向かいの蓮くんは甘く見える

Hiiho

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脱衣場で服を脱いで、棚からフェイスタオルを取った蓮くんはそれを腰に巻こうとしてやめる。

「隠さないの?」

「・・・別に、今更隠したってしょうもねーし。お前のこと意識してるみたいでアホくさくなった」

そう言った蓮くんは堂々とバスルームへ入って行く。
その後を追って湿度の高い空間へ入ると、ひとつしかないバスチェアに座った蓮くんがシャワーハンドルを起こし

「お前床な」

と素っ気なく言い放つ。
当然ながらシャワーもひとつしか無いため蓮くんが洗っている間は床に座って待っているしかなくて、暇で仕方がない僕は泡がついた彼の背中に人差し指で「すき」の文字を書いてみる。

「おま、背中触んじゃねえっ」

背筋をビクつかせて怒る蓮くん。
僕が書いた文字は伝わっていないみたいだ。


顔を洗った後に全身の泡を流してバスルームを出ようとする彼を強引にバスタブに浸からせると、「ちっ」と舌打ちしてお湯の中で膝を抱える。

悪態をつく蓮くんは憎らしいけど可愛い。可愛いのに、また泣かせてやりたいと思うくらい憎らしい。


目を閉じてる隙に蓮くんがバスルームから出ていくんじゃないかとハラハラしたけど、僕の心配をよそに大人しく湯に浸かり待っているようだ。

泡だらけの体をシャワーで流して自分もバスタブの中へ入ると、男二人の体積に押し出されて結構な量の湯が溢れて排水溝へと流れる。

「せっま・・・10数えたらあがっていい?」

向かい合ってお互いの脚が当たって、居心地が悪そうに蓮くんが言う。

「だめ。蓮くんの裸もっと見てたいから」

「バ、バッカじゃねーの!? もー、なんなんだよお前。 いい加減にしろって!」

俯いたままの蓮くんの声が反響して、彼を見つめる僕は気付く。

蓮くんもしかして、僕の体を見ないようにしてる?

「蓮くんさ、思いっきり意識してるよね。僕のこと」

「は・・・? 自意識過剰過ぎだろ変態のくせに。どっから湧いてくんだよその自信は」

「僕に対して意識過剰で処女みたいな反応してる蓮くんを見て、かな」

「はあっ!!!? てめぇマジ調子乗ってんなよ 俺のどこがしょ、しょ、処女なんだよ!? てめぇがいちばん分かってんだろーが!!」

蓮くんは ザバッ と湯から立ち上がり憤慨する。
湯の中で温度を上げ赤くなった体と同じ色に顔を染めて怒ってるのに可愛くて堪らない。

「そうだよね。僕の勃起チンコが蓮くんのお尻にずっぽり入っちゃったんだもんね。中出しされてイッちゃってさ、初めてでも気持ち良くなれちゃうヤラシイ体だもんね」

「違・・・、気持ち良くなんか! マジ痛くて、死ぬかと・・・」

自分の目線の先にある細い太腿を抱えて引き寄せると、男二人が入ったバスタブの中でバランスを崩した蓮くんが僕の後ろの壁に両手を着いて倒れそうになる体を支える。

「あ      っぶね、てめ何すんだ・・・」

「今度は痛くしない。だから、僕とセックスしてよ、蓮くん」

僕は目の前にある蓮くんの男性器にそっと口付ける。

ぴくりと反応する彼の中心。逃げようとする腰を抱えて柔らかいそれを口に含むと、壁に着いていた蓮くんの手が僕の髪を掴む。

「やめろ奏汰! お前がそこまでする必要、ない・・・っぁ」

すぐに硬くなる蓮くんのここは正直で、僕はそれがすごく嬉しいのに。どうしてその憎たらしい口は僕を拒む言葉しか言わないんだ。

後ろの割れ目に指を添わせて、窄まりを指先でつつく。反抗して尻を窄めた蓮くんの腰が前に出て、僕の咥内に自分から男性器を押し入れる格好になる。

「やだ、って! 奏汰、や・・・ぅ」

僕の口淫でガチガチになって、嫌だって言いながら感じちゃうんだ。

「おまえノンケだろ! 自分についてんのと同じもん舐めて気持ち悪くねぇのかよ!」

「同じじゃないよ。僕のが大きいし」

「う・・・クソ、そーゆー事じゃねぇ」

「蓮くん、僕のここ見て。蓮くんのチンコしゃぶって興奮してるのわかる? 蓮くんのだって思うからしゃぶれるし興奮するんだよ。好きだから、セックスしたいって思うんだよ」

