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回想 異形の街
異形の街 10
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戦士団『千の蹄』。
過去には傭兵団として名を馳せた時代もあったが、現在は顔役であるデュラスの意向によりバレーナの防衛と魔獣退治を主任務とする戦士団となっている。
構成員は多く、直接戦闘を担当する半羊種と物資運搬及び遠距離攻撃による支援を担当する人馬種が大部分を占めている。
「・・・後は医療担当としての人蛇種と、偵察担当としての人鳥種が数人居て、事務担当に戦闘が苦手な人達が少しいる感じらしいね。」
『それも噂からの推測か?』
「いやここにくる途中で貰った広告に載ってた。」
『広告をだしておるのか・・・』
「ちなみにそれによると、遠方への物資運搬は人馬種自身が行うけど、近場だったら普通に馬を使うんだってさ。」
『果てしなくどうでもいい情報じゃな』
アルスとシルヴァは雑談をしながら街を歩く。
既に日は高く登り、街の人々も活動を始めている。
「そういえば、バレーナって昔から魔獣が多かったの?」
『唐突じゃな。・・・まあ、少なくとも我が肉体を持っていた頃には既に強力な魔獣が彷徨いてはおったな。それらの素材を求めていた故に、この街で研究をしていたわけじゃし。』
「へぇ、やっぱりそうなんだ。」
シルヴァはそう言いながら辺りを見渡す。
バレーナに存在する店の大半は、魔獣素材を加工して販売する個人商店である。
「まあ、バレーナの産業は魔獣素材に依存している感じが強いし・・・この環境は短い期間で作られるものじゃないか。」
『うむ、そうじゃな。そもそも、こんな資源もろくにない魔境に街が出来たのは、魔獣素材を求める者や修行に来るものがいつの間にか住み着いたからじゃ。つまり、正確に言えばバレーナ近辺に危険な魔獣が多いのではなく、危険な魔獣に対する拠点として生まれたのがバレーナというわけじゃな。』
「おお、そういうことは覚えているんだ。」
『侮るな。ある程度の蓋然性や必然性がある知識まで忘れておったら知の探求者など名乗れんじゃろうが。』
憮然とした表情・・・かは定かでないが、その雰囲気を漂わせてアルスは言う。
「あはは、ごめんって。」
『まったく・・・』
「さて、それはそれとして・・・広告に載ってる地図によると、もう本拠地はすぐそこみたいだよ。」
『言われずともわかるわ。これ程暑苦しい声が響いておればな。』
「あはは、たしかに。まあ、訓練場も同じ場所にあるみたいだからね。そりゃあうるさくもなるでしょ。」
二人の言葉通り、歩いている道の先から男達の野太い声が聞こえてくる。
周囲に民家が無いからか、怒号といっても良いほど遠慮のない叫び声である。
「多分、今訓練場にいるのはまだ主力じゃない人達だね。訓練兵になるだけで衣食住が保証されるから、特に職が決まってない半羊種の若者はとりあえず戦士団に入ることが多いらしいよ。」
『また微妙に役に立たなそうな情報じゃな。』
「まあ、僕たち半羊種でもないし職が無いわけでもないしねぇ。」
グダグダと中身のない会話をしながら、二人は道を進んでいく。
そして、特に何事もなく『千の蹄』の本拠地にたどり着いた。
千の蹄の本拠地は、石材で建てられた無骨な建物であった。
正確には、門と塀に囲まれたある程度の広さの敷地の中に、宿舎や武器庫などのいくつかの建物が立ち並んでいる。
シルヴァは門に近づくと、門番をしている半羊種に声をかける。
「こんにちはー。あの、昨日マンティコアの素材を買い取らせて頂いたシルヴァ・フォーリスですけど・・・デュラスさんいらっしゃいますかね?」
「ああ、あんたがシルヴァさんか。話は聞いてるぜ。ちょっと待っててくれよ。」
門番はシルヴァの名前を聞くと、すぐに建物の中に入っていった。
誰もいなくなった門の前で、アルスは呆れたようにため息を零す。
『・・・防犯意識ガバガバ過ぎんか?』
「いや、僕もちょっと思ったけど。なんの身元確認もされなかったしね。」
『よほど自分たちの力に自信があるのか、バレーナの治安の良さを信じておるのか・・・』
「どっちもじゃない?『千の蹄』は自警団的な役割も持ってるらしいから、ここで暴れる人なんていないってことでしょ。」
『なるほどのぅ。いつか足元を掬われそうじゃな。』
「厳しいこというなぁ。」
不吉なことを言うアルスに、シルヴァは苦笑で返す。
そのまましばらく待っていると、先程の門番が一人の人馬種の男性を連れて戻って来た。
「お待ちしておりました、シルヴァさん。」
「あ、デュラスさんこんにちは。昨日は迅速な素材の納品ありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそお早いお支払いで助かりました。それで、本日はどういったご要件でしょう?」
「例の鉱石とかの納品についてご相談をと思いまして。直接渡すには量が多いですから。」
シルヴァはそう言いながら、昨日受け取った紙を取り出す。
そこには、新しくシルヴァの名義の判が押されていた。
「とりあえずそれらの素材は今僕の転移倉庫に保管してありますが、この紙を担当の方に見せて頂ければ受け取れるように手続きをしておきました。」
「あ、ああ・・・そちらもこれ程早く対応して頂けるとは。ありがとうございます。ですが申し訳ありません、まだそれらの素材の代金が用意できていないのです。」
「え・・・代金、ですか?」
シルヴァはデュラスの言葉に、予想外という顔をする。
「その、マンティコアの代金を安くして貰う為にその素材を納品するって話でしたよね?僕としては、お金の代わりに素材で現物支払いだと思ってたんですけど・・・」
「なっ・・・と、とんでもありません!この量のアダマンタイトとミスリルだけでもマンティコアの素材とは比べ物にならないほど高額ですし、それ以外の雑多な植物素材も全て揃えようと思ったら輸送費も含めてとても高額になります。」
「いやまあ、そう言われればそうですけど。」
シルヴァのその態度に、むしろデュラスの方が焦る。
「流石にこれほどの素材をマンティコアと交換したということになると、むしろ私共の方が信用を失いかねません。」
「あー・・・そう言われればそうですね。すいません、いまいち長期的な商談の経験が少ないので、そういう機微に疎くて。」
シルヴァはやっと理解ができたという表情を浮かべて、デュラスに謝る。
「いえ、こちらが先に説明しておくべきでした。そもそも、どれだけお支払いするかも先に伝えていませんでしたし・・・」
「いやー、それはどちらかと言うと僕の責任ですよ。有償の取引なら、僕が納品の前に見積もりを出すのが道理ですし。・・・まあ、今更言ってもしょうがないですし、今回はもう気にしないことにしましょう。とりあえず納品だけは済ませておきたいので、この紙は渡しておきますね。今回の取引は組織対組織ってわけでも無いのでそんなに厳しくしなくてもいいと思いますし。」
「ええ、わかりました。ありがとうございます。」
「代金はまぁ・・・今度また今の相場とか調べて請求書を作ってきますよ。ああ、もちろん素材を無理やり渡してから法外な値段を請求したりはしないので安心してください。」
シルヴァはそこまで話すと、一度咳払いをする。
「ところで・・・ここに来るまでに、街で気になる噂を聞いたのですが。」
「噂、ですか。それは、例の『化け物』と呼ばれている魔獣についての物ですね?」
「はい。今回の鉱物とかに関しても、それに対抗する武装の為の材料なのかなって。」
シルヴァのその言葉に、デュラスは頷く。
「ええ、お察しの通りです。」
「やっぱりそうでしたか。昨日の戦闘を拝見した限りでは、武装が不足しているようには見えませんでしたからね。ていうかそもそも、アダマンタイトみたいな超高硬度の鉱物から作る装備なんて普段使いする物じゃないですし。」
シルヴァの言葉に、アルスが首を傾げる。
『そうなのか?良いものなのであれば、日常的に使っても良いと思うが。』
「アダマンタイト製の装備は優秀だけど、整備がすっごい大変なんだよ。それに、硬すぎて衝撃を全然吸収しないから色々気を使わないと使いこなせないし。」
『なるほど・・・ここぞという時に着るオシャレ服という感じか。』
「だいたいあってるけどその認識はどうなんだろう・・・」
二人が下らないやり取りをしていると、デュラスが恐る恐るといった様子で口を開く。
「ところで、シルヴァさん。そちらの方は・・・?」
「あー・・・この街で知り合った友人です。説明が難しいので本人に自己紹介してもらいましょうか。」
シルヴァはそう言ってアルスに促す。
『なんというか、色々雑じゃのう。・・・まあよい、自己紹介程度ならしてやろう。』
「うわ、すっごい偉そう。」
『茶化すでないわ。・・・こほん、我は最も真理に近き錬金術師、マグナリア・グレイス・スクラヴァインである。アルスと呼んで良いぞ。』
アルスの尊大な自己紹介に、デュラスは少し引き気味であったが、ふと何かに気付いたようにハッとした表情を浮かべると、アルスに詰め寄る。
「今、錬金術師とおっしゃいましたよね?それに、確かシルヴァさんが滞在している場所は、例の幽霊屋敷だったはず・・・」
『な、なんじゃいきなり。』
「まさかあなたは、あの屋敷に取り憑いているという幽霊種の方なのですか?」
『幽霊種ではないわ!肉体を捨てただけじゃ。』
「ということは、やはりあの錬金術師なのですね。」
デュラスはそういうと、しばらく黙りこむ。
『お、おい、どうしたのじゃ?そんな気になる言い方をするでない。』
「ああ、いえ失礼しました。・・・それで、アルスさん。突然ですが、ご相談したいことがあるのです。」
『お、おう。とりあえず、言ってみるが良い。』
「では、単刀直入に。今この街を脅かしている『化け物』。識別名、【ヌエ】の討伐にご協力頂きたいのです。」
『・・・・・・・・・・・・ヌエ、じゃと?』
デュラスの言葉に、アルスは信じられないという口調で聞き返した。
「はい、【ヌエ】で間違いありません。・・・やはり、ご存知なのですね。」
『バカを言うでないわ。アレが、今なお生きている訳もないし、そもそも人を襲うなど有り得ぬ。』
「そこも含めて、事情はお話します。・・・シルヴァさん、アルスさん、申し訳ありませんが少しお付き合い頂けませんか?」
急に雰囲気を変えたデュラスに、シルヴァは強く好奇心を刺激される。
「僕はもちろん構いません。アルスも良いよね?」
『・・・まあ、この状況で無視して帰るのは無理じゃな。』
「話は決まりだね。」
二人の言葉に、デュラスは頭を下げる。
「ありがとうございます。では、中でお話ししましょう。」
そして、シルヴァ達はデュラスのあとについて『千の蹄』の本拠地に入っていった。
過去には傭兵団として名を馳せた時代もあったが、現在は顔役であるデュラスの意向によりバレーナの防衛と魔獣退治を主任務とする戦士団となっている。
構成員は多く、直接戦闘を担当する半羊種と物資運搬及び遠距離攻撃による支援を担当する人馬種が大部分を占めている。
「・・・後は医療担当としての人蛇種と、偵察担当としての人鳥種が数人居て、事務担当に戦闘が苦手な人達が少しいる感じらしいね。」
『それも噂からの推測か?』
「いやここにくる途中で貰った広告に載ってた。」
『広告をだしておるのか・・・』
「ちなみにそれによると、遠方への物資運搬は人馬種自身が行うけど、近場だったら普通に馬を使うんだってさ。」
『果てしなくどうでもいい情報じゃな』
アルスとシルヴァは雑談をしながら街を歩く。
既に日は高く登り、街の人々も活動を始めている。
「そういえば、バレーナって昔から魔獣が多かったの?」
『唐突じゃな。・・・まあ、少なくとも我が肉体を持っていた頃には既に強力な魔獣が彷徨いてはおったな。それらの素材を求めていた故に、この街で研究をしていたわけじゃし。』
「へぇ、やっぱりそうなんだ。」
シルヴァはそう言いながら辺りを見渡す。
バレーナに存在する店の大半は、魔獣素材を加工して販売する個人商店である。
「まあ、バレーナの産業は魔獣素材に依存している感じが強いし・・・この環境は短い期間で作られるものじゃないか。」
『うむ、そうじゃな。そもそも、こんな資源もろくにない魔境に街が出来たのは、魔獣素材を求める者や修行に来るものがいつの間にか住み着いたからじゃ。つまり、正確に言えばバレーナ近辺に危険な魔獣が多いのではなく、危険な魔獣に対する拠点として生まれたのがバレーナというわけじゃな。』
「おお、そういうことは覚えているんだ。」
『侮るな。ある程度の蓋然性や必然性がある知識まで忘れておったら知の探求者など名乗れんじゃろうが。』
憮然とした表情・・・かは定かでないが、その雰囲気を漂わせてアルスは言う。
「あはは、ごめんって。」
『まったく・・・』
「さて、それはそれとして・・・広告に載ってる地図によると、もう本拠地はすぐそこみたいだよ。」
『言われずともわかるわ。これ程暑苦しい声が響いておればな。』
「あはは、たしかに。まあ、訓練場も同じ場所にあるみたいだからね。そりゃあうるさくもなるでしょ。」
二人の言葉通り、歩いている道の先から男達の野太い声が聞こえてくる。
周囲に民家が無いからか、怒号といっても良いほど遠慮のない叫び声である。
「多分、今訓練場にいるのはまだ主力じゃない人達だね。訓練兵になるだけで衣食住が保証されるから、特に職が決まってない半羊種の若者はとりあえず戦士団に入ることが多いらしいよ。」
『また微妙に役に立たなそうな情報じゃな。』
「まあ、僕たち半羊種でもないし職が無いわけでもないしねぇ。」
グダグダと中身のない会話をしながら、二人は道を進んでいく。
そして、特に何事もなく『千の蹄』の本拠地にたどり着いた。
千の蹄の本拠地は、石材で建てられた無骨な建物であった。
正確には、門と塀に囲まれたある程度の広さの敷地の中に、宿舎や武器庫などのいくつかの建物が立ち並んでいる。
シルヴァは門に近づくと、門番をしている半羊種に声をかける。
「こんにちはー。あの、昨日マンティコアの素材を買い取らせて頂いたシルヴァ・フォーリスですけど・・・デュラスさんいらっしゃいますかね?」
「ああ、あんたがシルヴァさんか。話は聞いてるぜ。ちょっと待っててくれよ。」
門番はシルヴァの名前を聞くと、すぐに建物の中に入っていった。
誰もいなくなった門の前で、アルスは呆れたようにため息を零す。
『・・・防犯意識ガバガバ過ぎんか?』
「いや、僕もちょっと思ったけど。なんの身元確認もされなかったしね。」
『よほど自分たちの力に自信があるのか、バレーナの治安の良さを信じておるのか・・・』
「どっちもじゃない?『千の蹄』は自警団的な役割も持ってるらしいから、ここで暴れる人なんていないってことでしょ。」
『なるほどのぅ。いつか足元を掬われそうじゃな。』
「厳しいこというなぁ。」
不吉なことを言うアルスに、シルヴァは苦笑で返す。
そのまましばらく待っていると、先程の門番が一人の人馬種の男性を連れて戻って来た。
「お待ちしておりました、シルヴァさん。」
「あ、デュラスさんこんにちは。昨日は迅速な素材の納品ありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそお早いお支払いで助かりました。それで、本日はどういったご要件でしょう?」
「例の鉱石とかの納品についてご相談をと思いまして。直接渡すには量が多いですから。」
シルヴァはそう言いながら、昨日受け取った紙を取り出す。
そこには、新しくシルヴァの名義の判が押されていた。
「とりあえずそれらの素材は今僕の転移倉庫に保管してありますが、この紙を担当の方に見せて頂ければ受け取れるように手続きをしておきました。」
「あ、ああ・・・そちらもこれ程早く対応して頂けるとは。ありがとうございます。ですが申し訳ありません、まだそれらの素材の代金が用意できていないのです。」
「え・・・代金、ですか?」
シルヴァはデュラスの言葉に、予想外という顔をする。
「その、マンティコアの代金を安くして貰う為にその素材を納品するって話でしたよね?僕としては、お金の代わりに素材で現物支払いだと思ってたんですけど・・・」
「なっ・・・と、とんでもありません!この量のアダマンタイトとミスリルだけでもマンティコアの素材とは比べ物にならないほど高額ですし、それ以外の雑多な植物素材も全て揃えようと思ったら輸送費も含めてとても高額になります。」
「いやまあ、そう言われればそうですけど。」
シルヴァのその態度に、むしろデュラスの方が焦る。
「流石にこれほどの素材をマンティコアと交換したということになると、むしろ私共の方が信用を失いかねません。」
「あー・・・そう言われればそうですね。すいません、いまいち長期的な商談の経験が少ないので、そういう機微に疎くて。」
シルヴァはやっと理解ができたという表情を浮かべて、デュラスに謝る。
「いえ、こちらが先に説明しておくべきでした。そもそも、どれだけお支払いするかも先に伝えていませんでしたし・・・」
