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求めたもの 4

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個室に戻ると、ソファに座ったままシャツに袖を通した柊さんが「こっち来て」と手招きする。

傍まで寄ると、柊さんは拗ねた様な表情をした。
なんでそんな顔すんだよ。
柊さんが他のヤツに抱かれて、拗ねたいのはこっちだっつーの!

「ボタン、留めて」

「えっ?あ・・・ハイ」

少し屈んで柊さんのシャツのボタンをひとつひとつ留めていく。

「なあ、俺、偉い?」

「は?」

偉いって?

「夏の事、護ったんだぞ?・・・褒めて、くれないのか?」

褒め・・・?どゆこと?

「・・・俺は外で待ってればいいのか?」

呆れたように言う万里さん。

「別に居ていいよ。夏、早く」

座ったままの柊さんが、正面から腰に抱きついてきて頭でググッと俺の腹を押してくる。

「・・・俺、偉かった?」

これは・・・もしかしてだけど、撫でろ、って事なのか?

半信半疑で 柊さんの頭にそっと片手をのせてみる。

「え、っと・・・偉かったですね・・・?」

って言えばいいのかな?

「うん」

満足そうに微笑みながら見上げて来る柊さんが、愛おしくて、可愛すぎて、きゅうぅっと胸が締め付けられる。
それと同時に、自分を大事にしないこの人に、だんだん怒りが込み上げてくる。

俺を護るためだって?
そんなの言い訳になんないだろ!

「偉かったですけど、俺は怒ってます」

「え、なんで・・・」

柊さんの両頬をぎゅっと摘んで左右に引っ張る。

「なちゅ、いひゃ・・・」

「簡単に俺以外に抱かれるような人は嫌いです」

柊さんの瞳が、戸惑ったように揺れる。
俺は摘んでいた彼の頬を両手で包んで親指で撫でる。

「柊さんが俺を護ってくれたみたいに、俺だって柊さんを護りたいんです。あなたが大切だから、自分の事も大事にして欲しい」

「自分を・・・?」

愛情を相手に伝えるのは難しい。
柊さんが相手だと、尚更そう感じる。
きっとそれは、俺にとってもこの人にとっても初めての事だから。
だからこそ、間違ってすれ違ってしまう。

「柊さん、もう俺の為に自分を犠牲にするのはやめてください。じゃないと心配で堪らなくて、俺死んじゃいますよ」

「それは、嫌だ」

「だったら、約束してください。何があっても、もう俺以外に体をひらかないって」

「そしたら夏は、死なない?」

柊さんの顔に「不安」と大きく書いてあるみたいだ。
この人が『死』に敏感なのを利用している俺は、卑怯なのかもしれない。

「約束します」

少しだけ震えている柊さんの体を強く抱きしめる。

「夏が死なないなら、俺も約束する。もう夏以外とはしない」

柊さんの肩の力がフッと抜ける。

間違ってもいい。すれ違ってもいい。
出逢った時から、俺達はすれ違う運命だったんだから。
それでも今、同じ時間を共に生きれる。それさえあれば、どんな事も乗り切れる。俺はそう信じたい。





万里さんの車に乗り込むと

「おっそい。くそマネ待たせ過ぎ」

と、3列シートの一番後ろの座席からシウの低い声がした。

「ごめんな、シウ」

申し訳なさそうに謝る柊さんを見て、シウは「・・・別に」と言ってシートに放り上げていた足を下ろした。

「男同士でモメるのって大変そうだね」

ボソッと呟いたシウは、シートに寄りかかり、マスクをつけて目を閉じた。



男同士、家族、歳の差、二人の過去・・・
柊さんと俺には色んな障害がある。
だけど、求めているものはきっと同じ。

そう信じて、俺は柊さんの手をぎゅっと握り締めた。
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