上 下
113 / 152
第2章 カフェから巡る四季

第113話 クレープ、焼いてみた

しおりを挟む
 今日のランチは、タラのフライ&タルタルソース添えと、肉じゃがの小鉢だ。
 すでに準備が整っているのもあり、ランチメニューにミニデザートでもつけてみようかと思い立った莉子だが、

「なに作ろう……」

 在庫を見に行くことに。

 ミニデザートに必要そうな、小麦粉、卵、牛乳、バター、砂糖などは問題ない。

「さてさて……あ!」

 莉子が見つけたのは『クレープの素』だ。
 卵と牛乳を入れれば出来る簡単な粉である。

「なんでこんなの買ってたんだろ……」

 思い出そうとするが、あまりに遠い記憶で、欠片さえ見えてこない。
 消費期限を見ると、なんと来月に迫っている。

 改めて、袋に破損がないのを確認し、莉子はクレープを焼くことに決めた。

「生クリームってあったっけ……」

 たまたま冷凍庫に眠っていた冷凍生クリームも発見。
 あとは手作りのブルーベリージャムがあるので、それでよしとする。

 莉子は大きめのボウルを用意し、そこに規定の卵を投入。さらに牛乳を計って入れ、粉をざばっと入れてみた。
 泡立て器で混ぜてみたが、ダマが消えない。

「……これ、やっちゃったんじゃない?」

 自分の要領の悪さに悲しく笑いながら、ダマが浮いた液をこしていく。
 ダマの消えたクレープ液は、クリーム色に染まり、少しとろりとしている。

 少し寝かした方がいいようだが、時間も迫っているので焼いていくことに。
 莉子は小さめのクレープを焼こうと思ったが、手頃なフライパンが洗わないとないことに気づく。

 そこで見つけたのはスキレットだ。
 手のひらサイズの、一人用スキレットである。

「これでいっか」

 莉子はそこに油を薄く伸ばすと、お玉で液を流し、さっそく焼いていくことに。

 ──正直、ここまできれいに焼けるとは思っていなかった。

 弱ったテフロンのフライパンよりもずっときれいに焼けるのはもちろん、大きさもちょうどいい。
 さらに、すぐ焼ける!
 火の通りが均一なのもあり、かなりクレープ屋さんに近い厚みで焼けているのもいい。

「ちょっと重いのが、難点か」

 そう言いつつも、莉子は丁寧にクレープを焼いていく。
 小さめなので、50枚近く焼くことになったが、正直、ここまで捌けるかはわからない。
 余ったらミルクレープにしようかと決め、1枚、試しに包んで見ることに。

 小さめの皿に生クリーム、ブルーベリージャムをのせ、包む。
 四角いクレープがでた。
 そのとなりに生クリームとバナナを添え、粉砂糖をかければ完成だ。

「いただきまーす」

 手づかみで、バナナをクレープにのせ、ひと口頬張る。

「……おー……うん、クレープ」

 それ以上の言葉は出ないが、かなり美味しい出来なのは間違いない。
 少しもっちりとした記事に、生クリームとブルーベリーの酸味、さらにバナナのこってりとした甘みが合わさって、とても美味しい!

「へー……市販ってやっぱり侮れないわ……」

 莉子はぶつぶつ言いながら、焼き上がった生地を冷やしておく。

 厨房の時計を見ると、もう店を開ける時間が迫っている。
 莉子は自分の分のコーヒーを飲む準備を整えると、店の鍵を開けに動いた。

 今日のカフェが今から始まる───
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~

ふゆ
ファンタジー
 私は死んだ。  はずだったんだけど、 「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」  神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。  なんと幼女になっちゃいました。  まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!  エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか? *不定期更新になります *誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください! *ところどころほのぼのしてます( ^ω^ ) *小説家になろう様にも投稿させていただいています

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。 二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか! ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。 能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。 しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。 ——それも、多くの使用人が見ている中で。 シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。 そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。 父も、兄も、誰も会いに来てくれない。 生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。 意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。 そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。 一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。 自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

one day only ~1日だけのカフェで

yolu
ライト文芸
終電前に帰れたと喜んだ由奈だが、仕事に忙殺される毎日に嫌気がさしていた。 ついもらした「死んじゃおっか」。 次の快速まで、残り1時間。 それまでの命だと割り切った由奈は、家とは逆のコンビニに向かっていく。 しかし、夜中にも関わらず、洋館カフェ「one day only」が現れて── 不思議な『1日だけのカフェ』開店です。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫野真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

処理中です...