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第1章 café R 〜ふたりの出会い、みんなの出会い〜

第21話:手の温もり

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「ありがとう……」

 莉子は連藤の握る手から、自分の手を抜き取った。
 すがるような手の動きに、莉子は連藤の手を抑える。

 なだめるようにポンポンと叩くと、莉子の声が静かに響いた。

「……私、不幸な子なんです」

 今度は莉子が連藤の手をなでながら、ぽつりぽつりと話す。

「私が高校の時に、事故で両親は死にました。そのとき、遠い親戚に言われたんです。『あんたは、不幸な子だね』って。……多分、可哀想とか、慰める意味で言ったんだと思うんですけど、私はその言葉が未だにこびりついてて」

 莉子は一度息を吸う。
 涙でぐちゃぐちゃの顔だ。
 息もしづらいぐらいだが、莉子はそれでも言葉をつなげる。

「……私は不幸な子だから、独りがいいって決めてるんです。……だから、連藤さんみたいな素敵な人に、これ以上迷惑はかけられません。ご迷惑おかけしました。ありがとうございます。あとは……大丈夫、だからっ!」

 莉子が連藤の手をぐっと押す。
 さっきまで連藤の熱で温められていた手がもう冷たい。
 
「……なにが大丈夫だ。なにも大丈夫じゃないじゃないか」

 連藤は莉子の手を、細くて冷たい手を力いっぱい握った。

「こんなに緊張して怖がっているくせに、何が大丈夫だ……。だいたい、あなたが不幸なら、俺はどれだけ不幸なんだ?」

「……あ、そうじゃなくって……ごめ」

「謝らないでいい。俺だって不幸だった。だが、俺の周りが支えてくれた。不幸じゃないと教えてくれたんだ。だから俺が、あなたが不幸じゃないと教えてやる」

 色眼鏡ごしの視線が莉子へと向けられた。
 だがすぐに連藤の顔がくしゃりと歪む。

「……だから、莉子さん、不幸な子だなんて言わないでくれ……俺が幸せだった時間……あなたと一緒に食事や、会話、あなたとの過ごした幸せな時間が、全部、否定されるじゃないか………」

 莉子はその言葉に息を飲む。



 莉子も、連藤のとの時間は、幸せだった────



 莉子の手が弱々しく握り返される。
 その手を連藤が再びつつんだ。



「莉子さん……俺は、そばにいちゃだめだろうか……」



 その答えを莉子が喋ろうと息を吸う。
 だが、連藤は腕を伝うと、莉子の唇へと指をおいた。

「……答えは、改めて聞こうと思う。こういうのは、流されない方がいい」

 連藤は莉子の頬を手のひらでなで、涙を拭った。

「泣かせてしまってすまない」

 そういう連藤だって泣いている。
 莉子も連藤の頬を指でなでた。

「……私たち、涙もろいですね……」
「そう、だな……」

 お互いに顔を拭ったとき、再び、ドアがゆっくりと開いた。

「告白、終わったかぁ……?」

 その言葉に我に返った2人は、顔を真っ赤に染め上げたのだった。
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