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泣き顔フェチ×匂いフェチ=practice 2
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「・・・なあ一玖。なんで一人暮らしなの?」
「えー、女の子ならともかく男と二人部屋とか、正直無理じゃん。男二人だよ?なんかむさ苦しい」
「一玖、男が好きなんだろ?」
架からの質問に、一玖は つい口を滑らせてしまった事に気付く。
・・・しまった。せっかくいい雰囲気に持っていけそうだったのに・・・!
マイペースな架の唐突な問いに、上手く対処出来なかった。ゲイだって嘘をついているなんてバレたら、性悪王子の言う通り、もっと架に信用されなくなってしまう。
「いや、ほら・・・。その・・・変な気とか起こしちゃったら、って・・・」
焦る一玖を見て、架は不信感を抱いてしまう。
一玖、本当に男が好きなのか?もしそうなら、市太からの告白だってもっと喜んでもいいはずなのに。
イヤ、でもキス未遂の件もあるし・・・。
だけどよくよく考えてみたら、俺達は一玖の事をほとんど知らない。
もし、一玖が市太の気持ちを弄んで喜ぶようなヤツだったら、俺はコイツを許せない。
架の脳裏に、数日前に市太がこっそり教えてくれた言葉がよぎる。
『一玖の手に、俺のものって予約入れといた』
架は自分の手を握る一玖の手をチラリと盗み見る。
手の甲に薄らと消えかけの内出血の痕。もしそれが市太の『予約』の痕だとしたら・・・
本当は女が好きなのにゲイのフリして近付いて来て、予約なんて曖昧な言葉で市太を弄んでる?なんの為に?
一玖の本心は、市太がいない今しか聞けない。
「一玖。いちのこと、どう思ってる?」
「は? 市太さん?」
「その手の痕、なに?」
「これは・・・」
市太に吸われた痕、だなんて一玖は言えない。言えば、市太に気を使って架が今よりも自分を避けると考えたからだ。
架に思いを伝えるのは今しかない。
「俺、架が好き。市太さんの気持ちには応えられない」
架を見つめる一玖の真剣な眼差し。気まずさに架は目を逸らす。
「ちょ・・・と、待てよ。そういう冗談、今笑えない」
いちが惚れてる相手が、俺を好き?そんなの最悪じゃん・・・冗談であって欲しい。
「ごめん。俺もほんとは自分の気持ち、よく分かんなくて・・・。だけど、架の事ばっか考えてるのは確かだから」
泣かせたい、困らせたい、犯してしまいたい、と思う気持ちが恋かどうかは正直わからない。だけど架を独占したいこの気持ちは、きっと恋に近いもの。
「俺は、市太が大事なんだ。いちが悲しむ姿は見たくない」
「違う。市太さんはホントは」
架が好きなんだ、と言いかけて口を噤む。
一玖がそう言ってしまえば「嘘だ」と否定されてしまうか、最悪の場合、市太と架が幼馴染み以上になってしまう可能性がある。
架に思いを告げても八方塞がりの状態は変わらなかった。
二人の間に重苦しい空気が漂う。
「俺は、一玖の事を良い奴だって思ってる」
重い沈黙を先に破ったのは架だ。
「でも実際どうなのかわかんねぇ。おまえの事、よく知らないからだ。俺の事をどう思ってるかとかは置いといて、一玖が良い奴なら市太を応援したいし、もしそうじゃないなら市太には悪いけど邪魔させてもらう」
「じゃ、邪魔・・・?」
「そう、邪魔する。いちは結構頑固だからな。あの様子じゃ一玖に相当入れ込んでる」
なわけあるか!と一玖は心でツッコミを入れる。
薄々 気付いてはいたけど、架は少し変わってる。行動や言動が予想できない・・・。もしかして不思議ちゃんってやつなのか?
