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第2章 カフェから巡る四季

第99話 寒い日は煮物一択!

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 莉子は鶏の手羽元を取り出した。
 まだ厨房が寒い。
 かじかむ手をこすりながら、今日のランチのメニューを仕込んでいく。

 今日は手羽元ポトフに決定!

 手羽元の他に、ごぼう、にんじん、玉ねぎ、キャベツを大きく刻んでいく。

 寸胴鍋に手羽元を入れ、そこへ水を注ぐ。
 沸騰するまで強火で煮たあと、アクをとったら弱火だ。
 そこへごぼうと、千切り生姜を加え、白ワインを少々。塩を加えれば、ここからじっくり煮込んでいくだけだ。
 水が減れば、足せばいいだけの、簡単ポトフだ。

「あとは、何にしようかな、今日……」

 キャベツやにんじん、玉ねぎは火の通りが早いので、20分前に入れて煮ることにし、タイマーをセット。
 小鉢は玉子とマカロニのサラダにし、パンの準備もオーケーだ。
 あとは定番のビーフシチューを温めながら、ビーフシチュー用のサラダも用意していく。

 タイマーが鳴り、ぼとぼとと残りの野菜を加えたら、弱火で煮ていく。
 あとは、店内の準備をしていこうと店内に出たとき、莉子は唇を一文字に結ぶ。

 今日は風がたいへん強い!!!
 イチョウの木が大きく揺さぶられている。

「……料理、はけるかな、これ……」

 歩いてくるお客が多いため、こういった天気攻撃は地味に痛いのだ。

「あ、ポトフ、味、整えなきゃ……」

 莉子は味を見てから、塩と胡椒を足していく。
 が、莉子の顔はにっこりと蕩けている。

「……マジでうまい。鶏の出汁、マシマシ。肉、ほろほろ。余ったらこれでリゾット作ろう」


 ランチタイムとなって、出だしは遅かったが、それでもお客さまは来てくれる。
 もちろん、連藤もだ。
 今日は瑞樹との来店で、カウンターに2人、並んでいる。
 2人ともポトフを選択されたので、莉子は大きめのスープボウルによそい、出していく。

「わー! あったかそー! いただきます」

 瑞樹はさっそくスープの具にフォークを伸ばす。
 くずれるにんじんを上手にすくいながら、まずひと口。

「……んまい。おかわりってあります?」
「大丈夫。今日、出せるよー」

 莉子は答えつつ、他の接客へと向かう。
 それを目で追いながら、瑞樹は肉を頬張る連藤に、

「おいしいですね、やっぱり!」

 嬉しそうに声をかけた。
 連藤は、すこし首をかしげる。
 美味しいのは、いつものことだからだ。

「おれ、最近、料理はじめたんですけど、全然ダメで。莉子さんの料理って、あったかくて、優しい味だなぁっていっつも思って」
「莉子さんの愛情がこもっているんだろうな」

 パンをちぎり、バターをつけて、連藤は幸せそうに口元を緩めているが、今度は瑞樹が疑問の顔だ。

「じゃあ、連藤さんの料理も、愛情たっぷりだから美味しいんですか?」
「俺は、基礎を忠実に守ってるからな」

 瑞樹は、玉子サラダをパンに乗せて、もぐりと食むが、まだ疑問符が浮かんでいる。

「愛情と、忠実、どっちが大事ですか?」

 ちょうど莉子が戻ってきたときに聞こえた瑞樹の声に、莉子が疑問符を浮かべる。
 水を足すが、はて、と思っていると、連藤がスープを飲みこみ、うんと唸る。

「相手を思って作るのが大事だろ」
「今は、おれに向けてでしか作ってないのに?」

 少し怒った口調の瑞樹を連藤が見る。

「でも、始めたのは理由があるんだろ?」
「……はい」

 少し、赤らんだ顔でわかる。
 優のために料理をはじめたのだ。
 お互いの不得手を減らす努力、なのか、もてなしてあげたい気持ちなのかはわからないが、優に食べさせたくて、始めたのは間違いない──

 莉子は空気を読んで退散することにした。
 男同士の方がはかどる会話もあるものだ。

 ふと、莉子は接客をしながら、考えてしまう。
 自分はちゃんと、相手を思って料理ができていただろうか、と。


 でも、いつも、連藤の顔が浮かんでいたのは、間違いない──


 その事実に気づき、顔が一気に焼けたのがわかる。

「オーナー、風邪でもひきました? 顔、赤いですよ?」

 常連のOLさんに声をかけられ、さらに熱くなる。

「え、いや、ちょっと顔、洗ってきますね!」

 いそいそと厨房へと戻った莉子だが、鼓動の音が鼓膜にはりつく。

「いやいや、私利私欲で料理を作っていたのか、わたし……いや、でもそれで美味しいなら……いや、でも……」

 つい、独り言のオンパレードとなるが、自分の気持ちに気づいて、妙に気まずくなる莉子がいる。
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