上 下
113 / 215
碧の癒し

5

しおりを挟む
 相沢は烙印を脅しに依憑を受けたと言っていたけれど、きっと俊介の方では違ってた。あいつは『友達』として、頼んだんだ。笑顔を浮かべ、いつもの軽い『悪態』を吐いて「頼むぜ」と。

「バカが。ヘラヘラ笑いやがって」

 肩を揺らし、額に掌を押しあてる。

 ――でもほんとは。

 本当は俺が、その表情を見たかった。俺が浮かべさせてやるべき笑顔だった筈だ。なのに、俺にはそれが出来なかった。あんな苦しそうな顔しか、させてやれなかったんだ。

「スゲェのな、お前って」

 手の下から目を覗かせ、隆哉を見遣る。

 だって相沢は、血塗れの俊介にも生きた人間にするのと変わりなく接したに違いない。この無表情さで眉一つ動かさず、「仕方なく」と言葉にしながら、それでも俊介にとっての一番いい方法を考えて……。

「尊敬モンだぜ。死んだヤツと話が出来る上に、笑わせる事も出来るなんてよ」

 心から、そう思う。見た目や、相手の生死に拘わらず同じ態度が取れる。それは言葉で言うよりも、よっぽど難しい事だ。

 現に、俺にはそれが出来なかったんだから。相手は、俊介であったのに……。

「凄いのはね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

幽体離脱

ショー・ケン
ホラー
Aさんは病院に入院中、奇妙な特技を覚えた。それに伴って……恐ろしい予言めいた能力を得るのだが。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【完結】わたしの娘を返してっ!

月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。 学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。 病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。 しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。 妻も娘を可愛がっていた筈なのに―――― 病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。 それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと―――― 俺が悪かったっ!? だから、頼むからっ…… 俺の娘を返してくれっ!?

闇の境界

刈部三郎
ホラー
「闇の境界」は、恐怖とグロテスクな要素が融合したホラーグロ小説。 物語は、主人公である高校生の神宮寺翔(じんぐうじ しょう) が、ある日突然、見知らぬ場所に迷い込むことから始まります。 翔は学校からの帰り道、偶然にも廃屋がある森に足を踏み入れます。 そこは不気味で暗く、異様な存在が潜んでいるような雰囲気が漂っていました。 彼は戸惑いながらも、好奇心からその場所を探索し始めます。 しかし、翔が迷い込んだ森は、通常の現実とは異なる次元の境界線に位置していました。 そこでは、歪んだ存在や狂気に満ちた生物が支配しており、人間の理解を超える恐怖と遭遇することになります。 翔は、次元の境界を越えた恐怖と戦いながら、森からの脱出を試みます。 奇妙な生物や怪物との遭遇、アリス・スプライトとの出会い、狂気的な風景や不気味な出来事と対峙しながら、自身の生存をかけた戦いに挑むことになります。 徐々に翔の過去や、彼が迷い込んだ森の秘密に迫っていく展開となります。 「闇の境界」は、恐怖とグロテスクな要素を巧みに組み合わせ、読者を不気味な世界へと誘います。

【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗
ホラー
――その幻想から、逃れられるか。 降霊術。それは死者を呼び出す禁忌の術式。 歴史を遡れば幾つも逸話はあれど、現実に死者を呼ぶことが出来たかは定かでない。 だがあるとき、長い実験の果てに、一人の男がその術式を生み出した。 降霊術は決して公に出ることはなかったものの、書物として世に残り続けた。 伍横町。そこは古くから気の流れが集まる場所と言われている小さな町。 そして、全ての始まりの町。 男が生み出した術式は、この町で幾つもの悲劇をもたらしていく。 運命を狂わされた者たちは、生と死の狭間で幾つもの涙を零す。 これは、四つの悲劇。 【魂】を巡る物語の始まりを飾る、四つの幻想曲――。 【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】 「――霧夏邸って知ってる?」 事故により最愛の娘を喪い、 降霊術に狂った男が住んでいた邸宅。 霊に会ってみたいと、邸内に忍び込んだ少年少女たちを待ち受けるものとは。 【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】 「どうか、目を覚ましてはくれないだろうか」 眠りについたままの少女のために、 少年はただ祈り続ける。 その呼び声に呼応するかのように、 少女は記憶の世界に覚醒する。 【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】 「……だから、違っていたんだ。沢山のことが」 七不思議の噂で有名な流刻園。夕暮れ時、教室には二人の少年少女がいた。 少年は、一通の便箋で呼び出され、少女と別れて屋上へと向かう。それが、悲劇の始まりであるとも知らずに。 【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】 「……ようやく、時が来た」 伍横町で降霊術の実験を繰り返してきた仮面の男。 最愛の女性のため、彼は最後の計画を始動する。 その計画を食い止めるべく、悲劇に巻き込まれた少年少女たちは苛酷な戦いに挑む。 伍横町の命運は、子どもたちの手に委ねられた。

ぐろりあ

karon
ホラー
骨董市で買い取ったアンティークドール。なぜか主人公の夫がやたらと気にしだす。そして徐々に人形の異常性が明らかになった時、人形の魔力の取り込まれた夫は主人公を裏切って。

処理中です...