55 / 55
花塚村 冬至編
花塚村 冬至編 5話
しおりを挟む
ちょうど洗い場が空いていたので、となり同士で腰を下ろし、頭、体と洗っていくが、シラタマは備え付けのシャンプーは使わない派だ。
理由は毛質に合わないから。
ここの泉質は大好きなのだが、おいてあるボディソープはあくまで肌用。
毛皮の妖怪向けとは言い難いのだ。
たまたまもってくるのを忘れて使ったことがあるが、ごわごわぼわぼわとなり、2日ばかり毛並みが整わなかった。
シラタマは丁寧にお湯を全身にかけ、手のひらで猫又用ボディソープを泡立てていく。
それを頭、胸毛、尻尾とつけて、ゆっくり毛に空気を入れるように洗っていく。
となりのリッカちゃんは桶にお湯を溜め、その中に備え付けのシャンプーを5プッシュ。
軽く手で混ぜ、石鹸水を作る。
そこに取った頭を逆さに浸し、黒く長い髪の毛をじゃぶじゃぶ洗っていく。
あまりの雑な洗い方に、シラタマは3度見したと思う。
まさか、横着者のリッカちゃんといえど、髪の毛ぐらいは普通に洗うと思っていたからだ。
「リッカちゃん、お湯、鼻に入ったりしない?」
「お湯?」
一度勢い余ってそのままおでこがお湯に浸かる。
サバっと顔が引き上げられると、リッカちゃんは目を閉じたまま言った。
「鼻には入らないよ。桶の深さがちょうど目の位置ぐらいだから。だから、目だけは絶対に開けない。染みるからね!」
「そっか。意外と考えてるんだ」
「そりゃそうだよ。だって鼻に入ったら痛いじゃん」
その通りではあるが、なぜこの洗い方になったのかはシラタマは聞かないでおくことにした。
体を洗いあげれば、シラタマは湯船に入る準備完了だ。
リッカちゃんも慣れたもので、石鹸水に浸した頭を膝に乗せて、パパっと泡立てると、再びお湯に浸し、泡を落としていく。
ちょうど鏡の手前の台に首を置き、タオルで髪の毛を包むと、自分の体を隙のない順序で洗っていく。
洗う姿を見ながらというのは、お風呂のなかで効率的に動けるようだ。
しっぽの水をきったと同時にリッカちゃんの支度も整った。
あとは湯船に浸かるだけだ。
ただ、どこの湯船から攻めるか──
「リッカちゃんはどこからいく?」
「スライダーっしょ! 入り過ぎたらのぼせるから、楽しそうなの最初にやろー」
リッカちゃんの提案通り、スライダーから湯船を楽しむことに。
思い思いのスタイルで滑り落ちながら、お湯は全身をゆっくりとあっためてくれる。
もちろん、ゆずもたんまりと浮かべてあり、ゆずの香りが肌に染み込む気がするほど。
「リッカちゃん、私、つぎ、あっちに行きたい」
「いいよー。あそこであったまろっか」
子どもたちは忙しない。
あっちにいったり、こっちにいったりと、バタバタしながら温泉を楽しんでいる。
隣の湯船ではお母さんたちがお酒を飲みつつ、子どもたちの様子を見つつ、だ。
ただ今日は安全第一ですごすため、妖怪・河童の出番である。
男女の河童それぞれ、温泉を安全に楽しんでもらうため、見張っているのだ。
特にこの村の河童は水の揺れで人の位置はもちろん、仮に静かに溺れたとしても、すぐに水の動きでわかる
おかげで夏の海水浴はもちろん、温泉の開放時も、河童の方々のおかげで、大きな事故になっていない。
「リッカちゃん、ラムネ、飲まない?」
持参したラムネを氷ボックスに入れておいたのを思い出したシラタマは、濡れた毛をぶわっと膨らます。
今飲んだら絶対おいしいタイミングだからだ。
「水分補給は大事だよね」
向かった場所は氷を詰めた大きな桶だ。
皆それぞれ飲み物を持ってきているため、冷やすために置いてある。
氷は特注で、雪女特製のほぼ溶けない氷だ。
そこに各々名前を書き込み、氷の中へ入れておく。
この名前を書くペンが特殊で、書いた人以外がその飲み物を飲もうとすると、文字に噛みつかれる仕様になっている。
盗難する人はいないが、間違え防止にとても役に立っている。
「あたし、フルーツティーにしよー」
それは女性のお風呂専用のドリンクバーだ。
2人それぞれ飲みながら、お湯の火照りをとるために、露天風呂の近くにあるベンチですずむことにした。
外は真冬の気温だ。
だが温泉に入れば、春のように心地のいい温度が体を包んでくれている。
「はぁ……私、冬至大好き」
ラムネを飲みながら、ほっとこぼした言葉に、リッカちゃんはにっこり笑う。
「あたしも大好き! シラタマちゃんとこのかぼちゃ団子は絶品だし、温泉に浸かりながらドリンク飲むって、めっちゃサイコー!」
「サイコー!!」
2人はジュースを飲み終えると、ジャグジーへと向かう。
まだまだ温泉の堪能は止まらない!
