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呪いの鎧武者
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「ほら、大時計の灯りが消えてる。昼間は周りが明るいから、誰も気付かないんだな。確かに此処から見たら、妙な違和感を覚えるな。注意力散漫な女には、感覚的にしか判んなかったようだが……」
見上げると、A棟中央にある大時計の灯りが消えていた。この学園の象徴のような大時計の文字盤は、四六時中オレンジ色に光るようになっていた。決して強くないその光は、夜になると時計の針をぼんやりと映し出した。――それが今は、消えている。
「ま、気付いただけマシか……」
馬鹿にしたような笑みを浮かべた松岡は、再び塀に沿って歩き出した。
「裏門手前で、中央階段の廊下側が見える窓は……と」
言って突然立ち止まると、松岡はヌッと腕を伸ばして一つの窓を指差した。
「あの窓に、彼女は鎧武者を見たらしいな」
三階の中央階段の丁度真横にある窓だ。だが、今日はカーテンはきちんと閉じられており、雷が照らす窓には、別に何も見えなかった。
松岡は無言でそのまま裏門を通り過ぎると、角を曲がり辺りを見回した。
「ま、期待しちゃいないけど」
車の姿がないのを確認してから、松岡は裏門を乗り越え、俺もそれに続いた。
「――そっか。おい松岡。鍵が掛かってるぞ」
窓に近寄り舌打ちして、松岡を振り返る。
「当然だな」
素っ気なく言った彼は窓づたいに歩いて行くと、一番端の窓の前で止まった。
「なんで依頼のあった昨日じゃなく、今日から調査を開始すると依羅さんが言ったと思うんだ? 鍵が掛けられてる事なんざ、百も承知さ。――だからこそ、こちらも用意は周到だぜ。下校前にちょっとした細工をな」
松岡は手探りで透明な糸のような物を探り出し、グイッとそれを引っ張った。ガチャリと音をたてて、上を向いていた窓の鍵が下りた。素早く窓から校舎に飛び込み、俺に早くしろと手を伸ばす。俺は松岡の手を引いて、滑りながらもなんとか廊下に入り込んだ。松岡はキョロキョロと窓から外を見て、すぐに窓とカーテンを閉めた。ペン型のライトを俺に渡し、糸のような物をクルクルと巻いてポケットにしまい込む。
「何それ」
ライトで彼の手元を照らしながら訊いた俺に、松岡が顔を上げた。チロリと上目遣いの瞳を向ける松岡に、俺は視線を逸らせて口を噤んだ。「昨日俺が言ったのを何を聞いていたんだ」と非難を受けるのは判りきっている。
「……失礼。ピアノ線だったな」
見上げると、A棟中央にある大時計の灯りが消えていた。この学園の象徴のような大時計の文字盤は、四六時中オレンジ色に光るようになっていた。決して強くないその光は、夜になると時計の針をぼんやりと映し出した。――それが今は、消えている。
「ま、気付いただけマシか……」
馬鹿にしたような笑みを浮かべた松岡は、再び塀に沿って歩き出した。
「裏門手前で、中央階段の廊下側が見える窓は……と」
言って突然立ち止まると、松岡はヌッと腕を伸ばして一つの窓を指差した。
「あの窓に、彼女は鎧武者を見たらしいな」
三階の中央階段の丁度真横にある窓だ。だが、今日はカーテンはきちんと閉じられており、雷が照らす窓には、別に何も見えなかった。
松岡は無言でそのまま裏門を通り過ぎると、角を曲がり辺りを見回した。
「ま、期待しちゃいないけど」
車の姿がないのを確認してから、松岡は裏門を乗り越え、俺もそれに続いた。
「――そっか。おい松岡。鍵が掛かってるぞ」
窓に近寄り舌打ちして、松岡を振り返る。
「当然だな」
素っ気なく言った彼は窓づたいに歩いて行くと、一番端の窓の前で止まった。
「なんで依頼のあった昨日じゃなく、今日から調査を開始すると依羅さんが言ったと思うんだ? 鍵が掛けられてる事なんざ、百も承知さ。――だからこそ、こちらも用意は周到だぜ。下校前にちょっとした細工をな」
松岡は手探りで透明な糸のような物を探り出し、グイッとそれを引っ張った。ガチャリと音をたてて、上を向いていた窓の鍵が下りた。素早く窓から校舎に飛び込み、俺に早くしろと手を伸ばす。俺は松岡の手を引いて、滑りながらもなんとか廊下に入り込んだ。松岡はキョロキョロと窓から外を見て、すぐに窓とカーテンを閉めた。ペン型のライトを俺に渡し、糸のような物をクルクルと巻いてポケットにしまい込む。
「何それ」
ライトで彼の手元を照らしながら訊いた俺に、松岡が顔を上げた。チロリと上目遣いの瞳を向ける松岡に、俺は視線を逸らせて口を噤んだ。「昨日俺が言ったのを何を聞いていたんだ」と非難を受けるのは判りきっている。
「……失礼。ピアノ線だったな」
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