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第2章

ロングレンジフェス 4

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「よければ、今発表されている襲撃予報を検索してみましょうか?」

エリサの提案に、アイたち3人は顔を見合わせた。

襲撃予報とは、セーレーのリスク予報を元にラング国が発表している、魔物の襲撃を予測したものである。もちろんセーレーの存在は、一般国民には伏せられている。

軍で対応するような大規模な襲撃を除き、それらの対処は、基本的には冒険者の役目となっていた。

「私たち、ヤータ市に向かう予定なので、今回は必要ありません。お気遣いありがとうございます」

フランが笑顔で頭を下げる。

「分かりました。それでは…パオニーア・ロンド・サーレ(冒険者の行き道に幸あれ)」

エリサは腕をクロスさせるように、右手で左肩を、左手で右肩に触れながら頭を下げた。

「え…今の何?」

エリサの不思議なお辞儀の仕方に、アイが透かさず反応した。

「昔の風習なんだって。門出を迎えた相手の幸せを願う儀式のようなものらしいんだけど、詰所のスタッフが冒険者を見送る際に取り入れたみたい」

フランの説明に、アイとおキクが「へぇー」と感心する。それから3人は、エリサに挨拶を返すとそのまま詰所を後にした。

「ところでさ、フランの職業は何なの?」

街道を歩きながら、アイが聞きそびれていた事をフランに確認する。

「私は盾士です。装備武器は大盾タワーシールド

「そんな職業もあるんだ?」

「はい。なので冒険者歴は少々ありますが、討伐数の方は全然で…おふたりと同じC級です。本当にすみません」

フランが暗い顔でシュンとなった。

「そんなの全然オッケーだよ。私たちの大冒険はココから始まるんだからっ!」

「…なんだか、打ち切りっポイ言い方ね」

「お…終わらないよーっ!」

おキクのツッコミに、アイがおつゆを飛ばしながら反論した。

「ところで…フランは魔法も使えるんだよね?」

おキクがしれっと話題を変える。

「一応そうだけど、魔法は本当に苦手で…使えるのは癒しの魔法キュアと、操作系魔法の風の舞姫シルフィダンスのふたつだけなんです」

   ~~~

アイたちがヤータ市に向かった半日後、冒険者の詰所に緊急連絡が入った。

「本日夕刻、ネヤガー市ヤータ市両方面に大規模襲撃の可能性あり。ネヤガー市は引き続き軍での対処の予定。ヤータ市方面は冒険者での対処を望む」

ザワッと詰所内に緊張が走る。

「なお、ヤータ市襲撃の魔物は魔法耐性の高い魔操鎧3体と風切鳥200体程度と予測される。物理系武器とトリモチの所持を推奨する」

詳細を聞いて、エリサは顔が蒼くなった。

今から準備して応援に駆けつけても、開戦には恐らく間に合わない。ヤータ市にストックされているトリモチの数も充分とは言えない。さらに間の悪いことに、今ヤータ市にいる冒険者の殆どは、遠距離が得意な魔法士なのだ。

逃げてもいいから生きて戻ってほしい。アイたちの無事を、エリサは祈ることしか出来なかった。

   ~~~

アイたちがヤータ市に着いたのは、お昼も過ぎた頃であった。住人とは別に、たくさんの冒険者らしき人の姿が見える。

街の入り口には「遠距離攻撃祭ロングレンジフェスティバル」とアーチが立てられていた。

「これ、どんなお祭り?」

アイは周りを見回しながら、フランに質問する。

「遠距離系職業の冒険者が集まって勝負する、サバイバル大会なの」

「…てことは、私も出られるの?」

「それはそうなんだけど、この大会は魔法士の方が有利だからアイにはオススメしないよ」

「どういうこと?」

しかしアイがその理由を知る前に、別の場所から響いた声が二人の会話を遮った。

「あらアナタ、フランさんじゃありませんか?」

20台前半くらいの、ひとりの女性がこちらに近付いてきた。先端に紅い水晶と、1枚の翼のモチーフが施された20cm程の魔法杖ロッドを、リズミカルに振り回している。

背はおキクよりも少し高め。綺麗な黒髪を赤いシュシュでポニーテールにしており、毛先は背中にまで届く。薄緑の長衣ローブに赤い腰帯を巻き、帯は背部で蝶結びに結ばれている。それから更に、肩には赤いストールを羽織っていた。

「遠距離系でもありませんのに、こんな所に一体何用かしら?」

口元は微笑んでいるが、フランを見る少しつり上がった黒く細い目が、キツイ印象を与えてくる。

「私のこと覚えててくれたんですね。ソアラさん」

彼女の態度に、フランは少し怖気付くように身体を縮こませた。

「フランさんはとても目立ちますもの。冒険者でなかったら、きっとおモテになったでしょうに」

ソアラはフランの顔を覗き込むと、小馬鹿にするように笑った。

「ね、能無しフランさん」
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