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第41話 お祭りを終えて

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 閉店は18時。
 夜の営業もない今日だが、店内のテーブルにへばりつくのは、エルフ5名、精霊1名、人間1名だ───

「……おわったな」

 トゥーマの声はまるで世界が終わったような悲壮感漂う声だが、やりきったのは間違いない。
 数字でいくと、昨日の2倍のエルフが来たことがわかっている。
 それは昨夜来てくれたエルフが今日も来てくれたのも大きい。
 だが、これほどの盛況は予想しておらず、デザートは追加することになり、さらにドリンクを買いに走ることにも……

「こんなことになるとは思ってなかったです……」

 莉子の声がどっしりと響くが、口の端が笑っているのが莉子らしい。

「たしかに今日はバッタバタで色々あったが、成功は成功だろ」

 ケレヴがぬるいビールを流し込んでいる。
 エリシャがそれをもぎとり飲み干すと、どん! とテーブルに置いた。

「でもこれでリコの店はエルフにも使いやすくなったわ!」
「俺の飲むなよ。ビール苦手じゃなかったのかよ」
「いいじゃない。喉乾いてたの」
「新しいの飲めばいいだろ」
「そこまで歩けない!」
「……うるさい、エリシャ」

 3人のやりとりを眺めながらイウォールは満足そうに息をつく。

「これで国王を呼んでも問題はない。23日、国王を呼んである。楽しくおもてなししようじゃないか」

「「「「「……はぁ?」」」」」

 ケレヴ、トゥーマ、アキラ、エリシャ、莉子の声が重なった。

「23っていったら、式典後じゃん」

 トゥーマの声にアキラもうなずいている。

「そんな過密スケジュール、ダメですって! 僕、通訳に回るんですよ? いやですよぉ」
「大丈夫だ。私たちは普通に横にいればいいだけだろ?」
「お前はそうかもしれないけどな、俺は護衛に回るんだぞ? わかってんのか?」
「オレ、ずっと国王の接待だぜ? なんでよ、なんで翌日よ!」
「私だって通訳で動かなきゃいけないのに! そんなの急すぎるわっ」

 莉子は国王が来ることに驚いての声だったのだが、他のメンバーから漏れるのは不平不満だ。

「……皆さん、国王の式典に出席されるんですか……?」

 莉子の声に、カーレンがこくりと頭を揺らす。

「……みんな、国王の側近になる日……留守番の日」
「じゃ、カーレンさんは私と式典見るとして、翌日の準備もいっしょにしましょうか」
「……うん、リコと準備する」

 表情があまりないカーレンだが、2日いっしょに過ごしたことで、楽しそうや、嬉しそうが莉子なりに理解できるようになっていた。
 ちなみに今は、嬉しそう、だ。

「さすが私の妻だ、はなしが」

 イウォールの頬が殴られる。

「そんな過密スケジュールの人の予定、崩せないじゃないですか。それにイウォールさんのことです、いきなり言って否応なしにスケジュールを組ませようとしていたんでしょ」
「よくわかっている、リコ。さすが私のつ」

 再びこづかれたことでイウォールの声が遮られたが、莉子はふと気づく。

「国王様っていつから来日するんですか?」
「明日からだな……。午後から私は店を抜けることになるな。たびたび抜ける日はあるが、丸々1日抜けるのは、22日の定休日と、28日あたりも怪しいが……なんとかしようと思ってる」
「なんとかって、優先順位、絶対国王でしょ? 店は私だけで回しますから、気にしないでくださいっ」
「……手伝う」
「カーレンさん、救世主!」

 莉子が冷たいカーレンの手を握って喜ぶ莉子をなぜか温かい目で見つめてくるエルフたち。

「なんですか、みなさん?」
「リコだから、この店を救わないといけないなって、オレ、考えてたとこ」

 トゥーマの声にアキラが笑う。

「本当に! リコさんは本当に素敵な人ですね」
「何言ってんですか……?」

 莉子の疑問が積もるが、その顔を笑うのはケレヴだ。

「精霊と人が仲良くする姿って、理想なんだ、エルフ界の」
「なにそれ。なら、エルフがもっと精霊と仲良くすべきだと思います」

 莉子がきっぱりと言い切ると、たしかに。という顔をそれぞれに浮かべている。

「……人、楽しい。だからここに来てる。……リコ、友達」
「はい! カーレンさんとあたしは友達です。……よし! 少し疲れが取れたので、ご飯にしましょう。今日は残り物のビーフシチューです! あっためよー!」
「よっしゃー! アキラ、ビーフシチューだぜ! ポテト、追加で揚げよーぜー」
「いいね、それ。リコさん、フライヤー借りていいですか?」
「うん。あ、冷凍庫に口切ったの残ってるからそれから使ってね」
「じゃ、カーレン、食事までの間に集計終わらせるわよ!」
「……わかった」
「……よぉし、俺はテーブルを並べ直すかぁ。で、イウォールは?」
「私は国王との面談がこれから控えている。今日はここで一度席を離れる」

 それを聞いた莉子はすぐにイウォールの元に駆け寄った。

「食事ぐらいしていったら」
「このスケジュールは遅れられない。大丈夫だ。この店のことも話さなければならない」

 するりと莉子の頬を撫でるイウォールの手だが、今日までの2週間で少し手が荒れたようだ。
 莉子の頬に少しひっかかる。慌てて引こうとしたイウォールの手を莉子が止める。

「しっかりこの店の店員さんになってしまいましたね、イウォールさん」
「私はまだまだだ」
「いいえ。だからこそ、店員のイウォールさんにお願いします! 私はこの店をまだまだ残したい。おばあちゃんになっても、ここでコーヒーをいれていたいです。……お願いしかできなくてごめんなさい」
「私はリコの願いを叶えるためにここにいるんだ。……その願い、叶えるよ」

 素早く近づいて来た唇を、さりげなく避けた莉子は、イウォールの手の中にサンドイッチを詰め込んだ。

「はい、おやつ。どんな道中かわかんないんですが……」

 それは作り立てのサンドイッチだ。
 莉子は店内の状況を見ながら、打ち上げ用に必死に作っていたのである。

「みんなで食べようと。この具は、イウォールさんの好きな具ですよ! クリームチーズとブルベーリージャム、好きですもんね?」

 それを受け取ったイウォールだが、反射的に莉子を抱きしめていた。

「ありがとう、リコ……行って来ます」

 イウォールはそういうと、くたくたの身なりのまま店の扉の前で止まるが、イウォールの目の前だけ、光が集まっていく。
 楕円形に伸びた光が、イウォールを素早く包み込んだ。
 瞬きをした次の瞬間、イウォールの姿がそこにはない。

「……え? あれ、移動したってこと……?」

 テンパる莉子にアキラがポンと肩を叩いた。

「マスター・イウォールは、アレでも、すっごい魔道師なんで、どこからでも魔法陣なく転移が可能なんですよ。なかなかできる事じゃないので」
「……へぇ、すごい……!」
「リコ、私だって魔法陣なしで転移できてよ!」
「……エリシャ、うるさい」
「ほら、ビーフシチュー、煮詰まるぞー!」
「はい、トゥーマさん、今行きますっ」


 ───大きく動き出したカフェ「R」。
 だが、この動きをよく思わないのは、ラハ製薬だ。

 式典が迫る中、ラハの一手が、莉子に迫る───
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