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癒えぬ傷
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「チュニック!」
私は急いでチュニックの元へ向かった。
乱暴に扉を開いた私にチュニックは驚いているようだったが今の私にはそんな事に気使う余裕なんて無かった。
「どうされました?そんなに慌てて」
「…これはどういう事だ」
私はさっき開けた仕立て屋からの封書をチュニックに見せる。
「なんですか………これ…っ!」
「……心当たりがある様だな」
チュニックは私が差し出した封書を手に取り中身を確認した後明らかにその顔色を変えた。
「どういう事か説明して貰おうか」
そう言う私に対して
「……何をそんなに怒っていらっしゃるの?」
と返す妻のあまりにも平然としたその態度に私は唖然とした。
……どういう事だ。何故だ何故こんなにも平然と……。何なんだ、私は急に目の前の妻が何か得体のしれないような物に思えてくるような感覚に陥った。
「当然だろう!お前こそ何故そんなに平然としていられるのだ!」
「旦那様、わたくしその代金はちゃんと仕立て屋に支払いましたのよ」
「ならば何故こんな手紙が届いたのだ!」
「それは支払ったのが昨日ですから。きっと行き違いになってしまったのですわ」
そう言うと妻は仕立て屋からの手紙を私の目の前で破り捨てた。
「嫌ですわ、これだから平民の仕立て屋は。わたくしからも代金を回収して旦那様からも代金を回収しようだなんて!本当に意地汚いのですから。ね?旦那様」
そう言って何事も無かったかのように微笑むチュニックはにわかには信じられないような話を続ける。
ここの仕立て屋はずっと我がカーディガン家と懇意にしている仕立て屋で、平民とはいえ他の貴族家からの信頼も厚いしっかりとした店だ。
「……チュニック、お前はこの店の事を知らないのか?」
「いえ?知っていますよ?凄く人気のあるお店なんですよねぇ?カーディガン家もずっとここの仕立て屋からお洋服をお買いのようですし、私もここでドレスを作って頂いたのですから」
そう、そうだ。
だがそれだけでは無い。本当に実直な性格の店主が自分の腕と真面目な人柄の信頼でここまで大きく有名にした店、さっきは他の貴族家からと言っていたが王家の者達も待たなければドレスは作って貰えない程の人気の店が二重に代金をせしめようとなんてする筈が無い。
「お前は本当に分かっているのか?王家の覚えも良いこの店の事を意地汚い平民風情がとそう言ったのだぞ!お前は本当に何も知らないのか!」
妻のあまりの物言いに感情的にチュニックを責める。
するとチュニックは見たことも無いような顔で烈火のごとく怒り、泣き出した。
「酷いですわ!貴方もフレア様のように私を何も知らない下位貴族が!とバカにしていらっしゃるのね!貴方は覚えていないの?私がどれ程バカにされ毎日罵られていたかを!やっとその傷も癒えてきたと思ったけれど、貴方まで私をバカにするなんて!」
「違う!チュニック!少し落ち着きなさい!お前をバカになどするものか!」
そうして私はチュニックを抱き締めた。
暫くしてようやく落ち着いたのかいつもの優しいチュニックに戻り謝ってくる。
「ごめんさい、旦那様。わたくし旦那様が私をバカにするようなそんな人ではないと知っているのに……でも、どうしてもあの頃を思い出すと……まだ身体が震えてしまって…思うように感情がコントロール出来なくなってしまうのです」
そう言って小さくなって泣くチュニックをこれ以上責められる筈もなく、代金を既に支払い済みだと言ったチュニックの話を信じその日の話を終了させた。
こんなになるまでチュニックを追い込んだフレアの事がますます憎かった。
その日また元妻からの手紙。
「ご両親はお元気ですか」
私は手紙を破り捨てた。
私は急いでチュニックの元へ向かった。
乱暴に扉を開いた私にチュニックは驚いているようだったが今の私にはそんな事に気使う余裕なんて無かった。
「どうされました?そんなに慌てて」
「…これはどういう事だ」
私はさっき開けた仕立て屋からの封書をチュニックに見せる。
「なんですか………これ…っ!」
「……心当たりがある様だな」
チュニックは私が差し出した封書を手に取り中身を確認した後明らかにその顔色を変えた。
「どういう事か説明して貰おうか」
そう言う私に対して
「……何をそんなに怒っていらっしゃるの?」
と返す妻のあまりにも平然としたその態度に私は唖然とした。
……どういう事だ。何故だ何故こんなにも平然と……。何なんだ、私は急に目の前の妻が何か得体のしれないような物に思えてくるような感覚に陥った。
「当然だろう!お前こそ何故そんなに平然としていられるのだ!」
「旦那様、わたくしその代金はちゃんと仕立て屋に支払いましたのよ」
「ならば何故こんな手紙が届いたのだ!」
「それは支払ったのが昨日ですから。きっと行き違いになってしまったのですわ」
そう言うと妻は仕立て屋からの手紙を私の目の前で破り捨てた。
「嫌ですわ、これだから平民の仕立て屋は。わたくしからも代金を回収して旦那様からも代金を回収しようだなんて!本当に意地汚いのですから。ね?旦那様」
そう言って何事も無かったかのように微笑むチュニックはにわかには信じられないような話を続ける。
ここの仕立て屋はずっと我がカーディガン家と懇意にしている仕立て屋で、平民とはいえ他の貴族家からの信頼も厚いしっかりとした店だ。
「……チュニック、お前はこの店の事を知らないのか?」
「いえ?知っていますよ?凄く人気のあるお店なんですよねぇ?カーディガン家もずっとここの仕立て屋からお洋服をお買いのようですし、私もここでドレスを作って頂いたのですから」
そう、そうだ。
だがそれだけでは無い。本当に実直な性格の店主が自分の腕と真面目な人柄の信頼でここまで大きく有名にした店、さっきは他の貴族家からと言っていたが王家の者達も待たなければドレスは作って貰えない程の人気の店が二重に代金をせしめようとなんてする筈が無い。
「お前は本当に分かっているのか?王家の覚えも良いこの店の事を意地汚い平民風情がとそう言ったのだぞ!お前は本当に何も知らないのか!」
妻のあまりの物言いに感情的にチュニックを責める。
するとチュニックは見たことも無いような顔で烈火のごとく怒り、泣き出した。
「酷いですわ!貴方もフレア様のように私を何も知らない下位貴族が!とバカにしていらっしゃるのね!貴方は覚えていないの?私がどれ程バカにされ毎日罵られていたかを!やっとその傷も癒えてきたと思ったけれど、貴方まで私をバカにするなんて!」
「違う!チュニック!少し落ち着きなさい!お前をバカになどするものか!」
そうして私はチュニックを抱き締めた。
暫くしてようやく落ち着いたのかいつもの優しいチュニックに戻り謝ってくる。
「ごめんさい、旦那様。わたくし旦那様が私をバカにするようなそんな人ではないと知っているのに……でも、どうしてもあの頃を思い出すと……まだ身体が震えてしまって…思うように感情がコントロール出来なくなってしまうのです」
そう言って小さくなって泣くチュニックをこれ以上責められる筈もなく、代金を既に支払い済みだと言ったチュニックの話を信じその日の話を終了させた。
こんなになるまでチュニックを追い込んだフレアの事がますます憎かった。
その日また元妻からの手紙。
「ご両親はお元気ですか」
私は手紙を破り捨てた。
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