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第26話 帰宅

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 同じ座席ポジションで帰宅となったわけだが、莉子の手の中には、ジェイとミーから渡された小瓶がある。
 赤い砂は上下にサラサラと動くが、動かすたびに光るのが綺麗で見惚れてしまう。

「リコ、気に入ったのか?」

 イウォールも同じように見つめてくる。
 莉子はイウォールに見せながら、ふふふと笑う。

「これ、きっと、普通の砂じゃないんですね。砂がこんなにキラキラしませんから。あ、夜のビーフシチューは、ワインもどうですか? これは私がご馳走します」

 ワイン、と告げただけなのに、4人の耳がピクリと震えたのがわかる。
 これは、地雷を踏んだのではと莉子は思う。
 ワイン通にはなりきれていない莉子なため、今あるワインは本当に自分の料理に似合うワインしかない───

「あ、ちょ、あの、すごいお高いワインはないんで!!!!」

 必死の弁明だが通じるだろうか。
『またまた謙遜して』なんて思われたらたまったものじゃない。

「ちなみに、どんなワイン、かな……?」

 莉子はイウォールの探りを入れる雰囲気の言葉につまる。

「……うちのビーフシチューに合うものなので……ローヌのワインなんですけど……よかったら、ヌフとか……」

 どこまで通じるか莉子も探りをいれる。

 ローヌというのはフランスワインの地域を指す。
 よく聞くのは、ブルゴーニュ地方にあるピノ・ノワールという品種かもしれない。
 この南にあるローヌ地方は、シラーやグルナッシュといった家庭的な味が特徴の葡萄だ。
 特にシャトー・ヌフ・ドゥパプが有名だろう。13種類の葡萄から選び、ブレンドができるワインもここの地域だけのものだ。ブレンドで味が変わるだけあって、造り手でかなり味も変わってくる。

「ヌフ? そんなワインがあるのか。楽しみにしてるよ、リコ」

 優しく微笑んだイウォールに、莉子は内心安心する。
 ワインが好きな、それほど知識のないエルフだ、ということだ。
 だが、ただただ自分と同じぐらいの知識量でありますように……と莉子は願ってしまう。
 ウンチクよりも、美味しく飲みたいのが、莉子の気持ちだ。

 何年ものがあったかしら? と莉子が考えているうちに、カフェへと車は到着した。
 長い1日だったからこそ、最後まで楽しく終わりたい。
 莉子はそう思うからこそ、いつもの笑顔を作る。

「今日は色々と楽しませていただけたので、夕食は私の料理で楽しんでいただけたら」

 その声にウキウキなのは、トゥーマとアキラだ。

「ワインとビーフシチュー! やったぞ、アキラ」
「やっぱりいいよね、ワイン」

 あまりの喜びように莉子が驚いていると、ケレヴがつけたした。

「向こうの酒っていったら葡萄酒なんだよ。こっちのワインとかなり似てるんだ。だから懐かしいっていうか、飲み慣れてるっていうか。だから、そんな高いワインとかはいいんだ。水みたいに飲めたらいいんだ、俺たちは」

 向こうのワインも飲んでみたい。
 莉子は思うが、この願いはきっと一生かかっても叶わないだろう。
 異世界向こうの食材はこちらへの持ち込みはかなり制限されると聞く。
 現地に行くしか方法がないのだ。
 現地に行けるのはごくごく限られた人たちだけだから。

 莉子はもっと向こうの話を聞きたくなる。
 それならやっぱりワインがいい。
 人を饒舌にしてくれるのが、ワインのいいところだから。

「さ、準備しますので、席に着いていてください」

 カウンターの椅子にひっかけてあったエプロンを腰に巻き付け、莉子が動き出した。
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