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【おまけ番外編】キミに感謝を
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しおりを挟む「いいえ、聞きたいです。……姉さんの話」
ねぇ聞かせて、とねだると「そう?」とようやく裕文さんが続きを話してくれる。
「由美もさ、結婚前に俺の家にご飯作りに来てくれた事があったんだけど、やけどして。その時は油をたっぷりひいたフライパンに、濡れたままのじゃがいもを勢い良く入れてね、すごい音をさせていたよ」
「――へ……えぇ…」
初めて聞く話に、笑みが零れてしまう。
幸せそうに話す裕文さんを見るのも、なんだか嬉しかった。
「その時にね、由美も言ったんだ。『考え事してたのよ』って。――ね? やっぱり姉弟でしょ?」
隣から僕を見て笑う裕文さんに、「ははっ」と笑い返した。
「ほんとだ」
「なんだろなぁー。俺が付き合うコって、『ウッカリ屋さん』が多いのかもなぁ……。前に付き合ってたコも――…」
「ストップ」
口を開けたままの裕文さんを、軽く睨んだ。
「そっちは聞きたくありません」
驚いた顔で僕を見返した裕文さんが、「ごめんね」と微笑んで薬箱に軟膏をしまう。
僕は立ち上がって、裕文さんの前へと立った。
両手を差し出せば、裕文さんも応えて両手で握ってくれる。
そうして、僕を見上げた。
「ねぇお義兄さん。聞かせて下さい。お義兄さんが愛す最後の女性は、姉さんですか?」
これからも、ずっと――。
過去は変えられないけれど。
人生のその刻々で、それぞれ愛した女性は、いただろうけれど。
それでも最後は姉さんだけだと、聞かせて欲しかった。
「うん」
僕を見上げ、見つめたままで、義兄さんは言ってくれる。
「俺がこれ以降、由美以外の女性を愛する事はないよ」
心からの言葉だと、判ったから。
僕は本当に、嬉しかったんだ。
礼を伝えた僕から片手を離して、「おいで」と僕の腰に手を回す。腰を引かれて、必然的に裕文さんを跨ぐ感じでソファに膝を付いた。
驚いて、裕文さんを見下ろす。
「そして誓うよ。俺が愛する『男』は、これまでも、これからも。浩次君だけだって」
僕を見上げ、微笑み言ってくれた裕文さんが、これ以上ないくらいに愛おしい。
この人は、まるで魔法使いの呪文のように。言葉だけで、こんなにも僕を幸せにしてくれるのだ。
頭を引き寄せられて、口付けられる。
――優しい、優しいキス。
大切なものに触れるように、ゆっくりと、丁寧に。何度も何度も唇を重ねられた。
大好きだと、あなたをこんなにも愛していると、洩れる吐息に含ませ伝える。
そのまま抱き寄せられると、暖かく幸せな想いに包まれた。
――のに。
「あ、いけない!」
漂ってきた焦げ臭いにおいに、慌てて裕文さんから離れた。
油の方は火を消したけれど、カレーの方は火を点けたままなのを忘れていた。
慌てて混ぜても、鍋底にしっかりと焦げ付いている。
「あ、焦げちゃった?」
僕の肩越しに鍋を覗き込んで笑う裕文さんには、溜め息が洩れた。
「……もう。笑い事じゃないですよ」
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