上 下
7 / 215
緋い記憶

7

しおりを挟む
「おーい、高橋ぃ! とっくに授業終わってるぞー」

 笑いを含んだ声に意識が戻る。「んー」と小さく唸った彬は、ゆっくりと瞼を開けた。見慣れぬ天井を見上げ、目を瞬かせる。

「どこ? ここ……」

「保健室。まだ寝惚けるようなら、放って帰るけど」

 目を擦る彬を覗き込みながら笑っていた大下秀行は、目尻に残る涙の痕を見つけ、眉根を寄せた。

「どーした? 嫌な夢でも見たのか?」

「へ?」

 だって、と顔を指差しかけて、「まあ、いいや」と秀行は肩を竦めた。

「子供みたいな奴だなぁ。ほら、もう充分寝足りただろう?」

 コツンと彬の頭に鞄をぶつける。ボソッと落とされた鞄を受け止めた彬は、暫く考え込んだ後、今がもう放課後になっている事にようやく気が付いた。

「なんで俺、こんなトコで寝てんだっけ?」

 首を傾げる彬に、秀行の呆れた声が降り注ぐ。

「体育の時間に倒れて、その後はたっぷり今まで二時間、熟睡でございましたが」

 見れば膝には少々大げさ気味の手当てがしてあり、服は体操着のままだった。

「あー、ワリィ。鞄持って来てくれたのか」
しおりを挟む

処理中です...