公式 1×1=LOVE

Hiiho

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泣き顔フェチ×匂いフェチ=practice 1

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  うう~、クソ・・・


夏休みを前にして、一玖は臍を噛む思いで毎日を過ごしていた。



  架に近付こうとすればするほど避けられる。横ではあの性悪王子が、嘘くせー好意を俺に飛ばして ほくそ笑んでるし・・・



市太の思惑通りになっている事が悔しくて、彼の言葉を鵜呑みにする架にも腹が立ちそうになるのを必死で堪えている一玖。

だからと言って、前のように ただ遠くから指を咥えて見ているだけの関係に戻りたくない。一玖は、どうしてやろうか、と頭脳をフル回転させる。



  何も思い浮かばねー・・・。

  見てただけの時よりも、架に対する欲が深くなってる。この気持ちが、架との関係が、方程式だったら簡単だったのに。
  ・・・あの性悪王子がいるから簡単じゃなくなる。マジで邪魔でしかない。




アパートで一人暮らしの一玖は、学校帰りに夕食を買いにコンビニへ立ち寄る。


「あれ? 一玖」

弁当を眺めている視線を声の方へ向けて、一玖は胸を弾ませる。

「架!えっ、えっ、どーしたの。・・・え、え、もしかして一人!?」

マスクで顔の半分が隠れた架の周りを何度も確認する。

「あー、いち? 俺がサークル入れないからって いちも合わせてくれてたんだけどさ、高校の時の先輩の誘い断れなくて、飲み会だけ行くことんなった。俺一人で残念だったな」

「残念なわけないじゃん!もー、ホントに本気で嬉しい!」

つい数分前まで沈みきっていた心が急浮上する。

「ほんとはコンビニとか寄りたくないんだけどさぁ、かーちゃんが玉子買って来いってうるさくて」

「そーなんだ。偉いじゃん、おつかい」

「あ、てめ。バカにしてんだろ」

「してないしてない。かわいいなって思っただけ」

少し拗ねたような架の顔に、きゅうっ と一玖の胸が狭くなる。



  架のママありがとう!! こんな愛くるしい息子におつかいさせるなんて心配だろーに! 俺が責任持って家まで送り届けるんで安心してくださいねぇ!!



「俺、弁当買うし、玉子も一緒に買うよ」

架が持つ玉子のパックをそっと奪って弁当と一緒にレジカウンターに置く。

「別にいいって。玉子奢ってもらうとか意味わかんねぇし、そんなんで『一玖カッコイイ♡』とかなんねぇからな?」

「うっ、別に・・・そういうつもりじゃ・・・」

「カッコつけちゃって。おまえのがよっぽどかわいーじゃん。ははは」

架に笑われて、自分のした事が子供っぽい見栄だと恥ずかしくなる一玖。



  女だったらドリンク一本でも甘えた声で喜ぶのに。歳上で男の架にはそういうの通用しないんだ・・・。



「でもありがとな。ちょうど小銭切らしてたからラッキー」

架の大きな瞳が優しく弧を描く。



  マスクを外した架の笑顔が見たい。それ以上に、笑顔とは程遠い、グズグズの泣き顔が見たい。



後ろ暗い感情が一玖の心に小さな染みを作る。


「・・・俺さ、今勉強してるとこでよくわかんないとこあって。架、教えてくんないかな?」

「えっ? いいけど。玉子買ってもらっちゃったしな。 でも一玖、有学館 通ってんだったらきっと俺より頭い・・・」

「よっしゃ!じゃあ俺の家すぐそこだから行くよっ!」

腕でがっちり架の首をホールドして、引き摺る勢いで歩き出す一玖。

「あえっ!? ちょお、一玖! 俺ひとんちの匂い無理なんだけど・・・っ、ああぁ~っ・・・」







「・・・・・・・・・臭く、ない」

部屋に踏み入れた架の第一声に、一玖はほっと胸を撫で下ろす。

「マジで!? よかった~!」



  強引に連れて来たけど、ぶっ倒れられても困るし。・・・でも、それはそれでアリか。



一玖の邪な気持ちに気付くはずもない架は、マスクを外して大きく深呼吸してみる。



  なんでだ?他人の家のにおいは絶対に受け付けないのに。自分の家とも市太の部屋とも違う匂いなのに、不快に感じない。なんか、爽やかな甘さっていうか・・・



「一玖、インセンスかなんか焚いてんの?」

「ううん? あー、たぶん母さんが置いてったルームフレグランスってゆーやつかも。白檀となんちゃらがなんたらかんたらって言ってた」

「そーなんだ。全っ然伝わってこねーけど、すっげぇいいにおい。一玖の匂いがする」


架の言葉に他意は無いとわかっていても、自分の匂いを『いいにおい』と言われて、抑えていた一玖の下心はムクムクと膨れ上がる。

「床だとアレだし、ベッドに座ってて。ペットボトルの水しかないけどいい?」

うん と頷き、架は素直にベッドに腰掛けた。


「高校生なのに一人暮らしとかすげぇな」

「そお? 一応寮もあるけど、二人部屋だからなぁ。地方から来てるヤツらはけっこーアパート借りてるよ。俺もそう」

「一玖って地元こっちじゃねーの?」

「うん。実家は北陸で旅館やってる。旅行誌とかにもよく載ってるよ」

他愛無い話をしながらも、一玖は架との距離を少しずつ縮めて行く。

「お坊ちゃま校 通ってんだもんな。そりゃ家 金持ちだわ」

「ねえ、架」

無造作にベッドの上に置かれた架の手を握る。

「うん?あー、勉強すんだよな。どれ?」

「俺が教えて欲しいのは、学業の方じゃないよ」



  あいつが言ってた。架の手が一番好きだって。確かに・・・傷ひとつ無くて、男にしては綺麗だ。この指を俺が舐めたら、架は困った顔も見せてくれる?




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