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開いた口が塞がらないとはこういう事を言うのだと、私は今正に体感していた。
あの「私の事が好きなんだろう?」発言から吹っ切れたのか今までうじうじとしていたのが何だったのかと思う程、私にとってはどうでもいい聞きたくも無い話をペラペラと話す男。
「両親は恋愛結婚で、私もあの二人のように愛し愛される人と家庭を築きたいのだ!しかし私は今まで人を好きになった事が無い!そんな私を心配して両親は私の事を愛していて婚約を申し込んで来た君との結婚に賛成してくれてのだろう。私も一度は両親の為にもこのまま結婚生活をして、今は無理だとしても後々君のことを好きになれたら、そう思って結婚した。だが!結婚式での君を見ても今こうして一緒にいても、君の事を愛せそうな気がしないのだ!」
………殴りたい。力一杯、思いのまま殴りたい。得意気に話すこの男の後頭部をグーで殴ってやりたい。
そもそも何故私がこの男の事を好きな事になっているのか……解せぬ。
そもそも婚約を申し込んだのもわたしの方からでは無い。
何度も言うが、これは政略結婚でお互いの家の利益を考えて結ばれた婚姻なので、ぶっちゃけ愛してようが愛していまいが関係無い。
……この人、この結婚の意味本当に分かっていないのかしら。
「あの、つかぬ事をお伺い致しますが…政略結婚の意味をちゃんとご存知ですか?」
「…勿論知っている、何故そんな事を聞く?」
「えっ?何故?……何故、と仰いました?」
私は男の発言に心底驚いた。
この状況で…何故?自分が矛盾した事を言っているのを…分かって無いの?
「ああ、そうだ。勿論私だって貴族に産まれたのだから政略結婚の意味ぐらい知っている!だから何故そんな事を聞くのかと聞いたのだ」
「……そうですか…では、言わせて頂きますけれど……まず、私達の結婚が政略結婚だと言うことは正しく理解なさって下さっているのでしょうか? 本当に政略結婚の意味を貴方が知っているのであれば、先程の貴方が仰られた初夜を行わなかった理由がおかしい事だと気付きますよね?この結婚にお互いの愛など不要!そもそも、誰からお聞きになられたのかは知りませんが、私が貴方を好きで結婚を申し込んだなんて事実も、一切!有りませんので、私が貴方を好きだから、貴方から愛して貰えず傷付くなどという…まっっっっっっったく不要な心配はなさらないで下さい」
私はそこまで言うと目の前に座る男を見る。本当に正しく理解してくれているのだろうか……私の発言に呆気に取られたような顔をしている。
「旦那様…大丈夫でしょうか?」
「あ、ああ…」
それきり部屋に流れる沈黙……。
流石に言い過ぎたかと思わないでも無いが…いや、全然言い過ぎでは無いな、うん。どう考えてもこの男の方が悪い、何だか悪気がない分質も悪い。
こういう男の勘違いは放っておいてもいい事なんて絶対に無い、百害あって一利なし。後々その勘違いを正さなかった事を後悔する日が来る、きっと来る。それは確信に近い何か。
「貴方は私を愛せそうにない、と仰いましたね?」
「……ああ…すまない」
「いや、謝らなくて結構です。その謝ると言う行為は何処から来るのです?先程から何度も言っている通り私はせ、い、りゃ、く、け、っ、こ、ん、でここに嫁いで来たのです。貴方の事を好きな女性が貴方と結婚して、君を愛せそうに無い、なんてそんな事を言われたならショックかもしれません、それは謝って差し上げればいいと思います、君の気持ちに応えられなくてすまない、と。で、す、が、私は違います、貴方の事を好きで結婚した訳では有りません、断言致します。ですから私に愛せなくてすまないと謝って頂く必要は有りません。ここまではご理解頂けました?」
「………あ、ああ」
「それは、良かったです。で?これからどうなさいます?」
「……何が……どうする?……?」
男のその反応に私はまた溜息をつく。
本当にこの男は………。
「貴方が愛する人以外とそういう行為は出来ないと仰るのでしたらこの婚姻自体の意味が無くなると言うことです。ですからこの先どうなさるおつもりなのかお聞きしたいのですが」
私の言葉にまたキョトンとした顔をした男を見て私はまた深く深く溜息をついた。

いい加減疲れた。
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