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「何でそんな事言ったんですか?」
「…………………………」
「これでますます!元からマイナスだった好感度が地の底にまで沈みましたよ」
「…………………………」
「陰で自分の悪口を言っている相手にどう笑顔を見せるんですか」
「…………………………」
「しかも、笑顔のひとつも見せろ?えっ?命令ですか?人の表情にまでケチを付ける?いや~ありえないですよ!ありえないなぁ。信じられないなぁ」
「…………………………」
未だ信じられないなぁと大袈裟に首を振りながら肩を竦めている側近を前に私は城の執務室のソファーの上で正座をしている。
させられている訳では無い!自らやっているのである。
…………私自身もあの発言は無いなと思っているのだ。
「っ…顔を……」
「ん?なんですか?何か言い訳があると?あの発言に言い訳が?どんな理由にしてもありえないですけどねぇ」
「っ………」
「んー?どうしたんですかぁ?なんですかぁ?納得する理由があるなら聞かせていただきたいなぁ」
「…笑顔が…」
「はい?」
そうして耳に手を当て理由を聞いてくる側近にかなりイラついたので私は叫ぶように側近に向かって言った。
「笑顔が見たかったんだ!!!!!」


「「………………………………………………」」


セルフ正座をしている私の前で涙を流しながら笑い転げている側近。
…そろそろクビにしたい。
ジト目で睨む私を見て、また笑い転げる…………。
「おい、いい加減にしろ」
「い、いや……ぶっくっくっくっ…す、素直にっくっ…そう言ったら…いいのに…ぶはははは!ひーっお腹痛い!」
楽しそうでなによりだな。


「どうやら治まったらしいな」
涙を流しながらお腹痛いと床でピクピクしている側近を見下ろす。
「は、はひ…し、死ぬかと思った」
「そのまま死んでもよかったんだぞ」
「…冗談やめて下さいよ」
「本気だ」
「「………………………」」
暫く二人で睨み合うように見つめ合う。

「それにしても…やっとロゼ様の事を好きだと認めるのですね!」
そう言って嬉しそうに頷く側近。
はぁ?
「はぁ?」
側近のあまりの飛躍的思考に思わずそう言っていた。
「何を言っているんだ。私は笑った顔が見たかっただけだ。ロゼを好きだなんて一言も言っていない」
「………………はぁ?」
そう言った私の言葉に側近は私が言い返したようにはぁ?と心底不思議そうに言った。
「えっ?…………はっ?……………うん?聞き間違い…かな?」
すると私の前で何やら悩み始める。
「何だ、何をそんなに悩んでいる」
「えっだってロゼ様の笑顔が見たかったんですよね?」
「ああ」
「それで私は王子がやっっっっっっとロゼ様への拗らせに拗らせた恋心に気付いたのだと喜んだ訳ですよ!」
「…………ん?」
「はい!それ!」
そう言って不敬にも私を指さす側近……もう指折るか?そんな気持ちを込めて側近の指先を見つめる。すると不穏な空気を感じとったのか指をさっと隠した。
………チッ。勘づいたか。
「で、それとは?」
「ん?じゃ無いんですよ!自分に笑いかけて欲しいっていうのはロゼ様への恋心でしょう?それなのにはぁ?違いますけど?みたいなその態度!なんでですか!」
「いや、だって違うから」
「違わないんですよ!」
「違う!」
「違わない!」
「「……………………………………」」


1歩進んだのか…………退化したのか……。

何でこれで自覚が無いんだ?と心底不思議で仕方が無い側近だった。
それと同時に笑顔が見たいと言っただけで何故私がロゼを好きな事になるのかと心底不思議に思う王子だった。
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