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獲物 1
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翌日、停学処分になるだろう俺は、会社を休んだ柊さんと一緒に校長室へ呼び出されていた。
河森の治療費は真面目クンが、真面目クンの治療費は俺(というか柊さん)が払うことになり、オマケの三日間自宅謹慎を食らってしまった。
とはいえ保護者不在の自宅での謹慎は禁止されているため、結局柊さんも三日間の休暇を取らざるを得なくなってしまった。
「アプリ開発で大変なときに・・・ほんとにすみません」
「大丈夫だよ。俺の仕事はスタッフ集めて指示出してるだけだしな。煩い上司がいなくてみんな清々してるんじゃないかな」
そんなこと無いと思うけど。
柊さんの会社でバイトさせてもらってわかった事だけど、スタッフひとりひとりを大切にしてるし、いい意味で人を使うのが上手いというか・・・その上 自分から率先して営業行っちゃったりするし。
柊さんにカリスマ性があるのは、仕事の内容が全くわからないバイトの俺でも見てわかった。
「いいスタッフに恵まれてると、上は楽できるんだよ。だから夏は気にしなくていい」
・・・俺にまで気を遣ってくれて、やっぱり大人だな。
「すみません・・・」
この言葉しか出ない。
はあ。早く大人になりてぇ・・・。
夕方になって、真面目クンの通う進学校へと謝罪に行くために、俺と柊さんは駅で待ち合わせていた緒方と合流した。
昨日と同様の何とも言えない雰囲気が、柊さんと緒方の間に漂っている。
妬いちゃいけない、柊さんにとって緒方はただの元客、恋愛感情なんか無かったんだから・・・そう思っても、湧き上がって来る吐き気にも似た胸クソ悪さに、俺は飲み込まれそうになってしまう。
「じゃあ、行きましょうか」
緒方の右手が柊さんの背中に添えられたのを見て、俺は思わずその手を叩き落としてしまった。
「いてっ!・・・どうした柏木?」
緒方に名前を呼ばれて、ハッと我に返る。
「あー・・・、いや、・・・えーっと・・・」
ヤバイ。言い訳ひとつ浮かばない。なんて言ってごまかそう・・・
「すみません。緒方先生も御存知の通り、私が不甲斐ないので・・・息子にまで要らない心配かけてるんです」
「「え!?」」
柊さんの言葉に、緒方と声を合わせて驚いてしまう。
ちょっとちょっと!そんな言い方・・・何もかもぶっちゃけるつもりじゃないですよね?柊さん!?
「ミナト、まさか今も・・・?」
「緒方先生には、親子共々ご迷惑をお掛けしてしまってすみません。・・・頼りない父親ではありますが、俺は今 この子の事だけで頭がいっぱいなんですよ」
俺の心配をよそに、緒方との関係も俺との関係も、絶妙に核心を避けて話す柊さん。
「そうか・・・いえ、それなら良かったです」
少し寂しそうに見える緒方。
俺は、自分達の関係も言えないし、緒方と柊さんの関係にも口を出せない。
柊さんと俺の関係が世間に知られてしまったら、たぶん・・・もう一緒にはいられない。
緒方の手から咄嗟に柊さんを守ったつもりでいても、逆に柊さんに守られた事に気付いて、自分の無力さに落胆する。
早く、1秒でもいいから早く大人になりたい。
真面目クンの通う高校は都内でも指折りの進学校だ。
それに比べて俺が通ってんのは、多少勉強ができなくても入れる私立校。
俺だって本命落ちなきゃ、もっとマシだったハズなのにな~・・・
会議室に入ると、真面目クンの横に父親らしき中年の男性、教師と思われるガッチリ体型の男性がいた。
意外にも穏便に話がまとまって、お互いに校舎を出たその時、真面目クンの父親が柊さんを呼び止める。
何かを耳打ちされた柊さんは「すぐ追いつくから先に行ってて」と言って、その場で真面目クンの父親と小声で話していた。
仕方なく柊さんを置いて、俺は緒方と歩き出す。
「柏木は、どこまで知ってるんだ?」
どこまで知ってる・・・?
それは柊さんが、体を売ってた事についてか?
「何が?」
白々しいかもしれないけど、俺は何も知らないフリを通す事にした。
「・・・嫌な予感がする」
緒方は振り返って、まだ立ち止まったままの柊さんと真面目クンの父親を遠目で見た。
俺は緒方の視線を追って、少し離れた所にいる柊さん達に目を向ける。
二人の距離が、異様に近い。
まさか、とは思うけど真面目クンの父親も、柊さんの客だった・・・?
