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来訪者 1

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翌日、日曜だった事もあり、柊さんに誘われて出かけることになった。

タクシーに乗って1時間。街から離れ、郊外へ向かう。

「なんか俺、この景色見覚えあるんですけど・・・」

窓の外の景色に既視感を覚えた。

「もう少しかかるかな、夏、車酔いとかしてないか?」

昨日、あんな事させたのに、いつもと変わらない優しい柊さんの口調。

少しくらい意識してくれたっていいのに。父として息子の世話をした、くらいにしか思ってないのかな。なんか悔しいな。

「大丈夫です」

「そうか。・・・すみませんそこの角のところで停めてください」

タクシーを待たせて、二人で入ったのは小さな花屋。

「夏、好きなの選んで」

え・・・。選べって言われても、花なんか全然わかんないし、どういう気持ちで選べばいいんだよ。

「どれでもいいよ。夏が、いいなと思った花ならどれでも。俺も花は詳しくないから」

戸惑う俺を見て、柊さんはニコッと微笑む。

そう言われてもなぁ・・・。

「じゃあ・・・」

何となく柊さんに似合うような、淡い色の花を何種類か選ぶ。

選んだ花で作って貰った、白や黄色や薄いオレンジが織り混ざった小さなブーケが二つ。

「はは、夏って意外と可愛いシュミなんだな」

店員さんからブーケを受け取った柊さんが笑う。

柊さんをイメージして選んだんだから、可愛いのはあなたって事ですよ・・・。わかってんのかな、この大人は。


再びタクシーに乗り、10分ほど走る。


あ・・・、ここってもしかして・・・。

タクシーは大きな墓地の前で停まった。
やっぱり・・・。俺の両親の墓がある場所だ。


柏木家、と彫られた墓にさっき買ったブーケを供え、手を合わせる柊さん。
それに倣って俺も手を合わせる。

何年ぶりに来たかもわからない。
だけど、墓石は綺麗に保たれているみたいだ。

「もしかして柊さん、時々・・・」

「命日とかに来れるわけじゃないから、時間がある時にね。ほんとに時々だよ」

目を閉じて手を合わせたままで柊さんが答える。

「ありがとうございます」

「お礼を言われる事じゃない。俺が悪いんだから・・・。こんな事しても許される訳じゃない。自己満足に過ぎないよ」

この人は、あの事故のせいで、どれだけ自分を責めて生きてきたんだろう。

「・・・そんなに長いこと手合わせて、何お参りしてるんですか?もう充分ですよ」

もう自分を責めないで欲しい。

「夏が選んだ花、気に入ってくれてるといいなーって。・・・・・・それと、夏が真っ当に生きていけるように見守ってくださいって。あとは・・・・・・・・・・・・夏に可愛い彼女ができますようにって」

なんだよそれ。
俺は柊さんが好きなのに。

俺は、最後のはシカトしていい、と墓石に向かって念を送る。

供えられた花は、あまりにも墓石には不釣り合いだった。
だけど、柊さんのように優しい色で・・・両親の代わりに俺を見守ってくれてるみたいに思えた。



帰りのタクシーの中、柊さんが重い口調で話し出す。

「夏・・・。昨日俺は、夏が望むならなんでもするって言ったけど・・・・・・夏のご両親に恥じるような事は、できるだけしたくないし、させたくないと思ってる」

それは・・・柊さんの体も欲しいって、俺が言ったことだよな、きっと。

「父親として、息子が道を踏み外すような事をさせるわけにはいかないよ」
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