「俺さ、匂いに敏感なせいでマトモに人付き合いしたことないんだ。いち以外の人間を、理解しようともしてこなかった。市太はずっと俺の事守って来てくれたから、今度は俺の番。まずは一玖がどんな奴かを知ることから始める。いい?」
「別にいいけど・・・」
一玖の胸がズキッと痛む。
俺がなにを言ったって、幼馴染みのふたりには壊せない絆があって・・・。架はただ守られてるだけの姫じゃない。王子の為なら怖がらずに戦う力も持ってる。
架の中で俺は、得体の知れない怪物なのかもしれない。
一玖の後ろ暗い感情が作った小さな染みは、嫉妬という感情を含んで心に広がる。
架に良い奴だと思われようが悪い奴だと思われようが、それは結局は市太さんに相応しいかどうかを判断される材料になるだけ。
正攻法で架を手に入れるのは難しそうだ。
だったらいっそ・・・
「架は、市太さんがどういう意味で俺を好きだって言ってると思ってんの?」
握ったままの架の手を更に強く握る。
「好きは好きだろ。俺は誰かを好きになった事無いから知らねぇけど、キスしたいとかそういう類だろ」
抵抗もせずに話を続ける架。
「キス、したいって架は思った事ない?」
今度は架の頬を撫でてみる。
「あるわけないだろ。誰にも近付くこともできねぇのに」
やはり抵抗を見せない架。
他人との距離感がわからない、もしくは市太との近過ぎる距離に慣れているのだ、と一玖は察する。
「俺の事はいいだろ。おまえの事知りたいんだっつーの!」
「・・・いいよ、教えてあげる。もし俺が市太さんとキスするなら、どんな風にするのかを」
両手で架の顔の横を包んで、一玖は唇を重ねる。
突然の一玖からの口付けに驚きつつも、架は初めての他人の唇の感触、すぐ傍に感じる一玖の心地好い匂いに頭の中が痺れるような感覚に体が動かず、抵抗の二文字は浮かばなかった。
角度を変えて何度も押し付けられる柔らかい感触に終わりが無くて、唇を閉じているのが息苦しくなり、くぐもった声が喉の奥から鼻に抜ける。
「・・・っ、・・・んっ」
これがキスの感触・・・。他人の唇がこんなに柔らかいなんて知らなかった。
市太は一玖と、駅でこんな風にキスしようとしてたのか・・・。
一玖は唇を離し、ぼんやりと自分を見ている架の唇を指でなぞる。口付ける前よりも少しだけ膨れて赤みを増したそこは、甘く熟れた果実のように見えた。
「架? もう少し、俺の事知ってもらっていい?」
怪物は怪物らしく卑怯な手を使って、純真無垢な姫を汚してやるよ。
「えー、女の子ならともかく男と二人部屋とか、正直無理じゃん。男二人だよ?なんかむさ苦しい」
「一玖、男が好きなんだろ?」
架からの質問に、一玖は つい口を滑らせてしまった事に気付く。
・・・しまった。せっかくいい雰囲気に持っていけそうだったのに・・・!
マイペースな架の唐突な問いに、上手く対処出来なかった。ゲイだって嘘をついているなんてバレたら、性悪王子の言う通り、もっと架に信用されなくなってしまう。
「いや、ほら・・・。その・・・変な気とか起こしちゃったら、って・・・」
焦る一玖を見て、架は不信感を抱いてしまう。
一玖、本当に男が好きなのか?もしそうなら、市太からの告白だってもっと喜んでもいいはずなのに。
イヤ、でもキス未遂の件もあるし・・・。
だけどよくよく考えてみたら、俺達は一玖の事をほとんど知らない。
もし、一玖が市太の気持ちを弄んで喜ぶようなヤツだったら、俺はコイツを許せない。
架の脳裏に、数日前に市太がこっそり教えてくれた言葉がよぎる。
『一玖の手に、俺のものって予約入れといた』
架は自分の手を握る一玖の手をチラリと盗み見る。
手の甲に薄らと消えかけの内出血の痕。もしそれが市太の『予約』の痕だとしたら・・・
本当は女が好きなのにゲイのフリして近付いて来て、予約なんて曖昧な言葉で市太を弄んでる?なんの為に?
