老舗あやかし和菓子店 小洗屋

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花塚村 冬至編

花塚村 冬至編 5話

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 ちょうど洗い場が空いていたので、となり同士で腰を下ろし、頭、体と洗っていくが、シラタマは備え付けのシャンプーは使わない派だ。
 理由は毛質に合わないから。
 ここの泉質は大好きなのだが、おいてあるボディソープはあくまで肌用。
 毛皮の妖怪向けとは言い難いのだ。
 たまたまもってくるのを忘れて使ったことがあるが、ごわごわぼわぼわとなり、2日ばかり毛並みが整わなかった。

 シラタマは丁寧にお湯を全身にかけ、手のひらで猫又用ボディソープを泡立てていく。
 それを頭、胸毛、尻尾とつけて、ゆっくり毛に空気を入れるように洗っていく。

 となりのリッカちゃんは桶にお湯を溜め、その中に備え付けのシャンプーを5プッシュ。
 軽く手で混ぜ、石鹸水を作る。
 そこに取った頭を逆さに浸し、黒く長い髪の毛をじゃぶじゃぶ洗っていく。

 あまりの雑な洗い方に、シラタマは3度見したと思う。
 まさか、横着者のリッカちゃんといえど、髪の毛ぐらいは普通に洗うと思っていたからだ。

「リッカちゃん、お湯、鼻に入ったりしない?」
「お湯?」

 一度勢い余ってそのままおでこがお湯に浸かる。
 サバっと顔が引き上げられると、リッカちゃんは目を閉じたまま言った。

「鼻には入らないよ。桶の深さがちょうど目の位置ぐらいだから。だから、目だけは絶対に開けない。染みるからね!」
「そっか。意外と考えてるんだ」
「そりゃそうだよ。だって鼻に入ったら痛いじゃん」

 その通りではあるが、なぜこの洗い方になったのかはシラタマは聞かないでおくことにした。
 体を洗いあげれば、シラタマは湯船に入る準備完了だ。
 リッカちゃんも慣れたもので、石鹸水に浸した頭を膝に乗せて、パパっと泡立てると、再びお湯に浸し、泡を落としていく。
 ちょうど鏡の手前の台に首を置き、タオルで髪の毛を包むと、自分の体を隙のない順序で洗っていく。
 洗う姿を見ながらというのは、お風呂のなかで効率的に動けるようだ。

 しっぽの水をきったと同時にリッカちゃんの支度も整った。
 あとは湯船に浸かるだけだ。

 ただ、どこの湯船から攻めるか──

「リッカちゃんはどこからいく?」
「スライダーっしょ! 入り過ぎたらのぼせるから、楽しそうなの最初にやろー」

 リッカちゃんの提案通り、スライダーから湯船を楽しむことに。
 思い思いのスタイルで滑り落ちながら、お湯は全身をゆっくりとあっためてくれる。
 もちろん、ゆずもたんまりと浮かべてあり、ゆずの香りが肌に染み込む気がするほど。

「リッカちゃん、私、つぎ、あっちに行きたい」
「いいよー。あそこであったまろっか」

 子どもたちは忙しない。
 あっちにいったり、こっちにいったりと、バタバタしながら温泉を楽しんでいる。
 隣の湯船ではお母さんたちがお酒を飲みつつ、子どもたちの様子を見つつ、だ。
 ただ今日は安全第一ですごすため、妖怪・河童の出番である。
 男女の河童それぞれ、温泉を安全に楽しんでもらうため、見張っているのだ。
 特にこの村の河童は水の揺れで人の位置はもちろん、仮に静かに溺れたとしても、すぐに水の動きでわかる
 おかげで夏の海水浴はもちろん、温泉の開放時も、河童の方々のおかげで、大きな事故になっていない。

「リッカちゃん、ラムネ、飲まない?」

 持参したラムネを氷ボックスに入れておいたのを思い出したシラタマは、濡れた毛をぶわっと膨らます。
 今飲んだら絶対おいしいタイミングだからだ。

「水分補給は大事だよね」

 向かった場所は氷を詰めた大きな桶だ。
 皆それぞれ飲み物を持ってきているため、冷やすために置いてある。
 氷は特注で、雪女特製のほぼ溶けない氷だ。
 そこに各々名前を書き込み、氷の中へ入れておく。
 この名前を書くペンが特殊で、書いた人以外がその飲み物を飲もうとすると、文字に噛みつかれる仕様になっている。
 盗難する人はいないが、間違え防止にとても役に立っている。

「あたし、フルーツティーにしよー」

 それは女性のお風呂専用のドリンクバーだ。
 2人それぞれ飲みながら、お湯の火照りをとるために、露天風呂の近くにあるベンチですずむことにした。

 外は真冬の気温だ。
 だが温泉に入れば、春のように心地のいい温度が体を包んでくれている。

「はぁ……私、冬至大好き」

 ラムネを飲みながら、ほっとこぼした言葉に、リッカちゃんはにっこり笑う。

「あたしも大好き! シラタマちゃんとこのかぼちゃ団子は絶品だし、温泉に浸かりながらドリンク飲むって、めっちゃサイコー!」
「サイコー!!」

 2人はジュースを飲み終えると、ジャグジーへと向かう。
 まだまだ温泉の堪能は止まらない!

 冬至だからこその子どもの遊びがある。
 楽しそうにはしゃぐシラタマを見ながら、母はきゅっと梅酒をあおった。
 鼻から抜けていく梅の爽やかな香りを楽しみながら、シラタマの成長を微笑ましく見つめる。

「母ちゃんももっとがんばらなきゃね」

 楽しむシラタマを見て、改めて娘の幸せを考える母だった。
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