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11 夕飯②

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「あれ、シラネの分は?」

 宝来尊ほうらいみことは食卓の上に、料理が一人分しか無い事に気が付いた。

「わたくしは後ほど、下の階でいただきます」

 すると宝来尊の湯呑みにお茶を注ぎながら、シラネが当然のようにそう答える。

「いや、もし料理がまだ余ってるなら、ここで一緒に食べよーよ」

「ですが…」

「魔王命令」

 そんな宝来尊の笑顔をポカンと見つめていたシラネは、やがてクスッと微笑んだ。

「かしこまりました。ただ今用意致しますので、もう暫くお待ちください」

「大丈夫、いくらでも待つよ」

 そうして二人で食べたシラネの手料理は、それはもう絶品だった。特にこの肉料理なんて、食べた事のない美味しさだ。

「ところでシラネ。この肉って何の肉」

「はい。それは高級なデビルアリゲーター…」

「あーいや、いい!」

 慌てて宝来尊は、シラネの言葉を遮った。食材なんて関係ない。美味しければそれが全てだ!

 やがて全ての料理を平らげると、

「ごちそうさま」

 宝来尊は両手を合わせて頭を下げた。こんな事言ったのいつ振りだろうか。

「おそまつでごさいました」

 シラネも笑顔で会釈をすると、立ち上がって二人の食器を片付け始める。

「ああ、手伝うよ」

「いえ、ここはわたくしが。お風呂が沸いておりますので、ミコトさまはそちらにお入りください」

「お風呂、お風呂か」

 そう言えば、寝所には風呂とトイレが完備されていたな。

「着替えもご用意しております。差し支えなければ、お背中お流ししましょうか?」

 少し頬を染めながら、シラネが上目遣いで見上げてくる。宝来尊は、思わずゴクリと息を飲んだ。

「い…いやいい。大丈夫、ひとりで入れる」

 それからハッと我に返ると、逃げるように慌てて駆け出していった。
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