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碧の癒し

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 相沢は烙印を脅しに依憑を受けたと言っていたけれど、きっと俊介の方では違ってた。あいつは『友達』として、頼んだんだ。笑顔を浮かべ、いつもの軽い『悪態』を吐いて「頼むぜ」と。

「バカが。ヘラヘラ笑いやがって」

 肩を揺らし、額に掌を押しあてる。

 ――でもほんとは。

 本当は俺が、その表情を見たかった。俺が浮かべさせてやるべき笑顔だった筈だ。なのに、俺にはそれが出来なかった。あんな苦しそうな顔しか、させてやれなかったんだ。

「スゲェのな、お前って」

 手の下から目を覗かせ、隆哉を見遣る。

 だって相沢は、血塗れの俊介にも生きた人間にするのと変わりなく接したに違いない。この無表情さで眉一つ動かさず、「仕方なく」と言葉にしながら、それでも俊介にとっての一番いい方法を考えて……。

「尊敬モンだぜ。死んだヤツと話が出来る上に、笑わせる事も出来るなんてよ」

 心から、そう思う。見た目や、相手の生死に拘わらず同じ態度が取れる。それは言葉で言うよりも、よっぽど難しい事だ。

 現に、俺にはそれが出来なかったんだから。相手は、俊介であったのに……。

「凄いのはね」
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