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第15章
117 愛犬家 ① ☆
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5年前・某日。
おお、ここだ、ここだ。こんな中途半端な時間に呼び出して悪いねえ。なかなか都合が付かなくてさ。
この公園は今の時間帯、人通りが少ないし、このコ達の散歩コースの中間にあって、休憩に便利なんだ。
ああ、2匹とも大人しいから、そばに寄っても心配ない。こっちのペキニーズがAdwin、4歳のオス。チワワはPranda、これはメスで7歳だよ。見ての通り、どっちも元気でねえ。いつもワタシの方が先にくたびれてしまうんだ。
昔は大型犬と一緒に毎日10キロ近くも散歩していたのに、年々体力が落ちるのを感じるよ。このままでは“耄碌ジジイ”の道まっしぐらだから、せめてこのコ達の散歩くらいは頑張らないとねえ。
ところで、以前君が言っていた面白そうな話、今日は詳しく聞かせてくれるんだよねえ? そうかい、ありがたいねえ。昨夜からとても楽しみにしていたんだ。
じゃあ、あそこのベンチで話そう。
×分後──
はー、なるほど。何だい、そいつはすこぶる愉しそうじゃないか。
いいよ、ワタシも一枚噛ませてもらおう。丁度、何か面白いことをしてやろうと思っていたんだよねえ。
いや、そんなことはない。ひと儲けを企んでいるわけでもないよ。
ただ、思うところがあっただけだねえ……。
ほう、わけを聞きたい? そうか。それなら、少し思い出話に付き合ってくれるかい。
前にも話したが、ワタシの母はドイツ人でねえ。とても目立つ女性だった。ワタシも母の特徴をよく受け継いでいるせいか、子供の頃はガイジンと言われて揶揄われたものだよ。ワタシは勝ち気だったから黙っていじめられてはいなかったけど、仲間外れにされれば人並みに傷ついた。
そんな時、愛犬の存在には助けられた。ワタシが10歳の頃、父の取引相手が体を壊して飼いきれなくなったのを譲り受けたんだ。2歳のオスで、名前はジョリィと言うんだ。ピレネー犬じゃなく、ジャーマン・シェパードだったけれど。おっと、これで年代がバレるねえ。
ジョリィは……可愛かったねえ。大きくて精悍な見た目に似合わず穏やかな性格で、ワタシにもすぐに馴れてね、いつも一緒に走り回って遊んでいたよ。腕白だったワタシが乱暴を働いても決して怒ることはなかったし、転んでケガをすると飛んできていつまでも心配してくれた。
どこに行くにも後をくっついてきて、よくワタシの世話を焼いていたねえ。
そして、命令は必ず守った。一度、ワタシが待てと言ったまま遊びに出かけてしまって、エサの前で1時間くらいおあずけを食わせたことがあったんだけど、ジョリィはよだれを垂らしながら我慢していたよ。エサの方を見ないようにしてねえ……。
それに気づいた時は申し訳なさ過ぎて、ワタシはその日、夕食を抜いたんだ。何の意味もないんだが、そうせずにはいられなかったねえ。
語り出したらキリがないからこの辺にしておくけど、あのコに関しては本当に良い思い出ばかりだねえ。
ジョリィは全身全霊でワタシを愛してくれた。ワタシも彼のことが大好きだったから、死んだ時はこの世の終わりだと感じたほどだ……。
大型犬はいいよ? 本音を言えば、今でも飼いたい。だけど、ほら、彼らは運動量が多いだろう? ワタシもいい年になって、それなりに多忙でもあるから、パワフルな犬が満足するまで構ってやる自信がなくて諦めたんだ。
もちろん、このコ達は最高に可愛い。大切な家族として、心から愛しているよ。ただ、一緒にいる時に感じる溢れんばかりのパワーと存在感は、大型犬ならではという気はするね。
ところで、お前さん、動物は飼っているかい?
ああ、そうか。生きもの全般に興味がないんだねえ。だからこそ処刑人になったというなら、これ以上の説得力はないな。
おお、ここだ、ここだ。こんな中途半端な時間に呼び出して悪いねえ。なかなか都合が付かなくてさ。
この公園は今の時間帯、人通りが少ないし、このコ達の散歩コースの中間にあって、休憩に便利なんだ。
ああ、2匹とも大人しいから、そばに寄っても心配ない。こっちのペキニーズがAdwin、4歳のオス。チワワはPranda、これはメスで7歳だよ。見ての通り、どっちも元気でねえ。いつもワタシの方が先にくたびれてしまうんだ。
昔は大型犬と一緒に毎日10キロ近くも散歩していたのに、年々体力が落ちるのを感じるよ。このままでは“耄碌ジジイ”の道まっしぐらだから、せめてこのコ達の散歩くらいは頑張らないとねえ。
ところで、以前君が言っていた面白そうな話、今日は詳しく聞かせてくれるんだよねえ? そうかい、ありがたいねえ。昨夜からとても楽しみにしていたんだ。
じゃあ、あそこのベンチで話そう。
×分後──
はー、なるほど。何だい、そいつはすこぶる愉しそうじゃないか。
いいよ、ワタシも一枚噛ませてもらおう。丁度、何か面白いことをしてやろうと思っていたんだよねえ。
いや、そんなことはない。ひと儲けを企んでいるわけでもないよ。
ただ、思うところがあっただけだねえ……。
ほう、わけを聞きたい? そうか。それなら、少し思い出話に付き合ってくれるかい。
前にも話したが、ワタシの母はドイツ人でねえ。とても目立つ女性だった。ワタシも母の特徴をよく受け継いでいるせいか、子供の頃はガイジンと言われて揶揄われたものだよ。ワタシは勝ち気だったから黙っていじめられてはいなかったけど、仲間外れにされれば人並みに傷ついた。
そんな時、愛犬の存在には助けられた。ワタシが10歳の頃、父の取引相手が体を壊して飼いきれなくなったのを譲り受けたんだ。2歳のオスで、名前はジョリィと言うんだ。ピレネー犬じゃなく、ジャーマン・シェパードだったけれど。おっと、これで年代がバレるねえ。
ジョリィは……可愛かったねえ。大きくて精悍な見た目に似合わず穏やかな性格で、ワタシにもすぐに馴れてね、いつも一緒に走り回って遊んでいたよ。腕白だったワタシが乱暴を働いても決して怒ることはなかったし、転んでケガをすると飛んできていつまでも心配してくれた。
どこに行くにも後をくっついてきて、よくワタシの世話を焼いていたねえ。
そして、命令は必ず守った。一度、ワタシが待てと言ったまま遊びに出かけてしまって、エサの前で1時間くらいおあずけを食わせたことがあったんだけど、ジョリィはよだれを垂らしながら我慢していたよ。エサの方を見ないようにしてねえ……。
それに気づいた時は申し訳なさ過ぎて、ワタシはその日、夕食を抜いたんだ。何の意味もないんだが、そうせずにはいられなかったねえ。
語り出したらキリがないからこの辺にしておくけど、あのコに関しては本当に良い思い出ばかりだねえ。
ジョリィは全身全霊でワタシを愛してくれた。ワタシも彼のことが大好きだったから、死んだ時はこの世の終わりだと感じたほどだ……。
大型犬はいいよ? 本音を言えば、今でも飼いたい。だけど、ほら、彼らは運動量が多いだろう? ワタシもいい年になって、それなりに多忙でもあるから、パワフルな犬が満足するまで構ってやる自信がなくて諦めたんだ。
もちろん、このコ達は最高に可愛い。大切な家族として、心から愛しているよ。ただ、一緒にいる時に感じる溢れんばかりのパワーと存在感は、大型犬ならではという気はするね。
ところで、お前さん、動物は飼っているかい?
ああ、そうか。生きもの全般に興味がないんだねえ。だからこそ処刑人になったというなら、これ以上の説得力はないな。
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