老舗あやかし和菓子店 小洗屋

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羅生門日帰り旅編

羅生門 日帰り旅 5話

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 お蕎麦屋さんは、最中を持っていくお月見寺の近くだという。

「ちょっと歩くよ?」
「まかせて、母ちゃん」

 大通りから西に道を入っていくと、もっと専門的なお店が並び出した。
 それこそ金物屋でも『ハサミ専門』『包丁専門』『カトラリー専門』といった感じだし、布屋さんなら、『絹専門』から、『刺繍屋』、『ボタン専門』など、見て回るだけで1年かかってしまうのではと、シラタマは思う。

 細い道が続いていたが、少し大きな道に出た。

「羅生門から伸びる道は大通り、お寺と商店の境は本通りっていうの。理由は母ちゃん、しらないんだけど」

 本通も人通りはあったが、お参りをする参拝客の割合が多い気がする。
 さらには宿屋や飲食店が多く並んでいるのも特徴的かもしれない。

 すだれ柳の並木をすぎて、漆喰の壁が現れた。

「この壁はお月見寺の壁よ。大きなお寺なの」
「ほんとだぁ」

 花塚村にもお寺はいくつかあるが、塀などはなく、本堂がひとつある程度。
 だが塀は大きく、どこまでも見えるため、本堂以外にも建物があるのがわかる。

「ここの向かいにある、あのお蕎麦屋さん、母ちゃんの好物なの」
「老舗っぽい……!」

 シラタマは目をきらっきらにして見つめる建物は、相当歴史が長そうだ。
 瓦屋根はもちろん、暖簾の年季は見ての通り。
 蕎麦屋の名前は『燈無屋あかりなしや』とある。

「さ、シラタマが食べたいお蕎麦、あるかなぁ?」
「あるかなぁ?」

 暖簾をくぐり、少し立て付けの悪い引き戸を開けて、入っていく。
 入った店内はまばらだ。
 ゆっくり歩いていたのもあり、お昼どきをうまく逃がせたようだ。

「いらっしゃいませー。……あー、お久しぶり! あら、娘ちゃんもいっしょ?」

 前掛けで手を拭きながら出てきたのは女将さんだろう女性だ。のっぺらぼうだが、笑っているのがわかる。
 のっぺらぼうは、目も鼻も口もない妖怪と思われがちだが、実はしっかり表情も、口もあるからだ。

 女将さんは優しく微笑みながら、シラタマの頭をなでてくれる。

「初めまして、ここの女将のまつよ。あなたのお名前は?」
「私、シラタマ。よろしくおねがいします」

 ぺっこりと頭を下げたシラタマに、女将さんは「んまぁ」と声を上げる。

「とってもいい子! めっちゃかわいこちゃんじゃなーい! もう、会えて嬉しいっ!」

 シラタマの手をとると、るんるんで歩きだす。

「お座敷つかって。少しゆっくりしてってよ、おふじ

 シラタマの目はきょとんとしている。
 藤とは、母の名前だ。
 名前を呼ぶ仲に、ビックリしてしまう。

「驚いた? お松はね、母ちゃんの子どものときからの友だちなのよ。ずっとね、シラタマに会いたがってたの」
「そうなんだ。……そうなんだ」

 シラタマは想像する。
 母ちゃんが子どものとき、どんなことをして過ごしていたんだろう。
 最も、母がどこで暮らしていたのかも、まだ聞いたことがない。
 帰りにでも聞いてみようか。

「ほら、シラタマ、牛蒡天のお蕎麦、あった。あったかいのにする? 冷たいの?」
「あったかいの。母ちゃんはたぬき蕎麦でしょ?」
「そ。たぬき蕎麦。でね、シラタマ、相談。ねぇ、大和芋、追加トッピングしてもいい……?」

 母の相談にシラタマはふわふわの手を口にあて、うふふと笑う。

「いいよ! 母ちゃん、牡蠣天あるよ? これも追加しなくていい?」
「あー、牡蠣天。これは父ちゃんに内緒で、いっしょに食べようか」
「うん!」

 ──ごぼう天のお蕎麦と、大和芋トッピングのたぬき蕎麦、そして、牡蠣の天ぷらは、美味しいタイミングで届いてくれた。

 蕎麦はコシがあり、蕎麦の香りもいい。
 喉越しもいい蕎麦は、汁とのからみもいい。
 汁はしっかりカエシという、ツユの素が作られているのか、出汁と酸味がいいコントラストだ。
 ついつい飲み干しそうになるが、喉があとから乾くのでほどほどに。

 牡蠣の天ぷらは衣はさっくり、牡蠣はぷっくりとろーりで、とっても美味しい!
 ちょうどいい火の通り加減で、シラタマは何度も頬をさする。

「どうしたのシラタマ?」
「おいしくてほっぺた落ちてないか、確認してるの」
「大丈夫、落ちてない、落ちてない」

 ……ゆっくりと楽しみながらも、蕎麦がのびない程度の時間で食べおえた。
 時計はもうすぐ13時半をさすところ。

「……キヌちゃんに、もうすぐ会える」

 持ってきた時計を眺めて言ったシラタマに、母はにっこりと微笑んだ。

「楽しみねぇ」
「うん!」
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