「別れてもいいような女と毎日ヤッてたくせに」

「うん。蓮くんとこうしたいから別れた。だから、好きにさせた責任取って」

「知らねーよ! 勝手に好きになられて、こっちだっていい迷惑なんだよ!」

迷惑・・・。そうだよね、僕なんかに好かれた蓮くんは可哀想だ。
だって、どうしたって諦めてあげることは出来ないんだから。


「痛いことはしないから。気持ちいいことだけ。僕の口でイかせたい、だめ?」

せがむように上目遣いで見上げると、困り顔の彼は黙り込む。

「ここ、放って置いてほしくなさそうだよ? 」

言葉での返事は無くても蓮くんの屹立はやっぱり正直で、先端がぴくっと小さく動いて「かまってほしい」と訴えてくる。

唇で挟んで舌で亀頭を舐め転がすと、抑えていた声が我慢できなくなった蓮くんが一定の感覚で「ぁ」を繰り返す。
根元まで咥内に含み強く吸えば、リズムを崩した「ぁ」は「あ」になり音を伸ばす。

蓮くんの腰がガクガクと震え出して、咥えて離さない僕の頭を押し返そうと足掻く。

「奏汰、・・・出る、出るからぁっ      かな・・・っ」

大きく脈打って膨らんだ亀頭の先から温い液体が吐き出されて、咥内に広がった青臭い匂いが鼻から抜ける。

股間に直接的な快感を得ていないのに、蓮くんの精液を飲み込み 口の中に吐精の余韻で脈打つそれを感じているだけで自分も同じようにイキそうになる。

「だめ、あ・・・吸うなぁっ    も、吸わな  い・・・で」

尿道に残った分まで吸い上げてから解放すると、脚を震わせた蓮くんは片手を壁に、もう片手を僕の頭に乗せて立っているのもやっとの様。

「信じらんねぇ、何なの、お前・・・」

「元カノの股だって舐めたことなかったんだよ、僕。なのに蓮くんのは舐めて吸って飲み込むことだってできる。本気じゃなきゃここまでできないんだって、蓮くんが教えてくれたんだ」

だから言ってよ。僕を男として見てくれるって。
一番なんて望まないから。

「のんけ? だとかホモとか関係無い。好きになっちゃったんだよ蓮くんを。好き。好き・・・」

蓮くんの括れた腰に腕を回し縋り付く僕は、男らしさとは無縁だ。
こうして甘えれば、嫌でもこの人は僕を突き放せないと知っている。


「お前とは、無理だって」

「好きになってなんてもう言わない。ずっと片想いでもいい。僕を突き放さないでよ」

「嫌なんだって!」

強い口調で拒否されて、甘やかしてくれるはずと漠然と思っていた僕はショックで言葉を失う。

どうしてもダメなのかな。もう、蓮くんのお尻開発係も解任されちゃうかもしれないな。
“結城さん”だけの蓮くんになっちゃうのかな・・・。
こんなに誰かを好きになったのは初めてだったのに。

この気持ちを抱えたまま、ただのお向いさんになんて戻れないよ。

「蓮くん、僕を見捨てないで・・・」

もうなりふりかまっていられない。情けでも罪悪感でもいいから彼を縛り付けておきたい。

「嫌、なんだよ」

「蓮くん、好き」

「・・・っお前が、んなことばっか言うから流されて      は、はじめてヤッた男だとか、そんなんで変に意識して」

「蓮くん?」

「そんなつもりなかったのに、このままじゃっ、・・・奏汰のこと好きになりそうで嫌なんだよ!」

そっか・・・僕のこと好きになりそうで・・・

ってええ!?
ななななんて!?  今なんて!?


慌てて顔を上げるけど、両手で覆われた蓮くんの表情は見えなくて、赤くなってる肌はきっと体温が上昇しているんだろうけどバスルームの熱気で誤魔化されていて、もしかしたら聞き間違えかもしれないと思ったりもする。
幻聴じゃなかったと確かめたい僕は、蓮くんの臍の窪みに舌を入れてみる。

「そ、ゆーのやだ、っつってんだろ!」

「どうして? 蓮くんの体ならどこでも、お尻の中だって舐め・・・」

「もぉやめろぉぉ!!」

両手で力いっぱい頭を掴まれて前後に揺さぶられる。
ぐらりと視界が回って急に体から力が抜けて意識が朦朧としてくる。
普段長風呂なんかしないしウチよりも設定温度が高い塩田家の風呂に、僕はのぼせてしまったらしい。

「奏汰? ちょ、おい奏汰!?」

「れ・・・れんくん、さっきの・・・もいっかい・・・」

「人が心配してんのに くだらねぇこと聞き返すなバカ!」

頭から冷たいシャワーをかけられて、心配してくれてる割に雑な扱い。

「うぷっ、好きになりそうなの? 僕のこと」

なんとか目を開けて蓮くんの表情を見ると、眉間に寄ったシワと下がった眉とあたふたと動く唇、思った通りに顔は真っ赤で。
これはひょっとしたら『好きになりそう』の域を超越してしまっているんじゃないか、と俄然自惚れが強くなる。
だけど

「うう、うるせぇ! あくまで可能性の話だバーカッ!」

「うぶぶっ」

僕の顔にシャワーをぶっかけた蓮くんは逃げるようにバスルームを出て行く。


どうしよう、嬉しくて死にそう。
蓮くんはやっぱり僕に甘い。
もし完熟した蓮くんを齧ったら、希少で高価なフルーツも有名パティシエのスイーツも太刀打ちできないほど、きっと甘くて美味しいに違いない。




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