71 / 115
呪いの鎧武者
10
しおりを挟む
傘をその場に置いて、俺達二人は真っ暗な廊下を中央階段に向かって進んだ。小さなペンライトだけで進む学園の廊下は、普段は歩き慣れているのに、まるで知らない場所のように感じられた。只でさえ、夜の学園なんて怪談話の恰好の餌食にされるくらい恐怖心を煽ってくれるモノなのだ。
その上、外はお誂え向きに雨ときている。耳を澄ませば、ザァーという雨音が耳に届く。それに混じって、時折ビクリとさせられる程の大きな雷の音までが聞こえてくるのだ。この雨と雷が目的の内の一つなのだから文句は言えないが、「また、あの不思議な手並みを見られるかも」と単なる好奇心だけで同行した事を、俺は少々後悔し始めていた。
――これじゃ、友也さんを笑えない……。
それでも前を歩く松岡は、暗い事も雨や雷の音などもお構いなしで、ボスボスと水を含んだ靴の音をさせながら、闇でも目が見えるかのように平然と歩いていた。
「さあ、いよいよ中央階段だ。楽しみだなぁ、山下。鬼が出るか、蛇が出るか――」
振り返った松岡が、嬉しそうに肩を震わせているのが気配で判る。「何が嬉しいんだ」と心の中でボヤきながら、俺は既に「さっさと終わらせて帰りたい」という心境になっていた。
「出てくるとしたら、『鎧武者』だろ」
もう、どうでもいいと半ば投げやりに言った俺に、松岡はハハハッと笑い声をあげた。その声が異様な程階段に響き、俺はゾクリと背中を強張らせた。
「大きな声出すなよ」
大して役に立たないペンライトで階段を照らし、一歩一歩足を踏み出す。相変わらず松岡は、不気味に響く足音など少しも気にならない様子で、軽やかに階段を上がって行った。
二階から三階に続く踊り場で足を止めた松岡は、何も無い暗闇を見上げた。宙を見つめたまま動かずに、それでも何かを探るように目を細める。
シンと緊張感を伴った静寂が、辺りを包む。それに加え微かに聞こえる雨音が、恐怖心を煽るには絶好の役割を果たしていた。雨音に混じり、『鎧武者』のカシャカシャという廊下を歩く足音までが、聞こえてきそうな気配だった。
「なんだよ。何かあるのか?」
「ああ。――鎧武者だ」
予想だにしない松岡の答えに、目を剥く。
「そっかぁ」
彼は歓喜の声をあげると、俺の事などお構いなしで、跳ねるように階段を駆け上がった。
その上、外はお誂え向きに雨ときている。耳を澄ませば、ザァーという雨音が耳に届く。それに混じって、時折ビクリとさせられる程の大きな雷の音までが聞こえてくるのだ。この雨と雷が目的の内の一つなのだから文句は言えないが、「また、あの不思議な手並みを見られるかも」と単なる好奇心だけで同行した事を、俺は少々後悔し始めていた。
――これじゃ、友也さんを笑えない……。
それでも前を歩く松岡は、暗い事も雨や雷の音などもお構いなしで、ボスボスと水を含んだ靴の音をさせながら、闇でも目が見えるかのように平然と歩いていた。
「さあ、いよいよ中央階段だ。楽しみだなぁ、山下。鬼が出るか、蛇が出るか――」
振り返った松岡が、嬉しそうに肩を震わせているのが気配で判る。「何が嬉しいんだ」と心の中でボヤきながら、俺は既に「さっさと終わらせて帰りたい」という心境になっていた。
「出てくるとしたら、『鎧武者』だろ」
もう、どうでもいいと半ば投げやりに言った俺に、松岡はハハハッと笑い声をあげた。その声が異様な程階段に響き、俺はゾクリと背中を強張らせた。
「大きな声出すなよ」
大して役に立たないペンライトで階段を照らし、一歩一歩足を踏み出す。相変わらず松岡は、不気味に響く足音など少しも気にならない様子で、軽やかに階段を上がって行った。
二階から三階に続く踊り場で足を止めた松岡は、何も無い暗闇を見上げた。宙を見つめたまま動かずに、それでも何かを探るように目を細める。
シンと緊張感を伴った静寂が、辺りを包む。それに加え微かに聞こえる雨音が、恐怖心を煽るには絶好の役割を果たしていた。雨音に混じり、『鎧武者』のカシャカシャという廊下を歩く足音までが、聞こえてきそうな気配だった。
「なんだよ。何かあるのか?」
「ああ。――鎧武者だ」
予想だにしない松岡の答えに、目を剥く。
「そっかぁ」
彼は歓喜の声をあげると、俺の事などお構いなしで、跳ねるように階段を駆け上がった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
双極の鏡
葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。
事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。
声の響く洋館
葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。
彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。
【R18】やがて犯される病
開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。
女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。
女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。
※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。
内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。
また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。
更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる