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回想 異形の街
異形の街 22
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バレーナ北部、シルヴァ達から少し離れた地点。
アリアとシャイナ、そしてベン、ランド、テラの3人サテュロス達は、5人でその場所の防衛を担当していた。
他の地点に比べて明らかに人数が少ないが、戦闘力的にはむしろ過剰とも言える。
権能持ちのシャイナを筆頭に、重量級の装備を軽々扱うアリア、そして近接戦闘を得意とし連携にも秀でたサテュロス達。
グレイアント程度の魔獣がいくら群れたところで、言葉通り敵ではない。ただの獲物である。
地上を埋め尽くすグレイアント達。
その大量の魔獣に向かって、アリアは手にした巨大なランスを全力で投擲する。
「はぁっ!!!」
アリアの手から放たれた槍は、轟音と共に凄まじい勢いで飛んでいく。
そして、直線上に存在していた数多のグレイアントをその一投でただの鉱石の残骸へと返す。
更に。
「ふっ!」
アリアが素手のまま手繰り寄せるような動きをすると。
まるで糸で繋がれているかのように経路にいるグレイアントを薙ぎ倒しながら彼女の手元に戻ってくる。
明らかに物理法則を逸脱した動きを見せた槍と、それを扱うアリアにシャイナは目を輝かせる。
「アリア、すごーい!」
「ふふっ、ありがとうございます。これでも、今現在街に残っている唯一の正規兵ですから。
これくらいはできないと。」
謙遜する言葉とは裏腹に、その顔は得意げである。
「ねえねえ、もう1回やってよ!」
「ええ、分かりました。・・・はぁっ!!」
シャイナにねだられ、アリアはまた槍を投擲。
風きり音、と言うには大きすぎる轟音を響かせながら槍は飛んでいき、そしてある程度飛ぶとアリアの元に戻ってくる。
「あははっ、面白いね!それ、どーやってるの?」
楽しそうに問いかけるシャイナに、アリアは柔らかく笑いながら答える。
「タネ明かしをしますと、これは私の技術ではなく、この槍の機能なんですよ。世の中には直接触れることなく物を動かしたりできる魔法なども存在しますが、私はそんな繊細な魔法は使えませんから。」
アリアはそう言って戻ってきた槍を軽く掲げる。
アリアの持つその槍は巨大な馬上槍のような見た目をしている。柄には荘厳な装飾がなされており、槍本体もまた純白が目に美しい美術品のようである。
一見するとそれ以外に特筆する点のない普通の武器だが、よく確認する、あるいは触れることでそれの特殊性に気付くことができる。
その特殊性、それは一言で言えば材質である。
「これは非常に硬度の高い木材を特殊な加工を施して槍の形にしたものなんです。木材の方が鉱石よりも霊力と相性が良いですからね。」
「れーりょくとの相性?」
「ええ。シャイナは、上位元素を用いて作られた道具についてどれだけ知っていますか?」
「うーん・・・すこしだけ?今までアリアとお話するのに使ってた通信石とかは、『魔道具』って言うんだよね?」
「はい、その通りです。通信石のように、使用するのに『魔力』を必要とする道具の事を魔道具と言います。そしてそれ以外にも、それぞれの上位元素ごとに似たような道具が存在するんですよ。」
アリアはまた槍を投げながら説明を続ける。
「まあ、詳しいことはまた今度話すとしますが・・・基本だけ、簡単に。魔力を使うものは『魔道具』。呪力を使うものは『呪物』。法力を使うものは『法器』。そして、霊力を使うものは『霊装』です。そして、私が今使っているこの槍・・・『模造・射貫く神槍』は霊装です。」
またアリアの元に戻ってくる槍。
「この霊装の効果はとても単純です。霊力による強度上昇と、使用者の霊力を記憶し必ず手元に戻ってくる。この2つですね。」
「へぇー・・・自分でちゃんと戻ってくるなんて、この子はお利口さんなんだね!」
「お利口さん・・・ふふっ、そうですね。」
戦場とは思えないほど和やかに会話する2人。
アリアの投擲は、その特性上直線の敵しか倒せない。そのため、少数ではあるが討ち漏らしは必ず発生する。
それに対処するのが、今なお前線で戦っている3人のサテュロス達である。
「おい、ランド、テラ!前線をあげるからサポートしやがれ!」
「馬鹿者!人数を考えられんのか貴様は!」
「うるせえ!ここでお嬢に良いところを見せれば俺達も正規兵になれるかもしれねぇだろうが!」
「それで功を焦って敵に前線を抜かれでもしてみろ!正規兵どころの話ではないぞ!」
言い合うベンとランド。
叫びあいながらも手はとめず、押し寄せるグレイアントを片っ端から叩きのめす。そんな2人の言い争いに苦笑いしながら、テラはその大きな体を活かして巨大な弓を軽々と扱い、ベン達が討ち漏らしたグレイアントを恐ろしいまでの正確さで撃ち抜いていた。
サテュロスは霊力に高い適性を持ち、更にわずかに魔力と呪力に適性を持つ。
そのため肉体強化や自己治癒促進などの、近接戦闘に特化した霊術を得意とする。しかし逆に逆に攻撃魔法や妨害呪法などは使えはするが苦手である。
近距離での白兵戦においては無類の強さを発揮するが、反面広範囲の殲滅戦は不得意。
それがサテュロスに対する一般的な見解である。
しかし。
彼らは魔境バレーナの守護を担う、名高き『千の蹄』の戦士。
戦場において、得手不得手などなんの言い訳にもならないことをよく知っている。
個々人の資質や努力でどうにもならないものならば、武装や連携で対処すれば良い。
その考えの元、千の蹄ではあらゆる状況に対応する為の連携訓練を最も重視している。
また、キュクロプスの鍛冶職人達と契約を結び、様々な効果を持つ『霊装』を数多く確保している。
現在、3人のサテュロスが使っている武装もまた霊装である。
ベンが使用する長剣『劣化・揺るぎなき剛剣』。効果は強度上昇と霊力を消費した衝撃波の発生。
ランドが使用する双剣『激流乱舞』。効果は連続で使用を続けるほど使用者の速度の上がる高速化。
テラが使用する長弓『風哭』。
効果は霊力がある限り尽きることの無い矢の創造。
これらの霊装はアリアの使用する物と異なり、量産の為に金属で作られているため霊装としての『格』は落ち効果も劣る。
しかし、何よりも数が多く、使用者も優秀な戦士であるため最終的な戦闘能力は非常に高い。
卓越した連携で敵を屠り続ける3人。
それを見て、アリアは小さく呟く。
「やはり3人でなら、正規兵にも劣らないな。もっとも、個々の能力はまだまだだが。」
言いながらアリアは、グレイアントと接敵した時の事を思い出す。
先程どこかから正体不明の『衝撃』が伝わってきたと感じた瞬間、地面から大量のグレイアントが飛び出して来た時。
アリアは多少面食らったが、グレイアントが地中から出てくることは十分想定の範囲内だったため即座に対応出来た。
シャイナは持ち前の身体能力で、グレイアントが飛び出して来る前にその存在に気づいていた。ただし周りが気づいていないとは思っていなかったため、敵の接近を誰にも伝えてはいなかった。
そして、近くにいた3人のサテュロスは。
グレイアントの出現から体勢を整えて攻撃を開始するまで10数秒の時を要した。
言うまでもなく、戦場において無防備な10秒間は致命的である。
更に言えば、千の蹄の兵達には地下からの出現の可能性も知らされていた。
その上であの対応速度は、アリアに言わせれば落第点でしか無かった。
「・・・まぁ、良い訓練か。突発事象に対する課題が見えたのは収穫だな。」
そう小さく呟き、アリアは3人から視線を外す。
そして、今度はシャイナに目を向ける。
「ところでシャイナ。今更と言えば今更なのですが・・・今、ここで戦っていることをご両親はご存知なのですか?」
「え?うーん、おかーさんには多分バレてるけど・・・おとーさんは知らないとおもうよ?」
あっけらかんとそう言うシャイナ。バレてる、という言葉選びに、多少なりとも怒られるようなことをしている自覚が現れていた。
「そ、それは・・・大丈夫なのですか?」
「へーきだよ!おかーさんっておとーさんの前ではすっごい静かだからね!」
「な、なるほど・・・?」
要するに猫を被っているのかとアリアは心の中で納得する。
微妙な顔をするアリアなど気にもとめず、シャイナは準備運動のように軽くその場で体を動かす。
「よーっし、わたしもそろそろやっちゃうよ!」
楽しそうにそう言うと、シャイナは助走もなしに一瞬で天高く飛び上がる。
そして数秒間滞空しながら、下を確認し・・・
「そこだーっ!」
最もグレイアントの密集する場所に、超高速で飛び降りた。
響き渡る轟音。舞い上がる砂埃。
砂が風に流され、アリアの視界が回復した時。
そこには、広い範囲で深く陥没した地面と、原型を留めないほどに潰れたグレイアント達の中心で楽しそうに笑うシャイナの姿があった。
「あははははっ!きもちいー!」
「・・・味方としては、これ以上ないほど頼もしいですね。地図を作り直すことにならないかだけが心配ですが。」
霊力も魔力も使用しない、純粋な降下攻撃。
それであれほどの威力となれば、シャイナが霊力による強化をした状態で本気で戦えば、冗談抜きで地形が変わりかねない。
アリアはなぜリクシィが娘に戦闘を禁じていたかを理解した。
そして、自分がしっかり彼女を律さなければならないと密かに心の中で思う。
「・・・この分なら、この辺りはすぐに片付くか。他の地点にも、十分に人数が配置されているはずだが・・・。」
目の前の地面に開いた穴からは今も変わらず大量のグレイアントが這い出してきている。かなりの数を倒しているはずだが、その勢いは衰える予兆もない。
「訓練兵の最初の実戦には、少しばかり難易度が高すぎる、か。」
アリアはそう判断すると、戦闘のスタンスを変更することにした。
投擲攻撃をやめ、槍を胸の前で両手で持つ。
そして目を閉じ、一瞬の集中の後。
アリアの長髪が、僅かに揺れた。
「ふぅ・・・」
息を吐きながら開いたアリアの目は、僅かに青く発光している。
外見からは分かりにくいが、霊力による身体強化である。
アリアは光るその眼で戦場を確認する。そして、群れるグレイアント達に狙いを定めた。
「はぁっ!!」
気合い一閃。
アリアは強化された身体能力をもって、高速でグレイアントに突進した。
槍に触れた者はもちろん、その余波だけでかなりの範囲のグレイアントが吹き飛ばされていく。
それだけでは終わらない。アリアは止まることなく、どんどん加速を続ける。
角度をつけ大きく旋回しながら、進路上の敵を全てなぎ倒す。
恐ろしいまでの速さで敵を処理するアリア。
その凄まじさに、シャイナも思わず攻撃の手を止めて見入ってしまった。
「おぉ・・・!あんなこともできるんだ!よーし、わたしも負けてられないかな!」
アリアの勢いに奮起され、シャイナの攻撃も苛烈さを増す。
その場からグレイアントが1匹もいなくなるまで、大して長い時間はかからなかった。
アリアとシャイナ、そしてベン、ランド、テラの3人サテュロス達は、5人でその場所の防衛を担当していた。
他の地点に比べて明らかに人数が少ないが、戦闘力的にはむしろ過剰とも言える。
権能持ちのシャイナを筆頭に、重量級の装備を軽々扱うアリア、そして近接戦闘を得意とし連携にも秀でたサテュロス達。
グレイアント程度の魔獣がいくら群れたところで、言葉通り敵ではない。ただの獲物である。
地上を埋め尽くすグレイアント達。
その大量の魔獣に向かって、アリアは手にした巨大なランスを全力で投擲する。
「はぁっ!!!」
アリアの手から放たれた槍は、轟音と共に凄まじい勢いで飛んでいく。
そして、直線上に存在していた数多のグレイアントをその一投でただの鉱石の残骸へと返す。
更に。
「ふっ!」
アリアが素手のまま手繰り寄せるような動きをすると。
まるで糸で繋がれているかのように経路にいるグレイアントを薙ぎ倒しながら彼女の手元に戻ってくる。
明らかに物理法則を逸脱した動きを見せた槍と、それを扱うアリアにシャイナは目を輝かせる。
「アリア、すごーい!」
「ふふっ、ありがとうございます。これでも、今現在街に残っている唯一の正規兵ですから。
これくらいはできないと。」
謙遜する言葉とは裏腹に、その顔は得意げである。
「ねえねえ、もう1回やってよ!」
「ええ、分かりました。・・・はぁっ!!」
シャイナにねだられ、アリアはまた槍を投擲。
風きり音、と言うには大きすぎる轟音を響かせながら槍は飛んでいき、そしてある程度飛ぶとアリアの元に戻ってくる。
「あははっ、面白いね!それ、どーやってるの?」
楽しそうに問いかけるシャイナに、アリアは柔らかく笑いながら答える。
「タネ明かしをしますと、これは私の技術ではなく、この槍の機能なんですよ。世の中には直接触れることなく物を動かしたりできる魔法なども存在しますが、私はそんな繊細な魔法は使えませんから。」
アリアはそう言って戻ってきた槍を軽く掲げる。
