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第2章 カフェから巡る四季
第128話 失敗した大根のはさみ焼き
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新しいメニューを取り入れるために、実験台となるのは連藤だ。
本日、定休日。
莉子の家に泊まるのに合わせて実施となった。
「じゃ、作っていきます。よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
莉子がしっかりとレシピを見ながら作り始めたのは、鶏肉のひき肉を大根で挟めて焼いた料理だ。
料理の名前としては、大根の挟み焼き、といったところだろうか。
「鶏ひき肉は、ナンプラーと、生姜と塩コショウ……オイスターソースか……ないから、鶏ガラだしと醤油で代用っと……」
「レシピ通りじゃなかったのか?」
連藤からの指摘に、莉子は口を一度つぐむ。
だが、深呼吸をすると言い切った。
「……大丈夫! 美味しい、から、たぶん」
「はいはい」
実験台とわかっている連藤にとっては、これが失敗でも問題ない。
店に出る料理が美味しいのなら、問題ないのだ。
とはいえ、実験台で失敗したことはまだない。
そのため、のんびりとソファに座り、本を聞きはじめた連藤だが、莉子の動き方がいつもと違う。
少し、いや、けっこう、落ち着きがない。
ポンと肩を叩かれた連藤は、イヤホンを外し、振り返った。
「連藤さん、これは、なんなんだろ……」
「いい匂いはするが……?」
「正解が、わからない」
というわけで、試食開始である。
テーブルにつき、皿が置かれた。
「料理の名前は、鶏ひき肉の大根挟み焼き、って感じ。大根に鶏ひき肉まとめたやつを挟んで、蒸し焼きにしたんだけど、全然、レシピの本の料理じゃない」
ふむ。連藤は小さく返事をし、料理に箸を入れていく。
「……微妙に、固いな」
「そうなんだよね。なんか、大根のフレッシュ感が残ったままでさ」
「大根の厚さは?」
「1cm」
「これは?」
「1cm」
連藤は再び箸を指した。
「いや、これは2cmはあるぞ」
「うそだーこれ、1cmだって」
「測ってとまでは言わないが、厚かったのは間違いない」
「……そういうこと……?」
固めの大根を切り離し、肉ごと口に含む。
歯ごたえがある。
生を脱した大根、という食感だ。
「味は美味しいんだが、大根だな、問題は」
「厚かったのか……」
しょぼくれた莉子の声がする。
「食べ応え的にはさー、これくらいあった方がよくない?」
「それなら、下茹でとかした方がいいのかもな」
「たしかに。でもこれ、ひっくり返すとき、大根とひき肉、ぱっかりはがれてさ」
「片栗粉とかは?」
「レシピにはなし。ちょっと要改善ですねぇ」
「まずは、厚みだな」
「……はーい」
改めて食べてみるが、やはり味は美味しいが、大根が惜しい。
「本当はどんな感じになるんだ?」
「なんか、大根がカラメルになるくらいソテーされてる写真です」
「なるほど」
「で、蒸し焼きなんですよ」
「なるほど。やはり、大根は気持ち、薄くすべきだな。蒸し焼きの理由も、鶏ひき肉をしっとり火を通すためだし、大根じたいにも火を通すためだし」
「……はぁ。こんなに失敗したの久しぶりです」
「だが、食べられないわけじゃないぞ?」
「でも、美味いわけじゃないので、失敗です。……あ、今日はご飯を準備してるので、麻婆豆腐、作りますね」
莉子は手早く残りの大根を頬張ると、キッチンへと立った。
連藤はもっしゃり音を立てながら、大根の挟み焼きを咀嚼していく。
鶏ひき肉のタネがいい味なだけに、大根が足をとてつもなく引っ張っている料理だが、こんな失敗にありつけるのも、自分だけなんだと思うと、つい、笑みがこぼれてくる。
残念そうな莉子の声や、不貞腐れた雰囲気は、ここでしか感じられない、莉子らしい大事な仕草だ。
「連藤さん、何笑ってるんですか?」
「……いや、なんでもない」
「笑ってるじゃないですか」
「大丈夫だから」
「大丈夫の意味がわかりませんし」
莉子は言いながら、フライパンを振っているようで、弾けるいい音が響いてくる。
辛みのある香りと、葱の風味も漂い出す、
「生春巻き、作ってあるんで、麻婆豆腐とそれで、ビール飲みましょ? 口直し作っておいてよかったー。あ、ご飯はチャーハンとか、おにぎりにできますから、安心してくださいね」
いつも通りの気配りに、連藤はグラスを出すので精一杯だ。
「連藤さん、グラス、ありがとうございます。もう出来ますからねー」
試作は失敗だったが、夕食は成功のようだ。
山椒の香りに食欲をかきたてられる連藤だが、莉子が席について、乾杯したあと、もう一度、レシピを見直さないと。
スマホのメモを立ち上げる連藤に、莉子が笑う。
「連藤さん、やる気スゴすぎ」
「当たり前だろ。マズイままでレシピを寝かせておくのは、気持ちが悪い」
「確かに。まだタネ残ってるんで、改善ポイント見直して、もう一回、食べてみましょうか」
「そうだな」
麻婆豆腐の横に並ぶのは、失敗作の挟み焼き。
それすら肴にふたりの夜は更けていく。
本日、定休日。
莉子の家に泊まるのに合わせて実施となった。
「じゃ、作っていきます。よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
莉子がしっかりとレシピを見ながら作り始めたのは、鶏肉のひき肉を大根で挟めて焼いた料理だ。
料理の名前としては、大根の挟み焼き、といったところだろうか。
「鶏ひき肉は、ナンプラーと、生姜と塩コショウ……オイスターソースか……ないから、鶏ガラだしと醤油で代用っと……」
「レシピ通りじゃなかったのか?」
連藤からの指摘に、莉子は口を一度つぐむ。
だが、深呼吸をすると言い切った。
「……大丈夫! 美味しい、から、たぶん」
「はいはい」
実験台とわかっている連藤にとっては、これが失敗でも問題ない。
店に出る料理が美味しいのなら、問題ないのだ。
とはいえ、実験台で失敗したことはまだない。
そのため、のんびりとソファに座り、本を聞きはじめた連藤だが、莉子の動き方がいつもと違う。
少し、いや、けっこう、落ち着きがない。
ポンと肩を叩かれた連藤は、イヤホンを外し、振り返った。
「連藤さん、これは、なんなんだろ……」
「いい匂いはするが……?」
「正解が、わからない」
というわけで、試食開始である。
テーブルにつき、皿が置かれた。
「料理の名前は、鶏ひき肉の大根挟み焼き、って感じ。大根に鶏ひき肉まとめたやつを挟んで、蒸し焼きにしたんだけど、全然、レシピの本の料理じゃない」
ふむ。連藤は小さく返事をし、料理に箸を入れていく。
「……微妙に、固いな」
「そうなんだよね。なんか、大根のフレッシュ感が残ったままでさ」
「大根の厚さは?」
「1cm」
「これは?」
「1cm」
連藤は再び箸を指した。
「いや、これは2cmはあるぞ」
「うそだーこれ、1cmだって」
「測ってとまでは言わないが、厚かったのは間違いない」
「……そういうこと……?」
固めの大根を切り離し、肉ごと口に含む。
歯ごたえがある。
生を脱した大根、という食感だ。
「味は美味しいんだが、大根だな、問題は」
「厚かったのか……」
しょぼくれた莉子の声がする。
「食べ応え的にはさー、これくらいあった方がよくない?」
「それなら、下茹でとかした方がいいのかもな」
「たしかに。でもこれ、ひっくり返すとき、大根とひき肉、ぱっかりはがれてさ」
「片栗粉とかは?」
「レシピにはなし。ちょっと要改善ですねぇ」
「まずは、厚みだな」
「……はーい」
改めて食べてみるが、やはり味は美味しいが、大根が惜しい。
「本当はどんな感じになるんだ?」
「なんか、大根がカラメルになるくらいソテーされてる写真です」
「なるほど」
「で、蒸し焼きなんですよ」
「なるほど。やはり、大根は気持ち、薄くすべきだな。蒸し焼きの理由も、鶏ひき肉をしっとり火を通すためだし、大根じたいにも火を通すためだし」
「……はぁ。こんなに失敗したの久しぶりです」
「だが、食べられないわけじゃないぞ?」
「でも、美味いわけじゃないので、失敗です。……あ、今日はご飯を準備してるので、麻婆豆腐、作りますね」
莉子は手早く残りの大根を頬張ると、キッチンへと立った。
連藤はもっしゃり音を立てながら、大根の挟み焼きを咀嚼していく。
鶏ひき肉のタネがいい味なだけに、大根が足をとてつもなく引っ張っている料理だが、こんな失敗にありつけるのも、自分だけなんだと思うと、つい、笑みがこぼれてくる。
残念そうな莉子の声や、不貞腐れた雰囲気は、ここでしか感じられない、莉子らしい大事な仕草だ。
「連藤さん、何笑ってるんですか?」
「……いや、なんでもない」
「笑ってるじゃないですか」
「大丈夫だから」
「大丈夫の意味がわかりませんし」
莉子は言いながら、フライパンを振っているようで、弾けるいい音が響いてくる。
辛みのある香りと、葱の風味も漂い出す、
「生春巻き、作ってあるんで、麻婆豆腐とそれで、ビール飲みましょ? 口直し作っておいてよかったー。あ、ご飯はチャーハンとか、おにぎりにできますから、安心してくださいね」
いつも通りの気配りに、連藤はグラスを出すので精一杯だ。
「連藤さん、グラス、ありがとうございます。もう出来ますからねー」
試作は失敗だったが、夕食は成功のようだ。
山椒の香りに食欲をかきたてられる連藤だが、莉子が席について、乾杯したあと、もう一度、レシピを見直さないと。
スマホのメモを立ち上げる連藤に、莉子が笑う。
「連藤さん、やる気スゴすぎ」
「当たり前だろ。マズイままでレシピを寝かせておくのは、気持ちが悪い」
「確かに。まだタネ残ってるんで、改善ポイント見直して、もう一回、食べてみましょうか」
「そうだな」
麻婆豆腐の横に並ぶのは、失敗作の挟み焼き。
それすら肴にふたりの夜は更けていく。
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