僕のコイビトと12の嘘

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本編

4話「噂」

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 急いで職場へ直行した俺は、職員室でのミーティングにギリギリ間に合った。
 朝食なんて取る暇も無く、何かが吹っ切れたように元気ハツラツと午前の授業を終わらせた俺だった。
 昼休みは駐車場のずーっと奥にある小さな路地を入った向こうにあるコンビニで、焼きそばパンとメロンパン、そして、紙パックのいちご牛乳を購入。職員室へ戻り、ヘトヘトになった体と空腹を満たす。
 自宅に強引に置いてきてしまった、あの青年のことが気掛かりではないこともない。
「……」
 自席で腕組みをしながら天井を見上げ、考えていた。
 うーん……。全く心当たりが、ない。
 何かとっても訳アリの子とか?
 もしかして、それって匿ってる俺も何かヤバくなるのかな?
 グゥウウ~
 腹が鳴る音。
 昨晩から、しっかりとした飯、食べれていない気がする。チキン……チキンが恋しくなってしまった。
「肉、ガッツリ食べたい。今晩は何か、肉……」
 忙しくてもせめて朝食はちゃんと食べよう。心からそう思った。
 しっかりしないと。こんなんじゃ、駄目だ。

 ――午後の授業が間も無く開始する時刻。
 体育館へ向かう渡り廊下を歩いていると、女子生徒三人の話し声が耳に入ってきた。
「ねぇ、聞いた? また幽霊出たらしいよ!」
「うわ、また? 前もあったよね? どこで?」
「それがさ、みんな言ってる事がバラバラみたいで。男子トイレって人もいれば音楽室って子もいて。他に屋上とか、美術準備室とか」
「えー!? 何それ、どこにでもいるの」
「ヤダよー、お化けまみれってことじゃん?」
 楽しそうに会話しているところ、俺は会話を横切る形で勢いのまま割って入る。
 どうしても『屋上』というワードが聴き捨てならなかったからだ。
「すまない。その話、詳しく聞かせてくれ。ちなみに誰から聞いたんだ」
「あれ、高谷先生知らないの? 幽霊の話はもう随分前からあるんだよ、この学校。ここ一年くらいはめっきり噂聞かなくなってたけど――そういえば、誰から聞いたんだっけ」
 その女子生徒は、その後もずっと考えていたようだったが、どうも思い出せそうに無い、と首を傾げていた。
「あ~~、だめだ、いくら考えても思い出せない! ごめん、先生」

 その日のうちに、噂について話していた男女の生徒を多く見かけたので、なんとしても詳細を突き止めようと思った。
 だが、全員が噂の出どころが分からない状態。
 これは、生徒たちが言っている『幽霊』の仕業なのだろうか、それとも誰かが遊び半分で意図的に――。

 この高校は、確かに俺がここに来る前から、幽霊が出るという噂が絶えない。
 知らなかった訳ではないが、敢えて表立って話す必要もないと考えていた――。
 俺は、その類は全く信じていない。
 こんなことを言うと「結局そうもっていくのか」と受け取られてしまうかもしれないが……昨日から今朝の出来事を考えると、人間のほうが幽霊なんかより遥かに怖い。と思うのだ。
『安野そら』の顔を思い出すと、はぁ、とため息が出た。

 この日は、情けないことに日中の授業中は気が気ではなかった。
 今、安野という人物は自宅で一体何をしているのだろうか、と。
 このことを母に尋ねるべきか、と。珍しく帰り際に駐車場で通話してみることにした。
 時間は夜の八時過ぎ。夕飯を食べ終えているはず。
「――あ、母さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど――今、時間大丈夫」
「どうしたの。こんな時間に電話だなんて」
「あのさ、ウチの親戚とか知り合いに、高校とか大学生くらいの男の子って……いたっけ」
「女の子なら従姉妹でいるけど、男の子は――確かいないはずよ」
「――そうか」
「どうして? なにかあったの?」
「あ、いや、なんでもない、ありがとう。ところで最近どう、元気してたの?――」

 結局、家族に聞いても分からないまま。
 ひょっとしたら友人の知り合いや兄弟の可能性も捨てきれないと思い、その後に連絡を取ってみたが、やはり『安野そら』という青年について、知る者は誰一人としていなかった。
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