《エリザベス!!
第三!?
第三ってどういうことだ!?
説明しろお!!!》
『アンタ、あれだけ嫌がってただろ。』
「ワタクシ、お父様を困らせるのが趣味なの♪
うふっ♥」
《…いや、なるほど。
腹話術なんだな?
これはこの前みたいに腹話術なんだな?
イマジナリー共著者が有名になってしまって引っ込みがつかないから
こんな事をして私を困らせて居るんだな?
頼むエリザベス、いつものように嘘だと言ってくれ!》
「ぷぷぷのぷーw
ざーんねんでしたーw
今回は珍しく本当でーすw
しかも! ワタクシの指にはあの祝福線が!」
《え? しゅくふ…?》
「ほら、子供の頃
お父様が読んでくれた絵本があったじゃありませんか。
赤い糸の話♪」
《…。》
その後、ヴィルヘルム公爵の御付の方やマティアス議長の御付の方から色々尋問されて、8時間くらい掛けてあらかたの事情を説明し終わった。
気持ちは理解出来るのだがヴィルヘルム公爵のトーンが徐々にエスカレートしてきて、師匠や俺の父親の人格を否定するような態度を取ったので、俺も頭に血が上り
『さっきから随分な仰りようですが!
おたくの娘さん、どういう教育をされたんですかね!』
と思わず怒鳴ってしまった。
1分ほど間があったの後に《ご迷惑をおかけしております》という呻き声が聞こえて来る。
「ちょっとイセカイ君!
ワタクシのお父様を困らせるなんて許さないわよ!」
オマエじゃい!
《あー、イセカイ博士。
事後承諾で恐縮ですが、商都から調査団を派遣しました。
貴方の実在を確認出来次第、聞き取り調査をさせて頂く形で宜しいですか?》
『はい、異存ありません。』
《エリザベス…
これが最後のチャンスだぞ。
父は怒っているのだからね。
本当はイセカイ博士なんて実在しないんだろう?》
『…いや、実在はしておりますが。』
《まあ、今はそういう事にしておいてやろう。
調査団が調べればわかることなんだからな!》
「お父様ww 疑い深すぎww」
『おい、ベス。
あんまり父親を困らせるなよ。
無断で家を出て来たんだろ?
一言くらい謝ったらどうなんだ?』
「はいはい! わかったわよ!
謝ればいいんでしょ! 謝れば!
お父様、申し訳御座いません。
エリザベスは猛省しておりまーす。」
『ますは伸ばさない!』
「ちっ!
…猛省しております」
《…エリザベスが謝罪した!?》
『ヴィルヘルム公爵、先程は言葉が過ぎました。
申し訳御座いません。』
《…あ、いや。
こちらこそ感情的になってしまい面目次第も無い。
己の不明を恥じ入るばかりである。
議長閣下。
馬印への返礼…》
《当家の保有だが…
リザードからの鹵獲品のうち、状態の良いものをレナートに預けよう。》
《ではヴィルヘルム家からも大至急供出します。》
《ありがとう、公爵。
この話は御前会議で…》
《議長閣下の御心のままに。》
《まずは非公式の形で各家に打診するよ。
話が大きくなりそうなら、極力早めに情報を共有する事も確約しよう。》
とりあえず、俺の実在が確認されるまで一切の聞き取りは保留、レザノフ卿にはブランタジネット閣下個人からの恩賞という名目で通信機が支給される事が決まった。
(これは地方回りの営業マンにプライベートジェットが支給されるようなものである。)
その後、ベスおばとポーシャ嬢は何事も無かったかのように雑談に興じ始める。
うるさかったので、部屋の隅に押しやってから布団に身体を横たえた。
まずはメリッサとノエルに詫びる。
身から出た錆とは言え、周囲で騒動が起こり過ぎている。
「危ない事はやめてね…」
『ごめん、やめない。』
2人は哀しそうな表情でどこかへ行ってしまった。
例によって女同士で色々と打ち合わせがあるのだろう。
そのまま眠りたい気分だったが、師匠の部屋に報告に向かう。
男にも色々としなければならない打ち合わせがある。
『師匠はどうして俺に好き勝手やらせてくれるんですか?』
「世の中の為にはなるんだろ? それ。」
『自分では… そのつもりです。』
「事後報告でいいから。」
『これからはもっと小まめに…』
「事後でいいから、必ず無事でな。」
…申し訳ありません、師匠。
俺、天蓋の向こうに行くつもりです。
現在、バランギル工房はベスおばが隠し持っていた異世界版携帯電話(女が化粧に使うコンパクトの形状)によって共和議会議長のブランタジネット大公と何故か繋がっている。
(やっぱり上級国民のコネは凄いね。)
現時点で俺が知った事実は以下の通り!
・ベスおばの友人(?)のポーシャ嬢の父マティアス議長がグランバルド帝国の最高権力者
・レザノフはマティアス議長と直で話す事が出来る間柄
・そもそも前線都市は帝国領かどうかも怪しい
・俺の名前は帝都の偉いさんに認識されていた。
《イセカイ…?
チート・イセカイがそこに居るのか!!???》
突然、マティアス議長なる最高権力者に名を呼ばれてビクっとする。
レザノフが顎を横柄に顎をしゃくって俺が返答する事を促した。
脇差から手を離して頂けませんかね?
『はじめまして。
伊勢海地人と申します。』
俺が声を発した瞬間。
コンパクトの向こうでどよめきが走る。
《チート・イセカイ!!!》
今度はベスおばの父親(ヴィルヘルム公爵)が叫んだ。
『は、はい。』
コンパクトの向こうでしばらく絶句するような気配があり、やがて…
《まさか実在の人物だったとは…》
と苦悶するような声が漏れてくる。
《君は最近、エリザベスと論文を共同執筆しているイセカイ博士なのだな!?
言語学者の!?》
『あ、いえ。
博士号とか持ってないんで…』
《てっきり、イマジナリー共同執筆者かとばかり…》
イマジナリー共同執筆者って何だよ!
頭大丈夫か?
《いや、この前みたいにエリザベスの腹話術である可能性がある!
イセカイ博士! 君が実在するならエリザベスと同時に喋ってみてくれ!》
何だ?
この展開は?
ってかベスおば、オマエ。
腹話術で親を騙した前科があるのか?
『この前』って何だよ。
マジで最低だな、コイツ。
「お父様~ 愛する娘をそこまで疑いますか?
ワタクシのお父様への愛は不変ですのに。」
『あーあー、こちら伊勢海です。
現在、娘さんの発言に被せて発声しております。』
《エリザベス…
また腹話術の腕を上げたな…》
《いや、公爵。
私の耳には複数名の発言に聞こえたが…
今回のイセカイ博士は実在するのでは?》
《議長、騙されてはなりません。
あの女はこれまでもスキルや魔道具を駆使して親を欺いて来ました!》
《うーん、まあ確かに色々悪い噂は耳に入って来ているが…
今は状況が状況だ。
イセカイ博士は実在する、という前提で話を進めよう。》
《畏まりました…
あーあー、イセカイ博士失礼した。
貴方が実在するという前提で話を進めさせて貰う。
エリザベス! 謝るなら今のうちだぞ?》
「あはははw
やーねーお父様ったらww
ワタクシ、生まれてこの方自分の非を認めた事なんて一度もありませんわ
だって非の打ちどころがないのですからww」
《…公爵。
娘さんの方はどうやら本物のようだね。》
《ええ、偽物があそこまで的確にアレの言動を再現できるとは思えません。》
《では公爵、すまないが私が話を進めさせて貰うよ?》
《はい、議長閣下。》
コンパクトの向こうに誰かがどっしりと座った気配がした。
《お父様ばっかりずるーい》という台詞が遠くから聞こえたので、恐らくはマティアス議長が通信機の正面を確保したのだろう。
《まずはイセカイ博士。
この連日の素晴らしい研究発表に礼を申し上げます。
古代エリクサー製法の再現、スライムを用いた廃棄物処理、その他諸々の古文書の解析。
どれも帝国の国益に多大に貢献するものでした。
査読が完了次第、関連各省に実証実験を指示する流れとなっております。》
『恐縮です。
あの、博士号とか持ってないんで、博士と呼ばれるのは…』
《いえ、貴方の実在が確認され次第、帝国アカデミーに博士号を授与させますので。》
『…恐縮です。』
《さて、本題に入りましょう。
リザードと… 交易されておられる?
と伺いましたが… これは…
比喩ではなく?》
『商業ギルド経由で報告書を提出しているのですが…
レザノフ卿。』
「マティアス閣下、レザノフです。」
《おお! レザノフ君! 腹話術では無いんだね?》
「は!、イワン・レナートヴィチ・レザノフであります!」
《君のお父様の所属と最終階級は?》
「は! 父は軍務省に奉職しておりました!
所属は西部第一騎士団所属。
最終階級は大佐であります。」
《君と私が運河都市で待ち合せに使っていたカフェの店名は?》
「は! 喫茶チャコールであります!」
《私が学生時代から秘かに没頭し続けている趣味は?》
「は! 似顔絵彫刻! それも風刺画を好まれておられます!」
《君の現在の所属は?》
「は! 大蔵省査閲局監察課所属
現在商業ギルドに出向中であります!」
《ふふふw
君が最南端に赴任する、と言うから
てっきり南境商都に居るのかと勘違いしておったよ。》
「申し訳御座いません!」
《まあいい。
君に関しては腹話術では無いと確信したよ。
ところで私の定番ランチは何だったか?》
「は! 閣下はよくスネーク料理を御馳走して下さりました!
