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番外編

イバキ市奪還作戦 9

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ホリンは闘気オーラを操る槍士である。

光の長槍と呼ばれるオーラで強化させた槍を使い、オーラ量を調整することによって、槍の長さも自在に操る。

「アイツの身体の向きを変える役目なら、ボクがやってみるよ」

ホリンはボリボリと頭を掻きながら、やる気の無さそうな瞳で呟いた。

「やってみる…って、ホントに出来るのかよ?」

全身から漂うポンコツ感に、アサノは思わず耳を疑った。

「たぶん…」

「多分て、オマエな…」

アサノは開いた口が塞がらない。

「ブラックファントム!今はホリンさんを信じましょう。こうしている間にも、被害は増え続けていますのよ」

業を煮やしたソアラが、アサノに決断を促した。

戦闘を続けていたラントたちによる、粘土壁クレイウォール電磁網サンダーネット強襲蔦アサルトアイヴィの合わせ技も、どうやら失敗に終わったようだ。

「……分かった、任せよう」

半ば観念したようにアサノは頷いた。

「アイツがへたばるまで続けるぞ。やり切る自信はあるか?」

「やったコトないからな、どうだろ?」

ホリンは腕を組んで小首を傾げる。

「そりゃそうか」

それを見て、アサノは思わず笑ってしまった。

「よし、始めるぞ!」

   ~~~

無差別に暴走する装甲猪の目線の先に、アサノは幻影を設置して自分たちの方への誘導を開始した。

装甲猪は誘われるように、大回りしながらこちらに方向転換し始める。

「それじゃ、アイツが幻影の真上を通るように、方向を調節してくれ」

「分かった」

ホリンはゆっくり頷くと、相変わらずな視線をアサノに向けた。

「アンタも、罠の設置を頼むぜ」

アサノはソアラの方にも声をかける。

「ソアラですわ。ブラックファントム」

ソアラは名乗りながら、胸の前に垂れていたポニーテールをバサッと背後に振り払った。

「アサノだ。よろしく頼む、ソアラ」

「来ますわよ!」

そのとき装甲猪が、ドドドと地響きをたてながら真っ直ぐに突進してきた。その突進をパッと散開してやり過ごすと、アサノは更に誰もいない方向へと、時間差で幻影を設置していく。

すると装甲猪の注意が幻影の方に向き、進路を変更し始める。しかし案の定コースが膨らみ、幻影のルートから外れていった。

「ソッチじゃない」

ホリンはグッと大地を踏みしめると、装甲猪の側面を長く伸ばした光槍で打ち付けた。バァーーン!と凄まじい音が響き、衝撃波が円環状に広がる。

すると装甲猪の巨体が一瞬フワッと浮き上がり、予定進路に向き直った。

「マジか…」

あまりの光景に、アサノの口がアングリと開く。

地雷罠マイントラップ

透かさずソアラが、アサノの幻影の足下に魔法を設置する。その幻影の真上を装甲猪が通ったとき、地面が激しく爆発した。

「ブォオオー」

装甲猪はお腹に響くような重低音で呻き、ズザザッと急ブレーキをかける。ゆっくりと振り返ったその紅い瞳には、怒りの色が満ちていた。

「持久戦になるぞ、最後まで気を抜くな!」

アサノの凛とした声が、この戦場に木霊した。

   ~~~

装甲猪が膝を折るまでに、結局この作戦を15回繰り返した。

固唾を飲んで見守っていた兵士や冒険者から、「おおおー」と歓声が湧き立つ。

間髪入れずに、ソアラ、ラント、サンドラが大魔法のための魔力の練成に入った。

ラントは自分と装甲猪の中間地点に魔法杖ロッドを向けると、声を限りに叫んだ。

巨人の鉄槌オーガスマッシュ!」

魔法杖の示す先に一際大きな魔法陣が描かれる。そこから岩石がゴゴゴと迫り上がると、装甲猪の巨体を上回る岩石の巨人の上半身が出現する。巨人はそのまま右腕を振り上げると、装甲猪目掛けて右拳を打ち下ろした。

時を同じくして、サンドラは魔法杖を左手に持ち、右手を挙げて手のひらを空に向けた。

神々の雷槍ブリューナク

サンドラの頭上に巨大な魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣の中心に稲妻が集中し、3mはある巨大な雷の槍が形成される。サンドラは装甲猪に狙いをつけると、渾身の力で右腕を振り下ろした。

装甲猪に二つの大魔法が命中し、凄まじい衝撃波が周囲に襲い掛かる。油断すると吹き飛ばされそうな突風に、全員が数歩よろめいた。

「ブゴ、ゴ…」

装甲猪は未だ健在であった。しかし鉱石の外殻は大半が弾け飛び、牙も1本折れている。誰が見ても瀕死の状態であった。

「ようやく出番ですわね!」

そのときソアラが、両腕を一杯に広げて大きく声を張り上げた。

三頭竜の咆哮メガフレア!」

声と同時に3個の魔法陣が頭上に浮かび上がる。そして全ての魔法陣から炎が吹き出し竜の頭を形作ると、大きく開いた口から熱光線を放射した。

3本の熱光線は瀕死の装甲猪に命中し、天をも焼き尽くさんばかりの巨大な火柱が立ちのぼる。その凄まじい火勢によって、天空に押し上げられるように装甲猪は燃え尽きていった。

静寂が、辺りを支配する。

「お……おおおーーー!」

それから全員が、思い出したかのように高らかに歓声をあげた。隣同士で肩を抱き合い、大勝利を喜び合う。

「アレを、倒したか」

そのとき突然、しわがれた老人男性の声が夜空に響き渡った。
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