アリアの持つその槍は巨大な馬上槍のような見た目をしている。柄には荘厳な装飾がなされており、槍本体もまた純白が目に美しい美術品のようである。
一見するとそれ以外に特筆する点のない普通の武器だが、よく確認する、あるいは触れることでそれの特殊性に気付くことができる。
その特殊性、それは一言で言えば材質である。
「これは非常に硬度の高い木材を特殊な加工を施して槍の形にしたものなんです。木材の方が鉱石よりも霊力と相性が良いですからね。」
「れーりょくとの相性?」
「ええ。シャイナは、上位元素を用いて作られた道具についてどれだけ知っていますか?」
「うーん・・・すこしだけ?今までアリアとお話するのに使ってた通信石とかは、『魔道具』って言うんだよね?」
「はい、その通りです。通信石のように、使用するのに『魔力』を必要とする道具の事を魔道具と言います。そしてそれ以外にも、それぞれの上位元素ごとに似たような道具が存在するんですよ。」
アリアはまた槍を投げながら説明を続ける。
「まあ、詳しいことはまた今度話すとしますが・・・基本だけ、簡単に。魔力を使うものは『魔道具』。呪力を使うものは『呪物』。法力を使うものは『法器』。そして、霊力を使うものは『霊装』です。そして、私が今使っているこの槍・・・『模造・射貫く神槍』は霊装です。」
またアリアの元に戻ってくる槍。
「この霊装の効果はとても単純です。霊力による強度上昇と、使用者の霊力を記憶し必ず手元に戻ってくる。この2つですね。」
「へぇー・・・自分でちゃんと戻ってくるなんて、この子はお利口さんなんだね!」
「お利口さん・・・ふふっ、そうですね。」
戦場とは思えないほど和やかに会話する2人。
アリアの投擲は、その特性上直線の敵しか倒せない。そのため、少数ではあるが討ち漏らしは必ず発生する。
それに対処するのが、今なお前線で戦っている3人のサテュロス達である。
「おい、ランド、テラ!前線をあげるからサポートしやがれ!」
「馬鹿者!人数を考えられんのか貴様は!」
「うるせえ!ここでお嬢に良いところを見せれば俺達も正規兵になれるかもしれねぇだろうが!」
「それで功を焦って敵に前線を抜かれでもしてみろ!正規兵どころの話ではないぞ!」
言い合うベンとランド。
叫びあいながらも手はとめず、押し寄せるグレイアントを片っ端から叩きのめす。そんな2人の言い争いに苦笑いしながら、テラはその大きな体を活かして巨大な弓を軽々と扱い、ベン達が討ち漏らしたグレイアントを恐ろしいまでの正確さで撃ち抜いていた。
サテュロスは霊力に高い適性を持ち、更にわずかに魔力と呪力に適性を持つ。
そのため肉体強化や自己治癒促進などの、近接戦闘に特化した霊術を得意とする。しかし逆に逆に攻撃魔法や妨害呪法などは使えはするが苦手である。
近距離での白兵戦においては無類の強さを発揮するが、反面広範囲の殲滅戦は不得意。
それがサテュロスに対する一般的な見解である。
しかし。
彼らは魔境バレーナの守護を担う、名高き『千の蹄』の戦士。
戦場において、得手不得手などなんの言い訳にもならないことをよく知っている。
個々人の資質や努力でどうにもならないものならば、武装や連携で対処すれば良い。
その考えの元、千の蹄ではあらゆる状況に対応する為の連携訓練を最も重視している。
また、キュクロプスの鍛冶職人達と契約を結び、様々な効果を持つ『霊装』を数多く確保している。
現在、3人のサテュロスが使っている武装もまた霊装である。
ベンが使用する長剣『劣化・揺るぎなき剛剣』。効果は強度上昇と霊力を消費した衝撃波の発生。
ランドが使用する双剣『激流乱舞』。効果は連続で使用を続けるほど使用者の速度の上がる高速化。
テラが使用する長弓『風哭』。
効果は霊力がある限り尽きることの無い矢の創造。
これらの霊装はアリアの使用する物と異なり、量産の為に金属で作られているため霊装としての『格』は落ち効果も劣る。
しかし、何よりも数が多く、使用者も優秀な戦士であるため最終的な戦闘能力は非常に高い。
卓越した連携で敵を屠り続ける3人。
それを見て、アリアは小さく呟く。
「やはり3人でなら、正規兵にも劣らないな。もっとも、個々の能力はまだまだだが。」
言いながらアリアは、グレイアントと接敵した時の事を思い出す。
先程どこかから正体不明の『衝撃』が伝わってきたと感じた瞬間、地面から大量のグレイアントが飛び出して来た時。
