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呪いの鎧武者
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「あのなぁ。うちは喫茶店だぜ。茶ァ飲みに決まってんだろ」
呆れたように溜め息を吐く松岡へと、俺は手を振った。
「じゃなくてさ、お前が依頼の為じゃなく女と話すなんて――」
「だから、そん時ちょーど依羅さんが休憩していい…――って、そこはどーでもいい!」
「ああ、えっと……なんだっけ。カーテンが閉まってたって?」
「あの晩あの窓の前を通ったから、間違いないとさ。――で? どう思う?」
間近で俺を見つめる松岡を見つめ返して、俺はコクリと唾を飲み込んだ。
「それって、やっぱり――」
「ああ、鎧武者はいるぜ。間違いなくな。それどころか、俺達いいように使われた気さえするよ、鎧武者に」
嬉しそうに笑った松岡に、俺は頬を引きつらせた。
「……ところで」
暫くの沈黙の後、動かない俺に松岡が腕時計を覗き込む。
「さっき時間がないとか、言ってなかったっけ?」
「ああっ、そうだった!」
叫んだ俺は、再び松岡の肘を掴んだ。少し歩いてから、ハッとして立ち止まる。
「そういや、お前……」
振り返った俺は、自分が掴む松岡の腕を見下ろした。
「お前、嫌いなんじゃないのか? 腕とか掴まれるの」
「――……気付いてたか……」
上目遣いに俺を見た松岡が、唇の端を上げて苦笑いを浮かべる。
「逃がさないぞって、言われてるみたいで嫌なんだ」
「じゃ、なんで……」
俺の言葉に肩を竦めた松岡は、さらりと言ってのけた。
「お前は相棒だからな。まあ、特別」
松岡の台詞に、迂闊にも頬が緩んだ。突っ込んで詳しく訊いてやりたいのに、それすらも出来なくなる。
クルリと再び背を向け歩き出した俺に、ダラダラと松岡が続いた。
「なあ、相棒。お前んとこってさぁ、犬は駄目だけど、猫なら飼えるよなぁ?」
「――…ああ。でも三匹は無理。飼えて一匹だな」
「じゃあさ、相棒。どうせ遅刻だし、一時限目はサボッちまわねぇ? んで、こいつらにミルクやんの」
「懲りないなぁ、お前。依羅さんにバレるだろ! 俺はあの人を怒らす気は無いからな」
「でもよ、相棒――」
「だぁー、鬱陶しい! 何度も何度も相棒って連発すんじゃねぇ! なんだよ?」
振り返り叫んだ俺に、松岡はクスクスと笑い出した。
呆れたように溜め息を吐く松岡へと、俺は手を振った。
「じゃなくてさ、お前が依頼の為じゃなく女と話すなんて――」
「だから、そん時ちょーど依羅さんが休憩していい…――って、そこはどーでもいい!」
「ああ、えっと……なんだっけ。カーテンが閉まってたって?」
「あの晩あの窓の前を通ったから、間違いないとさ。――で? どう思う?」
間近で俺を見つめる松岡を見つめ返して、俺はコクリと唾を飲み込んだ。
「それって、やっぱり――」
「ああ、鎧武者はいるぜ。間違いなくな。それどころか、俺達いいように使われた気さえするよ、鎧武者に」
嬉しそうに笑った松岡に、俺は頬を引きつらせた。
「……ところで」
暫くの沈黙の後、動かない俺に松岡が腕時計を覗き込む。
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「ああっ、そうだった!」
叫んだ俺は、再び松岡の肘を掴んだ。少し歩いてから、ハッとして立ち止まる。
「そういや、お前……」
振り返った俺は、自分が掴む松岡の腕を見下ろした。
「お前、嫌いなんじゃないのか? 腕とか掴まれるの」
「――……気付いてたか……」
上目遣いに俺を見た松岡が、唇の端を上げて苦笑いを浮かべる。
「逃がさないぞって、言われてるみたいで嫌なんだ」
「じゃ、なんで……」
俺の言葉に肩を竦めた松岡は、さらりと言ってのけた。
「お前は相棒だからな。まあ、特別」
松岡の台詞に、迂闊にも頬が緩んだ。突っ込んで詳しく訊いてやりたいのに、それすらも出来なくなる。
クルリと再び背を向け歩き出した俺に、ダラダラと松岡が続いた。
「なあ、相棒。お前んとこってさぁ、犬は駄目だけど、猫なら飼えるよなぁ?」
「――…ああ。でも三匹は無理。飼えて一匹だな」
「じゃあさ、相棒。どうせ遅刻だし、一時限目はサボッちまわねぇ? んで、こいつらにミルクやんの」
「懲りないなぁ、お前。依羅さんにバレるだろ! 俺はあの人を怒らす気は無いからな」
「でもよ、相棒――」
「だぁー、鬱陶しい! 何度も何度も相棒って連発すんじゃねぇ! なんだよ?」
振り返り叫んだ俺に、松岡はクスクスと笑い出した。
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