bias わたしが、カレを殺すまで。

帆足 じれ

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第12章

97 懐かしい場所

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 高速道路も使って1時間ばかり移動し、到着したのは懐かしい場所だった。まだ祖母が外出できていた頃、家族で訪れたことのある遊園地だ。高地にあるため風が強く、真夏とは思えないほど涼しい。
 廃業して日が経っているようで厳重に封鎖され、あちこちに「警告」、「関係者以外立ち入り禁止」といった張り紙がしてある。

 どうやってアプローチするのか考えていると、凌遅が横手にある小さな扉と、その前に立つ本部の人間と思しい屈強な男性を見つけた。彼は私達の姿を認めると、ぺこりと頭を下げる。凌遅が訪問の意図を告げたところ、相手は訳知り顔でうなずいた。

「お話は伺っております。どうぞお入りください。こちらが園内マップです。バエル代表はこの建物でお待ちになっておられます。内輪の話をしたいと仰せなので、入館後は内側から施錠をお願いいたします」

「わかった。ありがとな」

 園内マップを受け取った凌遅は短く相手を労い、歩を進める。私も慌てて後に続いた。

「少し歩くぞ。待ち合わせ場所は一番奥らしい」

 凌遅に先導される形で、目的の場所・レストハウスを目指す。もう10年以上来ていないから記憶は曖昧だが、見覚えのある遊具や建物のいくつかに在りし日の思い出を重ねて、何とも切なくなる。

 確かあの日も、私の誕生日だった。幼稚園くらいの時で、いろいろな遊具に乗って日が暮れるまで遊び、レストランで食事をしたんだ。店側の計らいでバースデーケーキをサービスしてもらい、両親と祖母、そして叔父が笑顔で私を見ている様子がありありと思い出される。周囲の客も和やかに見守ってくれて、私はとても幸せな時間を過ごした。

 最悪の顔合わせにこんな大切な場所を指定してくるとは、本当に嫌らしいことをする。だが、私を今日ここに呼ぶ時点で、バエルの正体は証明されたも同然だ。他の3人がこの世にいない以上、答えは一つしかない。

「わかったよ、かず叔父さん……そっちがその気なら、私も遠慮はしない……」

 決意を固め、私は拳を握り締める。

 しばらく歩いて、目的の場所に辿り着いた。白亜の灯台を模した美しい建物で、1階は売店と催事コーナー、2階がレストラン、3階が休憩所、その上は階段でアクセスできる屋外展望台になっていたはずだ。敷地の中で一番高台に位置していて、だいぶ階段を上って来たため息が切れた。風の音が強くなり、私の感情も昂る。

 建物に足を踏み入れる際、出入りができるのはここだけだから、バエルもこの道を通っているんだなと考えた途端、ビリビリと神経が軋むのがわかった。

「そんなに気負うな、バーデン・バーデンの処女」

 凌遅が足を止め、私を見る。

「俺もあの人に伝えることがあるんだ。昨日の夜、ようやく形になった。君にとっても新鮮な話のはずだから、楽しみにしてな」

「えっ……」

 彼の目には愉悦が浮かんでいる。悪戯を仕掛け、物陰に隠れてほくそ笑む子供のような表情だ。一体、何をする気なのだろう。
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