アリアは多少面食らったが、グレイアントが地中から出てくることは十分想定の範囲内だったため即座に対応出来た。
シャイナは持ち前の身体能力で、グレイアントが飛び出して来る前にその存在に気づいていた。ただし周りが気づいていないとは思っていなかったため、敵の接近を誰にも伝えてはいなかった。
そして、近くにいた3人のサテュロスは。
グレイアントの出現から体勢を整えて攻撃を開始するまで10数秒の時を要した。
言うまでもなく、戦場において無防備な10秒間は致命的である。
更に言えば、千の蹄の兵達には地下からの出現の可能性も知らされていた。
その上であの対応速度は、アリアに言わせれば落第点でしか無かった。
「・・・まぁ、良い訓練か。突発事象に対する課題が見えたのは収穫だな。」
そう小さく呟き、アリアは3人から視線を外す。
そして、今度はシャイナに目を向ける。
「ところでシャイナ。今更と言えば今更なのですが・・・今、ここで戦っていることをご両親はご存知なのですか?」
「え?うーん、おかーさんには多分バレてるけど・・・おとーさんは知らないとおもうよ?」
あっけらかんとそう言うシャイナ。バレてる、という言葉選びに、多少なりとも怒られるようなことをしている自覚が現れていた。
「そ、それは・・・大丈夫なのですか?」
「へーきだよ!おかーさんっておとーさんの前ではすっごい静かだからね!」
「な、なるほど・・・?」
要するに猫を被っているのかとアリアは心の中で納得する。
微妙な顔をするアリアなど気にもとめず、シャイナは準備運動のように軽くその場で体を動かす。
「よーっし、わたしもそろそろやっちゃうよ!」
楽しそうにそう言うと、シャイナは助走もなしに一瞬で天高く飛び上がる。
そして数秒間滞空しながら、下を確認し・・・
「そこだーっ!」
最もグレイアントの密集する場所に、超高速で飛び降りた。
響き渡る轟音。舞い上がる砂埃。
砂が風に流され、アリアの視界が回復した時。
そこには、広い範囲で深く陥没した地面と、原型を留めないほどに潰れたグレイアント達の中心で楽しそうに笑うシャイナの姿があった。
「あははははっ!きもちいー!」
「・・・味方としては、これ以上ないほど頼もしいですね。地図を作り直すことにならないかだけが心配ですが。」
霊力も魔力も使用しない、純粋な降下攻撃。
それであれほどの威力となれば、シャイナが霊力による強化をした状態で本気で戦えば、冗談抜きで地形が変わりかねない。
アリアはなぜリクシィが娘に戦闘を禁じていたかを理解した。
そして、自分がしっかり彼女を律さなければならないと密かに心の中で思う。
「・・・この分なら、この辺りはすぐに片付くか。他の地点にも、十分に人数が配置されているはずだが・・・。」
目の前の地面に開いた穴からは今も変わらず大量のグレイアントが這い出してきている。かなりの数を倒しているはずだが、その勢いは衰える予兆もない。
「訓練兵の最初の実戦には、少しばかり難易度が高すぎる、か。」
アリアはそう判断すると、戦闘のスタンスを変更することにした。
投擲攻撃をやめ、槍を胸の前で両手で持つ。
そして目を閉じ、一瞬の集中の後。
アリアの長髪が、僅かに揺れた。
「ふぅ・・・」
息を吐きながら開いたアリアの目は、僅かに青く発光している。
外見からは分かりにくいが、霊力による身体強化である。
アリアは光るその眼で戦場を確認する。そして、群れるグレイアント達に狙いを定めた。
「はぁっ!!」
気合い一閃。
アリアは強化された身体能力をもって、高速でグレイアントに突進した。
槍に触れた者はもちろん、その余波だけでかなりの範囲のグレイアントが吹き飛ばされていく。
それだけでは終わらない。アリアは止まることなく、どんどん加速を続ける。
角度をつけ大きく旋回しながら、進路上の敵を全てなぎ倒す。
恐ろしいまでの速さで敵を処理するアリア。
その凄まじさに、シャイナも思わず攻撃の手を止めて見入ってしまった。
「おぉ・・・!あんなこともできるんだ!よーし、わたしも負けてられないかな!」
アリアの勢いに奮起され、シャイナの攻撃も苛烈さを増す。
その場からグレイアントが1匹もいなくなるまで、大して長い時間はかからなかった。
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