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第2章 カフェから巡る四季

第123話 赤ワインに似合う料理

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 赤ワインに合うというと、肉料理が定番。
 だが、色を合わせれば、魚でも似合ったりする。
 例えば、トマトを使った魚料理は、合ったりする。
 白身魚のフライも、トマトソースを添えれば似合うことが多い。

 意外とお酒と料理の組み合わせは簡単だ。

 ……とは言っても、毎日の晩酌メニューとなると、困るもの。
 特に、連藤となると、かなり考えることが多い。

「今日は何にしたらいいのかなぁ……」

 つい、声に出てしまうくらいに悩んでしまう。
 昨日は鶏肉のバターチキンカレーと赤ワインを合わせたので、今日は魚にしようか……

 今日残っている魚は、アジ。

「アジフライにしようかな……」

 パン粉に、パセリと粉チーズを足し、洋風に。
 ソースはタルタルソースと、サルサソースを準備する。

 タルタルソースはピクルス、新玉ねぎのみじん切り、ゆで卵、塩コショウをして、マヨネーズをぐるぐる。びちゃびちゃなのが苦手なので、もったりしたタルタルソースになるように作っていく。みじん切りのパセリも加えて、彩りよく。

 サルサソースは、トマトの角切りと、新玉ねぎのみじん切り、すりおろしたニンニク、塩コショウ、オリーブオイル、タバスコを混ぜるだけ。

 今日のワインはタンニンは穏やか、果実味は厚く、色の濃いワインになる。黒胡椒やクローブの香りもするワインなので、少しスパイシーなソースが似合うはずだ。

 あとは、クラッカーに、クリームチーズといぶりがっこを添えたものを用意。
 ナッツとクリームチーズ、ハチミツバージョンもある。


 現在、21時。
 接待を受けて、莉子の店へと移動してきたのは、三井と連藤だ。

「お疲れ様で」莉子の声を遮って叫んだのは三井だ。

「飲み直しだ、飲み直しー!」

 三井の声が店内に響く。
 すでにクローズなのもあり、よけいに大きく聞こえてくる。

 ドスンとカウンターに腰を下ろした三井のとなりに、連藤も同じようにどさりと座った。

「莉子さんの料理が食べたい……」

 テーブルに突っ伏した連藤に莉子が驚くが、三井はガハガハと笑う。

「今日の店、先方が選んだんだけどな。ハズレだったのよ」

 先方のお偉いさんの娘さんのお店、だったそうで。
 それほど期待せず行ったのだが、予想以上に味が合わなかったそうだ。

「……もう、年齢なんだろうか……あんな味の濃いものより、もう少し、こう、味わえるのがいい……」

 呟かれても莉子が出せるのは用意したものだけだ。

「あの、今日は食事して来るって聞いてたので、クラッカーと、アジフライとかなんですけど」

「「ぜんぜんいい!!!」」

 ふたりの声がそろう。
 莉子がワインを注ぎ、そっとクリームチーズといぶりがっこのクラッカーを差し出した。
 さっそくふたりは手を伸ばし、ひと口。
 すぐにワインを飲む。

「「うまい」」
「こーいうのでいいんだよなぁ」
「ほんとに。創作創作って、魔改造しないでいいのにな」

 よほどの料理だったのだろうか?
 想像もできないが、莉子はふたりの目の前でフライを揚げることにした。
 先にサルサソースとタルタルソースを出して、フライを作っていく。

「珍しい」

 連藤の声に莉子は笑う。

「油がはねる音も料理のうち、ですから。なんかおふたり、お料理楽しくなかったみたいなので」

 雨の降る朝のような、軽やかな音が響き出す。

「おー、ジュワッと美味そうな音だな」
「音の変化も楽しいな、これは」

 久しぶりに黙ったふたりは、アジフライが揚がるまでを耳をすませて待っている。
 その雰囲気が待ちわびる少年のようにも見えて、笑いが止まらない。

「莉子さん、菜箸の音が楽しそうだ」

 連藤から言われ、いっしゅん、背筋が伸びる。

「……だって、おふたりとも、楽しみなのが顔に出てて、揚げ甲斐があるなぁって……」

 顔を一度見合わせたふたりだが、お互いの空気を読み取り、笑い合う。
 ふたり仲が濃いからできる、空気のやり取りが莉子は好きだ。
 自分も連藤とできるようになりたい、この空気感を眺めながら、揚げたてのアジフライをふたりの前に差し出した。

「冷めないうちにどうぞ」

 連藤の手をとり、皿の縁を確認してもらうと、すぐにアジをつまみあげる。
 三井と連藤から、さっくりとしたいい音を聞き、莉子はその音でワインを飲み込む。

 今日の夜はゆっくり更けていきそうだ。
 柔らかな、長い夜は、はじまったばかりだ。
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