冬至だからこその子どもの遊びがある。
楽しそうにはしゃぐシラタマを見ながら、母はきゅっと梅酒をあおった。
鼻から抜けていく梅の爽やかな香りを楽しみながら、シラタマの成長を微笑ましく見つめる。
「母ちゃんももっとがんばらなきゃね」
楽しむシラタマを見て、改めて娘の幸せを考える母だった。
理由は毛質に合わないから。
ここの泉質は大好きなのだが、おいてあるボディソープはあくまで肌用。
毛皮の妖怪向けとは言い難いのだ。
たまたまもってくるのを忘れて使ったことがあるが、ごわごわぼわぼわとなり、2日ばかり毛並みが整わなかった。
シラタマは丁寧にお湯を全身にかけ、手のひらで猫又用ボディソープを泡立てていく。
それを頭、胸毛、尻尾とつけて、ゆっくり毛に空気を入れるように洗っていく。
となりのリッカちゃんは桶にお湯を溜め、その中に備え付けのシャンプーを5プッシュ。
軽く手で混ぜ、石鹸水を作る。
そこに取った頭を逆さに浸し、黒く長い髪の毛をじゃぶじゃぶ洗っていく。
あまりの雑な洗い方に、シラタマは3度見したと思う。
まさか、横着者のリッカちゃんといえど、髪の毛ぐらいは普通に洗うと思っていたからだ。
「リッカちゃん、お湯、鼻に入ったりしない?」
「お湯?」
一度勢い余ってそのままおでこがお湯に浸かる。
サバっと顔が引き上げられると、リッカちゃんは目を閉じたまま言った。
「鼻には入らないよ。桶の深さがちょうど目の位置ぐらいだから。だから、目だけは絶対に開けない。染みるからね!」
「そっか。意外と考えてるんだ」
「そりゃそうだよ。だって鼻に入ったら痛いじゃん」
その通りではあるが、なぜこの洗い方になったのかはシラタマは聞かないでおくことにした。
体を洗いあげれば、シラタマは湯船に入る準備完了だ。
リッカちゃんも慣れたもので、石鹸水に浸した頭を膝に乗せて、パパっと泡立てると、再びお湯に浸し、泡を落としていく。
ちょうど鏡の手前の台に首を置き、タオルで髪の毛を包むと、自分の体を隙のない順序で洗っていく。
洗う姿を見ながらというのは、お風呂のなかで効率的に動けるようだ。
しっぽの水をきったと同時にリッカちゃんの支度も整った。
あとは湯船に浸かるだけだ。
ただ、どこの湯船から攻めるか──
「リッカちゃんはどこからいく?」
「スライダーっしょ! 入り過ぎたらのぼせるから、楽しそうなの最初にやろー」
リッカちゃんの提案通り、スライダーから湯船を楽しむことに。
思い思いのスタイルで滑り落ちながら、お湯は全身をゆっくりとあっためてくれる。
もちろん、ゆずもたんまりと浮かべてあり、ゆずの香りが肌に染み込む気がするほど。
「リッカちゃん、私、つぎ、あっちに行きたい」
「いいよー。あそこであったまろっか」
子どもたちは忙しない。
あっちにいったり、こっちにいったりと、バタバタしながら温泉を楽しんでいる。
隣の湯船ではお母さんたちがお酒を飲みつつ、子どもたちの様子を見つつ、だ。
ただ今日は安全第一ですごすため、妖怪・河童の出番である。
男女の河童それぞれ、温泉を安全に楽しんでもらうため、見張っているのだ。
特にこの村の河童は水の揺れで人の位置はもちろん、仮に静かに溺れたとしても、すぐに水の動きでわかる
おかげで夏の海水浴はもちろん、温泉の開放時も、河童の方々のおかげで、大きな事故になっていない。
「リッカちゃん、ラムネ、飲まない?」
持参したラムネを氷ボックスに入れておいたのを思い出したシラタマは、濡れた毛をぶわっと膨らます。
今飲んだら絶対おいしいタイミングだからだ。
「水分補給は大事だよね」
向かった場所は氷を詰めた大きな桶だ。
皆それぞれ飲み物を持ってきているため、冷やすために置いてある。
氷は特注で、雪女特製のほぼ溶けない氷だ。
そこに各々名前を書き込み、氷の中へ入れておく。
この名前を書くペンが特殊で、書いた人以外がその飲み物を飲もうとすると、文字に噛みつかれる仕様になっている。
盗難する人はいないが、間違え防止にとても役に立っている。
「あたし、フルーツティーにしよー」
それは女性のお風呂専用のドリンクバーだ。
2人それぞれ飲みながら、お湯の火照りをとるために、露天風呂の近くにあるベンチですずむことにした。
外は真冬の気温だ。
だが温泉に入れば、春のように心地のいい温度が体を包んでくれている。
「はぁ……私、冬至大好き」
ラムネを飲みながら、ほっとこぼした言葉に、リッカちゃんはにっこり笑う。
「あたしも大好き! シラタマちゃんとこのかぼちゃ団子は絶品だし、温泉に浸かりながらドリンク飲むって、めっちゃサイコー!」
「サイコー!!」
2人はジュースを飲み終えると、ジャグジーへと向かう。
まだまだ温泉の堪能は止まらない!
冬至だからこその子どもの遊びがある。
楽しそうにはしゃぐシラタマを見ながら、母はきゅっと梅酒をあおった。
鼻から抜けていく梅の爽やかな香りを楽しみながら、シラタマの成長を微笑ましく見つめる。
「母ちゃんももっとがんばらなきゃね」
楽しむシラタマを見て、改めて娘の幸せを考える母だった。
0
お気に入りに追加
27
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる