上 下
65 / 65

【おまけストーリー】プレオープンという名の、宴会!

しおりを挟む
 戻ってきた日は夕方近かったのもあり、そのままし、翌日は仕込みをおこなった。
 ひさしぶりの厨房に戸惑う部分もあったが、1時間もしないうちにいつも通りに動けたことに、莉子は喜んだが、体力がかなり落ちていることがわかった。

「さすがに3週間は長かったですね……」
「こちらとしては、もう少し休んでもよかったんだが……」
「いやいや! はぁ……この体の感じ、明日のプレオープン、筋肉痛で迎えそうです」
「なら、私特製のスープを、夕食で食べようか」
「……ね、やっぱり、そのスープ、なんか入ってますよね? 何入ってるんですか? ね? 無言が怖いんですけど! 怖いんですけど!?」


 ──そんな翌日を終え、本日プレオープンとなる。

「今日の納品は、酒類と肉、あとは野菜……いや、全部ですね……」

 莉子は発注書を見つつ、コーヒーを飲み込むが、苦い顔をする。
 量の多い納品の日が実は嫌いなのだ。
 冷蔵庫に入れるもの、冷凍庫にしまうもの、在庫を確認してからしまうもの、など、面倒だからだ。

「今日使う分ぐらいだろ。それほどじゃない」
「業者が4つ来るのが、心の負担です」
「……え」
「え、じゃないです。基本、2つ業者が交互に来るようにしてたんですよ、嫌すぎて」
「なかなかだな」

 莉子はトーストを頬張りながら、時計を見上げた。

「ケレヴさんは何時入りですか?」
「今日は昼からだろ? だから10時ごろには来るそうだ。トゥーマも一緒だ。アキラはエリシャとカーレンを迎えにいくといっていた。あ、今日はセナも来るのか?」
「あいつも来ます。すっかりエリシャさんとカーレンさんと仲良しです。なんか、エルフの友達できて嬉しいみたい」

 莉子がエルフ化したことで、少し環境に変化があった。
 それは、近くにいる人に、エルフ語が翻訳されるということだ。もちろん、日本語がエルフ語にも翻訳もされる。
 どうも莉子の魔力と、手のひらに残った髪留めの欠片の作用らしい。
 コンダクターの至が持っている、魔力が宿った鈴。これも、至の周りにいる人間とエルフの言葉を翻訳する機能がある。だいたい半径15m程度とはいっていたが便利なものだ。
 莉子はそれよりも範囲が狭いが店内程度であれば問題ない。

 そういうことで、莉子を挟んでであれば、イウォールも人間と会話することができ、もちろん、セナもエルフと会話することができるのだ。

「リコ、食材に発注もれはなさそうだ」
「そうですね。納品まで、ちょっと待ちましょうか」

 もう7月も終わり、お盆も過ぎたところ。
 まだ夏の色は強い。
 そこで、なにでおもてなしをしようか、イウォールと散々話し合い決めたのが、『バーベキュー』である。

 外に焼き台を作り、そこでお肉を焼いてビールとワインをたらふく飲もうという、ちょっと手抜きなおもてなし。

 ……ではあるが、夏に似合うのはバーベキュー!!!

 焼き担当はケレブとなっている。
 彼はバーベキュー奉行らしい。

「よ! カフェにお前らの顔があると、安心するな」

 予想の時間よりも早く来たケレブが店に来るなり、イウォールと莉子を見て笑っている。
 その後ろから大きな荷物を抱えてきたのはトゥーマだ。

「リコー、焼き台、どこに置いたらいいー?」

 テラスを開くと、実は中庭がある。
 林に囲われているが、その囲う林もカフェの敷地になる。
 おかげで外からは見えない中庭だ。
 庭の造りはイギリス式だと祖父はいっていたが、本当のところ莉子はわからない。
 ただ土が見えないぐらいに植物が植えられ、それぞれ好き勝手に花が咲いている庭だ。季節ごとに咲く花が変わり、色も変わり、莉子のお気に入りでもある。
 だが莉子は育てる才能が全くないため、月に1度、プロに庭の管理をお願いしている。この経費も実はバカにはならないが、自分ができないのだから、しょうがない。
 ちなみに莉子は小さな頃、その中庭で、1人キャンプ、今で言えばソロキャンをした記憶がある。
 カフェの経営の関係で、どこにも連れて行ってもらえなかなったからだ。
 ただ、なかなかに面白かった。
 蚊には、かなり刺されたが。

「こんな場所あったんだなぁ」

 トゥーマが焼き台を設置しながら、炭を敷き詰めている。ケレヴはカフェ用の大きなパラソルを並べ、テーブル、イスとセッティングする後ろを、莉子が横切った。

「意外と広いでしょ? そこのテラスからしか出られない中庭なんですけどね」

 莉子はイウォールたちにペットボトルの麦茶を手渡しながら、ぐるりと見渡した。

「リコ、ここも解放したらどうだろう?」
「そうですね……前向きに検討していきましょうか」

 焼き台に炭を入れ終えたトゥーマが軍手を叩いた。

「よし、火起こしすれば、あとはオッケー」
「じゃ、炭はまだ早いから、ビールでも飲むかぁ。リコ、ビール」
「休日のオヤジみたいなの、やめてくれません? まだ10時にもなってないし、店内でジュース飲んで休んでください!」