一玖の本心は、市太がいない今しか聞けない。
「一玖。いちのこと、どう思ってる?」
「は? 市太さん?」
「その手の痕、なに?」
「これは・・・」
市太に吸われた痕、だなんて一玖は言えない。言えば、市太に気を使って架が今よりも自分を避けると考えたからだ。
架に思いを伝えるのは今しかない。
「俺、架が好き。市太さんの気持ちには応えられない」
架を見つめる一玖の真剣な眼差し。気まずさに架は目を逸らす。
「ちょ・・・と、待てよ。そういう冗談、今笑えない」
いちが惚れてる相手が、俺を好き?そんなの最悪じゃん・・・冗談であって欲しい。
「ごめん。俺もほんとは自分の気持ち、よく分かんなくて・・・。だけど、架の事ばっか考えてるのは確かだから」
泣かせたい、困らせたい、犯してしまいたい、と思う気持ちが恋かどうかは正直わからない。だけど架を独占したいこの気持ちは、きっと恋に近いもの。
「俺は、市太が大事なんだ。いちが悲しむ姿は見たくない」
「違う。市太さんはホントは」
架が好きなんだ、と言いかけて口を噤む。
一玖がそう言ってしまえば「嘘だ」と否定されてしまうか、最悪の場合、市太と架が幼馴染み以上になってしまう可能性がある。
架に思いを告げても八方塞がりの状態は変わらなかった。
二人の間に重苦しい空気が漂う。
「俺は、一玖の事を良い奴だって思ってる」
重い沈黙を先に破ったのは架だ。
「でも実際どうなのかわかんねぇ。おまえの事、よく知らないからだ。俺の事をどう思ってるかとかは置いといて、一玖が良い奴なら市太を応援したいし、もしそうじゃないなら市太には悪いけど邪魔させてもらう」
「じゃ、邪魔・・・?」
「そう、邪魔する。いちは結構頑固だからな。あの様子じゃ一玖に相当入れ込んでる」
なわけあるか!と一玖は心でツッコミを入れる。
薄々 気付いてはいたけど、架は少し変わってる。行動や言動が予想できない・・・。もしかして不思議ちゃんってやつなのか?
「俺さ、匂いに敏感なせいでマトモに人付き合いしたことないんだ。いち以外の人間を、理解しようともしてこなかった。市太はずっと俺の事守って来てくれたから、今度は俺の番。まずは一玖がどんな奴かを知ることから始める。いい?」
「別にいいけど・・・」
一玖の胸がズキッと痛む。
俺がなにを言ったって、幼馴染みのふたりには壊せない絆があって・・・。架はただ守られてるだけの姫じゃない。王子の為なら怖がらずに戦う力も持ってる。
架の中で俺は、得体の知れない怪物なのかもしれない。
一玖の後ろ暗い感情が作った小さな染みは、嫉妬という感情を含んで心に広がる。
架に良い奴だと思われようが悪い奴だと思われようが、それは結局は市太さんに相応しいかどうかを判断される材料になるだけ。
正攻法で架を手に入れるのは難しそうだ。
だったらいっそ・・・
「架は、市太さんがどういう意味で俺を好きだって言ってると思ってんの?」
握ったままの架の手を更に強く握る。
「好きは好きだろ。俺は誰かを好きになった事無いから知らねぇけど、キスしたいとかそういう類だろ」
抵抗もせずに話を続ける架。
「キス、したいって架は思った事ない?」
今度は架の頬を撫でてみる。
「あるわけないだろ。誰にも近付くこともできねぇのに」
やはり抵抗を見せない架。
他人との距離感がわからない、もしくは市太との近過ぎる距離に慣れているのだ、と一玖は察する。
「俺の事はいいだろ。おまえの事知りたいんだっつーの!」
「・・・いいよ、教えてあげる。もし俺が市太さんとキスするなら、どんな風にするのかを」
両手で架の顔の横を包んで、一玖は唇を重ねる。
突然の一玖からの口付けに驚きつつも、架は初めての他人の唇の感触、すぐ傍に感じる一玖の心地好い匂いに頭の中が痺れるような感覚に体が動かず、抵抗の二文字は浮かばなかった。
角度を変えて何度も押し付けられる柔らかい感触に終わりが無くて、唇を閉じているのが息苦しくなり、くぐもった声が喉の奥から鼻に抜ける。
「・・・っ、・・・んっ」
これがキスの感触・・・。他人の唇がこんなに柔らかいなんて知らなかった。
市太は一玖と、駅でこんな風にキスしようとしてたのか・・・。
一玖は唇を離し、ぼんやりと自分を見ている架の唇を指でなぞる。口付ける前よりも少しだけ膨れて赤みを増したそこは、甘く熟れた果実のように見えた。
「架? もう少し、俺の事知ってもらっていい?」
怪物は怪物らしく卑怯な手を使って、純真無垢な姫を汚してやるよ。
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