ブランタジネット家の戦勝祈願食に御相伴頂けた事、非常に栄誉に感じております!」
《これで腹話術だったら、エリザベスを褒めるしかないなw
なあ、イワン。
イセカイ博士は実在するのか?
そこにちゃんと実物が居るの?》
「は! 年の頃10代後半。
体格は…小柄で。
…気品のある顔立ちをされておられます。
付け加えますと、閣下。
昔の様にレナートと呼びつけて頂けると光栄です。」
レザノフ君よ、【貧相なヒョロチビ】を上手くオブラートに包むのやめろよ。
《そうだな。
君をレナートと呼ぶのも久しぶりだ。
帝都に戻ったらまた遊びに来たまえ。》
「ありがとうございます!」
《で、リザードの報告書だが、私の手元にはまだ届いていない。
宛先は大蔵省宛で出したの?
それとも議会本部かな?》
「現在、南境商都付近で大規模な道路破損が起こっております。
原因は魔物の活性化。
その為、連絡に遅れが出ていると考えられます。」
《君のような優秀な人間には個人用通信機を貸与すべきだと思うのだがね…
まあいい。
こちらでも再度確認してみよう。
レナート、口頭報告を許可する。
リザード絡みの情勢を教えてくれ。》
「は! そもそもは、これなるイセカイ市長が!」
《あ、ごめん。
先に市長云々から聞かせて。》
しばらくレザノフの報告が続く。
ベスおばは飽きたのか、どこかに行ってしまった。
メリッサとノエルは話についていけないながらも端座して傾聴している。
・他の上級市民が街を退去してしまった為、残留していたイセカイが市長職に就任
・イセカイはリザードの言語を解せると主張しており、何度か交易を成功させている
・リザードの言語を纏めた簡易辞書を帝都に郵送中。
・先日、イセカイ市長が告発され処刑されかかった。
・翌日、ブランタジネット家の当主馬印をリザードから託されたと報告
・同日、祝福線が発動しデ・フランコ司祭の認定を受けている
案の定、コンパクトの向こうで不信感が増していく。
《レナート、君。
報告が支離滅裂だぞ!?
本当にレナートヴィチ・レザノフか?
君の実在は証明出来るか?
私の中で腹話術の可能性が高まったぞ!
エリザベス! 今ちょっと喋ってみて!》
「閣下、エリザベス様は席を外してしまわれて…」
《君ねえ!!
…いやあの娘ならそちらの方があり得るか。》
「申し訳御座いません!
…イセカイ市長。 エリザベス様の居場所はわかる?」
『あー、この方角は屋台街ですね。
小刻みに手を動かしているので、皮を剥く系のフルーツを食べている気が…
あっ! 種を地面に吐いてます! 多分、マスカット!
ジョージ・フルーツパーラーです!』
ラルフ君が気を利かせて、連れ戻しに行ってくれる。
なんかグダグダだな。
30分位経ってベスおばが悪びれもせずに戻り、無遠慮に俺の布団に寝転がる。
その間、プランタジネット議長もヴィルヘルム公爵も待たされた訳だが、勿論一言も詫びも無い。
公爵が叱責するもヘラヘラ笑って「あー、お父様ったら本当にうっさいですわねw」と悪態をつく。
コンパクトの向こうで公爵が議長に平謝りしているので酷い話である。
(ちなみにラルフ君の顔には殴打されたような痕跡が見える)
「ポーシャ、居るぅー!?」
《はいお姉様! ポーシャはここに!》
「アンタの家の旗、論文と一緒に送るわ。
梱包材が見当たらなくて困っていたのよ。」
《それなら!
お姉様の私物を何か下さいませ!
毎晩お姉様だと思って抱きしめて眠りますわ!》
「はー? キッモ。
そうねー。 ワタクシがいつも使ってる枕を同梱しとくわー。」
《お姉様の枕!?》
『ちょっと待て!
これは俺のだよ!』
「あら? そうだった?
どうせ共有しているようなものだし、別にいいじゃない。
あの女しつこいのよ。」
《お姉様! 枕を共有とはどういうことですか!?
褥を共にするのは私だけと仰って下さったではありませんか!!
その人はただの共著者なんですよね!?》
「はぁ? キッモ。 言ってねーし。
あのねー。 いつまでも学生気分で粘着してくるのやめてくれるぅ~?
もうワタクシ人妻だからw アンタなんかに構ってらんないののよねーw」
《人妻!? お姉様! それはどういうことですか!?》
《エリザベス!! え? 結婚!? どういうことだ! 説明しろ!》
「お父様言ってませんでした?
ワタクシ、ここに居る伊勢海地人の第一夫人になりましたのw」
「チートの第一夫人は私ッ!!!」
「ちっ、るせーですわね。
ああ、失礼。
第二夫人。
ワタクシ、伊勢海地…」
「チートさんの第二夫人は私です!!」
「ちっ、めんどいですわね。
じゃあ第三夫人!
伊勢海クン、ワタクシ第三で妥協してあげるわ。
埋め合わせ、ちゃんとしてよね。」
『いや、俺は娶るとは一言も。』
《エリザベス!!
第三!?
第三ってどういうことだ!?
説明しろお!!!》
『アンタ、あれだけ嫌がってただろ。』
「ワタクシ、お父様を困らせるのが趣味なの♪
うふっ♥」
《…いや、なるほど。
腹話術なんだな?
これはこの前みたいに腹話術なんだな?
イマジナリー共著者が有名になってしまって引っ込みがつかないから
こんな事をして私を困らせて居るんだな?
頼むエリザベス、いつものように嘘だと言ってくれ!》
「ぷぷぷのぷーw
ざーんねんでしたーw
今回は珍しく本当でーすw
しかも! ワタクシの指にはあの祝福線が!」
《え? しゅくふ…?》
「ほら、子供の頃
お父様が読んでくれた絵本があったじゃありませんか。
赤い糸の話♪」
《…。》
その後、ヴィルヘルム公爵の御付の方やマティアス議長の御付の方から色々尋問されて、8時間くらい掛けてあらかたの事情を説明し終わった。
気持ちは理解出来るのだがヴィルヘルム公爵のトーンが徐々にエスカレートしてきて、師匠や俺の父親の人格を否定するような態度を取ったので、俺も頭に血が上り
『さっきから随分な仰りようですが!
おたくの娘さん、どういう教育をされたんですかね!』
と思わず怒鳴ってしまった。
1分ほど間があったの後に《ご迷惑をおかけしております》という呻き声が聞こえて来る。
「ちょっとイセカイ君!
ワタクシのお父様を困らせるなんて許さないわよ!」
オマエじゃい!
《あー、イセカイ博士。
事後承諾で恐縮ですが、商都から調査団を派遣しました。
貴方の実在を確認出来次第、聞き取り調査をさせて頂く形で宜しいですか?》
『はい、異存ありません。』
《エリザベス…
これが最後のチャンスだぞ。
父は怒っているのだからね。
本当はイセカイ博士なんて実在しないんだろう?》
『…いや、実在はしておりますが。』
《まあ、今はそういう事にしておいてやろう。
調査団が調べればわかることなんだからな!》
「お父様ww 疑い深すぎww」
『おい、ベス。
あんまり父親を困らせるなよ。
無断で家を出て来たんだろ?
一言くらい謝ったらどうなんだ?』
「はいはい! わかったわよ!
謝ればいいんでしょ! 謝れば!
お父様、申し訳御座いません。
エリザベスは猛省しておりまーす。」
『ますは伸ばさない!』
「ちっ!
…猛省しております」
《…エリザベスが謝罪した!?》
『ヴィルヘルム公爵、先程は言葉が過ぎました。
申し訳御座いません。』
《…あ、いや。
こちらこそ感情的になってしまい面目次第も無い。
己の不明を恥じ入るばかりである。
議長閣下。
馬印への返礼…》
《当家の保有だが…
リザードからの鹵獲品のうち、状態の良いものをレナートに預けよう。》
《ではヴィルヘルム家からも大至急供出します。》
《ありがとう、公爵。
この話は御前会議で…》
《議長閣下の御心のままに。》
《まずは非公式の形で各家に打診するよ。
話が大きくなりそうなら、極力早めに情報を共有する事も確約しよう。》
とりあえず、俺の実在が確認されるまで一切の聞き取りは保留、レザノフ卿にはブランタジネット閣下個人からの恩賞という名目で通信機が支給される事が決まった。
(これは地方回りの営業マンにプライベートジェットが支給されるようなものである。)
その後、ベスおばとポーシャ嬢は何事も無かったかのように雑談に興じ始める。
うるさかったので、部屋の隅に押しやってから布団に身体を横たえた。
まずはメリッサとノエルに詫びる。
身から出た錆とは言え、周囲で騒動が起こり過ぎている。
「危ない事はやめてね…」
『ごめん、やめない。』
2人は哀しそうな表情でどこかへ行ってしまった。
例によって女同士で色々と打ち合わせがあるのだろう。
そのまま眠りたい気分だったが、師匠の部屋に報告に向かう。
男にも色々としなければならない打ち合わせがある。
『師匠はどうして俺に好き勝手やらせてくれるんですか?』
「世の中の為にはなるんだろ? それ。」
『自分では… そのつもりです。』
「事後報告でいいから。」
『これからはもっと小まめに…』
「事後でいいから、必ず無事でな。」
…申し訳ありません、師匠。
俺、天蓋の向こうに行くつもりです。
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