 軽食をつまみつつ、会話が止まらない。
 いつも話したりしていたが、仕事がらみが多かったからだろうか。
 笑って話す時間が少なかったようにも思う。

 11時すぎたことで準備を再開。
 ケレヴとトゥーマは火おこしを、莉子とイウォールはバーベキューの下処理などを進めていく。

 12時にささしかかるころ、ドアベルが鳴る。
 入ってきたのは、アキラとエリシャ、カーレン、それにセナだ。
 莉子が迎えに出るなり、セナが莉子に抱きついた。

「莉子、あんたの能力を侮っていた……」
「なに言ってんの?」
「アキラくんとエリシャが通訳してくれたから、カーレンと喋れたけど、めっちゃ大変だった。めっちゃ大変だった!」
「2回言わなくてもいいし」
「いっつもあんたいたから会話に不自由してなかったんだな、って、改めてあんたの良さを理解したよ……」
「ホンニャクコンニャクみたいな役割じゃない、それ」
「さ、莉子、私のそばから離れないで!」
「いや、カフェぐらいは大丈夫だし」
「そなの? じゃ、外、先行ってるわー」
「慌ただしいやつ……」

 莉子がどっと肩を落とすと、次に抱きついてきたのはエリシャだ。
 それにくっついて、カーレンも抱きついてくる。

「私がきたわーーーー! リコのカフェが再開するのね! 楽しみにしてたの!」
「……楽しみにしてた……今日、すごく楽しみだった……」
「エリシャさん、カーレンさん、ありがとうございます。もうお肉の準備してますから、早速始めましょうか」

 莉子がテラスから中庭への移動を案内していると、後ろではアキラがイウォールの手伝いをはじめている。

「マスター・イウォール、これ運べばいいです?」
「すまない。こっちのサラダも頼む」


 早速と、乾杯も適当に開始したバーベキューだが、男性陣と女性陣で分かれた席となっている。そのテーブルを挟んで焼き台がある。
 イウォールは滝のように汗が流れるからか、常にビールを片手に肉を焼き続けている。
 その焼き台の前に並ぶのはカーレンだ。
 皿を持って待つ姿は可愛い。
 だが、カーレンのせいなのか、火が弱くなりやすいようで、ケレヴは調整が難しそうにしている。
 それを見かねてトゥーマがカーレンの皿を取ると、

「カーレン、席に運んでやるよ。座ってろ」
「……お肉、選びたい」
「どれも同じだって」
「……こっちのほうが、よく焼けてる……」
「お前、コゲ専? オレと同じじゃん! じゃ、よく焼けたやつ持ってく」
「……わかった。任せた……」

 莉子は追加の肉を運びながら、あの2人、いい感じね。と眺めていると、エリシャに腕を引っ張られる。

「リコも座って! お話しできないじゃなーいっ」

 今日は店主とお客の垣根はないことになったようだ。
 それぞれに動き、それぞれに食べて飲む、という自由型になってしまった。
 莉子とイウォールもそれに甘えることにし、それぞれに楽しみだすが───

「って、お前、ヤってねぇのかよ!」

 ケレヴの声が響く。
 同じく、セナの声も上がった。

「乙女か!? どこの乙女よ!!! 25だろ?」
「まだ24ですけど」

 というのも、みな、イウォールと莉子の距離が縮んでいることに気づいていたのだ。

『大人の仲になったんだな……』

 と思っていたからこそ、遠回しに、「部屋は一緒でしょ」と聞いたセナに、莉子が首を横に振ったことが発端だ。

「一緒に寝たりとか……」
「なんで一緒に寝るの?」

 この台詞からの、乙女発言だ。
 イウォールはイウォールで、

「私はケレヴとは違うからな!」
「……いや、お前さ、いくつよ? ちょっとは前進しろよ」
「いいや、そういうことは、婚儀を交わしたあとだろう」
「マジかよ! 古っ! つうか、それなら、異世界むこうに帰らなきゃだめだろ」
「それもそうだな……リコも異世界に行ってみたいって言っていたし、計画するか……」

 その計画に、トゥーマとアキラの目が輝きだした。

「みんなでむこうに帰るの、楽しそうだね、トゥーマ」
「そうだな! 日帰りでもいいし。あ、リコには湖みせてやりたいなぁ」
「うちの領土の?」
「あったりまえだろ?」

 莉子とイウォールはものすごい進展をしたと思っているのだが、周りにはまだまだ『じれったい』が続きそうだ。

 夜は長い。
 彼らのバーベキューはだらだらと続いていく。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

そまり
2021.03.06 そまり

こちらのIf編も読ませていただきました。
一気に16話まで読みました。
こちらの莉子さんは、護身術もできて凛々しいですね。
暴走するイケメンエルフとしっかり者のカフェオーナーのラブコメ楽しいです。
こちらの方の更新も楽しみにしてます。

yolu
2021.03.06 yolu

どちらも読んでくださるなんて、私、浮かれてしまいます!
ありがとうございますっ
そうなんです、if莉子ちゃん、ちょっと出来る子なんです

どちらも定期的に更新できるよう、がんばりますので、お付き合いいただけたら(*´ω`*)本当に感想、ありがとうございますっ

解除

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。