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第54話 旧友との再会
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時間どおりに店を終わらせ、莉子は駅へと急ぐ。
セナは仕事帰りというから、きっとスーツ姿だろう。
莉子もほぼ変わらず、Tシャツにジーンズ、化粧は適当に直したぐらいだ。
まだ日中の蒸し暑さが残る道路を歩いていくと、不意に肩を叩かれた。
「へい、これからどこいくのー?」
「……あんたと、居酒屋、でしょ」
「莉子、おひさ! 後ろ姿ですぐわかった。あ、髪留め、かわいいね、これ!」
うぇーい! といわんばかりのノリだが、これがセナである。
「あんたも相変わらずだねぇ」
「男勝り同士、今日は飲むぞー!」
ジャケットを肩に背負い、歩き出す姿はまさしくサラリーマンだが、セナは『女』である。
身長は170に届かないぐらい。女性の中では大きい方だろう。さらにヒールも履いているから余計だ。
だが、イウォールに説明した通り、背がスラッと高くて、かっこいいのは間違いない。
「まじ、ひさしぶりだねー。まさか莉子から恋話相談とは、まじビビったわ」
「うっさい!」
莉子の肩を抱きながら歩くセナだが、見上げる先がそれほど上ではない。
昔はセナの顔を見上げるのも億劫だったが、今はエルフとの付き合いがあるため、セナくらいだと低く感じてくる。
「……慣れって怖いな」
「んん? なんだいなんだい? この恋の神様セナ様が君の悩みを聞いてやるってばよ? よ?」
「うざっ!」
「いいじゃぁーん、ちょっとぐらいかまってよぉー」
───その頃、かの有名ホテルで、トップ同士の会食が始まろうとしていた。
「イウォール、やったわね! これでリコも安心ね」
たまたま廊下ですれ違ったエリシャが、イウォールに声をかけた。
だが、イウォールの思考はどこかに飛んでいる。
返事がない。
生きた屍のようだ。
「ちょっと、聞いてる? あ、今頃リコは友だちと食事かぁ……いいわね、そーいうのも」
「……そう、だな……」
ようやくの返事だが、苦虫を噛み潰した顔だ。
奥歯を噛み締め、眉間にシワがよる。
何に対してそう思っているのか、それほどまでに何が気にくわないのか、エリシャには全くわからない。
イウォールの表情が引っかかりながらも、仕事があるため、その場を離れるしかなかった───
「莉子ぉ、それは、恋だぜ?」
割箸を指示棒がわりに莉子にむけるのは、セナだ。
今までの一通りの話をした莉子に向けての発言だ。
ちなみに、キスをされたことは、言っていない。
「恋愛相談だけなら負けない私が感じるに、それは、恋なんだぜ?」
「いや、憧れかもしれないじゃん」
だし巻き卵を頬張りながら言うが、セナは、ノンノンと舌を叩く。
「ドキドキしちゃったんだろ? また来てくれないかな、って思っちゃったんだろ? それは恋だ。恋!」
「でも、私とぜんぜん立場が違う人だしさ、そう言う人って話が合わないじゃん。……今だけだよ、楽しいの」
「そーか?」
「だってそうじゃない? お互いの共通の敵がいたから仲良くなったってところあるじゃん」
「……確かにね。それはあるだろね」
「ほらぁ」
莉子は梅酒のロックを飲み干し、追加を通りすがりの店員さんに頼むと、唐揚げに箸をのばす。
セナも同じくハイボールを飲み干してから、枝豆を食べ、指をなめながら、考え込む。
「でもさ、莉子の気持ちが一番大事じゃん、こういうのって」
「どういうこと?」
「どうでもいい人になるなら、そのままフェードアウトでいいと思う。けどさ、莉子はどうなの? どうなりたいの? あんたは、また、一人がいいの?」
「……わかんない」
「よし! それ、はっきりさせるまで、帰れまテンね!」
「え、なにそれ」
セナはハイボールをもう1杯追加し、新しく届いた莉子のグラスをかちんと鳴らす。
「莉子が今日で、大人の階段登っちゃうね~」
「意味わかんないんだけど」
「ねーねー、どっちよ? どっちなのよ?」
莉子はひと口梅酒を飲み込んで、ふんと息をつく。
「……そのさ、また誰かと朝を過ごすって、すごく素敵だなって、思った……」
「なんか、それエロいね」
「バッ! イウォールさんは、向こうの部屋だって!」
「わかってるわかってる……で?」
「……今日、ランチ1人でやってて、『あー、独りなんだ』って思ったんだ……それがなんか、すごく寂しくなった……」
またグラスに口をつけた莉子に、セナは満面に笑顔を浮かべた。
「莉子が、素直に寂しいとか、ひとりが嫌って言える人になってくれないかなって、ずっと思ってたの。私、嬉しいなっ」
セナの言葉に、莉子の喉のつかえが取れた気がした。
私がずっと言いたかったことは、コレだったんだ。そう思えたのだ。
でもよくできた話で、失ってから大切なことに気づいたパターンじゃないだろうか───
「泣くな、莉子。まだ始まってもいない! まだ、大丈夫だ、莉子」
「そうかな……そうかな、セナ……」
あふれてくる涙に、莉子はおしぼりで目尻を拭う。
だが、どうしても止められなくて、ぐしゃぐしゃの顔でセナを見ると、彼女は力強く親指を立てた。
「莉子、私はな、アイルトン・セナから命名されたんだ。莉子の悩みなんて、高速で解決するに決まってんだろ? 任せろ!」
「……じゃあ、どう解決するの……?」
「今日の解決方法は、飲む! あとは、莉子の勇気!」
「……やっぱ、あんたは適当だな……さすが、セナだ」
何度目かわからない乾杯。
だが、セナの言う通り、大人の階段を登ったのかもしれない。
もう一度、会わないといけない。
莉子はそう決意を固め、4杯目の梅酒を喉に落とした。
セナは仕事帰りというから、きっとスーツ姿だろう。
莉子もほぼ変わらず、Tシャツにジーンズ、化粧は適当に直したぐらいだ。
まだ日中の蒸し暑さが残る道路を歩いていくと、不意に肩を叩かれた。
「へい、これからどこいくのー?」
「……あんたと、居酒屋、でしょ」
「莉子、おひさ! 後ろ姿ですぐわかった。あ、髪留め、かわいいね、これ!」
うぇーい! といわんばかりのノリだが、これがセナである。
「あんたも相変わらずだねぇ」
「男勝り同士、今日は飲むぞー!」
ジャケットを肩に背負い、歩き出す姿はまさしくサラリーマンだが、セナは『女』である。
身長は170に届かないぐらい。女性の中では大きい方だろう。さらにヒールも履いているから余計だ。
だが、イウォールに説明した通り、背がスラッと高くて、かっこいいのは間違いない。
「まじ、ひさしぶりだねー。まさか莉子から恋話相談とは、まじビビったわ」
「うっさい!」
莉子の肩を抱きながら歩くセナだが、見上げる先がそれほど上ではない。
昔はセナの顔を見上げるのも億劫だったが、今はエルフとの付き合いがあるため、セナくらいだと低く感じてくる。
「……慣れって怖いな」
「んん? なんだいなんだい? この恋の神様セナ様が君の悩みを聞いてやるってばよ? よ?」
「うざっ!」
「いいじゃぁーん、ちょっとぐらいかまってよぉー」
───その頃、かの有名ホテルで、トップ同士の会食が始まろうとしていた。
「イウォール、やったわね! これでリコも安心ね」
たまたま廊下ですれ違ったエリシャが、イウォールに声をかけた。
だが、イウォールの思考はどこかに飛んでいる。
返事がない。
生きた屍のようだ。
「ちょっと、聞いてる? あ、今頃リコは友だちと食事かぁ……いいわね、そーいうのも」
「……そう、だな……」
ようやくの返事だが、苦虫を噛み潰した顔だ。
奥歯を噛み締め、眉間にシワがよる。
何に対してそう思っているのか、それほどまでに何が気にくわないのか、エリシャには全くわからない。
イウォールの表情が引っかかりながらも、仕事があるため、その場を離れるしかなかった───
「莉子ぉ、それは、恋だぜ?」
割箸を指示棒がわりに莉子にむけるのは、セナだ。
今までの一通りの話をした莉子に向けての発言だ。
ちなみに、キスをされたことは、言っていない。
「恋愛相談だけなら負けない私が感じるに、それは、恋なんだぜ?」
「いや、憧れかもしれないじゃん」
だし巻き卵を頬張りながら言うが、セナは、ノンノンと舌を叩く。
「ドキドキしちゃったんだろ? また来てくれないかな、って思っちゃったんだろ? それは恋だ。恋!」
「でも、私とぜんぜん立場が違う人だしさ、そう言う人って話が合わないじゃん。……今だけだよ、楽しいの」
「そーか?」
「だってそうじゃない? お互いの共通の敵がいたから仲良くなったってところあるじゃん」
「……確かにね。それはあるだろね」
「ほらぁ」
莉子は梅酒のロックを飲み干し、追加を通りすがりの店員さんに頼むと、唐揚げに箸をのばす。
セナも同じくハイボールを飲み干してから、枝豆を食べ、指をなめながら、考え込む。
「でもさ、莉子の気持ちが一番大事じゃん、こういうのって」
「どういうこと?」
「どうでもいい人になるなら、そのままフェードアウトでいいと思う。けどさ、莉子はどうなの? どうなりたいの? あんたは、また、一人がいいの?」
「……わかんない」
「よし! それ、はっきりさせるまで、帰れまテンね!」
「え、なにそれ」
セナはハイボールをもう1杯追加し、新しく届いた莉子のグラスをかちんと鳴らす。
「莉子が今日で、大人の階段登っちゃうね~」
「意味わかんないんだけど」
「ねーねー、どっちよ? どっちなのよ?」
莉子はひと口梅酒を飲み込んで、ふんと息をつく。
「……そのさ、また誰かと朝を過ごすって、すごく素敵だなって、思った……」
「なんか、それエロいね」
「バッ! イウォールさんは、向こうの部屋だって!」
「わかってるわかってる……で?」
「……今日、ランチ1人でやってて、『あー、独りなんだ』って思ったんだ……それがなんか、すごく寂しくなった……」
またグラスに口をつけた莉子に、セナは満面に笑顔を浮かべた。
「莉子が、素直に寂しいとか、ひとりが嫌って言える人になってくれないかなって、ずっと思ってたの。私、嬉しいなっ」
セナの言葉に、莉子の喉のつかえが取れた気がした。
私がずっと言いたかったことは、コレだったんだ。そう思えたのだ。
でもよくできた話で、失ってから大切なことに気づいたパターンじゃないだろうか───
「泣くな、莉子。まだ始まってもいない! まだ、大丈夫だ、莉子」
「そうかな……そうかな、セナ……」
あふれてくる涙に、莉子はおしぼりで目尻を拭う。
だが、どうしても止められなくて、ぐしゃぐしゃの顔でセナを見ると、彼女は力強く親指を立てた。
「莉子、私はな、アイルトン・セナから命名されたんだ。莉子の悩みなんて、高速で解決するに決まってんだろ? 任せろ!」
「……じゃあ、どう解決するの……?」
「今日の解決方法は、飲む! あとは、莉子の勇気!」
「……やっぱ、あんたは適当だな……さすが、セナだ」
何度目かわからない乾杯。
だが、セナの言う通り、大人の階段を登ったのかもしれない。
もう一度、会わないといけない。
莉子はそう決意を固め、4杯目の梅酒を喉に落とした。
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