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呪いの鎧武者
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「――……判った。一緒に病院へ行こう。……大丈夫だよ。今から迎えに行くから、用意しておきなさい。――じゃあ、切るよ」
フッと短く息を吐いた友也さんは、松岡にスマホを渡すと依羅さんに目を向けた。
「どうやら、子羊が交通事故で意識不明の重体らしい。その直前に綾香にケイタイから電話をかけてきたそうだ。途中で切れたらしいけどね。――私は今から、綾香と彼女の運ばれた病院へ行って来る。依羅、悪いけど、後を頼む」
友也さんが、手早くエプロンを外す。それを黙って見上げていた依羅さんは、ポケットから車のキィを取り出し、友也さんに渡した。
友也さんが裏口から出て行ってしまうと、依羅さんはファックス兼用の電話を取り、耳にあてた。ボタンを押し、相手が出るのを待つ。
「――山崎警視。申し訳ありません、上宮です。少しお願いしたい事があるのですが、今、手隙ですか? ああ、それはよかった……」
「……只の、偶然だよな」
何やら親しげに会話する依羅さんを横目に、俺は松岡に呟いた。彼はチラリと俺に視線を向けると、等閑に肩を竦めてみせた。
「鎧武者が直接手を下したんじゃないのは確かだろうが、無関係かどうかは何とも言えねぇな。今の時点では」
「え……?」
「だって彼女、綾香に電話したんだぜ? 事故にあう直前に、さ」
俺を見つめながら重く言った松岡に、俺は目を剥いた。
「只の事故じゃないと?」
「さあな。だが――暗示的だったぜ、彼女の話は。言ってたろ? 鎧武者を見た時『車にぶつかりそうになった』ってさ」
「……………」
「気になるか?」
「……当然だ」
互いの顔を見合ったその時。電話を切った依羅さんが無言で俺達を見下ろし、微笑を浮かべた。片肘をカウンターに乗せ、身を乗り出してくる。
「では、迷える子羊。調査を開始しようか? ――依頼の為ではなく、私達の好奇心を、満足させる為に」
「よっしゃあ!」
拳を握ってはしゃぐ俺達に、依羅さんは体を起こした。両腕を組み、後ろの棚に凭れ掛かる。
「ではまず手始めに、的確な情報収集からいくとするか」
ゆっくりと瞬きした依羅さんは外の雨に目を向け、妖艶な笑みをその顔に浮かべた。
フッと短く息を吐いた友也さんは、松岡にスマホを渡すと依羅さんに目を向けた。
「どうやら、子羊が交通事故で意識不明の重体らしい。その直前に綾香にケイタイから電話をかけてきたそうだ。途中で切れたらしいけどね。――私は今から、綾香と彼女の運ばれた病院へ行って来る。依羅、悪いけど、後を頼む」
友也さんが、手早くエプロンを外す。それを黙って見上げていた依羅さんは、ポケットから車のキィを取り出し、友也さんに渡した。
友也さんが裏口から出て行ってしまうと、依羅さんはファックス兼用の電話を取り、耳にあてた。ボタンを押し、相手が出るのを待つ。
「――山崎警視。申し訳ありません、上宮です。少しお願いしたい事があるのですが、今、手隙ですか? ああ、それはよかった……」
「……只の、偶然だよな」
何やら親しげに会話する依羅さんを横目に、俺は松岡に呟いた。彼はチラリと俺に視線を向けると、等閑に肩を竦めてみせた。
「鎧武者が直接手を下したんじゃないのは確かだろうが、無関係かどうかは何とも言えねぇな。今の時点では」
「え……?」
「だって彼女、綾香に電話したんだぜ? 事故にあう直前に、さ」
俺を見つめながら重く言った松岡に、俺は目を剥いた。
「只の事故じゃないと?」
「さあな。だが――暗示的だったぜ、彼女の話は。言ってたろ? 鎧武者を見た時『車にぶつかりそうになった』ってさ」
「……………」
「気になるか?」
「……当然だ」
互いの顔を見合ったその時。電話を切った依羅さんが無言で俺達を見下ろし、微笑を浮かべた。片肘をカウンターに乗せ、身を乗り出してくる。
「では、迷える子羊。調査を開始しようか? ――依頼の為ではなく、私達の好奇心を、満足させる為に」
「よっしゃあ!」
拳を握ってはしゃぐ俺達に、依羅さんは体を起こした。両腕を組み、後ろの棚に凭れ掛かる。
「ではまず手始めに、的確な情報収集からいくとするか」
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