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第2章 カフェから巡る四季

第142話 本日は甲州の白ワインに、牡蠣(レンチン)です

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 大量の牡蠣が送られてきた莉子がまず最初にしたことは、連藤への連絡だ。
 メールに書かれたのは、

『今年も牡蠣がきました
 ふたりで山分けしませんか?』

 これである。
 去年はバレてしまい、みんなで食べたので3~4個食べられたら、という具合だ。

 だが、2人ならこの倍は食べられる……!

 莉子が緊張の面持ちで待つ返信だが、数分で戻ってきた。

『いい甲州がある
 明日、休みだ
 莉子さんの家にいくよ』

 厨房のなかでガッツポーズをしたのは言うまでもない。


 定休日に合わせ連藤が休みをとってくれたおかげで、莉子と連藤は少し早めの夕食にする。
 そう、今日は牡蠣、だからだ。

「生牡蠣、毎年触らせてもらうが、やはり、北海道のものは形がちがう気がする」
「そうですかね」

 莉子は北海道の厚岸や網走、釧路の道東の牡蠣しかしらないため、岩牡蠣はわからない。
 届いているものは真牡蠣になるはずだ。冬が旬の牡蠣である。
 今日はこれをシンプルにいただく!

「その前に……」

 莉子が用意したものは、連藤がもってきてくれた甲州だ。
 限定5400本とラベルには書かれてあり、貴重な甲州のよう。
 コルクを抜くと、華やかなマスカットの香りがする。

「……あれ? 甲州ってこんな味だったっけ……?」
「どれどれ」

 グラスに入れて連藤に渡すと、連藤も、ん? と表情が止まる。

「……うまい」
「ほんとうに?」

 莉子もグラスに注ぎ、そっと口につける。
 酸味が強いが、すっきりした味わいだ。
 余韻はほどよく、それこそ、牡蠣に似合う味だ。

「これ、牡蠣に合いますね」
「俺もそう思った。アタリだな」
「ですね」

 現在16時を回ったぐらいのため、変に酔ってはつまらないと、莉子は混ぜご飯のおにぎりを作っておいた。
 ひじきと枝豆、千切りにんじん、油揚げが入っている。甘辛く煮てすりおろした生姜をアクセントに、具としてまぜたおにぎりだ。味噌汁は豆腐とネギのみ。

 甲州のワインを冷やしつつ、ご飯をしっかり食べてから、莉子は牡蠣の準備に入る。

「本当に、電子レンジ、なのか……? 普通は鍋で蒸すとか」
「うちの電子レンジの仕上がりは私が一番知ってますので。めっちゃ良い感じの牡蠣になりますから、待っててください」

 莉子は手頃で大ぶりの皿に、牡蠣を3個並べた。
 もちろん、平らな面を上にして並べる。
 牡蠣はこの殻のなかのスープがおいしい!!!!

「700Wで3分……と」

 いつものように莉子が準備をすると、真後ろで連藤の声がする。

「は? そんなんでできるのか?」
「はい。ラップもいりません」
「本当に?」
「本当です」

 莉子は枝豆を出し、さらに鶏肉の照り焼きを温め直すと、メロディが鳴る。

「はいはい、できましたよー」

 取り出した皿には、口が開きそうで開かないとっておきの蒸し牡蠣ができあがる。

 ワインを注ぎ、牡蠣の平らな殻をそっと持ち上げれば、ぷりんとした身と、くぼんだ殻に牡蠣のスープがたっぷりはいっている。

「……いただきます」

 半信半疑の連藤だが、そっと手渡され、冷ましつつ一口で牡蠣を頬張った。

「……あつ……は……うん……ん」

 そしてワインをひと口。

「……莉子さん、これはいい。とってもいい!」
「よかった!」

 すでに2回目の電子レンジをかけてあるが、莉子も熱々の牡蠣を手に取る。
 殻をこじあげると、ぶりんと身が出てくる。
 そっとひと口啜れば、もう、牡蠣のミルキーな味と潮の風味が口一杯に広がる。
 そこへ甲州のワインを流すと、酸味があるおかげで口のなかがすっきりとしながらも、まるでレモンをふりかけたような味の広がりが生まれる。

「……めっちゃいけますね、これ」
「ああ。何個入っているかはわからないが、2人でも十分食べ切れると思う」

 ひさしぶりに牡蠣でお腹いっぱいになれそうだ。

 2人は改めてグラスで乾杯をし、牡蠣を頬張っていく。
 シンプルだが、素材が美味しければこれで十分豪華な時間になるものだ。
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