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特別 3

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 俺は今、涼太に隠してる事がある。

 仕事帰り、毎日決まって向かう場所・・・涼太には言えない。
 今の俺は、涼太の父親に認めてもらうなんて到底無理だ。

 俺がしてる事は、男として卑怯な行為だと思う。
 自分の力じゃどうにもできない事実から逃げているだけとわかっている。

 涼太をひとり家に待たせる事になっていても、後ろめたい気持ちになっていても、今日もまたその人の元へ向かう。



 その人とは1時間程を一緒に過ごし、マンションへ帰る。

 リビングのソファに座る涼太。帰宅するといつもある風景。

 後ろめたい俺は、涼太に口付けるのも少し躊躇ってしまう。

 自分の弱さが情けなくて、涼太を抱くことも出来ずにいる。
 本音を言えば、もっと触れたい。めちゃくちゃに抱きたい。

 だけど・・・隠れて自分がしている事が、最低な事だとわかっているから。
 何も知らない涼太を汚してしまうようで・・・。


 休日も仕事だと言って、早朝にマンションを出る。
 向かうのは、今の俺が頼る事ができる唯一の人のところ。

 もう1ヶ月近く、こんな事を続けている。

 ・・・いくら鈍感な涼太でも、さすがに何か勘づいてるかもしれないな。
 バレたら軽蔑されるかな・・・。男らしくないって言われるだろうな。
 最悪、涼太を失ってしまう事になるかもしれない。




 今日もまた仕事を終えて、その人との短い時間を過ごしマンションへ帰る。

 だけど涼太の様子がいつもと違う。
 きっと、父親から見合いが決まったと聞いたのだろう。
 俺に気を使って言い出せないんだろうな。

 俺もあえて問い詰めないことにした。
 涼太に隠れて会っている人がいる俺が、自分から聞けるわけない。




 風呂から上がって、涼太の部屋に入る。

 ベッドで毛布に包まっている涼太にキスをして、部屋を出ようとして

「あお、寝んの?」

 甘えた声に胸がじわっと熱くなる。

 あーもう、なんでそんな可愛い誘い方してくるかな・・・。
 俺の気も知らないで・・・。

 触れてはいけないと思いつつも、思わず伸ばしてしまった手を、肌には触れないように涼太の頭に持っていく。

 いま、涼太の熱い肌に触れてしまったら、深くまで求めてしまう。
 今の俺に、涼太を抱く資格なんて無い。

「寝れない?」

「そんなことないけど・・・」

 ないけど、なんだよ。
 まあ・・・全部聞かなくてもわかるけど。

 ふいっと逸らされた熱っぽい瞳と、上気した頬。涼太の体は雄弁だった。

 抑えきれなくなりそうな理性と、罪悪感がせめぎ合って・・・こんな自分を見られたくない。

「涼太が寝るまでいてやるから、もう目瞑れよ」

 明らかにがっかりした様子で、うん、と言って目を閉じる涼太。

 ・・・ごめんな。
 俺だって、涼太を抱きたい。だけど、できないんだ。


 しばらく髪を撫でて、声を掛けてみる。

 返事は無い。

 でも、眠りに落ちていないのが息遣いでわかってしまう。
 俺が仕事で疲れてるって思ってんだろうな。寝たフリして、早く休ませようとしてくれてるのがわかる。

 こういう健気なとこ、マジで刺さる。

 閉じられたままの瞼に口付けると、長い睫毛が微かに反応する。
 それだけでも、欲情を煽られるのには十分すぎるくらいだった。

 もっと、もっと、もっと・・・

 毛布から出ている白い首筋に唇を近付ける。


 ・・・・・・・・・ダメだろ。
 自分が隠れてやってる事を考えたら、これ以上涼太に触る事なんてできないだろ。

 なんとか保った理性と共に、部屋を出る。

 涼太、ごめん。情けない男で本当にごめんな。


 誰かに頼らなきゃいられない今の俺は、 涼太に相応しくない。
 それでも涼太と一緒にいたい。
 涼太の傍に居続けるためには、あの人に会いに行くしかない。

 矛盾している。痛いくらいわかっている。
 これが正解なのかもわからない。


 ただひとつ言えること。

 俺は涼太と一緒にいられるのなら、どんな事だってする。
 例えそれが、欲深く卑怯だと言われようとも。



 そして、そんな俺に審判が下される日は、目前に迫っていた。
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