緒方が言ってる『嫌な予感』は、俺が考えてる事ときっと同じだ。
強い眼差しで柊さん達を見つめながら、緒方は下げられた手でぎゅっと拳を作る。
「俺は・・・ミナトを助けたい。お前はそれを許してくれるか?」
河森の治療費は真面目クンが、真面目クンの治療費は俺(というか柊さん)が払うことになり、オマケの三日間自宅謹慎を食らってしまった。
とはいえ保護者不在の自宅での謹慎は禁止されているため、結局柊さんも三日間の休暇を取らざるを得なくなってしまった。
「アプリ開発で大変なときに・・・ほんとにすみません」
「大丈夫だよ。俺の仕事はスタッフ集めて指示出してるだけだしな。煩い上司がいなくてみんな清々してるんじゃないかな」
そんなこと無いと思うけど。
柊さんの会社でバイトさせてもらってわかった事だけど、スタッフひとりひとりを大切にしてるし、いい意味で人を使うのが上手いというか・・・その上 自分から率先して営業行っちゃったりするし。
柊さんにカリスマ性があるのは、仕事の内容が全くわからないバイトの俺でも見てわかった。
「いいスタッフに恵まれてると、上は楽できるんだよ。だから夏は気にしなくていい」
・・・俺にまで気を遣ってくれて、やっぱり大人だな。
「すみません・・・」
この言葉しか出ない。
はあ。早く大人になりてぇ・・・。
夕方になって、真面目クンの通う進学校へと謝罪に行くために、俺と柊さんは駅で待ち合わせていた緒方と合流した。
昨日と同様の何とも言えない雰囲気が、柊さんと緒方の間に漂っている。
妬いちゃいけない、柊さんにとって緒方はただの元客、恋愛感情なんか無かったんだから・・・そう思っても、湧き上がって来る吐き気にも似た胸クソ悪さに、俺は飲み込まれそうになってしまう。
「じゃあ、行きましょうか」
緒方の右手が柊さんの背中に添えられたのを見て、俺は思わずその手を叩き落としてしまった。
「いてっ!・・・どうした柏木?」
緒方に名前を呼ばれて、ハッと我に返る。
「あー・・・、いや、・・・えーっと・・・」
ヤバイ。言い訳ひとつ浮かばない。なんて言ってごまかそう・・・
「すみません。緒方先生も御存知の通り、私が不甲斐ないので・・・息子にまで要らない心配かけてるんです」
「「え!?」」
柊さんの言葉に、緒方と声を合わせて驚いてしまう。
ちょっとちょっと!そんな言い方・・・何もかもぶっちゃけるつもりじゃないですよね?柊さん!?
「ミナト、まさか今も・・・?」
「緒方先生には、親子共々ご迷惑をお掛けしてしまってすみません。・・・頼りない父親ではありますが、俺は今 この子の事だけで頭がいっぱいなんですよ」
俺の心配をよそに、緒方との関係も俺との関係も、絶妙に核心を避けて話す柊さん。
「そうか・・・いえ、それなら良かったです」
少し寂しそうに見える緒方。
俺は、自分達の関係も言えないし、緒方と柊さんの関係にも口を出せない。
柊さんと俺の関係が世間に知られてしまったら、たぶん・・・もう一緒にはいられない。
緒方の手から咄嗟に柊さんを守ったつもりでいても、逆に柊さんに守られた事に気付いて、自分の無力さに落胆する。
早く、1秒でもいいから早く大人になりたい。
真面目クンの通う高校は都内でも指折りの進学校だ。
それに比べて俺が通ってんのは、多少勉強ができなくても入れる私立校。
俺だって本命落ちなきゃ、もっとマシだったハズなのにな~・・・
会議室に入ると、真面目クンの横に父親らしき中年の男性、教師と思われるガッチリ体型の男性がいた。
意外にも穏便に話がまとまって、お互いに校舎を出たその時、真面目クンの父親が柊さんを呼び止める。
何かを耳打ちされた柊さんは「すぐ追いつくから先に行ってて」と言って、その場で真面目クンの父親と小声で話していた。
仕方なく柊さんを置いて、俺は緒方と歩き出す。
「柏木は、どこまで知ってるんだ?」
どこまで知ってる・・・?
それは柊さんが、体を売ってた事についてか?
「何が?」
白々しいかもしれないけど、俺は何も知らないフリを通す事にした。
「・・・嫌な予感がする」
緒方は振り返って、まだ立ち止まったままの柊さんと真面目クンの父親を遠目で見た。
俺は緒方の視線を追って、少し離れた所にいる柊さん達に目を向ける。
二人の距離が、異様に近い。
まさか、とは思うけど真面目クンの父親も、柊さんの客だった・・・?
緒方が言ってる『嫌な予感』は、俺が考えてる事ときっと同じだ。
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