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04 二度目の生と、突然の危機
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レイジがその攻撃を回避出来たのは、ひとえに彼が警戒を怠っていなかったからであろう。未知の場所と、明らかに人間とは違う身体的特徴を持った相手。リリィの言動からはそこまであからさまな敵対の意志を感じなかったが、この短時間で相手を全面的に信用するほど、彼は浅はかでは無かった。
「チッ、勘弁してくれよ!」
舌打ちをしながら後方に飛び退く。漆黒のナイフが外套の裾を浅く切り裂くが、レイジ本人にダメージは無い。
リリィは不意の一撃を躱されたことに悔しそうな顔をしたが驚いた様子はない。そのまま2撃目、3撃目と追撃する。その動きは素人同然で、戦い慣れていないのは一目瞭然であったが、それはレイジも同じことである。
単純な体格でいえばレイジの方が勝っているが、その利点は小さなナイフひとつで無意味になるようなささやかなものだ。
正面から対抗出来ない彼にできるのは、リリィに対して言葉を投げることだけだった。小さいながらも、十分命を奪うに足る刃に戦々恐々としながら、レイジは精一杯の虚勢を張りながらリリィに声をかける。
「交渉も警告も無しに武力行使とは、この世界の奴らはみんなそんなに血の気が多いのか?」
少しでもリリィの冷静さを削ごうと神経を逆撫でるようにレイジは言う。その効果は抜群で、リリィの動きはより大雑把に、直線的になる。
「あなた達がそれをいうの・・・!?」
怒気を隠さないリリィの言葉に、レイジは眉根を寄せる。
「達って・・・おいおい、俺には見えねえ何かでもいんのかよ。心霊現象は勘弁だぜ?」
「っ・・・ふざけないで!」
絶叫と共にまっすぐ突き出されるナイフ。リリィから冷静さが失われたことを確認したレイジは、後方ではなく横に移動してその攻撃を避けリリィの手首を掴む。
「っ!?」
「確か、こんな感じだったか・・・?」
そしてそのまま手首を捻りあげ、リリィの手からナイフを落とす。
(昔読んだ本からのうろ覚えの知識だったが・・・案外上手く行くもんだな。)
レイジは内心冷や汗をかきながらも、表面上は余裕の態度を装う。
「ちったあ落ち着けよ。現状、俺とお前が争う理由があるとはおもえないんだが?」
「あなたに無くても、私には・・・!」
そう言いながらレイジの手を振りほどこうとするが、腕を掴まれ武器も無くした状態ではさすがにレイジの方が優勢であった。
「幸いなことに俺たちは言葉が通じるんだ。話も通じるとありがたいんだがな」
「っ・・・」
どこまでも神経を逆撫でるようなレイジの態度にリリィは鼻じらむが、流石に分が悪いと感じたのか気分の悪そうな顔で嘆息する。
「はぁ・・・わかったから手を離してくれない?」
「話し合いに応じてくれるようで助かるぜ・・・っと」
レイジは足元のナイフを遠くに蹴り飛ばすと、リリィを解放する。
「いたたた・・・。もう、強く握りすぎ・・・」
そう非難がましい目でレイジを見るリリィだが、そもそもナイフで殺そうとしたのは彼女が先である。
とはいえそれを無駄に指摘して気分を悪くさせても何も良いことは無いと思ったレイジは、苦笑しながら謝る。
「すまんすまん。俺も女の子にこんなことするのは初めてで加減がな。」
「初めて、ね。」
レイジの言葉に、少し含みのある様子でリリィが呟いた。
「ん、なんだ?え、俺ってそんなに乱暴なやつに見えんのか?」
「別にそんなことはないけど。・・・見た目なんてなんの参考にもならないし」
嘆息しながらそう言うと、リリィは膝を抱えて座り込む。どこか諦めたようなその態度にレイジは疑問を覚えるが、ひとまず順を追って話を聞いていくことにする。
「さて・・・とりあえずなんでいきなり襲ってきたか理由を聞いていいか?」
レイジあくまで穏やかに、高圧的にならないよう注意してリリィに質問する。
客観的に見て彼は被害者だが、この世界そのものについて余りにも無知であること、更に相手がいきなり攻撃して来た相手であることから可能な限り波風を立てることなく多くの情報を得たかった。
「色々細かい理由はあるけど・・・一言で言えば、あなたが違う世界から来たって言ったから、だよ。」
「ほう。詳しく聞かせてくれるか?」
そう言いながら、レイジは先程管理者と名乗った男の言葉を思い出していた。
ーーー汝にある世界に転生し、そこで五人の人間を倒して貰いたいーーー
別の世界への転生は既に行われた。ならば次に行うのは標的たる「五人の人間」を倒すことである。そして、管理者の男いわく、その人間によって一部の種族は虐げられているということだった。
「今、この世界は酷い有様なの。まあ、私たちからすれば、だけど・・・」
そう前置きし、リリィが言葉を紡ごうとしたその時。
「グォォォォォォオオオオン!!」
地を揺るがすような咆哮と何かを壊したかのような地響きが、禍々しき神殿に響き渡った
「チッ、勘弁してくれよ!」
舌打ちをしながら後方に飛び退く。漆黒のナイフが外套の裾を浅く切り裂くが、レイジ本人にダメージは無い。
リリィは不意の一撃を躱されたことに悔しそうな顔をしたが驚いた様子はない。そのまま2撃目、3撃目と追撃する。その動きは素人同然で、戦い慣れていないのは一目瞭然であったが、それはレイジも同じことである。
単純な体格でいえばレイジの方が勝っているが、その利点は小さなナイフひとつで無意味になるようなささやかなものだ。
正面から対抗出来ない彼にできるのは、リリィに対して言葉を投げることだけだった。小さいながらも、十分命を奪うに足る刃に戦々恐々としながら、レイジは精一杯の虚勢を張りながらリリィに声をかける。
「交渉も警告も無しに武力行使とは、この世界の奴らはみんなそんなに血の気が多いのか?」
少しでもリリィの冷静さを削ごうと神経を逆撫でるようにレイジは言う。その効果は抜群で、リリィの動きはより大雑把に、直線的になる。
「あなた達がそれをいうの・・・!?」
怒気を隠さないリリィの言葉に、レイジは眉根を寄せる。
「達って・・・おいおい、俺には見えねえ何かでもいんのかよ。心霊現象は勘弁だぜ?」
「っ・・・ふざけないで!」
絶叫と共にまっすぐ突き出されるナイフ。リリィから冷静さが失われたことを確認したレイジは、後方ではなく横に移動してその攻撃を避けリリィの手首を掴む。
「っ!?」
「確か、こんな感じだったか・・・?」
そしてそのまま手首を捻りあげ、リリィの手からナイフを落とす。
(昔読んだ本からのうろ覚えの知識だったが・・・案外上手く行くもんだな。)
レイジは内心冷や汗をかきながらも、表面上は余裕の態度を装う。
「ちったあ落ち着けよ。現状、俺とお前が争う理由があるとはおもえないんだが?」
「あなたに無くても、私には・・・!」
そう言いながらレイジの手を振りほどこうとするが、腕を掴まれ武器も無くした状態ではさすがにレイジの方が優勢であった。
「幸いなことに俺たちは言葉が通じるんだ。話も通じるとありがたいんだがな」
「っ・・・」
どこまでも神経を逆撫でるようなレイジの態度にリリィは鼻じらむが、流石に分が悪いと感じたのか気分の悪そうな顔で嘆息する。
「はぁ・・・わかったから手を離してくれない?」
「話し合いに応じてくれるようで助かるぜ・・・っと」
レイジは足元のナイフを遠くに蹴り飛ばすと、リリィを解放する。
「いたたた・・・。もう、強く握りすぎ・・・」
そう非難がましい目でレイジを見るリリィだが、そもそもナイフで殺そうとしたのは彼女が先である。
とはいえそれを無駄に指摘して気分を悪くさせても何も良いことは無いと思ったレイジは、苦笑しながら謝る。
「すまんすまん。俺も女の子にこんなことするのは初めてで加減がな。」
「初めて、ね。」
レイジの言葉に、少し含みのある様子でリリィが呟いた。
「ん、なんだ?え、俺ってそんなに乱暴なやつに見えんのか?」
「別にそんなことはないけど。・・・見た目なんてなんの参考にもならないし」
嘆息しながらそう言うと、リリィは膝を抱えて座り込む。どこか諦めたようなその態度にレイジは疑問を覚えるが、ひとまず順を追って話を聞いていくことにする。
「さて・・・とりあえずなんでいきなり襲ってきたか理由を聞いていいか?」
レイジあくまで穏やかに、高圧的にならないよう注意してリリィに質問する。
客観的に見て彼は被害者だが、この世界そのものについて余りにも無知であること、更に相手がいきなり攻撃して来た相手であることから可能な限り波風を立てることなく多くの情報を得たかった。
「色々細かい理由はあるけど・・・一言で言えば、あなたが違う世界から来たって言ったから、だよ。」
「ほう。詳しく聞かせてくれるか?」
そう言いながら、レイジは先程管理者と名乗った男の言葉を思い出していた。
ーーー汝にある世界に転生し、そこで五人の人間を倒して貰いたいーーー
別の世界への転生は既に行われた。ならば次に行うのは標的たる「五人の人間」を倒すことである。そして、管理者の男いわく、その人間によって一部の種族は虐げられているということだった。
「今、この世界は酷い有様なの。まあ、私たちからすれば、だけど・・・」
そう前置きし、リリィが言葉を紡ごうとしたその時。
「グォォォォォォオオオオン!!」
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