上 下
98 / 152
第2章 カフェから巡る四季

第98話 鍋といえば、キムチ鍋

しおりを挟む
 今日の夜は、三井と連藤、巧と瑞樹の4人で来店だ。
 『冬らしい鍋料理』を。
 という指示があり、莉子はすぐにキムチ鍋と決めた。

 理由は簡単だ。
 莉子自身がキムチ鍋が好きだから!
 これ以上の理由はない。

 今日の飲み物は、ビール。
 キムチにワインは合わないのが残念なところ。

「スパークリングなら、合うかな……でも、無理に合わせなくてもいいか」

 スパークリングワインは、辛い食べ物はもちろん、中華料理にも似合うが、今日は『冬』を満喫したい気分なのだろう。
 おしゃれなものより、ガッツリ系で攻めるときめ、莉子はビールとグラスをキンキンに冷やしておく。

「もうそろそろかな……」

 言っていたところで、ドアベルが鳴る。

「「ただいまー」」

 巧と瑞樹だ。
 さぶいさぶいと言いながら入ってくる。
 予約席のテーブルを指さすと、するりと座った。
 しかし、テーブルにはカセットコンロがあるが、鍋がない。

「莉子、鍋はどうしたよ」

 三井だ。
 明らかに不満の声である。
 連藤を席へ案内したところで、莉子は宣言した。

「今から作ります! 熱々のを召し上がっていただきたかったので。今、ビールと他の料理、お持ちしますね」

 瓶ビールと、凍らせたグラス、そして、味付け玉子に、ほうれん草のナムル、ペペロンチーノ枝豆をだす。
 乾杯しだしたところで、莉子はキムチ鍋にとりかかった。

「材料は、……ごぼう、豚バラ、春菊、豆腐、えのき……でいいよね。よし」

 土鍋にごま油を引き、微塵切りのニンニクと生姜の香りを出していく。
 そこに豚バラ肉と、牛蒡を投入。キムチも追加し、適宜炒め、浸るように水を注ぐ。
 お湯が沸いて、アクをとったら、そこへ豆腐、えのきを入れ、煮る。

「目安はごぼう……ちゃんと煮えたかな……」

 取り出し、火の通りを確認すると、味噌とコチュジャンとしょうゆを加え、ひと煮立ち。
 春菊も入れて、火を通せば完成だ。

 鍋を運ぶと、煮ている間に出しておいたプルコギが完食されている。

「今日は結構お腹空いてたんですね」

 言いながら、カセットコンロにセットされた鍋は、火にかかり、ぐつぐつと揺れ出した。
 蓋を持ち上げれば、ふわりと大きな湯気がテーブルに上がる。

「はい、キムチ鍋、召し上がれ。ビール、追加持ってきますね」

 ビールを運んできた莉子に、巧が聞く。

「今日の〆は?」
「早いですね。おじやか、ラーメンか、うどんですかね。好きなの選んでください」
「うわ! 究極の選択じゃない?」

 瑞樹の声に、巧は大きく頷いた。

「やばい。どれがいいか、決められない」
「まずは、食ってからだろ、ふつー」

 三井が各々の椀にキムチ鍋をとりわけていく。

「鍋、おかわりもできます。言ってくださいね」

 言い残し、厨房へ戻る莉子の手を連藤が握った。

「莉子さんは、鍋、食べないのか?」
「え、あ、えっと、……今日は、まだお客さんいるので……はい」

 するすると連藤から手を離して厨房へと駆け込んでいく。
 その背中を見つつ、三井は呆れ顔だ。

「いい加減、うぶな雰囲気、やめてくんね? なんか、俺が照れる」
「……いや、俺も照れる」

 顔を赤らめる連藤に、今度は3人が呆れ顔だ。
 だが、これはビールのアルコールがまわったせい、なのかもしれない。
 いつもと違う雰囲気、飲み物は、人の雰囲気も変わるものだ。

「連藤、うまいな、これ。味噌と牛蒡の風味がいいな」
「そうだな。あったまる」
「やっぱ冬は鍋だよね、巧」
「そうだよなー! みんなで囲むのが、マジいい!」

 4人のほっこりな時間が、すぎていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

Husband's secret (夫の秘密)

設樂理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! 夫のカノジョ / 垣谷 美雨 さま(著) を読んで  Another Storyを考えてみました。 むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

処理中です...