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【短編おまけ】常盤色の厄日

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 隆哉の腕の中から見上げた彬に、「彼女はね」と公園の外にある白い壁の建物を指差した。

「あの、病院に入院してたんだ。弱い心臓で。あの五階の病室の窓から、ずっと今擦れ違った男子学生を見てた。……壊れそうな心臓に、熱い想いを抱えてね。――彼女の『依憑』は、『この想いを伝えて』だよ」

「って、伝えろって言ってんの? 俺等に!?」

「そう」

「見ず知らずの女の子の片想いを?」

「そうだね」

「俺達だって、今の奴の事なんて知らないんだぞ!」

「そこなんだよね……」

 ふぅ、と息を吐き、考えだした隆哉は「どう話しかけたら怪しまれないと思う?」と硝子の瞳で彬を見返した。

「知るか!」

 どう話しかけても怪しまれるよ!

「それよりお前、依憑を受けたって事は、どっかに……」

「うん。……さっきから、心臓の辺りが凄く痛い。――たぶん、服脱いだら手術の痕が現れてるんじゃないかな……。そうちょうど、あんたが今手を置いてる辺りだけど……」

「えっ!」

 早く言えよ、そういう事は!

 慌てて彬は手を離すが、隆哉の方は手を離さない。

 なんでこんなトコで男二人、くっついてなきゃいけねぇんだ。



 ――まったく。こいつと知り合ってから、厄日続きだ。



 冗談じゃねぇぞ! と頬を膨らませる彬を胸に抱いたまま、隆哉は抑揚なく言葉を続ける。

「とりあえずの問題は……この子に手を離してもらわないと、俺達もずっと、こうして抱き合ったままいないといけないって事だよね」

 当然のように言った隆哉に、彬が目を剥く。
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