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第2章 カフェから巡る四季
第141話 お手軽赤ワインに合わせるのは、ペペロンチーノトマト味
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今日は営業を終える少し前に、巧から電話が来た。
『莉子さん、ごめん! あったかいパスタが食べたい!』
しょうがないな、と閉店準備を整え待っていると、クローズを出したのを待ってたかのように、タクシーが1台停車した。
巧と瑞樹だ。
「莉子さん、マジでごめん。どうしても、あったかいご飯食べたくて」
「本当、すみません。定食屋じゃなくて、莉子さんのご飯が食べたかったんだぁ」
それぞれ交互に謝りながら、どうしても食べたかったんだ、と言われると、しょうがないな、と思うもの。
お店に通し、店の扉に鍵を閉めて、カウンターにだけ灯りを残す。
「あったかいパスタ、とのことだったので、トマト味ペペロンチーノにします」
「「なにそれ」」
「ペペロンチーノにトマトペーストぶっこむんです。地味ですが、うまいです」
先に、赤ワインと、モザサラダを出した。
ゆで卵を白身と黄身でわけ、ザルでこまかくこして、ふりかけたサラダだ。
今日はブロッコリーとじゃがいも、エビが一口大に切られ、マヨネーズであえられている。
そこにミモザの花のように、茹で玉子が散らされてある。
その間に、莉子はペペロンチーノの要領で作っていく。
お湯の塩加減は、味噌汁より濃い程度の塩だ。
3リットルなら、42gぐらいの塩加減。水に対して1.4%の塩加減である。
そこにニンニクをたっぷり投入。
2人の明日のことは気にしない。
いい香りが立ってきたところで、唐辛子を入れ、火にかけていく。
そこに、トマトペーストと茹でるお湯を加える。
莉子の場合は、たまたま常備してあったトマトピューレだ。
本当はペーストの方が味が濃く、美味しいのだが、ないのなら、ピューレで我慢するしかない。
加えると、トマトにしっかり火を入れながら、煮詰めていく。
これの便利なところが煮詰まり過ぎればお湯を足せばいいことだ。
ただ、この塩味のお湯が味の決め手になるため、気をつけて足していく。
パスタを茹でている間には、2人のサラダはすっからかんだ。
莉子は追加でランチのクリームコロッケを揚げて出してから、パスタの仕上げにかかる。
1分ほど早く上げたパスタをトマトソースに絡めていく。
1分早く上げた、ということは、1分はフライパンで煮詰める、ということでもある。
莉子は手際よくソースをパスタに絡め、一度味見をする。
塩加減が少し足りなく感じたため、塩を足し、辛味はあとからのぼってくるので、問題なさそうだ。
オーブンで温めておいた皿にパスタを盛り付け、2人の前へと差し出した。
「トマト味のペペロンチーノです。ガッツリニンニク入ってるんで、明日はどうにかしてね」
一瞬、巧と瑞樹は視線をあわせるが、眉をつりあげ、まあいいか。と無言で言い合う。
2人はすぐにフォークを持ち、くるりとパスタをからめ、頬張る。
「……あー、これだよー、これー」
瑞樹が言うと、巧も頷く。
「ちょっと手が込んでるんだけど、懐かしい感じの味……これ、莉子さんにしか出せないやつー……」
2人は少し辛めのそれを美味しそうに食べていく。
一瞬、瑞樹は、
「ペスカトーレってパスタもこんな感じ?」
顔を上げるが、莉子はグラスをふきあげながら、
「あれ、エビとか具材はいってますよね。これ、具なしなんで……ごめん」
小さく謝るが、瑞樹は首を振る。
「ちがう、ちがう! めっちゃシンプルで食べやすいし、ガツン! って来る感じ、めっちゃ求めてたし」
「だよな、瑞樹! はぁ……やっぱさ、莉子さんのご飯たべないと、元気出ないよなぁ」
ちゅるんとパスタを啜り、2人は頷く。
「こう、体に染みるよね」
「わかるわ、それ。染みる!」
「染みるってなんですか?」
莉子は笑うが2人は真剣だ。
「莉子さんって料理作るとき、どう思ってます?」
瑞樹の質問に、莉子は一瞬止まった。
何を思って作っているのか、っていうことだ。
「……えー……元気、出してほしいなって。そんな感じのことですかね。ここはオフィス街だから、やっぱり午後からの仕事って大変だし」
「「やっぱりー」」
巧と瑞樹の言葉がかぶる。
「な、莉子さんのご飯たべると、元気出るもんな」
「うん。マジで、元気出る!」
興奮気味に話す2人に莉子は笑うが、2人は至極まともだと言いたげだ。
「だから、オレたちは莉子さんの料理じゃなきゃ、元気でないってわけ」
「そうそう! 今日は本当に、莉子さん、ありがと! 明日もめっちゃ忙しくて。これでなんとか週末まで生き残れそう!」
2人は2杯目のワインを飲みながら、残りのパスタを食べていく。
何か追加で作るべきかと見張っていると、
「瑞樹、デザート、食べたくね?」
「あー、食べたいかも。莉子さん、なんかあったりします?」
「あるのは、アイスくらいだけど」
「「じゃ、それで!」」
デザートに決まった。
ミニパフェを用意してあげようと、莉子は自分の分も作っていく。
今日は思ったよりも早く店が閉められそうだ。
莉子は少し驚きながらも、デザートの準備をすすめていくが、最後の料理がデザートなのは久しぶりだ。
