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第1章 café R 〜ふたりの出会い、みんなの出会い〜

第14話:朝になって

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 莉子は目覚ましに合わせてむくりと起きるが、妙にそわそわしてしまう。

 ───どれもそれも、全部、連藤さんが来てくれるから!

 そうわかっているだけに胃が痛い。
 顔を洗い、身支度を整えると、

「あっちでコーヒー飲も」

 莉子は部屋の戸締りをして、カフェへと向かう。
 自転車を漕ぎながら、本当に、カフェと家の往復な気がしてならない。
 休みは休みだし、のんびりしているけれど、これといってない日はカフェに来て、だらだらとコーヒーを飲んで過ごす日もある。

「どれだけ好きなんだろ」

 莉子にとって、カフェの居心地が良すぎることは前からわかっていた。
 本当は寝泊まりしたいぐらい。(9割行き来が面倒だ、という気持ちが含まれている)

「さぁ、今日のコーヒーはなんにしよかなぁ」

 ぶつぶつと呟きながらの自転車運転をしてると、スマホが震える。
 通知にしては変な時間だと思いつつ、カフェについてスマホを見ると、送信者に『連藤』の文字!

 昨日連絡しやすいようにと連絡先を交換していたのだ。

「……っ! ……心臓に悪い」

 初めて触るスマホのように慎重に開くとそこには、


『オーナー、おはようございます。今日はよろしくお願いいたします。
 時刻は11時とお聞きしておりますが、少し前の到着となるかもしれません。
 11時より遅くなることはないのでご安心ください。』


 丁寧な文章……。
 莉子は既読にした手前返信しなくてはと、急いでカフェへむかうと、カウンターにどっかり腰をおろした。

『連藤さん、おはようございます。私はもうカフェにいるので、早くついても問題ありません。
 何かランチ、食べたいものとかありますか?』

 この文章にするまで何分かかっただろう。
 カフェの時計を見ると、10分もかかっている。

「かかりすぎ」

 莉子はスマホをカウンターへと置き、お湯を沸かし始めた。
 いつもはカウンターの奥で作業をするのだが、お休みの日はカウンターで入れることにしている。

 背徳感、というやつだと、莉子は思っている。

 豆を挽き、お湯を注ぎ、抽出しおえれば、コーヒーの出来上がり。
 たったこれだけなのに、毎日の天気、湿度、お湯の温度で全く味がかわるのだから、難しい飲み物だと思う。

「はぁ……朝の一杯はやっぱコーヒーよねぇ」

 ステンレスフィルターで入れるコーヒーは少し
 どこかフレンチプレスっぽくって、コクもあって、父がペーパードリップだったにも関わらず、莉子は自分が好きだという理由でステンレスフィルターにしている。
 もちろん、指定があればペーパードリップでも入れるが、そこまでのこだわりのある人がこのカフェに来るわけもなく、本当にすっきり飲みたい人だったり、カップの下に粉が溜まるのを飲み慣れていない人にはペーパードリップで出すこともある。

 半分ほど飲み終えたとき、再びスマホが震えた。
 時刻は10時ちょうどぐらい。
 莉子は再び現れた連藤の名にビクつきながら、メッセージを広げた。


『ランチは何でも構いません。オーナーの作るものは美味しいので。もしよければ今から行ってもよろしいですか?』


「え……今から?!……なんで焦るんだろ……大丈夫、莉子大丈夫だよぉ……ふぅっ」

 深呼吸を3回したあと、『大丈夫ですよ』そう返事を返した10分後───

 1台のタクシーがカフェの前に停まり、そこから降りてきたのは、連藤だ。
 慌てて店から飛び出た莉子だが、タクシーの運転手さんは慣れたもので、連藤の手を取り、降ろしてくれている。

「連藤、オーナーさん、迎えにきてくれてるわ」

 小さく莉子に会釈をしながら言うのはタクシー運転手だ。
 連藤と同い年ぐらいだろうか。

「佐々井、ありがとな。お前もここにランチに来たらいい」
「ああ、こっち回った時はそうするわ。じゃ、オーナーさん、連藤よろしくお願いします」
「え、あ、はい」

 渡された手を取り、タクシーを見送るのだが、連藤が笑っている。
 莉子が固まったままだからだ。

「オーナー」
「へ、あ、はい!」

 握ったままだった手に驚き、莉子は一度手を離してしまうが、案内をしなくちゃと、手を取り直す。

「さっきの運転手は大学の同級生でもあるので、仲がいいんです。佐々井が来たら、よろしくお願いします」
「ええ、もちろんです。じゃ、じゃあ、案内しますね」

 莉子が肩に手を乗せようとしたとき、ぐっと手が引かれる。

「そのまま握って案内してくれてでいいですよ。お店の中から、肩で案内してください」


 ───なに言ってんだこの人
 

 莉子は思う。
 が、あまりの綺麗な笑顔に反論ができない。
 おずおずと手を握り、

「こっちです」

 たった5歩程度の距離だが手を繋いで歩く。
 もうこれだけで莉子の心臓ははちきれそうだ。

 だが連藤の顔はいつまでも涼しげだ。

 なぜならこちらの案内の方がいいだろう、という、そういう理由だからだ。
 連藤にとっては普通のこと、なのである。

「あ、ここから段差があります。気をつけてくださいね」

 莉子はなんとか案内をし終えると、連藤をカウンターに座らせることができた。
 時刻は10時30分になっていない。

「コーヒー、飲みませんか?」

 カウンターの奥に行けば自分の陣地と言わんばかりに、莉子が機敏に動き始める。
 空気が変わったのを連藤は肌で感じながら、

「お願いできますか?」

 柔らかく微笑むのだった。
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