「いやー、それはどちらかと言うと僕の責任ですよ。有償の取引なら、僕が納品の前に見積もりを出すのが道理ですし。・・・まあ、今更言ってもしょうがないですし、今回はもう気にしないことにしましょう。とりあえず納品だけは済ませておきたいので、この紙は渡しておきますね。今回の取引は組織対組織ってわけでも無いのでそんなに厳しくしなくてもいいと思いますし。」
「ええ、わかりました。ありがとうございます。」
「代金はまぁ・・・今度また今の相場とか調べて請求書を作ってきますよ。ああ、もちろん素材を無理やり渡してから法外な値段を請求したりはしないので安心してください。」
シルヴァはそこまで話すと、一度咳払いをする。
「ところで・・・ここに来るまでに、街で気になる噂を聞いたのですが。」
「噂、ですか。それは、例の『化け物』と呼ばれている魔獣についての物ですね?」
「はい。今回の鉱物とかに関しても、それに対抗する武装の為の材料なのかなって。」
シルヴァのその言葉に、デュラスは頷く。
「ええ、お察しの通りです。」
「やっぱりそうでしたか。昨日の戦闘を拝見した限りでは、武装が不足しているようには見えませんでしたからね。ていうかそもそも、アダマンタイトみたいな超高硬度の鉱物から作る装備なんて普段使いする物じゃないですし。」
シルヴァの言葉に、アルスが首を傾げる。
『そうなのか?良いものなのであれば、日常的に使っても良いと思うが。』
「アダマンタイト製の装備は優秀だけど、整備がすっごい大変なんだよ。それに、硬すぎて衝撃を全然吸収しないから色々気を使わないと使いこなせないし。」
『なるほど・・・ここぞという時に着るオシャレ服という感じか。』
「だいたいあってるけどその認識はどうなんだろう・・・」
二人が下らないやり取りをしていると、デュラスが恐る恐るといった様子で口を開く。
「ところで、シルヴァさん。そちらの方は・・・?」
「あー・・・この街で知り合った友人です。説明が難しいので本人に自己紹介してもらいましょうか。」
シルヴァはそう言ってアルスに促す。
『なんというか、色々雑じゃのう。・・・まあよい、自己紹介程度ならしてやろう。』
「うわ、すっごい偉そう。」
『茶化すでないわ。・・・こほん、我は最も真理に近き錬金術師、マグナリア・グレイス・スクラヴァインである。アルスと呼んで良いぞ。』
アルスの尊大な自己紹介に、デュラスは少し引き気味であったが、ふと何かに気付いたようにハッとした表情を浮かべると、アルスに詰め寄る。
「今、錬金術師とおっしゃいましたよね?それに、確かシルヴァさんが滞在している場所は、例の幽霊屋敷だったはず・・・」
『な、なんじゃいきなり。』
「まさかあなたは、あの屋敷に取り憑いているという幽霊種の方なのですか?」
『幽霊種ではないわ!肉体を捨てただけじゃ。』
「ということは、やはりあの錬金術師なのですね。」
デュラスはそういうと、しばらく黙りこむ。
『お、おい、どうしたのじゃ?そんな気になる言い方をするでない。』
「ああ、いえ失礼しました。・・・それで、アルスさん。突然ですが、ご相談したいことがあるのです。」
『お、おう。とりあえず、言ってみるが良い。』
「では、単刀直入に。今この街を脅かしている『化け物』。識別名、【ヌエ】の討伐にご協力頂きたいのです。」
『・・・・・・・・・・・・ヌエ、じゃと?』
デュラスの言葉に、アルスは信じられないという口調で聞き返した。
「はい、【ヌエ】で間違いありません。・・・やはり、ご存知なのですね。」
『バカを言うでないわ。アレが、今なお生きている訳もないし、そもそも人を襲うなど有り得ぬ。』
「そこも含めて、事情はお話します。・・・シルヴァさん、アルスさん、申し訳ありませんが少しお付き合い頂けませんか?」
急に雰囲気を変えたデュラスに、シルヴァは強く好奇心を刺激される。
「僕はもちろん構いません。アルスも良いよね?」
『・・・まあ、この状況で無視して帰るのは無理じゃな。』
「話は決まりだね。」
二人の言葉に、デュラスは頭を下げる。
「ありがとうございます。では、中でお話ししましょう。」
そして、シルヴァ達はデュラスのあとについて『千の蹄』の本拠地に入っていった。
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