おいしくなーれ。おいしくなーれ。
げんきになーれ。げんきになーれ。
チョコシロップをかけながら、莉子は魔法をかけるのだった。
『莉子さん、ごめん! あったかいパスタが食べたい!』
しょうがないな、と閉店準備を整え待っていると、クローズを出したのを待ってたかのように、タクシーが1台停車した。
巧と瑞樹だ。
「莉子さん、マジでごめん。どうしても、あったかいご飯食べたくて」
「本当、すみません。定食屋じゃなくて、莉子さんのご飯が食べたかったんだぁ」
それぞれ交互に謝りながら、どうしても食べたかったんだ、と言われると、しょうがないな、と思うもの。
お店に通し、店の扉に鍵を閉めて、カウンターにだけ灯りを残す。
「あったかいパスタ、とのことだったので、トマト味ペペロンチーノにします」
「「なにそれ」」
「ペペロンチーノにトマトペーストぶっこむんです。地味ですが、うまいです」
先に、赤ワインと、モザサラダを出した。
ゆで卵を白身と黄身でわけ、ザルでこまかくこして、ふりかけたサラダだ。
今日はブロッコリーとじゃがいも、エビが一口大に切られ、マヨネーズであえられている。
そこにミモザの花のように、茹で玉子が散らされてある。
その間に、莉子はペペロンチーノの要領で作っていく。
お湯の塩加減は、味噌汁より濃い程度の塩だ。
3リットルなら、42gぐらいの塩加減。水に対して1.4%の塩加減である。
そこにニンニクをたっぷり投入。
2人の明日のことは気にしない。
いい香りが立ってきたところで、唐辛子を入れ、火にかけていく。
そこに、トマトペーストと茹でるお湯を加える。
莉子の場合は、たまたま常備してあったトマトピューレだ。
本当はペーストの方が味が濃く、美味しいのだが、ないのなら、ピューレで我慢するしかない。
加えると、トマトにしっかり火を入れながら、煮詰めていく。
これの便利なところが煮詰まり過ぎればお湯を足せばいいことだ。
ただ、この塩味のお湯が味の決め手になるため、気をつけて足していく。
パスタを茹でている間には、2人のサラダはすっからかんだ。
莉子は追加でランチのクリームコロッケを揚げて出してから、パスタの仕上げにかかる。
1分ほど早く上げたパスタをトマトソースに絡めていく。
1分早く上げた、ということは、1分はフライパンで煮詰める、ということでもある。
莉子は手際よくソースをパスタに絡め、一度味見をする。
塩加減が少し足りなく感じたため、塩を足し、辛味はあとからのぼってくるので、問題なさそうだ。
オーブンで温めておいた皿にパスタを盛り付け、2人の前へと差し出した。
「トマト味のペペロンチーノです。ガッツリニンニク入ってるんで、明日はどうにかしてね」
一瞬、巧と瑞樹は視線をあわせるが、眉をつりあげ、まあいいか。と無言で言い合う。
2人はすぐにフォークを持ち、くるりとパスタをからめ、頬張る。
「……あー、これだよー、これー」
瑞樹が言うと、巧も頷く。
「ちょっと手が込んでるんだけど、懐かしい感じの味……これ、莉子さんにしか出せないやつー……」
2人は少し辛めのそれを美味しそうに食べていく。
一瞬、瑞樹は、
「ペスカトーレってパスタもこんな感じ?」
顔を上げるが、莉子はグラスをふきあげながら、
「あれ、エビとか具材はいってますよね。これ、具なしなんで……ごめん」
小さく謝るが、瑞樹は首を振る。
「ちがう、ちがう! めっちゃシンプルで食べやすいし、ガツン! って来る感じ、めっちゃ求めてたし」
「だよな、瑞樹! はぁ……やっぱさ、莉子さんのご飯たべないと、元気出ないよなぁ」
ちゅるんとパスタを啜り、2人は頷く。
「こう、体に染みるよね」
「わかるわ、それ。染みる!」
「染みるってなんですか?」
莉子は笑うが2人は真剣だ。
「莉子さんって料理作るとき、どう思ってます?」
瑞樹の質問に、莉子は一瞬止まった。
何を思って作っているのか、っていうことだ。
「……えー……元気、出してほしいなって。そんな感じのことですかね。ここはオフィス街だから、やっぱり午後からの仕事って大変だし」
「「やっぱりー」」
巧と瑞樹の言葉がかぶる。
「な、莉子さんのご飯たべると、元気出るもんな」
「うん。マジで、元気出る!」
興奮気味に話す2人に莉子は笑うが、2人は至極まともだと言いたげだ。
「だから、オレたちは莉子さんの料理じゃなきゃ、元気でないってわけ」
「そうそう! 今日は本当に、莉子さん、ありがと! 明日もめっちゃ忙しくて。これでなんとか週末まで生き残れそう!」
2人は2杯目のワインを飲みながら、残りのパスタを食べていく。
何か追加で作るべきかと見張っていると、
「瑞樹、デザート、食べたくね?」
「あー、食べたいかも。莉子さん、なんかあったりします?」
「あるのは、アイスくらいだけど」
「「じゃ、それで!」」
デザートに決まった。
ミニパフェを用意してあげようと、莉子は自分の分も作っていく。
今日は思ったよりも早く店が閉められそうだ。
莉子は少し驚きながらも、デザートの準備をすすめていくが、最後の料理がデザートなのは久しぶりだ。
おいしくなーれ。おいしくなーれ。
げんきになーれ。げんきになーれ。
チョコシロップをかけながら、莉子は魔法をかけるのだった。
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