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「取り敢えず、頭をお上げ下さい」
そう言って私は侯爵夫人に顔を上げて貰う。
本当に申し訳なさそうな顔をする目の前の人は私にあんな事を言った人と同一人物とは思えない程憔悴しきっていた。
この様子を見る限り本当にこの方は今回の結婚に纏わるあれこれを知らなかったのだと思う、けれどそれと侯爵家の財政の事はまた別で、ちゃんと侯爵夫人が家の仕事をしていればこんな事にはならなかったのかもしれないと思うと残念だ。
「分かりました、謝罪は受け入れます。私も目上の方に言い過ぎたと思っています。あの場ではこの状況を分かって貰う為に言った事でしたが…申し訳ありませんでした」
そうして私は頭を下げた。
すると次に慌てだしたのは侯爵夫人の方でアワアワしながらも頭を上げて頂戴と言われたので頭を上げた。
そして二人で顔を見合わせて、お互い謝りあうと言う奇妙な光景を思い笑いあった。


それから私と侯爵夫人は話をした。
侯爵夫人も元々この侯爵家には政略結婚で嫁いで来たらしい。
もうお亡くなりになっておられるが先代の侯爵夫人は厳しい人だったそう。
政略結婚だった事が気に入らなかったのかある事無い事、しょうがない事、理不尽な事、色々ネチネチと言われていたそうだ。
そんな日々でもせめて自分の夫だけでも自分の味方をしてくれれば少しは違っていたのかもしれなかったのに……政略結婚の相手だからだろうか……侯爵は夫人の味方をする事は無く母の言うことを常に聞くようにと言って来るだけで家庭も顧みなかったそうだ。
そんな事もあって……夫である侯爵が勝手に決めて来たこの婚姻に良い印象が無かったようで私にあんな態度をとってしまったと打ち明けてくれた。
……話を聞く限り同情の余地が無いわけではないが……それとこれとはまた別だと思う私もいて少し複雑な気持ちだった。
自分が受けた行いを次に嫁に来た私にまでしたいと思うのだろうか……こんな理不尽な事はしないでおこうとは思わないのだろうか。
……分かっていても出来ないのか………人の心は複雑だ、そんな簡単には割り切れないか……。
「侯爵夫人も大変だったのですね」
私は思った事を素直に口にした。
「…………」
その言葉を聞いて侯爵夫人は驚いたようにこちらを見ていたので、そんなに驚く事言いましたかと聞くと。
「いえ、貴方はそういう事を言うようなタイプでは無いかと思っていたから」
と言われた………。
いや、まあそうなんだが……私にだって人を可哀想と思う気持ちぐらいある訳で……一体どんな冷たい人間だと思われていたのか……。もう項垂れるしかない。
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