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碧の癒し

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「そこにいてもいいけど、一切しゃべらないでね」

「こんなトコで何すんだ?」

 きょとん、と。人の気も知らない彬は緊張感なく近付いてくる。すぐ隣に立って、隆哉と同じように辺りを見回した。

「占いだよ」

「うらないィ?」

 明らかに馬鹿にしたような響きが込められている。一瞬身を引いた彬が、「どーゆうこったよ?」と訝しげに隆哉を見上げた。

「彼女から落ちた物を、俺もあんたもそれに冬樹さんでさえも、視る事が出来なかった。それは彼女が、その『物』が何であるかを隠しているからなんだ。勿論、訊いても彼女は答えないし、それが何なのかが判らなければ見つける事も出来ない。そしてそれを彼女に渡さない限り、彼女の『悲しみ』は癒されはしないよ。――ならどうするかと言うと。彼女には悪いけど、勝手に突き止めさせてもらおう」

「それで占いってワケ?」

「正しくは『辻占つじうら』と言うけど」

「ふぅーん」

 気のない様子で答える彬に、「だから帰っていいって」という言葉は心の中だけで呟いておく。この陽の落ちた住宅街でギャンギャンと喚かれては、堪ったものではなかった。
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