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第63話 イウォールの告白

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「私があの日、勘違いをしていなければ、もっと早くに助けに来れたんだ……」
「勘違い?」

 イウォールは手のひらで目を1回拭い、息を整える。

「私は莉子が一緒に食事をした友人を、男性だと勘違いした」
「ああ、セナ。あー、だから、いきなり素っ気なくなったんですね」
「……だから、男といるのだから大丈夫だろうと言い訳をして、髪留めとの意識を私は切ってしまっていたんだ……」

 その告白に、莉子は思わず吹き出していた。
 可愛いところがあるじゃないかと、思ってしまったのだ。

「イウォールさんがヤキモチ焼いてくれたんですね……ちょっと嬉しい」

 そう笑う莉子の頬をいつも通りに撫でるイウォールだが、また涙が目に溜まり始める。

「それだけじゃない。命の危険にさらしてしまい……さらに、君をエルフと同じようにしてしまった……」
「魔力が高くなったってだけでしょ? 髪の毛は染めてもいいし、もしかしたら黒い髪に戻るかも」
「それはない」

 アキラが出してくれた魔力数値用紙の、マーカーが引かれた枠を指差した。

「色々数値化できるものでね、ここがエルフの細胞数値だ。……君の全身すべて、髪の毛一本にいたるまで、エルフと同じ体質をもったことになる」
「へぇ……生きながらに異世界転生した感じですね……」

 莉子は紙を取り上げ、ふんふんと眺めるが、イウォールに振り向くように肩を掴まれた。

「リコ、よく聞いてくれ……それは、……君の体が将来どうなるか、わからないってことなんだ……!」

 あまりの必死さに莉子は戸惑うが、再びイウォールの頬に伝った涙を見て、理解する。

「……まさか、すぐ死ぬかもって、ことですか……?」

 莉子の言葉に、イウォールがゆっくりとうなずいた。顔が揺れるだけで、ぼろぼろと涙が溢れてくる。
 莉子はその涙を指で拭って、なぜか笑う。

「やだなぁ、イウォールさん、まだ生きてますよ、あたし」

 イウォールの鼻をちょんと突いたリコだが、イウォールの涙は止まらない。

「リコ、魔力というのは、老化を抑制する力がある。だからエルフは長生きだ。反面、魔力が枯渇すれば、一気に老化してしまうものでもある。今、君の体にどれだけの負荷がかけられているのか、我々も初めてのケースでわからないんだ。……私がしてしまったことは償えないものだ。いくらでも怒ってくれていい、罵倒してもいい! ……ただ私は一生をかけて君に尽くし、君を守り続ける。だからといって、……君は、私のそばにいなくてもいい。……こんな者のそばは嫌だろう……。君は君の好きな人のそばで過ごして……。リコ、本当に、すまない……」

 優しく抱き寄せてきたイウォールの肩を、莉子はゆっくり押して離した。
 寂しそうに、そして、悲しそうに笑うイウォールを莉子はじっと見つめる。

 莉子はおもむろに立ち上がり、お辞儀の要領でイウォールのおでこに頭突きをかました。

 お互いに無言でうずくまるが、莉子のほうが立ち直りは早かった。

「もう、起こったことはしょうがないんです! だいたい、あたしは、あなたのせいで、1人が寂しいって思い出しちゃったんです! もっと前向きに、あたしを支えてくださいっ!」

 莉子はどすんと腰を下ろすと、

「だいたい人間の寿命なんてエルフに比べたら、ちょびっとなもんでしょ? もしかしたら、エルフぐらい長生きになるかもしれないんですよ? ってことは、あたし、人間のみんなを見送り続けなきゃいけないかもしれない。そのときにとなりにいてくれるの、エルフの人しかいないじゃないですか……」

 莉子はさっき口をゆすいだ残りのペットボトルを飲み干し、ひと息つく。

「だから! イウォールさん! これからもよろしくお願いしますねっ! わかりましたか!」

 ツンとした顔で莉子が言い切ると、イウォールは莉子の胸に自身の顔をうずめた。
 肩を震わせながら、腰に腕を回してぐっとくっついたまま動かない。

「ちょ! イウォールさん!?」
「……少しだけ、こうして……ほしい……君を感じたい……君に、出会えてよかった……」

 イウォールの顔が胸にあることで、心臓の音が激しく聞こえる気がする。
 戸惑いながらも、莉子はイウォールの頭をそっと撫でてみた。
 点滴の管が邪魔ながらも、銀髪の触り心地はとても柔らかい。指にからみつきながら、さらりとほどけていく。
 ちょっとだけ、リカちゃん人形みたいな髪じゃないんだ、と思ったことは内緒にしようと思う。

 どれくらい時間が経っただろう。
 数分の気もするし、数十分な気もする。
 それぐらいに、落ち着いた時間であり、心が満たされている。

「……イウォールさん、落ち着きましたか……?」

 銀髪を指に絡めながら、イウォールの耳元に寄せて莉子が聞く。
 イウォールは、もう一度、自身の顔を莉子の胸に押し付けながら呟いた。

「……ムラムラする……」

 莉子の肘鉄が決まった。
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