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羅生門日帰り旅編

羅生門 日帰り旅 1話

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 今日は待ちに待った母との羅生門デビューだ。
 着物は決めてある。
 キヌちゃんがあつらえてくれた菜の花色の着物と母が買ってくれた帯、そして父がこっそり買ってきた草履だ。
 丁寧に毛並みを直して、今日はゆっくりと朝ごはんを食べるなか、父はひとり、ソワソワしている。

「シラタマ、母ちゃんと離れないようにするんだぞ? キヌちゃんに、シラタマが押したどら焼き持ったか? 寒くないように」
「父ちゃん」

 シラタマのふわふわの手がぽすんと膝に乗る。

「父ちゃん、シラタマ、ちゃんと母ちゃんのいうこときけるよ? どら焼きも持ったよ! あとマフラーと手袋もあるよ」

 羅生門は年がら年中、秋の場所だ。
 ちなみに、この花塚村は、春多め、夏多め、秋冬少なめの季節感。
 寒い日が少ないのもあり、手袋などはめるタイミングが少ない。
 だからシラタマは、もこもこのマフラーと手袋を身につけられることが楽しみで仕方がない。

「ほら、母ちゃんが編んでくれた手袋、あったかんだー」
「シラタマ、今からつけたら暑いわよ?」
「はーい」

 パタパタと支度を整えていくシラタマの尻尾をながめながら、

「……シラタマ、大人になったなぁ……」

 涙ぐむ父に、シラタマはひと言。

「まだ子どもよ」
「……そうなんだけどよぉ」


 ぐずぐず続ける父を無視し、シラタマと母とで出かける準備を整えていく。
 父も今日は1日仕込みだという。
 お店は閉めるが、仕事はある、という状況だ。

「汽車に慣れたら、もう少し遠くに遊びに行こうか、シラタマ」
「そうね、それがいいわね」

 ……これには経緯がある。
 シラタマは猫又だ。
 動くものを追う習性がある。
 本当に幼いとき、父と母はシラタマを連れて、おでかけしようと汽車に乗った。

 まではよかった。

 汽車から流れる景色に目を回し、旅行どころではなくなったのだ。

 だいぶシラタマも成長し、今回で汽車に乗っても目を回さないなら、もっと遠くへ家族旅行に行ける。

「目、ぐるぐるしないように、がんばるね!」
「無理するなよ、シラタマ。……いってらっしゃい」

 シラタマの頭がふわふわとなでられる。
 シラタマはそれにうふふと笑い、手を振った。



 母と手を繋いで歩くのは久しぶりだ。
 母の背には、お寺に卸す最中が入っている。

「母ちゃん、重くない?」
「これぐらい、平気。シラタマは?」
「平気!」

 シラタマの風呂敷には、キヌちゃんと食べるためのどら焼き(肉球焼きごて入り)と、本が1冊入っている。
 切符を買う母をながめながら、これから蒸気機関車に乗るのだと思うと、ちょっと緊張しながらも、楽しみで胸がいっぱいになる。
 ここから羅生門駅までは、片道1時間。

「シラタマ、駅弁とお菓子、どっちがいい?」
「駅弁!」

 食い倒れ旅行になるのではと心配する母をよそに、シラタマの目はきゅるんきゅるんに輝いている。 
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