8 / 17
Ⅱ
4
しおりを挟む「え……」
向かった、姉さんのお墓の前。
誰か居ることに、足を止める。
そしてそれが、見慣れた背中であることに、驚きの声を落とした。
「どうして……」
僕の呟きに、しゃがんで手を合わせていた人物が振り返る。
驚きにぽかんと口を開け、立ち上がった。
「あれ? 浩次君? どうしてここに居るの?」
それはこっちのセリフです、と足を進める。
「お義兄さんこそ。お見合いはどうしたんですかっ」
時間は!? 間に合うの!? と続けざまに訊いた僕に、「いやぁ、それが……」と横を向いて頭を掻く。
「あれ、実は断ってたんだよねぇ」
「え……」
どうして……と呟いた僕に、今度は裕文さんが問うてきた。
「浩次君こそ、どうして此処に? お友達は?」
「それは……その……」
口篭った僕に、裕文さんがふわりと笑う。
そうして、優しく頭を撫でてきた。
「気を遣ってくれてたんだ? 浩次君は、良い子だねぇ」
全然良い子じゃないのに、それを言えない。
そっと息を吐いて、姉さんの墓前に花束を供えて手を合わせた。
「ごめんね。せっかく2人で会話してたのに、邪魔しちゃって」
僕が言うと、クスリと裕文さんが笑う。
見上げた僕に、肩を竦めて笑った。
「どうだろ。――もしかしたら、由美が浩次君を呼んだのかもしれないね。僕の愚痴にうんざりして……」
「え……?」
――グチってた? 裕文さんが?
今まで、裕文さんが愚痴を言っているのを聞いた事がない。
驚く僕に、裕文さんは拗ねるように顔を背けて唇を尖らせた。
「浩次君が、まだ他人行儀なんだよーって。どうしたらちゃんと、家族として俺を見てくれるのかなって、グチってた」
「そんな、こと……」
僕を見て微笑んでいた裕文さんは、小さく息を吐く。
そして、「あともう1つ」と再び姉さんの墓石を見遣った。
「弟が女の子と遊びに行くってだけで、こんなふうに嫉妬するものなのかな、って訊いてた」
「えっ?」
「俺、一人っ子だったから……。よく解らなくて」
「――……姉さんは、何て言ってました?」
此処には他に、人が居なくて。
ドキドキ言ってる心臓の音が、裕文さんに聞こえてしまうんじゃないかと思った。
そうだね、と笑った裕文さんが、小首を傾げる。
「『知らないわよ』って呆れられてる気もするし、『自分で考えなさい』と笑われてる気もするよ」
笑ってる裕文さんに、思わず見惚れてしまう。
――もし、姉さんが。
僕をこの場に呼んでくれたんだとしたら、きっと別の理由だと思う。
「けど……。言えないよ。そのなの」
ぽつりと呟いて。
でも――ありがとう、と。
姉さんに心の中で伝えた。
3
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
告白
すずかけあおい
BL
「河原美桜くん。好きです」
クラスメイトの志波から人生初の告白をされた美桜は、志波のことを全然知らないからと断るが、なぜか「これからよろしくね」と言われて……。
〔攻め〕志波 高良(しば たから)高二
〔受け〕河原 美桜(かわはら みお)高二
たまにはゆっくり、歩きませんか?
隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。
よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。
世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……



【BL】記憶のカケラ
樺純
BL
あらすじ
とある事故により記憶の一部を失ってしまったキイチ。キイチはその事故以来、海辺である男性の後ろ姿を追いかける夢を毎日見るようになり、その男性の顔が見えそうになるといつもその夢から覚めるため、その相手が誰なのか気になりはじめる。
そんなキイチはいつからか惹かれている幼なじみのタカラの家に転がり込み、居候生活を送っているがタカラと幼なじみという関係を壊すのが怖くて告白出来ずにいた。そんな時、毎日見る夢に出てくるあの後ろ姿を街中で見つける。キイチはその人と会えば何故、あの夢を毎日見るのかその理由が分かるかもしれないとその後ろ姿に夢中になるが、結果としてそのキイチのその行動がタカラの心を締め付け過去の傷痕を抉る事となる。
キイチが忘れてしまった記憶とは?
タカラの抱える過去の傷痕とは?
散らばった記憶のカケラが1つになった時…真実が明かされる。
キイチ(男)
中二の時に事故に遭い記憶の一部を失う。幼なじみであり片想いの相手であるタカラの家に居候している。同じ男であることや幼なじみという関係を壊すのが怖く、タカラに告白出来ずにいるがタカラには過保護で尽くしている。
タカラ(男)
過去の出来事が忘れられないままキイチを自分の家に居候させている。タカラの心には過去の出来事により出来てしまった傷痕があり、その傷痕を癒すことができないまま自分の想いに蓋をしキイチと暮らしている。
ノイル(男)
キイチとタカラの幼なじみ。幼なじみ、男女7人組の年長者として2人を落ち着いた目で見守っている。キイチの働くカフェのオーナーでもあり、良き助言者でもあり、ノイルの行動により2人に大きな変化が訪れるキッカケとなる。
ミズキ(男)
幼なじみ7人組の1人でもありタカラの親友でもある。タカラと同じ職場に勤めていて会社ではタカラの執事くんと呼ばれるほどタカラに甘いが、恋人であるヒノハが1番大切なのでここぞと言う時は恋人を優先する。
ユウリ(女)
幼なじみ7人組の1人。ノイルの経営するカフェで一緒に働いていてノイルの彼女。
ヒノハ(女)
幼なじみ7人組の1人。ミズキの彼女。ミズキのことが大好きで冗談半分でタカラにライバル心を抱いてるというネタで場を和ませる。
リヒト(男)
幼なじみ7人組の1人。冷静な目で幼なじみ達が恋人になっていく様子を見守ってきた。
謎の男性
街でキイチが見かけた毎日夢に出てくる後ろ姿にそっくりな男。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

華麗に素敵な俺様最高!
モカ
BL
俺は天才だ。
これは驕りでも、自惚れでもなく、紛れも無い事実だ。決してナルシストなどではない!
そんな俺に、成し遂げられないことなど、ないと思っていた。
……けれど、
「好きだよ、史彦」
何で、よりよってあんたがそんなこと言うんだ…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる